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◇◇◇ 【第二章】魔法使いと時間の杭 ◇◇◇

天才剛毛ロリ童女を添えて~リリィの【能力】、もあるよっ!

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 ◇ ◇ ◇


「いいか、こいつの力を使って鉄格子を転移させる、そうしたらまずはこの洞窟を抜けて長の居そうな場所を片っ端から漁る、いいな?」

こっちは丁寧に説明してやっているのにも関わらずリリィの目線は俺の上げた手に釘付けだった、というか、一つの指輪に釘付けだった。

「う、うわ…キミ、その指輪どうしたんだい? その、尋常じゃない魔力を感じるのだが」
「あ? ああ、コイツはまあ、魔王から拝借したもんだからな」
「ま、魔王!? な、何だそれは、どういう意味だね!」
「いや、今話すことじゃねえ、それより、おい自称天才魔術師、この先は戦闘になる可能性がある、攻撃魔法が使えないって話もっと詳しく聞かせろ」
「話すことじゃないって、意外とキミは大物なのか…? まあいい、そうだね、私のこの体質のこと話しておこうか」

 リリィの言う<体質>。
 正直、魔法のことについても人間のことについても、俺にはさっぱりだった。だから大半の説明や現象については聞き流すことになったのだが、喋り出しはこうだった「キミはもし無尽蔵に魔法が使えるとしたらどう思うかね?」なかなか夢のある話だが、そんなことは<ありえない>ってのが答えだろう。だが、こういった話の手前そういう答えはタブー、あくまで仮定の話に水を差す事になる、だから、俺の口から出たありえないって回答も、リリィは話の腰を折るなと怒りだすかと思っていたが、その表情は心底おかしそうに、若干バカにした風な、嘲笑を含んだ笑みでククククッとほくそ笑む様を見て、俺は揺れ動くそのぼさぼさ頭を毟りたくなる衝動をなんとか抑え、意外すぎる反応に思わず訊き返した。
 「いやすまない、大人げなかったよ。魔法が無尽蔵に使えるなんてこと<ありえない>と思うのは普通だ、うん普通ふつう、何も悪いことではないよ。そう思うのは経験則に基づいている、いや、固定概念かな、キミは魔法のメカニズム知っているかね?」なんだかどんどんコイツと話したくなくなってきた、だがまあ一応、こっちから話を振っておいてここで切ることもねーだろう。正直魔法のメカニズムなんてこれっぽっちも興味はねーが、というか魔物にはそういうもんは使えない、だから理解が難しそうな概念だなと感じたが。「うーん、そんなことないよ、キミたちがいつも使っている能力も原理的には一緒さ、源が違うだけでね、基本的には魔力という物質を使って魔法に変換する、魔物の場合はこれが能力に自動的に変換されるわけだね」、…考えたこともなかった。つーかそんなことどうでもよかった、コイツは何が言いたいのか?「結論を急がない、会話が得意な人から聞いた会話を弾ませる鉄則だってね。…分かったよ、そんな嫌そうな顔をするなよ、要するに、――私は無尽蔵に魔法が使える。ということだよ」リリィはそんな夢みたいなことを堂々と言ってのけた。

 つまり? ここからが専門用語と俺ら魔物には感覚的に掴みにくい内容だった。だから、多少はしょった部分は自分自身で補わなければならねーわけだが…「つまり、人間にとって魔法の元となる魔力は、空気中に漂っている物を吸収しているわけだよ、キミたち魔物は、体の中で魔力を生産することができる、というかそういう機能を持ったものを魔物と呼んでいるといった方が正しいがね、だが人間は違う、外気から魔力を吸収して魔法を使っているんだよ」ということらしい、認識の違い。なんつーか人間は受信機みて―なもんか?「ん? うむ、なるほど…そうだね、キミは意外と飲み込みが早いな、人間は体全体で魔力を受信して、体にとどめておける、とどめる器の量は個人差があるけれどね、そして一杯になれば受信を止める。身もふたもない言い方をすれば、それが才能の差ってやつさ」
 ケッ、だとしたらやっぱりおかしい、それが本当なら無尽蔵に魔法を使うなんて、やっぱり不可能だ「だから才能の差だと言ったはずだよ、――私は魔力を受信し続けられる、故に無尽蔵に魔法を使えるというわけだよ」

 天才。

 コイツがしきりに自分のことを天才だとかほざいていた理由はこれだったのか、<無尽蔵の魔力>それがどんなにすごいことなのかは、だが、俺にはいまいちピンと来ていなかった。
 分かると思うが、コイツの言っている通りにそれがすごいことなのだとしたら、俺らが今こんな薄暗くてしめっぽくて、しょんべんくせーこんな牢屋にいる説明がつかない、あ、つーかこいつと最初に会ったのもこんな場所だったような…「し、仕方がないだろう!? 私は<攻撃魔法>が使えないんだ、こういった緊急事態で恩恵を感じにくいのもそのせいだ、いやそうに違いない」
 それだ、ココまでの説明を聞いて、なんで攻撃魔法だけが使えないのか? その理由が見えてこない、無尽蔵の魔力だとか抜かす自称天才ならそのくらいのことこなしてほしいもんだが、むしろそれさえしてくれればこんな事にはならずに済んだんだがなあ「それこそ、私の体質の副産物だよ、この話の本題<魔力懐胎体質(マリョクカイタイタイシツ)>又は子房体質(シボウタイシツ)と言ってね、魔力を貯めこみ続けてしまう体質なのだよ、私は」
 ……副産物じゃなくて副作用だろうが、いいように言いやがってこのチンチクリン。


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