10 / 68
第四章 中世ヨーロッパⅡ The Middle Age
第4-2話「サンプル ワン」
しおりを挟む「……今日、王妃の部屋に入ったんです。書斎の筆記帳にはこう書かれていました」
ウィルフレッド=バーグマン 忠誠心が高い。
カーミット=ジーメン 反逆の意思あり。いずれ処刑に。
ノエミ=リアーリ 反逆の意思、全くなし。安全。
マックス=グッドウィン 承認欲求が高い。
サナエ=アサカ × 亜人。処刑に。
ラランサ × 亜人。処刑に。
ココナ 不可。Sランクの可能性あり。
「……なんだ、それは」
早苗は寒気が走るのを感じた。
ウィルフレッドが転生者なのは、不思議じゃなかった。
だが僕が亜人の可能性あり? 心菜がSランク?
「……王妃の能力、想像より恐ろしいものなのかも」
そして、このままだと……
「カーミット。君も処刑に、と」
「……ハイ。通りすがりの女性が、指弾されて火あぶりにされる世界です。ワタシの命なんて」
「魔女狩りがあるのか? 12世紀からじゃ……」
いや、完全に史実と同じじゃないんだ、エアルドネルは。
「ワタシ、サナエサンに賭けたいです」
「どういうことだ?」
「サナエサンとララサンを逃がします。3人で逃げましょう」
真っ先にララが反応する。
「……ああっ! 早苗さまが、助かる! それなら、みんなで帝国の港から、亜人の島に行ク!」
「イイですね。サナエサンならきっと、この世界を変えられます。なにせワタシと同じく、天才ですからね!」
「…………」
早苗は彼女たちの言葉を聞いて、静かに考え込んでいた。
「……わかった。やろう。亜人の島に近代文明を設立する。軍隊も作る」
「ヨシきた! ワタシは秘書と司祭やります!」
「……え? 司祭は要らないだろ」
ハイ!? ユダヤ教のカーミットに怒られる。
「希望がない世界ほど、神が必要です!」
「まぁ、そうなんだろうけど……」
「それに、信心深くないと、死が怖くてやってられません」
「……まぁ」
それ以前に、まずは脱獄しないと。
「話を戻します。正直ココナサンなら、警備も薄くて簡単ですが、サナエサンたちは不可能に近いです」
ララは愕然とした。
ふと、早苗が思ったことを口にする。
「心菜なら簡単……カーミット、僕に賭けたい理由は?」
「……ン? サナエサンなら近代文明作れますし」
「なら、心菜も科学者で、僕より頭がいい。同じ大学で研究したが、心菜は――」
早苗は記憶を振り払うように、頭を振る。
「ノーベル賞も、心菜が取るべきだった。あの子は僕にとって、人類史上最も優秀な科学者だ」
「……サナエサン、何を言いたいのか」
「つまり――」
早苗が意を決して伝える。
「僕じゃなく彼女を救ってくれ」
「……エエ!?」
カーミットは唖然としている。ララが辛そうに聞いた。
「さ、早苗さま……」
「これでいいんだ」
カーミットは頭を軽く壁にぶつけた後、しばらく考え込んだ。
「……本気ですね。ワカリマシタ。明日の夜中、ココナサンと脱出します。神に誓いますよ」
「ありがとう。誓いか……」
「破ったらワタシは地獄行きです」
カーミットは、そろそろ戻らないと、と立ち去ろうとするが――
「カーミット。最後に――」
早苗は城の構造を聞いた後、カーミットも早苗に何かを聞いていた。
「……?」
ララには分からない単語が多い。
エアルドネルには存在しない固有名詞だと、ララは思った。
「ソレでは」
バタン、とドアが閉まり、ふたたびララと2人になる。
すぐにたまらず、また嘔吐をする。
「……ああ、ひどいものだな」
出てきた内容物は少ない。
すでに胃袋の中に出すものがなく、透明な液体が出る。
それを、目の前のジョッキにぶちまけた。
「……さ、早苗さま」
「ご、ごめんララ。勝手に決めちゃ――」
おええええ、と、またもや嘔吐。
それを何度も繰り返していると、ララは辛そうに目を背けた。
「さ、早苗さま……何か食べた方がいいんじゃ……」
「そうだね……」
一気に漬け物を食べるが、その後、咳き込んでしまう。
「……だめだ……気持ち悪い」
早苗はそのまま目をつむると、眠っていった。
◇
同時刻――勇者に選ばれたマックスは王に呼ばれていた。
『勇者マックス。明日、出陣せよ。初陣である』
『ハイ、陛下』
王に跪くマックス。
夜、彼は再び神殿でリンを抱いた。これだけは止められなかった。
◇
次の日になる。明日が、早苗とララの処刑日。
カーミットは人気がない廊下を早歩きした。
今日、ココナサンを助ける。
と、イタリア人のノエミ。
『ねぇ、カーミット。アナタ、何かしようとしてる?』
『……ノエミ』
『あなたは天才よ。きっとこの世界のトップにもなれる。だからバカなことはやめて――』
『ゴメン、ノエミ』
カーミットは親友にハグをした。
『ワタシ、誓ったから。きっと神様が助けてくれる』
ノエミは遠い目をした。最後のお別れのように、カーミットが続ける。
『きっと上手くいきます。もしダメでも、天国に行ける。死ぬのは怖くない』
さよなら、とお別れを告げる。
カーミットは静かに、計画の実行に動きだした。
◇
その頃、地下牢では――
早苗はいまだに、ただ嘔吐していた。
ひく、ひく、とララが泣く声が響く。
雨が降り、雷が鳴りはじめた。
おびえるララとは逆に、早苗は、機嫌よさげに立ち上がる。
「……この世界にきて、はじめて運がまわってきた」
「えッ……?」
涙目のまま、ララが不思議そうに見ている。
早苗は唐突に、拘束されている右手を、壁に叩きつけた。
「え? さ、早苗さま……」
ガツン、ガツン、と――雷の音に合わせて何度も、壁を叩きつける。
雷だけでなく、外から鐘の音も響いてきた。
中世の人間は、雷を止めるために鐘を鳴らすのだ。
「さ、早苗さま……」
壊れるわけがないのに、なんで。ララは言葉を失っていた。
だが、すぐにガラン、と。
鎖は鈍い音を立てて壊れ、床に落ちた。
「えッ!!?」
何が、起こったのだろう。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる





