【フルボイス】追放されたノーベル賞受賞の科学者、異世界に最強国家を作る ~チート無しで転生するが、現代知識で文明を再興~【エアルドネル戦記】

Naina R. Uresich

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第五章 中世ヨーロッパⅢ The Middle Age

第5-2話「The Waiter」

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 早苗とララが脱獄に成功したその頃――
 心菜とカーミットも無事に街から出て、平原を歩いていた。


「クソ。明日かならず、あのバカを助ける……」
「バカって……サナエサンが嫌いなんです?」

 心菜が眉間にしわを寄せた。
 とはいえ、ヘルメットで見えない。
 
「どちらかと言えば好きよ。尊敬もしてる」
「デモその言い方じゃ、どう見ても……まぁ、いいですけど」

 息苦しいので、ヘルメットを脱ぐカーミットたち。
 その彼女らのランプが、樹木を照らすが……





「ウワ! 酷いですね……」

 王国兵に拷問されたのであろう。
 死屍が、見せしめに木に吊るされていた。

「手首が切り落とされている。窃盗犯への罰ね」
「アア、たしかに……」
「舌もない。多分、熱したペンチで抜かれた。兵に捕まった時、王族の悪口でも言ったのでしょう……」
「コノ世界、権力者を悪く言うだけで、舌抜きの刑ですもんね……」

 ブルッと身震いし、カーミット。

「悪口だけでこれなら、サナエサンとララサンは……」
「だから、絶対助けるって! 手段は選ばない!」
「……ト言うと?」
「オズソン王子か、オズウィン王子を使う」

 よくわからず、カーミットが首をかしげる。

「つまり、王子を誘拐して、人質交換する」
「――ハァ!? ココナサン、本気ですか!?」

 真顔の心菜を見て、カーミットが真っ青になる。

「正気じゃないです…! どうやって? もし応じなかったら?」
「応じるわよ。王位継承者、たった2人だもの。それに早苗の命は、この世界の誰よりも価値がある」
「……ハァ。ワタシが間違ってましたね」

 心菜がビクッとする。

「ココナサンのサナエサンへの愛は、尋常じゃないです。愛してるんですね」

 からかうように、心菜を見るが……
 ふと、自分の顔が濡れてるのに気づいた。

 手で拭く。血だ。

 心菜は……死んでいる……?





「ああ、あああっ!! ココナサンっ!?」

 いや、まだ生きてる。
 でも、音もなく飛んできた矢が、顔を貫通して……
 ドサッ、と。心菜が力なく倒れる。

 瞬間、静かに風を切る音。

「――ひっ!」
 カーミットの真横を、矢が通った。
 さらに一本。数センチ手前の地面に、矢が刺さる。
 誰かに狙われて……

「――アアァ、ウワァアアアアアアア!!!」
『待て、逃げるな!!』

 王国語で言われる。兵士が何人も。
 無視して、ランプを捨てる。
 カーミットは死に物狂いで走った。

「はぁ、はぁ――!」
 馬が駆けて、兵士が何人も接近する音。
 グサグサと、矢が周囲に刺さり続け――
 構わない。全力で逃げ続ける。

『止まれ! この女を殺すぞ』
『――ひっ!』

 一瞬だけ背後を見る。
 兵士が、心菜の首元にナイフを立てていた。
 いや、ダメだ。一瞬でも足を止めたら――

『――ウアァアアァ!!!』

 森の中に逃げ込む。
 怖い。何で? ココナサンが死んだから?
 違う。自分が死ぬかもしれない、捕まり拷問されるかもしれない……
 それが怖かった。頭が真っ白になるほどに。



 そんな時――
 
「早苗さま! 蛇とってきタ!」

 早苗とララは、のんきに蛇を焼いていた。
 早苗は少ない蛇の脂身と、焚火の草木灰を混ぜる。

「ララ、カタツムリ探せる?」
「うん! なにに使うノ?」
「石鹸を作る。それで体を洗う」
「……せ、せっケ?」

 知らないらしい。思えばヨーロッパに石鹸が渡ったのは、12世紀。
 つまり、500年後ぐらいだ。

「多くの病気を予防する、もっとも偉大な発明の一つだ。作り方は……」

 貝殻を砕いて、水酸化カルシウムに。
 それを草木灰の水に入れ、水酸化カリウムに。
 最後に先程の蛇の油を入れて、混ぜれば完成だ。





 そうして石鹸でまずは早苗、次はララが体を洗った後、
 2人で久しぶりの食事を楽しんでいた。


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