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指相撲
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今日は、久しぶりに私と――かおりんのふたりだけ。
時間はまだ昼過ぎ。
なのに、家の中の空気は妙にしんとしていて、ふたりきりという状況が、いつも以上に強調されて感じられる。
「……なんか、久しぶりだね。こうやって、しおりんと2人きり」
かおりんがそう言って、リビングのソファにごろんと横になった。
脚をだらんと伸ばして、スマホをいじるその仕草が、どこか無防備で。
ゆるいジャージの裾から見える、白い足首。
目が勝手にそっちにいってしまって、あわてて視線を戻す。
――細いな。うらやましい……
「なに見てんのー?」
と、からかうように笑って、かおりんがこちらに寝返った。
スマホを放って、上目づかいでこっちを見る。
「ねえ、なんか遊ばない?」
「遊ぶって……中学生じゃないんだから……」
「じゃあさ、こういう日だからこそできる遊びってないかなって思ったの。2人だけの、姉妹だけの時間でさ」
その言い方に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
“姉妹だけの時間”――それは、私たちにとってただの言葉じゃない。
「……じゃんけんとか?」
「地味」
「UNOは?」
「用意が面倒くさい」
「じゃあ、指相撲!」
かおりんがぱっと手を差し出してきた。
小さくて、でも意外と骨ばっていて、見慣れてるはずなのに、どこか違って見える指先。
「懐かしい……。でも、今やる? 指相撲」
「うん。ふたりでやるからこそ、いいんじゃん」
その目がまっすぐで、ちょっとだけ挑発的で。
私は苦笑しながらも、自然と手を出していた。
*
ちゃぶ台の前で、向かい合って正座。
小さな手を伸ばして、右手の人差し指を、軽くフックする。
「じゃあ、いくよ? はっけよい……指相撲!」
「かけ声、謎なんだけど!」
つっこみながらも、もうすでに笑っていた。
最初は軽く。
互いに押したり引いたり、まるで呼吸を合わせるように動かす。
「……しおりん、ちょっと強い。力入れてるでしょ」
「入れてないよ。むしろ、かおりんの方が反射神経で勝ってるんじゃない?」
「ふふん、それほどでも~」
そんな冗談を交わしながら、でも指と指がふれあうたびに、心が少しずつ、何かを思い出していくようだった。
*
わたしたちは、ずっとこうしてきた。
くだらない遊びをして、笑って、ちょっとだけ真剣になって。
でも今は、そこに“微妙な距離感”が混じっている。
かおりんの指が、ふっとわたしの指を押す。
「よしっ、あとちょっと……!」
「負けないっ……」
気づけば、互いの顔がぐっと近づいていた。
呼吸が、触れるか触れないかの距離。
笑いながらも、視線は外さない。
どちらが先に意識してしまうか、勝負の意味が、少しずつ変わっていく。
「……しおりん」
「なに?」
「顔、赤い」
「……言わないでよ」
「ふふ。かわいい」
その一言で、心臓が跳ねた。
その瞬間、油断した私の指が、かおりんの指に押し返される。
「……あっ」
カチッ。
「やった! 勝ったー!」
かおりんが笑って、私の手を振り回す。
「ちょ、ちょっと、痛いってば!」
「ごめんごめん、でも勝ったから嬉しくて!」
無邪気な顔。
でも、その中にある“何か”に、私は気づいてしまっていた。
*
「もう一回、やろっか」
「また? 今度は本気出すよ?」
「うん。……今度は、勝っても負けても、ちゃんと褒めて」
「なにそれ。甘やかしてほしいの?」
「うん。……しおりんにだけは、甘えたいの」
その言葉に、息が止まるかと思った。
*
2戦目。
また指が絡む。
今度は、さっきよりも長く、静かに時間が流れる。
かおりんの目は真剣で、それでいてやさしい。
私の視線をまっすぐ受け止めながら、少しずつ押してくる。
「しおりん、勝ちたい?」
「ううん……かおりんとこうしてるだけで、もう勝ちみたいなもんだよ」
「……ずるいこと言うね」
「だって、ほんとだもん」
また、カチッと音がして、今度はわたしが勝った。
「……あっ」
「ふふ、やった」
でも、勝ち負けなんて、ほんとうにどうでもよかった。
指のぬくもりが、こうしてふたりを繋いでくれているなら。
*
そのあと、かおりんはソファに戻って、毛布にくるまりながら私を見上げてきた。
「しおりん……今日、ありがとね」
「なにが?」
「なんとなく……ふたりでいられる時間って、最近少ないなって思ってたから」
「……わたしもだよ」
私も隣に座り、毛布を半分かぶせてもらう。
こうして寄り添っていると、言葉よりも、身体の温度の方がずっと語ってくれる。
しばらくして、かおりんがまた小さくつぶやく。
「……ねえ、また指相撲していい?」
「また? しつこいなあ」
「うん、でも、勝ちたいってより……」
「より?」
「しおりんに触れてたいだけ」
その言葉が、やさしく胸を打った。
*
あの午後。
私たちは、たった一本の指で、たくさんの気持ちを伝え合った。
小さな遊びが、心をつないでくれるなんて思わなかった。
指先から伝わるぬくもり。
