《完結》転生令嬢セラフィーヌ・ド・モンフォルネは王太子の宝石になりたくない!

月輝晃

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第二部 ――蒼穹の戴冠――

第16話 燃ゆる群青 ― 革命の狼煙

 それは、夜明け前の出来事だった。
 鐘が鳴るより早く、王都の南門から火の手が上がった。
 最初は一軒の倉庫だった。
 だが、乾いた風が炎を煽り、瞬く間に十の街区が赤に染まる。

 「――蒼の輪が動いた!」
 伝令が駆け込む。
 王宮の塔から見下ろせば、黒煙が群青の空を裂いていた。

■ 王の決断

 「衛兵隊を全門に! 避難経路を開け!」
 レオナールの声が響く。
 報告官たちが慌ただしく走り去る中、
 王はただひとり、地図を見つめていた。

(南から炎、北の貧民区に煙――同時多発か)

 「民を守れ。敵を討つ前に、民を救え!」
 それは軍令というより、祈りに近かった。

 侍従が問う。
 「陛下、敵は王妃派の残党と見られますか?」
 「いや……もっと大きい。思想が燃えている。
  もはや誰の命令でも止まらぬ」

 彼の目に、炎よりも深い悲しみが映っていた。

■ 光の決意

 一方、セラフィーヌは避難所となった修道院にいた。
 泣き叫ぶ子供を抱き、傷を負った兵士の手を取る。
 血と煙の匂いが混ざり、白い床が灰色に汚れていく。

 「あなたは、王妃殿下……?」
 負傷兵がかすれた声で問う。

 セラフィーヌは首を振った。
 「いいえ。――ただの“光”を信じた女です」

 その手に灯りを取り、傷口を縛る。
 涙を拭いながら、ひとりの少女の手を握った。
 「怖くない。見て、夜明けは来るわ」

 外では、遠くの塔が崩れる音がした。
 だが、彼女の声だけが不思議なほど穏やかだった。

■ 母の命令

 その頃、北塔の牢。
 王妃エレオノールは、遠くの炎を眺めながら立ち上がる。
 「……やはり始まったわね」

 侍女アデルが震える声で尋ねる。
 「殿下、これは……?」
 「わたくしの革命ではない。けれど、わたくしが播いた種」

 エレオノールは扉の前に立つ兵士に命じた。
 「鍵を渡しなさい」
 「しかし……!」
 「これは王命よ」

 その声に、兵士は思わずひざまずく。
 静かに鍵が回り、扉が開く音が響いた。

 「“母なる影”は、ここに留まるべきではない」
 そう言って、エレオノールは闇の廊下を歩き出した。

■ 群青の炎

 夜半。
 王都の中心、ル・シエル広場。
 民と兵と反乱軍が入り乱れ、混乱は極限に達していた。

 炎の中、セラフィーヌは人々の前に立つ。
 「やめて! 争っても、何も変わらない!」
 彼女の声は叫びではなく、懇願だった。

 だが、群衆の一部が叫ぶ。
 「お前が“光”を語るから、我らは影になったんだ!」
 「光などいらない!」

 石が投げられる。
 誰かが剣を抜き、誰かが泣き叫ぶ。

 セラフィーヌはその場に立ち尽くした。
 足元で、燃え落ちた旗の布が灰となって崩れる。

 (わたしの光が……誰かを傷つけている)

 膝が震えた。
 だが、倒れなかった。

 「ならば――」
 涙を拭い、声を張り上げる。
 「光が罪なら、わたくしがその罪を背負います!」

 その声は炎よりも高く響いた。
 夜空が一瞬、明るくなる。
 遠くで鐘が鳴った。

■ 王と王妃

 同じ頃、王宮の門前で。
 レオナールが部隊を率いていた。
 その背後に、逃げ出した王妃エレオノールの姿。

 「母上――!」
 「息子よ。光を見たか?」
 「見た! だが、その光が今、国を焼いている!」
 「焼かれねば再生はない!」

 母と子の声が、炎に呑まれるように交錯した。
 「貴女は正義ではなく、絶望を与えている!」
 「違うわ。――これは“始まり”よ」

 その瞬間、王妃の背後で塔が崩れた。
 瓦礫の雨。
 レオナールがとっさに駆け寄り、彼女を抱き寄せる。
 「母上!」

 だが、王妃は静かに微笑んだ。
 「……やはり、あなたは優しすぎる」

 手の中で、彼女の首飾りが砕け散った。
 蒼い宝石の破片が宙を舞い、炎の中で煌めく。

■ 蒼の夜明け

 夜が明けた。
 煙が薄れ、空が淡い群青に染まる。
 王都は半ば焼け落ち、王も王妃も沈黙していた。

 セラフィーヌは瓦礫の中で、人々に水を配っていた。
 血と灰にまみれながらも、彼女の眼差しは静かに前を向いている。

 「……わたしたちは、何を守れたのかしら」
 その呟きに、幼い子供が答えた。
 「お姉さまが、光を残したよ」

 セラフィーヌは微笑む。
 涙が頬を伝い、光に滲んだ。
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