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18、池崎さんの愉快な日々

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坂内(演出助手) いろいろ池崎さんの舞台を補佐させてきたが今回はそれほど噴火(これは心の中で思っている表現だが)しているわけではない。それでもまずい場面があった。まあ舞台を長く担当している集団らしからぬミスだったためか「なにをやっているんだ!」と池崎さんの罵声が飛んだ。それだけなら「よくあること」なのだがそのあとすぐにスタッフをしかりつけた池崎さん。往来が頻繁過ぎる、もっと間隔をあけて歩け、歩く回数を減らせという理由なのだが、そこに理由らしい理由などなかったのだ。「何だこの構図は。まるでレンブラントの『夜警』そのままじゃないか。少しは考えとけよ」スタッフたちの動揺がひどい。それにしてもなぜレンブラントの夜警だとまずいのだろう。「やめてください」岡田さんの叫ぶ声。すぐに彼女が飛び出して池崎さんに抱きつくように抑えた。「こいつ、結構力強いな」とでも言いたそうに私に目で合図した。「あっ、ああ。すまなかった」お辞儀するように謝る池崎さん。下がる岡田さん。何事もなかったかのように稽古は再開された。もしかして俺、岡田さんを離さないといけなかった?それは嫌だ。 おもわず一息ついた私。缶コーヒーを飲む。池崎さんも自分より10cmくらい背が低い女の子に力でかなわないというのは屈辱だったろうと思った。「岡田さん、ごめんね」精一杯作った笑顔の池崎さん。「失礼いたしました」息を切らした岡田さんがおじぎする。正野が楽しそうに言った。「岡田さんが鎧来てたら大変でしたね。怪我してましたよ」馬鹿、やめろ。というかお前が止めるべきだったんだ。劇団初出演の女の子に何とかさせるなんて、こいつら。というか俺が池崎さんを押さえつけるべきだったんだ。 岡田さん、すまない。周囲の役者の岡田さんを見る顔に尊敬が加わったような気がする。
練習終了後、池崎さんと会食。「岡田さんはいいね、まさにジャンヌ・ダルクを演じるために生まれてきたようなところがある。まずは合格だ」全然さっきのことを怒っていないところがあった。この人にとって自分自身も道具に過ぎないのではないか。「西村さんが聞いたらむっとしますよ」「いいんだ。ところで次回作があるとしたら岡田さんはスポーツ選手とか警官、自衛官の役が面白いかもな」もう先のことを考えているのか。「やる気のない運動部員たちをたきつける転校生という役柄も面白いかもな。他の高校生役も探さないと」面白そうな人をとことん可愛がってそうでない人を突き放すところがこの人のダメなところ、嫌われるところだ。それにしてもよく思いつくものだ。 
「しかし彼女売れっ子ですからね。ギャラも急上昇で池崎さんの遊ぶ金もなくなりますよ。」「そんなのはどうでもいい。俺は車と週2でファストフードにさえいければ、ちょいちょい発泡酒とハムさえあればあとは何もいらん。」「でも外国に行けなくなりますよ」俺もそうか。「うーん。酒よりもコーラが飲みたいな」 
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