16 / 20
第二部 ――蒼穹の戴冠――
第16話 燃ゆる群青 ― 革命の狼煙
それは、夜明け前の出来事だった。
鐘が鳴るより早く、王都の南門から火の手が上がった。
最初は一軒の倉庫だった。
だが、乾いた風が炎を煽り、瞬く間に十の街区が赤に染まる。
「――蒼の輪が動いた!」
伝令が駆け込む。
王宮の塔から見下ろせば、黒煙が群青の空を裂いていた。
■ 王の決断
「衛兵隊を全門に! 避難経路を開け!」
レオナールの声が響く。
報告官たちが慌ただしく走り去る中、
王はただひとり、地図を見つめていた。
(南から炎、北の貧民区に煙――同時多発か)
「民を守れ。敵を討つ前に、民を救え!」
それは軍令というより、祈りに近かった。
侍従が問う。
「陛下、敵は王妃派の残党と見られますか?」
「いや……もっと大きい。思想が燃えている。
もはや誰の命令でも止まらぬ」
彼の目に、炎よりも深い悲しみが映っていた。
■ 光の決意
一方、セラフィーヌは避難所となった修道院にいた。
泣き叫ぶ子供を抱き、傷を負った兵士の手を取る。
血と煙の匂いが混ざり、白い床が灰色に汚れていく。
「あなたは、王妃殿下……?」
負傷兵がかすれた声で問う。
セラフィーヌは首を振った。
「いいえ。――ただの“光”を信じた女です」
その手に灯りを取り、傷口を縛る。
涙を拭いながら、ひとりの少女の手を握った。
「怖くない。見て、夜明けは来るわ」
外では、遠くの塔が崩れる音がした。
だが、彼女の声だけが不思議なほど穏やかだった。
■ 母の命令
その頃、北塔の牢。
王妃エレオノールは、遠くの炎を眺めながら立ち上がる。
「……やはり始まったわね」
侍女アデルが震える声で尋ねる。
「殿下、これは……?」
「わたくしの革命ではない。けれど、わたくしが播いた種」
エレオノールは扉の前に立つ兵士に命じた。
「鍵を渡しなさい」
「しかし……!」
「これは王命よ」
その声に、兵士は思わずひざまずく。
静かに鍵が回り、扉が開く音が響いた。
「“母なる影”は、ここに留まるべきではない」
そう言って、エレオノールは闇の廊下を歩き出した。
■ 群青の炎
夜半。
王都の中心、ル・シエル広場。
民と兵と反乱軍が入り乱れ、混乱は極限に達していた。
炎の中、セラフィーヌは人々の前に立つ。
「やめて! 争っても、何も変わらない!」
彼女の声は叫びではなく、懇願だった。
だが、群衆の一部が叫ぶ。
「お前が“光”を語るから、我らは影になったんだ!」
「光などいらない!」
石が投げられる。
誰かが剣を抜き、誰かが泣き叫ぶ。
セラフィーヌはその場に立ち尽くした。
足元で、燃え落ちた旗の布が灰となって崩れる。
(わたしの光が……誰かを傷つけている)
膝が震えた。
だが、倒れなかった。
「ならば――」
涙を拭い、声を張り上げる。
「光が罪なら、わたくしがその罪を背負います!」
その声は炎よりも高く響いた。
夜空が一瞬、明るくなる。
遠くで鐘が鳴った。
■ 王と王妃
同じ頃、王宮の門前で。
レオナールが部隊を率いていた。
その背後に、逃げ出した王妃エレオノールの姿。
「母上――!」
「息子よ。光を見たか?」
「見た! だが、その光が今、国を焼いている!」
「焼かれねば再生はない!」
母と子の声が、炎に呑まれるように交錯した。
「貴女は正義ではなく、絶望を与えている!」
「違うわ。――これは“始まり”よ」
その瞬間、王妃の背後で塔が崩れた。
瓦礫の雨。
レオナールがとっさに駆け寄り、彼女を抱き寄せる。
「母上!」
だが、王妃は静かに微笑んだ。
「……やはり、あなたは優しすぎる」
手の中で、彼女の首飾りが砕け散った。
蒼い宝石の破片が宙を舞い、炎の中で煌めく。
■ 蒼の夜明け
夜が明けた。
煙が薄れ、空が淡い群青に染まる。
王都は半ば焼け落ち、王も王妃も沈黙していた。
セラフィーヌは瓦礫の中で、人々に水を配っていた。
血と灰にまみれながらも、彼女の眼差しは静かに前を向いている。
「……わたしたちは、何を守れたのかしら」
その呟きに、幼い子供が答えた。
「お姉さまが、光を残したよ」
セラフィーヌは微笑む。
涙が頬を伝い、光に滲んだ。
鐘が鳴るより早く、王都の南門から火の手が上がった。
最初は一軒の倉庫だった。
だが、乾いた風が炎を煽り、瞬く間に十の街区が赤に染まる。
「――蒼の輪が動いた!」
伝令が駆け込む。
王宮の塔から見下ろせば、黒煙が群青の空を裂いていた。
■ 王の決断
「衛兵隊を全門に! 避難経路を開け!」
レオナールの声が響く。
報告官たちが慌ただしく走り去る中、
王はただひとり、地図を見つめていた。
(南から炎、北の貧民区に煙――同時多発か)
「民を守れ。敵を討つ前に、民を救え!」
