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38、あんたのせい

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「大丈夫、大丈夫だから」

私に強く言ってふっと息を吐く。

「帰ろう」

私には関わらないはずの七海くんは優しく腕を引いて教室から出してくれた。

ふたり分のカバンも持って足早に下駄箱まで歩いていくと、呆然とする私の靴を出して「ほら履き替えて」と言った。

よく私の靴分かったね、みんな同じようなローファーなのに。

そう言う気力も無く、ふらつきながら靴を履き替えた。

「ほら、しっかり立って、帰るよ」

慰めようと、安心させようとしているのは分かった。

自分が動揺しているのを悟られまいとしているのも。

私の手をひく彼の手が震えていたのも気がついていた。

それでも私には何も喋ることができなかった。



キスしたあと、健太は周りを確認した。

誰も見ていないかを確認して、ホッとしたような顔をした。

あれだけ私を好きだと言った彼の唇が他の誰かの唇に触れたと思うだけで、心が潰れそうだった。

なんでキスしてたのと聞きたくても、誰も見ていないことにホッとしていた彼に聞くことはできない。

見てたの?事故だよ、ごめん、そう言われても絶対に納得出来ないと分かっている。

腕を掴んでいた七海くんの手が下まで滑り降りて私の手のひらを握った。

驚いて手を離そうとすると、強い力で握り返される。

「健太は浮気なんてしない」

「.....わかってる」

「あんたをすごく好き、だから浮気なんてありえない」

「.....そうだと思うよ」

「あんたが不安になってちゃ、健太が可哀想だ」

まるで責めるようにまくし立てる七海くんに私はイラっとして、手を思いっきり振りほどいた。

「それなら七海くんはなんで手繋ぐの?健太の彼女には関わらないんじゃないの?」

思わず声を張り上げると、図星だと言うように固まった。

「七海くん一途な人だと思ってたけど、親友の彼女にこんなことするんだ」

やり返すように得意になって言った。

「あんたのせい」

小さな声で反論する七海くんは、苦しそうだった。

「俺が本当に手を繋ぎたいのはあんたじゃない。好きなのはあんたじゃない。だけど.....おかしい」

意外な展開に付いていけず、私も混乱してしまったところで「なにしてるの?」と可愛らしい声がした。

その声の主はひょっこりと七海くんの後ろから顔を出して私を見る。

「七海、この人だれ?」

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