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31,兄
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9日目の公演。小道具がボロボロになってきたことにイラついてきた池崎さん。「どうしてもっと準備してなかったんだ。」「いや、大丈夫です。替えも用意してあります」「それはいいけど無駄な金を使うなよ。ちゃんと考えとけ」難しいもんだなと思った。ラスト、オルレアン解放後。岡田さん演じるジャンヌ・ダルクの元に白い鳩がやってくる演出。たまに失敗する。失敗したら失敗したでジャンヌに天の声が届かなくなってきた表現としていいと思ったのだが池崎さんはいらついている。岡田さんはせりふ回しも乗ってきた。スイッチの入れ方も素晴らしい。とても演技経験があまりないとは思えない。役を自分のものにしてきたと思う。どうやら池崎さんがイラついていたのはただ競走馬が負けたためだけらしいのだが役者たちに緊張感を漂わせるためにはこの状態が好ましいように感じた。誰かがブリキのバケツを落とした。兜をつけたままの岡田さんの近くで金物が落下すると音がかなり響くらしい。失礼ながら笑ってしまい女騎士に睨まれた。睨む顔がかわいい。俺も木刀を構える。女騎士は剣を抜こうとする。これは怖い。「敵を斬ると思いて竹刀を持つべし」という五輪の書の一節を思い浮かべているのではないかとすら思えた。これでは敵兵もおびえるだろう。よし、このペースを舞台が終わるまで維持してくれ。聖女だろうが優しさなどいらない。「待て」急に池崎さんが来た。「俺が相手をしてやろう」俺から木刀を受け取る。特に剣道をやっていたわけでもないであろう池崎さんは女騎士と互角に勝負している。技に秀でた人物は何をやってもうまくいくということなのか。というか岡田さん、どう見ても遠慮しているだろう。池崎さんが扮する無頼漢かどうかわからないが謎の傭兵との戦闘が続く。2分ぐらいあと、岡田さんの剣は池崎さんの脇腹をかすった。「うっ」と言おうとしたようだが池崎さんは声を出さなかったようだ。「まいった」たんに池崎さん、競馬で負けた腹いせを晴らしたかっただけなんだろうなと邪推する。「いやあ、大したものだ。」公演終了後の俺や俳優との会食で池崎さんはビールを飲む前に岡田さんをべた褒めする。「どうだ、彼女はヤクルトの村上のような素質を秘めているんじゃないか。」嬉しそうに言う。すぐに中西が言う。「女の子はそういうの喜びませんよ」箸を置いて池崎さんは言う「いいんだ。人間の根本的な評価としてこれまで様々な人物を見てきた俺が客観的に褒めているんだよ。彼女は素質あるよ」レバニラが気に入ったのか、池崎さんはうれしそうだ。でも呂律も回らなくなってきた気がした。「どうだ、ナカ、役者から見て、共演者から見て彼女は、岡田さんはさ」うーんと唸る。役者にしかわからないこともやはりあるのだろうな。「いいんじゃないですか。他の若手にはないものを持ってますよ」現在の池崎さんのようなある意味売れ筋の役者、でき星の役者とばかり仕事しない方と違って中西にしかわからないこともあるのだろうな。「華はあると思いますしみんなに元気を与えてくれますが、アイドルとしてはわかりませんね。今売れるにはルックスや歌唱力以外のプラスアルファが必要ですからね。ただ女優としては行けると思います」かすかにどよめきがあったように見えた。周りにいた役者も何かつぶやいた。「おお、数々のアイドルと浮名を流した中西先生が太鼓判を押しましたか。俺よりも安心できそうだな。彼女に伝えてやろうか」「やめてください。赤崎さんに刺されます。」結構彼の浮いた話は俺も聞いていた。よく知られたアイドルや若手女優との交際の話があったはずだ。もちろんそういう話が話半分に聞いたほうが良いものが多いことも事実だが。でも彼が真剣な人間だということもよく知っている。著名なアイドルとの交際は結構ものになりかけていたと思ったのだがうまくいかなかった。現在は他の劇団の女優と付き合っていると彼自身から聞いている。