それは軍令というより、祈りに近かった。
侍従が問う。
「陛下、敵は王妃派の残党と見られますか?」
「いや……もっと大きい。思想が燃えている。
もはや誰の命令でも止まらぬ」
彼の目に、炎よりも深い悲しみが映っていた。
■ 光の決意
一方、セラフィーヌは避難所となった修道院にいた。
泣き叫ぶ子供を抱き、傷を負った兵士の手を取る。
血と煙の匂いが混ざり、白い床が灰色に汚れていく。
「あなたは、王妃殿下……?」
負傷兵がかすれた声で問う。
セラフィーヌは首を振った。
「いいえ。――ただの“光”を信じた女です」
その手に灯りを取り、傷口を縛る。
涙を拭いながら、ひとりの少女の手を握った。
「怖くない。見て、夜明けは来るわ」
外では、遠くの塔が崩れる音がした。
だが、彼女の声だけが不思議なほど穏やかだった。
■ 母の命令
その頃、北塔の牢。
王妃エレオノールは、遠くの炎を眺めながら立ち上がる。
「……やはり始まったわね」
侍女アデルが震える声で尋ねる。
「殿下、これは……?」
「わたくしの革命ではない。けれど、わたくしが播いた種」
エレオノールは扉の前に立つ兵士に命じた。
「鍵を渡しなさい」
「しかし……!」
「これは王命よ」
その声に、兵士は思わずひざまずく。
静かに鍵が回り、扉が開く音が響いた。
「“母なる影”は、ここに留まるべきではない」
そう言って、エレオノールは闇の廊下を歩き出した。
■ 群青の炎
夜半。
王都の中心、ル・シエル広場。
民と兵と反乱軍が入り乱れ、混乱は極限に達していた。
炎の中、セラフィーヌは人々の前に立つ。
「やめて! 争っても、何も変わらない!」
彼女の声は叫びではなく、懇願だった。
だが、群衆の一部が叫ぶ。
「お前が“光”を語るから、我らは影になったんだ!」
「光などいらない!」
石が投げられる。
誰かが剣を抜き、誰かが泣き叫ぶ。
セラフィーヌはその場に立ち尽くした。
足元で、燃え落ちた旗の布が灰となって崩れる。
(わたしの光が……誰かを傷つけている)
膝が震えた。
だが、倒れなかった。
「ならば――」
涙を拭い、声を張り上げる。
「光が罪なら、わたくしがその罪を背負います!」
その声は炎よりも高く響いた。
夜空が一瞬、明るくなる。
遠くで鐘が鳴った。
■ 王と王妃
同じ頃、王宮の門前で。
レオナールが部隊を率いていた。
その背後に、逃げ出した王妃エレオノールの姿。
「母上――!」
「息子よ。光を見たか?」
「見た! だが、その光が今、国を焼いている!」
「焼かれねば再生はない!」
母と子の声が、炎に呑まれるように交錯した。
「貴女は正義ではなく、絶望を与えている!」
「違うわ。――これは“始まり”よ」
その瞬間、王妃の背後で塔が崩れた。
瓦礫の雨。
レオナールがとっさに駆け寄り、彼女を抱き寄せる。
「母上!」
だが、王妃は静かに微笑んだ。
「……やはり、あなたは優しすぎる」
手の中で、彼女の首飾りが砕け散った。
蒼い宝石の破片が宙を舞い、炎の中で煌めく。
■ 蒼の夜明け
夜が明けた。
煙が薄れ、空が淡い群青に染まる。
王都は半ば焼け落ち、王も王妃も沈黙していた。
セラフィーヌは瓦礫の中で、人々に水を配っていた。
血と灰にまみれながらも、彼女の眼差しは静かに前を向いている。
「……わたしたちは、何を守れたのかしら」
その呟きに、幼い子供が答えた。
「お姉さまが、光を残したよ」
セラフィーヌは微笑む。
涙が頬を伝い、光に滲んだ。
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた
よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。
国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。
自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。
はい、詰んだ。
将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。
よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。
国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
婚約破棄の、その後は
冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。
身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが…
全九話。
「小説家になろう」にも掲載しています。