彼を好きな理由

神木カロ

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29、後悔

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返してもらわなければと思って忘れていたブレザーが、あの三月に保管されている。

そういえば私は、あの日どうして彼が無抵抗の人を殴っていたのか知らない。

どうして水谷先生にまで言えなかったのかも。

三月を何も知らない私が、どうしてあんなひどいことを言えたんだろう。

私だけは味方でいて、なにを言っても微笑んで頷いて抱きしめて話を聞いてあげるべきだった。

今更後悔しても遅いのかも。

それでも、ここで私が逃げたら三月が死んでしまうかもしれない。

部屋から出てくるまでここにいて、出てきたら何か言ってあげなきゃ。

その言葉はまだ思いつかないけど。
三月の部屋に入って、隣の部屋から聞こえてくる泣き声を何時間も静かに聞いた。

ろくに食事をとっていないし、水さえ飲んではいない。

それなのに永遠と泣き続けて大丈夫なんだろうか。

体力と水分は刻々と失われていくのに、私は何も出来ない。

ただそばにいて、三月に寄り添って、さっきはごめんねと心の中で謝るしか。

『今日は友達の家に泊まってくから帰らないよ』

お母さんにメールを打ってカバンの中にしまった。

『過呼吸を起こさないように気をつけるのよ』

すぐに帰ってきたメールは一週間に何度も何度も送られてくる内容で、私は返信せずにまたカバンの中にしまう。

「うっぐ、ひっ、うぅ」

泣き声がずっと聞こえてくる。

私は前日の夜更かしがたたったようで、体力が限界になり夜中のうちに気を失うように寝てしまった。





ご飯のいい匂いがして目が覚めた。

キッチンで音がする。

こっそり部屋から顔を出すと、三月が私の作ったおかゆを温めていた。

泣き腫らした目で、おぼつかない足取りで。

あまりにも痛々しい彼がどうしようもなく愛おしくなって、彼のところに行こうとする自分を必死に止めた。

ちゃんと最後まで食べてくれるまでは、と。

三月は大きなスプーンでおかゆを口に入れた。

口いっぱいに入ったものをモグモグとしながらまた涙を浮かべて次の一口を食べる。

もう出ていきたい、と体を前に出そうとして出ていけない。

その時、三月が大声で泣き出してしまった。

しゃくりあげて泣きながら私の名前を呼ぶ。

その声を聞いて、私の体は迷うことなく三月のところへ走った。

驚いて固まる三月に体当たりするようにぶつかって抱きしめる。

「六花.........?」



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