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4、覚えていない?
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こんな時間にあんな暗い所で何をしているんだろう。
まさか幽霊ってわけでもないだろうし。
そうは言っても、鳥目の私には何か得体の知れないもののような気がして怖かった。
こっちには気がついてないようだし、早く教科書見つけて帰ろう。
「うそ...ない」
机にもロッカーにもないとすれば、あとは...鞄の中に。
「やっぱり」
私はずっと自分で教科書を持っていたのだ。
おっちょこちょいにもほどがあるぞ、と自分を戒めて帰ろうとするけど、なんとなく気になってさっきのシルエットに目を向ける。
いつの間にかもうすぐそこまで近づいてきていた。
何も見なかったことにして回れ右しようとすると「おい、あんた!」と叫ぶ声が聞こえた。
恐る恐る振り向くと、腕の跡の原因となったあの男が驚いた顔で突っ立っていた。
なんでまたこの男...!
私がそのまま歩き出すと彼は私の腕を掴む。
その腕はあの夜、跡がつくまで強く握られた場所だった。
「いっ...たい」
「あ」
素直にパッと手を離して自分から距離をとった彼は、あの夜とは別人のようでなんだか変な気持ちになった。
「あんた、なんで見てた?」
あの夜のことかと身構えて何も喋れない私を不満そうな顔でみつめる。
「さっき職員室の前で、すれ違ったあともじーって俺のこと見てたろ?」
「....あ、そっちね」
「なんで見てた」
「水谷先生に用があって」
「何の用?」
なんでこの男は、私のことを覚えていないんだ。
それに、どうしてこんなに遠慮がないの。
覚えていないなら、私達は初対面と同じなのに。
「あなたに関係ありませんよね、、、?」
彼は少し呆れたような表情をして一歩前に出た。
反射的に自分の体が一歩下がる瞬間に、彼の学ランの校章が青なのが見えた。
私は赤。
青は一個上の先輩の色。
「俺の名字知ってる?」
突然の問いかけに何も答えられずにいると、「ああ、あんたは1年か」と面倒くさそうに頭をかいた。
「俺の名字は水谷。あんたの用があった水谷先生の弟」
「え!?」
優しそうな水谷先生の弟が、獣のようなこの男!?
あまりに意外で開いた口が塞がらない。
「で、なんで」
「いや......えっと、忘れちゃいました」
苦しい言い訳だと分かっていても適当なことが言えないくらいに、私の記憶にあの夜のことが残っている。
「ふーん。じゃあ、今はそれでいい。名前は」
逃げ切れると思ったのに!
「よ、横田六花です」
「横田な、覚えた」
それだけ言ってくるっと向きを変えると、また暗闇の方に戻ろうと歩き出す。
やっと行った。少しだけ怖かった。いや、本当はすごく怖かった。
「あ、手首、シップとかしといたら?」
その言葉に背筋が凍った。
あの夜のこと、覚えていた?ずっと気づかれていた?
「どこでそんな怪我したんだかな。注意力無さすぎじゃね」
彼の鼻で笑う声だけが聞こえた。
まさか幽霊ってわけでもないだろうし。
そうは言っても、鳥目の私には何か得体の知れないもののような気がして怖かった。
こっちには気がついてないようだし、早く教科書見つけて帰ろう。
「うそ...ない」
机にもロッカーにもないとすれば、あとは...鞄の中に。
「やっぱり」
私はずっと自分で教科書を持っていたのだ。
おっちょこちょいにもほどがあるぞ、と自分を戒めて帰ろうとするけど、なんとなく気になってさっきのシルエットに目を向ける。
いつの間にかもうすぐそこまで近づいてきていた。
何も見なかったことにして回れ右しようとすると「おい、あんた!」と叫ぶ声が聞こえた。
恐る恐る振り向くと、腕の跡の原因となったあの男が驚いた顔で突っ立っていた。
なんでまたこの男...!
私がそのまま歩き出すと彼は私の腕を掴む。
その腕はあの夜、跡がつくまで強く握られた場所だった。
「いっ...たい」
「あ」
素直にパッと手を離して自分から距離をとった彼は、あの夜とは別人のようでなんだか変な気持ちになった。
「あんた、なんで見てた?」
あの夜のことかと身構えて何も喋れない私を不満そうな顔でみつめる。
「さっき職員室の前で、すれ違ったあともじーって俺のこと見てたろ?」
「....あ、そっちね」
「なんで見てた」
「水谷先生に用があって」
「何の用?」
なんでこの男は、私のことを覚えていないんだ。
それに、どうしてこんなに遠慮がないの。
覚えていないなら、私達は初対面と同じなのに。
「あなたに関係ありませんよね、、、?」
彼は少し呆れたような表情をして一歩前に出た。
反射的に自分の体が一歩下がる瞬間に、彼の学ランの校章が青なのが見えた。
私は赤。
青は一個上の先輩の色。
「俺の名字知ってる?」
突然の問いかけに何も答えられずにいると、「ああ、あんたは1年か」と面倒くさそうに頭をかいた。
「俺の名字は水谷。あんたの用があった水谷先生の弟」
「え!?」
優しそうな水谷先生の弟が、獣のようなこの男!?
あまりに意外で開いた口が塞がらない。
「で、なんで」
「いや......えっと、忘れちゃいました」
苦しい言い訳だと分かっていても適当なことが言えないくらいに、私の記憶にあの夜のことが残っている。
「ふーん。じゃあ、今はそれでいい。名前は」
逃げ切れると思ったのに!
「よ、横田六花です」
「横田な、覚えた」
それだけ言ってくるっと向きを変えると、また暗闇の方に戻ろうと歩き出す。
やっと行った。少しだけ怖かった。いや、本当はすごく怖かった。
「あ、手首、シップとかしといたら?」
その言葉に背筋が凍った。
あの夜のこと、覚えていた?ずっと気づかれていた?
「どこでそんな怪我したんだかな。注意力無さすぎじゃね」
彼の鼻で笑う声だけが聞こえた。
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