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第十七章 首都ウォルデン Walden
第17-1話「槍に貫かれれしもの」
しおりを挟む早苗がエルフのラーサを迎え入れていた、その頃。
カーミットの火あぶりの刑の、準備は整っていた。
『いいぞー! やっちまえ!』
『その魔女が呪いを広げたんだ!!』
『殺せ!! 殺せ!!』
擦り傷と、打撲の跡だらけ。
そんなカーミットは、20人弱の民衆に、石やら糞を投げられていた。
『イヤアア!! やめて!!』
『黙れ魔女が!!!』
ベアバルドの弟に髪を引っ張られ、強引に火あぶりの台に連れていかれるが――
『――痛っ! このアマ!!』
がぶりと男の腕に噛みついた。
すぐに渾身の力で頬を殴られる。
鼻血を垂らしながら、男を睨み叫ぶ。
『――こ、コノ強姦魔の血族がッ!! オマエも殺してやる!!』
『死ぬのはお前だ! 兄を誘惑した、穢れた魔女め!!』
さらに腹を蹴られ、痛みで動けなくなる。引きずられるが……
台まであと一歩のところで、もうひとりの兵が止めた。
『おい、オスレッド(Osred)! 命令違反だ、もういいだろ!』
『俺を止めるな!!』
『王国からの命令は、公開処刑じゃない! この女を殺して行方不明にすることだ!』
『黙れ!! どうせ殺すのなら同じだッ!!』
ベアバルドの弟――オスレッドが、仲間の兵を突き押した。
そして彼が、カーミットに怨念のこもった声を出す。
『……命令違反でも構わない。楽に死ねると思うな』
『コノ、サル以下の、クソ未開人め……』
心底、エアルドネルが嫌いで、未開人たちに吐き気がしていた。
『……お前を生きたまま焼いて、死んだ後も、内臓が焦げカスになるまで、焼き続けてやる』
『う、ウグ、ううううっ……』
でも、そんなのどうでもいい。
ボロボロと涙を垂らしたカーミットが、火あぶりの台に縛られる。
殴られて、犯されて、痛くて苦しいのに……その全てを、恐怖が上書きしていく。
『ヤ、ヤダ、イヤだ……!』
強引にきつく縛られ、まったく動けない。
『許して……!! ワタシが悪かった!!』
『黙れ!! あの世で兄貴に詫びろ!!』
『イヤだ!! イヤだ!! 何でもするから!!』
オスレッドが、炎の燃え盛る松明を手にする。
『ア゛ア゛ア゛!! イ゛ヤ゛だ!!! イ゛ヤ゛あ゛あ゛ッ゛!!!』
『死にやがれ、尻軽女!』
バチバチ、と足元の薪が音を立てる。
次第に音が大きくなり、煙が上がった。
熱い。足元が死ぬほど痛い。気が狂いそう――
『イ゛ヤ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!!』
死ぬ前に走馬灯が見える、なんて誰が言ったのだろう。
カーミットには何も見えなかった。
家族も、友人も、前世の思い出も、何も出てこない。
ただ恐怖で頭が真っ白になり、喉が破ける程叫んだ――
それは、絶命の声だった。
◇
その頃――
王国首都の広い地下室を、松明が照らしていた。
天井の高さは、7メートル以上だろうか。
そこは、王族しか入れない密室だった。
瞬間、地響きが――
『だいぶ、能力に慣れました』
12歳のオズソンは不敵に笑う。
彼が手の平を向けた先の壁には、半径2メートルほどの亀裂が入っていた。
『さすがですわ、国王』
『まだ全力ではありません、母上。地下室が崩れてしまいます』
ゴルディは確信していた。
大陸統一の戦力を、既に王国は保有している。
だが同時に、説明のできないイヤな予感が……
『母上?』
『なんでしょうか、この気持ち……』
あの聖痕なしの、サナエだろうか。
魔法も使えないゴミ。その確信はある。
でもウィルフレッドのあの男への評価……
(……いえ、考えすぎですわ。脅威となりえるのは、サナエだけ)
他はわたくしの支配下にある、剣と犬。そして臆病な女と、無能な女。
だがゴルディの予感は、遥か彼方の地で、現実になろうとしていた。
◇
火あぶりにあっているカーミット。
彼女の足元に、一気に水がかけられる。
『カーミット!!』
『……エ? あ、ああ……ノエミ?』
噓ですよね。こ、これは……夢?
カーミットが唖然としていると、ノエミが背に回り、縄を解く。
開放されたカーミットが、自身の足を見るが――
(……意外と焼けてない、です?)
そしてノエミを見るが、彼女は目に涙を溜めて、微笑んでいた。
もう大丈夫だよ。そう言われた気がした。
『おい、糞アマ! 何邪魔してやがる!!』
オスレッドがノエミに掴みかかろうとするが――
すぐに、ノエミの周囲にいる兵士たちに阻まれる。
皮の装備のオスレッドとは格が違う、チェインメイルの、本物の兵士。
『無礼者!! ノエミ様に触れるな!』
『なんだよお前、俺は魔女を――』
兵士に強く突き押され、数歩後ずさりした後、豪快に背後に転ぶオスレッド。
その彼を見下しながら、兵士が言う。
『公爵夫人! レディー・ノエミの御前であるぞ!』
『……エ?』
カーミットはぽかん、とした。
そして公爵夫人と呼ばれた、ノエミに手を貸される。
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