中西とは一緒に小劇場で公演を行ったこともあった中なのだがわからないことも結構あってそこが魅力なのだ。携帯が鳴った。「あー、どうも。うん。順調でしたよ。帝都物語?それは誤解だ。君の妹の次回作については未定です。あー、は。どうも。ではまた」切る「どうした?」池崎さんが聞いた。「例の小説家の兄さんです」「あー、あの人ね。彼も面白そうだな」池崎師匠が長嶋茂雄さんみたいなノリになってきた。どうせ池崎さんはすぐ忘れていると思う。俺もあまり酒は強くないが池崎さんは飲まないと不機嫌になるのでつらい。「飲んでいるように見えて実は飲んでいない」ネタもバレてきたので本当に飲むしかなくなってきた。次の「飲んでいるように流している風に見えて実は減っていない」ネタはすぐばれたようだ。仕方なく野菜などの腹の膨れないものを中心に食べる、合間に水を飲むの繰り返しになった。漬物も時間稼ぎに良い。ただあまり長すぎると「こいついつまで噛んでいるつもりだ」という表情に池崎さんがなるので注意。煙草を吸うふりをして「あれ?ここ禁煙なんだっけ」という寸劇を行うのも馬鹿らしく思えた。岡田さんの事務所の谷口副社長が同席して食事はまだ続きそうだ。おかわりというものはこの世からなくなってほしいと思えてきた。もうあまり食べる力もなくなってきた。池崎さんがオセロットの山部さんに注目していると言っている。他の劇団に出演させるプランを練っているようだ。サッカーによくある正式契約した選手を他のチームにレンタル移籍させて使うような真似をするのが池崎さんだ。それにあえて谷口さんは乗ろうというのか。岡田さんがどんな俳優遍歴をたどるのかには興味があったがオセロットメンバー全員の行く末など俺にはわかるはずもない。なるようにしかないのだと思った。ただアドバイスだけはしていこうと思う。
10日目(千秋楽)この日が来るのを待ちわびていたがおしい気持ちもあった。「終わってしまうのか。」フランス軍の兵士を演じる役者たちが悲しそうに言った。「終わりなんだな」王妃はどこかにいったらしい。池崎さんは把握しているのでまあ大丈夫なんだろう。しかし俺はこの時点で演出をできる自信がない。3日目までは自分もこの舞台を演出できるという確信はあったのだがそういうものは崩れ去って跡形もない。岡田さんの精神状態はどこに行くかわからない蝶のようだった、と表現すると怒られそうだし怒られても仕方がない。この役者たちも結構いろんな劇団から来た寄せ集めなので統一させるのが大変だったのだ。令和の高田浩吉とか言っていた人は残念ながら採用しなかった。これは自分の判断だがあれでよかったと思う。フランス軍は傭兵ばかりなのだからこれでいいとも思えた。WBCの終わった時のイチローではないが「このメンバーでもう一度やりたい」と思えた。まあこのメンバーがベストだと思うとそこから停滞が始まる、かどうかはわからないが俺は動画サイトで映画を見ることにした。昔の映画を結構配信している。退屈な映画を見た後は眠くなる。「明後日は新しいバイクを買うんだ」フラグのような目標を作る俺。脚本家の原野忠と会う。彼は大学の同期で同じ学生劇団に所属していた。「その服、大学のころから着ているな」「お前もそうじゃないか」「俺は買ったばかりの服だよ」俺と原野、安井は共同で仕事をしたことが多い。原野に言う。「あの小説だけどさ」「1週間で間に合うか」「間に合わせるしかない。なんとか頼む」「本当は無理なんだがな、なんとかやってみるよ」
