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第二十一章 王都エフレ
第21-2話「The Vicious Cycle」
しおりを挟む『久しぶりだな、ゴルディ』
『……ふ、うふふふふ!!』
2か月ぶりの対面だった。
ゴルディは以前と変わらぬ高圧な――いや、かなり焦りを見せている。
『まさか、魔力無しの人でなしが、またのこの国に現れるなんて……!』
『ゴルディ様、隠れてください!』
手を引かれ、壁に向こうに隠れるゴルディ。
「閣下。さっき女はなんと?」とラルク。
「……かなり怯えている。警戒を」
「わかりました」
ラルクはライフルを、壁の向こうに潜むゴルディに向けたまま、ゆっくりと進む。
その様子を、壁越しに見ていたのか……
『このっ!! 汚い亜人風情が!! 王都に踏み込むとは! 今すぐ立ち去り――』
『いけません! ゴルディ様!』
前に出ようとする太后を、ウィルが止める。
『なにを――』
『やつらは一方的に、遠距離から我々を殺せる。我々はそういう時代から来たんです!!』
『………』
ゴルディは歯ぎしりする。
だがウィルフレッドの言葉を受け入れたのか、身をひそめた。
そんな彼女に、早苗は逆に近づく。
『ゴルディ。あなたが見たがっていた、僕の世界の文明はどうかな』
『……っ! 貴様っ』
『もう10世紀遅れの君の文明では、僕らに勝てない』
『っ!! 兵士たちは何故来ないのです!!』
城の鐘は鳴らない。見ると塔の上の鐘が、壊されていた。
代わりに正門の鐘が鳴り続け、兵たちが誘導されている。
早苗は声を上げた。
『通信技術の無い君たちの限界がここだ』
『……おのれっ!』
だが、悔しいがゴルディは確信した。
正門の兵たちは、もうここには駆けつけてこない。
『こ、こんな夢物語……ありえません……』
『太后!!』
城の中で王を守っていた、少数の精鋭騎士たちが駆けつける。
瞬間、早苗の方角から破裂音。
ビクッと騎士のひとりが、力なくゴルディの隣で倒れた。
『こんなことって……』
静かに、ゴルディは騎士を見る。
兜に、綺麗に小指の指先ぐらいの穴が開いていた。
こんなこと、ありえない。あまりにも一方的な死……
『ッ!!』
ズガズガと破裂音が続く。
ゴルディは身をこわばらせながら、聞いたことがない音が、収まるのを待った。
――精鋭の騎士たちが蹂躙された。
尋常でない程に鋭いなにか――
透明な矢か何かで撃たれ、即死、もしくは重症を負っていく。
『ふ、うふふ……ふふふふ……』
『ゴルディ。まだ伝えてなかったね』
4人の獣人の兵たちに囲まれた早苗が、続ける。
『僕は今、亜人の国、デミニアン共和国の代表だ』
『……!? 亜人の国? 王……ってことですの?』
ふふふ、ふふふ、と。
ゴルディが壊れたように笑いだす。
『こんなこと、こんなことは――』
あってはいけない。
汚い亜人どもが、わたくしたち「ヒト」を超えてしまう……
『……ああああっ!! 神の名において、そんなことはあってはいけないッ!! 神に見捨てられた亜人共がァァ!』
『ゴルディ様!』
力なく崩れるゴルディを、ウィルフレッドは支えた。
そして壁越しに、早苗に近代英語で話しかける。
『サナエ。それ、ライフルだろ。まさか本当に作ってしまうだなんて……』
『ウィルフレッド』
『壁を壊したのは、ダイナマイトか? さすがノーベル賞受賞者だ』
早苗はまったく興味を示さず、本題に入る。
『心菜を連れ戻しにきた』
『ああ……同じ日本人の嬢ちゃんだよな。言う通りにしたら、俺たちを見逃してくれないか?』
『質問に答えろ。心菜はどこだ?』
『サナエ、頼む。もう王国に、アンタに勝てる人間はいない。こいつらは未開人なんだ。慈悲を』
(……なんなんだ)