繊細で、やわらかい想い。
私は今も、あのぬくもりを、はっきり覚えてる。
時間はまだ昼過ぎ。
なのに、家の中の空気は妙にしんとしていて、ふたりきりという状況が、いつも以上に強調されて感じられる。
「……なんか、久しぶりだね。こうやって、しおりんと2人きり」
かおりんがそう言って、リビングのソファにごろんと横になった。
脚をだらんと伸ばして、スマホをいじるその仕草が、どこか無防備で。
ゆるいジャージの裾から見える、白い足首。
目が勝手にそっちにいってしまって、あわてて視線を戻す。
――細いな。うらやましい……
「なに見てんのー?」
と、からかうように笑って、かおりんがこちらに寝返った。
スマホを放って、上目づかいでこっちを見る。
「ねえ、なんか遊ばない?」
「遊ぶって……中学生じゃないんだから……」
「じゃあさ、こういう日だからこそできる遊びってないかなって思ったの。2人だけの、姉妹だけの時間でさ」
その言い方に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
“姉妹だけの時間”――それは、私たちにとってただの言葉じゃない。
「……じゃんけんとか?」
「地味」
「UNOは?」
「用意が面倒くさい」
「じゃあ、指相撲!」
かおりんがぱっと手を差し出してきた。
小さくて、でも意外と骨ばっていて、見慣れてるはずなのに、どこか違って見える指先。
「懐かしい……。でも、今やる? 指相撲」
「うん。ふたりでやるからこそ、いいんじゃん」
その目がまっすぐで、ちょっとだけ挑発的で。
私は苦笑しながらも、自然と手を出していた。
*
ちゃぶ台の前で、向かい合って正座。
小さな手を伸ばして、右手の人差し指を、軽くフックする。
「じゃあ、いくよ? はっけよい……指相撲!」
「かけ声、謎なんだけど!」
つっこみながらも、もうすでに笑っていた。
最初は軽く。
互いに押したり引いたり、まるで呼吸を合わせるように動かす。
「……しおりん、ちょっと強い。力入れてるでしょ」
「入れてないよ。むしろ、かおりんの方が反射神経で勝ってるんじゃない?」
「ふふん、それほどでも~」
そんな冗談を交わしながら、でも指と指がふれあうたびに、心が少しずつ、何かを思い出していくようだった。
*
わたしたちは、ずっとこうしてきた。
くだらない遊びをして、笑って、ちょっとだけ真剣になって。
でも今は、そこに“微妙な距離感”が混じっている。
かおりんの指が、ふっとわたしの指を押す。
「よしっ、あとちょっと……!」
「負けないっ……」
気づけば、互いの顔がぐっと近づいていた。
呼吸が、触れるか触れないかの距離。
笑いながらも、視線は外さない。
どちらが先に意識してしまうか、勝負の意味が、少しずつ変わっていく。
「……しおりん」
「なに?」
「顔、赤い」
「……言わないでよ」
「ふふ。かわいい」
その一言で、心臓が跳ねた。
その瞬間、油断した私の指が、かおりんの指に押し返される。
「……あっ」
カチッ。
「やった! 勝ったー!」
かおりんが笑って、私の手を振り回す。
「ちょ、ちょっと、痛いってば!」
「ごめんごめん、でも勝ったから嬉しくて!」
無邪気な顔。
でも、その中にある“何か”に、私は気づいてしまっていた。
*
「もう一回、やろっか」
「また? 今度は本気出すよ?」
「うん。……今度は、勝っても負けても、ちゃんと褒めて」
「なにそれ。甘やかしてほしいの?」
「うん。……しおりんにだけは、甘えたいの」
その言葉に、息が止まるかと思った。
*
2戦目。
また指が絡む。
今度は、さっきよりも長く、静かに時間が流れる。
かおりんの目は真剣で、それでいてやさしい。
私の視線をまっすぐ受け止めながら、少しずつ押してくる。
「しおりん、勝ちたい?」
「ううん……かおりんとこうしてるだけで、もう勝ちみたいなもんだよ」
「……ずるいこと言うね」
「だって、ほんとだもん」
また、カチッと音がして、今度はわたしが勝った。
「……あっ」
「ふふ、やった」
でも、勝ち負けなんて、ほんとうにどうでもよかった。
指のぬくもりが、こうしてふたりを繋いでくれているなら。
*
そのあと、かおりんはソファに戻って、毛布にくるまりながら私を見上げてきた。
「しおりん……今日、ありがとね」
「なにが?」
「なんとなく……ふたりでいられる時間って、最近少ないなって思ってたから」
「……わたしもだよ」
私も隣に座り、毛布を半分かぶせてもらう。
こうして寄り添っていると、言葉よりも、身体の温度の方がずっと語ってくれる。
しばらくして、かおりんがまた小さくつぶやく。
「……ねえ、また指相撲していい?」
「また? しつこいなあ」
「うん、でも、勝ちたいってより……」
「より?」
「しおりんに触れてたいだけ」
その言葉が、やさしく胸を打った。
*
あの午後。
私たちは、たった一本の指で、たくさんの気持ちを伝え合った。
小さな遊びが、心をつないでくれるなんて思わなかった。
指先から伝わるぬくもり。
繊細で、やわらかい想い。
私は今も、あのぬくもりを、はっきり覚えてる。
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