英独脱走兵物語

わかめの味噌汁

文字の大きさ
4 / 4

脱走開始

しおりを挟む
「ジョニー・マクスウェル少尉。軍規違反による軍法会議につき、貴官を参謀本部まで護送させていただきます」
目の前にたたずむ青年将校が、たどたどしく命令書の内容を読み上げる。基地司令殿は憲兵と言っていたが、恐らく慢性的な人員不足に陥ってるのだろう。各戦線へ練度の高い憲兵を現場指揮官として、多く派遣している都合上、彼らのような若者が憲兵として徴兵されるのも合点がいく。
まぁ、それとそれとは話が違うんだが...。ジョニーは内心でほくそ笑む。銃の持ち方もなっていない兵士など、相手にもならないからだ。
「了解しました。...ほれ、手錠でもかけてくださいよ」
わざと従順に答える。相手の油断を誘うためだ。後はフィーア次第なのだが...。彼女に目を遣ると、それに呼応するかのようなタイミングで、
「おい、催してきた。厠に行きたい」
とフィーアが言う。ジョニーは心中で飛び跳ねたが、悟られないように平静を務めた。
「え、ど、どうしようか...」
「どうって、漏らさせる訳にもいかんだろうし...」
二人の青年が困ったように話し合う。しばらくした後、話が纏まった彼らはフィーアの牢の鍵を、二人がかりで開けようと牢へ向かった。
瞬間、ジョニーが牙を剥く。まず銃を持った青年の懐に手を伸ばし、ナイフを奪う。そして咄嗟のことで反応が遅れた青年の脇腹に、ナイフを深々と刺す。びくん、と筋肉が跳ね上がったのを最期に、青年は糸が切れた操り人形の様に崩れ落ちた。
「え、え?あ...」
突然の同僚の死に、理解が追いついていないもう一人の青年に、死体から奪ったライフルを向ける。
「すまんな兄ちゃん。まぁ、ここに送られた不運を呪ってくれ」
そう言い残し、撃鉄を落とす。無機質な銃口から放たれたそれは、瞬く間に青年の脳を貫き、床に鮮血を散らばらせた。
「...南無三」
無機質に転がる二人の死体を見、密かに手を合わせる。とはいえ、ここでじっとしている訳にも行かない。彼は片方の死体から裏口の鍵を剥ぎ取ると、
「助かったぜ。ありがとな」
そう言いつつ、フィーアの牢の鍵をライフルで破壊する。
「直ぐに応援が来る。裏口からさっさと逃げるぞ」
「分かった。私にも武器をくれ。戦う」
「逃げるっつってんだろ」
フィーアの腕を引きながら走る。一方のフィーアと言えば、「私も戦えるのに」とぶつぶつ言いながら仕方なく着いてきている。どうやら全く理解出来ていないらしい。
しばらく営倉舎内を走ると、目の前に鉄扉が立ち塞がった。脱走者を阻む最後の壁だ。
しかし、鍵を手に入れた彼らには何の役にも立たず、容易に開放された。
「ここから少し南に行ったところに、イギリス軍の装甲車がある。それを奪って逃げよう」
「やっぱり戦うんじゃないか」
そう言ったフィーアを無視しつつ、目的の格納庫まで歩を進める。幸いにも見張りはおらず、鍵もかかっていなかったため、簡単に奪う事が出来た。
「後は時間との勝負だ。連中に気付かれる前に少しでも遠くまで行くぞ」
フィーアにそう言いつつ、スロットルを最大まで引き絞り、アクセルを踏み込む。それに連動し、エンジンが咆哮を上げた。最大速度で格納庫から飛び出した装甲車は、基地の鉄条網を粉砕し、そのまま荒地へと駆け抜けていった。
「何処に行くんだ?まさか宛が無いとは言わないだろうな」
後部座席に座るフィーアが尋ねてくる。
「あぁ。スイスだ。あそこは確か中立国だろう」
「待て、私はドイツに帰りたい」
「断る。俺が入れん」
「何故貴様も着いてくるんだ!」
抗議するフィーアを横目に、再びアクセルを踏む。ゴツゴツした岩にタイヤがぶつかり、シートに振動が伝わってくる。
「どーせ居場所の無い国に戻るより、永久的で恒久的に平和なスイス行った方が賢明だぜ?」
「...確かにそうか」
「物分りが良くて助かる。...さて、まずは服の調達だな。近場の街に行くぞ」
流石にこんな薄着では、目前に迫る冬を越すことなど出来ない。金については心配ない。何処ぞの哀れなお方から掠め取れば済むだけのことだ。ふと車内を見ると、備え付けの軍用タバコが載っていた。
「久しぶりに俺の実力を見せる時が来たな...。見とけよフィーアちゃん?」
「タバコ吸ってる時に話しかけるな。煙が...うっ」
「お固いねぇ...。俺が17の時なんて、タバコ吸いまくりだったけどな。ま、別にいいが...」
言い終わると、装甲車は丘に登り始める。機関銃をも装備している車体を強引に進めるため、装甲車や戦車には高馬力のエンジンが搭載されている。アクセルを思い切り踏み込むと、轟くエンジン音と共にぐんぐんと丘を越えてゆく。
「やっぱ軍用車だよなぁ。これ乗っちまったら他の車なんざ乗れんわ」
「...分からんでもない」
「ま、街の近くで乗り捨てるがな」
「えぇ...」
「当たり前だろ。流石にこれで街に突っ込んだら目立ちすぎる」
困惑するフィーアを宥めていると、視界の端に街が見えてくる。
「さー見えてきたぞ。後、お前は出るなよ」
「え」
何事が抗議するフィーアを無視し、街から10km程離れた場所で停車し、そのまま街へ向かう。流石に薄着の女を街に繰り出させる度量は、ジョニーには無かった。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...