見慣れない青年がいた。「あの若者は誰だ」「あの人は、多分岡田さんの兄貴だろう」「彼か」イライラしている感じだ。もしかすると俺を探しているのかもしれない。「すいませーん、岡田さんのお兄さんですかー」むっとした青年は少し会釈しただけの挨拶をする。機嫌が悪そうだ。「あなただな、演出助手の人は」返答に困る。「はい」狐と狸のばかしあいだ、これは。「ここまでよく頑張ってきた」カウンターパンチを喰らったような気分になった俺たち。岡田さんの兄と思われる青年が俺の右腕をつかもうとしてきた。俺はなすすべもなく右手をつかまれた。唖然とした表情だったと思う。(技をかけようとしているな。)彼の手を振り払った。「なかなかやるな」俺は後ずさりする。「待て待て。これはただのあいさつ代わりだ。」あいさつ代わりで怪我しちゃたまらないよ。青年(多分兄)は「ま、良くやっているようだな。幸運を祈る」去っていった。安井「一体何だったんだよ」「さあな」結局岡田さんにも会っていないようだし、何が目的だったのかわからない。そのあとアマチュア劇団にいる妹が来た。実を言うと俺が電話でプライベートの話をしたと言っていたのは妹のことだったのだ。妹も別の劇団に所属していているが芽が出ないままだ。岡田さんを見て感心していたようだが何に感心したのかはよくわからない。岡田さんに会うと何か話している。俺の女性関係(何もないが)がバレたのかもしれない。ま、しかたない。
10日目(千秋楽)この日が来るのを待ちわびていたがおしい気持ちもあった。「終わってしまうのか。」フランス軍の兵士を演じる役者たちが悲しそうに言った。「終わりなんだな」王妃はどこかにいったらしい。池崎さんは把握しているのでまあ大丈夫なんだろう。しかし俺はこの時点で演出をできる自信がない。3日目までは自分もこの舞台を演出できるという確信はあったのだがそういうものは崩れ去って跡形もない。岡田さんの精神状態はどこに行くかわからない蝶のようだった、と表現すると怒られそうだし怒られても仕方がない。この役者たちも結構いろんな劇団から来た寄せ集めなので統一させるのが大変だったのだ。令和の高田浩吉とか言っていた人は残念ながら採用しなかった。これは自分の判断だがあれでよかったと思う。フランス軍は傭兵ばかりなのだからこれでいいとも思えた。WBCの終わった時のイチローではないが「このメンバーでもう一度やりたい」と思えた。まあこのメンバーがベストだと思うとそこから停滞が始まる、かどうかはわからないが俺は動画サイトで映画を見ることにした。昔の映画を結構配信している。退屈な映画を見た後は眠くなる。「明後日は新しいバイクを買うんだ」フラグのような目標を作る俺。脚本家の原野忠と会う。彼は大学の同期で同じ学生劇団に所属していた。「その服、大学のころから着ているな」「お前もそうじゃないか」「俺は買ったばかりの服だよ」俺と原野、安井は共同で仕事をしたことが多い。原野に言う。「あの小説だけどさ」「1週間で間に合うか」「間に合わせるしかない。なんとか頼む」「本当は無理なんだがな、なんとかやってみるよ」
見慣れない青年がいた。「あの若者は誰だ」「あの人は、多分岡田さんの兄貴だろう」「彼か」イライラしている感じだ。もしかすると俺を探しているのかもしれない。「すいませーん、岡田さんのお兄さんですかー」むっとした青年は少し会釈しただけの挨拶をする。機嫌が悪そうだ。「あなただな、演出助手の人は」返答に困る。「はい」狐と狸のばかしあいだ、これは。「ここまでよく頑張ってきた」カウンターパンチを喰らったような気分になった俺たち。岡田さんの兄と思われる青年が俺の右腕をつかもうとしてきた。俺はなすすべもなく右手をつかまれた。唖然とした表情だったと思う。(技をかけようとしているな。)彼の手を振り払った。「なかなかやるな」俺は後ずさりする。「待て待て。これはただのあいさつ代わりだ。」あいさつ代わりで怪我しちゃたまらないよ。青年(多分兄)は「ま、良くやっているようだな。幸運を祈る」去っていった。安井「一体何だったんだよ」「さあな」結局岡田さんにも会っていないようだし、何が目的だったのかわからない。そのあとアマチュア劇団にいる妹が来た。実を言うと俺が電話でプライベートの話をしたと言っていたのは妹のことだったのだ。妹も別の劇団に所属していているが芽が出ないままだ。岡田さんを見て感心していたようだが何に感心したのかはよくわからない。岡田さんに会うと何か話している。俺の女性関係(何もないが)がバレたのかもしれない。ま、しかたない。
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