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12、終業式のあと

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今日は高校一年生の最後の日だ。

「えー、春休みもちゃんと落ち着いて規則正しい生活を送るように。じゃあ、もう解散」

ダルそうな先生の解散という言葉を聞くなり、クラスメイトは我先にと教室を出て行く。

来年も美紀と同じクラスがいいな、と思いながら窓を眺める。
やっぱり窓際は太陽があたって気持ちがいい。

「来年もその席だといいね」

またうとうとしているのを可笑しそうに笑いながら美紀は席を立った。

「学校までの道がほとんど同じだから、クラス離れても全然いいね」

「えー?私はまた美紀と同じクラスがいいな」

「そう?ありがとう」

じゃあね、と意味ありげに笑って美紀は教室を出ていった。

眠たい頭を起こして、健太が来るのを待つ。

「みなー!ごめん!遅くなった!」

すると、割と早く健太はじんわり汗をかきながら走り込んできた。

がらんとした教室に2人きりという空間がなんとなく恥ずかしくて、私たちはそこを出る。

どうやら健太の話によると、七海くんは今日、学校を休んでいるらしい。

私はいつもより二つ後
の駅で降りた。

健太の家は駅からすぐ近くだそうで。

「ほら、ここ」

健太が指さしたところは10階くらいの綺麗なマンションで、本当に駅からすぐ近くだった。

エレベーターのボタンの8を押して、私たちは8階の角の部屋まで行った。

「どうぞー!」

満面の笑みで玄関のドアをパッと開くと、中からふわっと健太の匂いがした。

本当に健太の家なのか、と妙にくすぐったくなりながらゆっくりと部屋に入る。

「おじゃまします」




最初の感想は、広い!だった。
もう玄関からサイズが違う。

手前の部屋のドアに子供の字で大きく『けんた』と何個も何個も書いてあるのを見つけて、思わず笑ってしまった。

木の綺麗なドアに似合わず、マッキーで書かれているその字は明らかに小さな頃の健太が書いた字だった。

私が健太のお母さんなら、驚いて、叫んじゃうな。

その証拠に、健太の本当のお母さんが頑張ったらしい跡がある。

でもきっと、健太は「どうだ!」とでも言うようににんまりとして、厳しく怒れないんだろうな。



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