ウィルフレッドに、まるで話が通じていない。
心菜の場所を言えない理由があるのか。
まさか……
『……すでに……処刑したのか?』
『………』
抱えていたゴルディを下ろし、騎士長は両手を上げ姿を現した。
『撃たないでくれ。頼む』
『答えろ。心菜を処刑したのか!?』
『……火事が起こった。空中牢が焼けちまったんだ』
『ウソだな!』
早苗は思い出した。
たしかにここに来る前、外壁の外から火が見えた。
『あれは、事故で起こるような小火じゃない』
明らかに人為的に、中にいる人間を焼き殺そうとしたもの。
『……心菜は、僕の前世の恋人で、この世界で僕以外の、たったひとりの科学者だった』
『さ、サナエ……!! 頼む!! どうか!!』
早苗が背中に回した右手で、合図を出す。
ラルクと獣人の部下2人は、トリガーに力を込めはじめた。
「閣下、ご命令を」
「こいつらは心菜を殺した。これからおびき寄せるから、姿を出した瞬間、撃ち殺せ。特に白髪の女は確実に……!」
早苗にはわかっていた。
心菜が殺した犯人は、ゴルディしかいない。
『ウィルフレッド。同じ現代人のよしみだ。捕虜にするから、王妃を連れて出てこい』
『あ、ああ……!! 助かる! ありがとう!』
そうしてウィルフレッドは、手を上げながらゆっくりと壁の背後に手を伸ばす。
そうして数秒後、力なくガックリとするゴルディを、支えながら出てきた。
「……全員、構えろ」
ラルクが命じ、獣人たちが狙いを定めた。
ウィルフレッドは冷や汗を垂らしながら、片手でゴルディを支えて近づく。
ラルクのカウントダウンが聞こえた。
「3……2……1……」
「さよならだ、ゴルディ。心菜に手を出したことを、一生悔やめ」
早苗が冷たく言うのと同時に、ラルクが叫んだ。
「撃て!!」
バババッ、と。鼓膜が痛むほどの銃声が、一斉に響き渡る。
ゴルディへの一斉射撃は、瞬く間に彼女の脳と胴体を貫通し、息の根を止めた。
否、止めた、ハズだった。
「か、閣下! これは……!?」
ラルクの声が震えた。
間違いなくゴルディを狙ったハズ。
なのにその弾丸は、途中から弾道をずらし、真後ろの壁に直撃したのだ。
『お、おい、早苗……嘘だよな……今、撃って……』
「――っ!」
早苗は懐から即座に拳銃を取り出すと、全発、ゴルディ目掛けて発砲する。
ギガがライフルの後、手を失う前に作ってくれた物だ。
だが同じく、弾は全て弾道を変えて、背後の壁に着弾する。
「――変だ! 全員隠れろ」
早苗が命じて、獣人らが壁に潜み、装弾する。
(……おかしい。この距離から、全てを外すわけがない)
確かに訓練不足だが、ここにいるのは、獣人たちの中でもっとも、銃の扱いに適性があった精鋭隊。
(……何かの力で、弾丸が弾道を変えた?)
21世紀にも存在しないだろう、未知の力で。
と、周囲が唐突に暗くなり――
「ッ!」
ズガ――ッ! と大地が揺れる音。
早苗たちが居たところに、巨大なクレーターが出来ていた。
半径2メートルほどあろうか。地面が完全に抉られる。
ラルクの叫び声が響いた。
「閣下!! ご無事で!?」
「あ、ああ……!」
ラルクが抱えて退避してなければ、即死だった。
強い衝撃で砂埃が舞い、目が痛む。
治まる頃に再度見るが――
「これは……手……?」
上空を、地面を叩きつけた後の、巨大な手が浮いていた。
その手が再度ふり上げられ、早苗たちを狙おうとしている――
「し、信じられない。これは……!」
自分の目を疑う。
目の前に現れたのは、30メートルを超えるであろう……
「巨人、だと……」
その巨人の目は、明らかに早苗たちに敵意を向けていた。
再度、巨大な手が襲う。
マズい、死ぬ――
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