彼を好きな理由

神木カロ

文字の大きさ
28 / 31

28、最低

しおりを挟む
「なに、その顔」

三月は息を吐くようにつぶやく。

私は、彼の話を聞いて後悔した。

三月がどんな辛くて苦しくて重い話をしても、私は気にしないつもりだった。

好かれているから、好いているから、他の誰よりも彼の心を慰められるといつも読む小説の中の主人公のように、と信じきっていた。

何を話しても優しく聞いてくれるのは君だけだよ、と言われるに違いない。

きっと彼にとって唯一無二の人だと、運命の人だと。

私はとてもとてもうぬぼれていた。

そして、私には耐えきれない重みを彼から受け取った時、最低な人間になってしまったような気分だった。

優しく頷きながら彼の話を静かに聞いているはずだった私の心は、ひどく歪んでいた。

落ち着いて聞けると思っていた私には、三月がお母さんを見殺しにしたように見えてしまった。

私のせいにされているのでは、と。

三月の母親が亡くなったのは三月のせいで、その責任は私にあるのだと言われているように感じて私は強ばっていた。

もちろん、三月はそんな意味で言ったわけじゃない。

最初に嫌いにならないでと前置きをして、誰にも言えなかった話を吐き出しただけ。

そんな心細い彼に向かって、私は今どんなことを思っているのか。

好きだなんだと家まで言って、自分が聖母かのように勘違いして、彼に言わせた結果がこれか。

ひどすぎる。

死にたくなるほど胸が痛い。

そんな私の顔を見て傷つきまくった三月は涙を一筋流してフラフラと部屋に戻る。

ベランダの鍵を閉め、カーテンを閉め、最後に部屋の鍵を閉めた。

再び閉められたドアに、今度は投げかける言葉が何も無い。

私も彼を傷つけた。

みんながよってたかって斧を入れて今にも倒れそうにぐらつく木に、最後のひと振りをいれたのは私だった。

こんなことになるなら来なければよかった。

話の途中、後悔しながら三月がどれだけ泣いていたか見ていたはずなのに。

もう二度と開かないようなドアを見つめて、涙があふれてきた。

隣の部屋は三月の部屋のようで、脱ぎ捨てられた服が床に落ちている。

少しだけ覗いてみたい気持ちになって遠くから部屋を観察した。

そして、大切にハンガーに掛けられてカバーまで被せられているものを見つけた。

近づいてよく見ると、それは私が彼を初めて見た時に置いていってしまったブレザーだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...