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第六章 ホルトハミーの街 Halthamy

第6-3話「サンプル ツー」

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 露店が並ぶホルトハミーの街。
 そこで早苗は、何種類ものパン、ミカンを見ている。

「さ、早苗さま……その奇跡の薬は、どう作ル?」
「ペニシリンっていうんだ」

 早苗は続ける。

「カビから作るんだけど、7日で作るのなら、すでにカビてるものがいる」

 他にも候補はあったが……
 炭疽はスルホンアミド、通称サルファ剤、今でいうST剤に自然耐性がある。
 土から作るストレプトマイシンは、有効株を見つけて、培養するのが死ぬほど大変だ。





 ララはなんとなく「細菌を倒す物質」だと、理解したようだ。

「……実臨床では抗生剤の多剤投与するんだが」
 まぁ、ペニシリンだけでも作れれば奇跡だ。
 と、パン屋を見つける。

『――待って! これ、全部買う』
『え? 豚用のエサだけど……』
 だが必死に懇願し、カビたパンを安価で譲ってもらえた。

「次は大量のガラスが必要だ」
「……うん。どれぐらイ?」
「これを作れるぐらい」

 羊皮紙に羽筆を走らせる。





「このサー・ウィリアム・ダンの向流分配装置で、アオカビからペニシリンを単離する。じゃないとコンタミで使うと危ない」
「……あァ」

 だがララは声を失っていた。

「スパイスを売ったお金が40アール(40万円ぐらい)あるから、それで――」
「……あの、無理かも。王国のガラス職人たちは、コップを作るのが精いっぱい。しかも、ものすごく高価だヨ……」
「ああ……」

 そういえば、城にも窓ガラスがなかった。
 中世では、ガラスは超贅沢品なのか。

「じゃあ、僕の世界の方法でガラスを作る」
 ガラスだけ産業時代に突入だ。

 雑貨屋で、運搬中に割れたガラスの破片を大量に5アール(5万円)で買う。

「これを鍛冶屋で溶かして、蒸留器を作る。そしてアンモニアと炭酸ナトリウムを――」

 まとめると、ガラスの大量生産には……
 珪砂(どこにでもある)+ソーダ灰(これが難しい)+石灰石(砕いた貝殻でもOK)が必要だ。
 
「……わかった! わたしはなに手伝えばいイ?」
「じゃあ、アンモニアをお願い」
「うん! どうやるノ?」

 と聞く彼女に、遠慮なく早苗は答えた。

「ここにおしっこ入れて」

 そして土器の大きな容器をいくつか渡される。

「…………」
「10リットルぐらい、大量に出して」

 それを見たララは、数秒固まってしまった。



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