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◇◇◇ 【第二章】魔法使いと時間の杭 ◇◇◇

天才剛毛ロリ童女を添えて~【バトル】リリィの本気、もあるよっ!

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 ◇ ◇ ◇


「おい、この天才魔術師! 何とかアイツらを黙らせろよ!」
「天才にも出来ることと出来ないことがあるんだよ! あの人数を見てから物を言うんだね!」

「「「待てやごらああああああああああああああああああ!!!!」」」

 クソッ! 長は、長は何処にいる!? このままじゃまた捕まっちまうぞ!!
 俺の後ろを走っていたリリィは岩肌の地面に足を取られ、走りにくそうに、たびたび躓いたりしながら何とか必死に付いてきていた。そして前を見ると、「あっ」という情けない声を上げ急に停止した。

「か、囲まれてしまったみたいだね…」

 オークの里の家が並び連ねる狭い上り坂で、俺たちは上下を挟まれ、ついに身動きを封じられてしまった、上を見ても下を見ても、イカツイ顔したオークどもが武器を手にじりじりと距離を詰めてくる。
 「観念しやがれ、敵国のイヌめ」そのうちの一人がそんな風に罵ってくる。俺もこんな伝書鳩みて―なこと、やりたくてやってるわけじゃねー。ココは素直に捕まっておくか? だがなあ、一度逃げたんだ、今度こそ何されるか分かったもんじゃねー。
 リリィの方をチラっと見るが、アワアワと慌てふためくだけで、コイツにはこの現状を変えるだけの案があるとは思えない。…かといって、俺にもそんな力ねーしな。

「おい、…おい! しっかりしろ!!」
「ヒッ! そ、そんなに大きな声を出すな、わた、私はもう…どうすればっ!」

 チッ、このッ…! ホントにコイツは毎度毎度…。

「バカが、パニクれる状況じゃねーぞ! 何とか出来ねーのか? 頭回せよこの役立たずが!」
「や…役立たず? この世界唯一の高度育成教育機関、キラベルきっての大天才、――リリ・リマキナに向かって、や、ややや役立たずだと!? さっきから失礼だぞキミ!」
「ハッ、ああそう言ったんだよ、つーかお前、俺と会ってから何か役に立つようなことしたか? お前のしたことと言ったらせいぜい、クソの役にも立たないうんちくを垂れ流すことと、その布切れみて―なワンピースから合法ロリボディを見せびらかしてきたこと、ぐれーだろうが!!」
「こ、後半は知らないよっ!」
「…………。」
「な、何だね…? ちょっ…み、見るんじゃない!! 見るんじゃない!!」
「お前、…………腋毛も金髪なんだな」

「!? さ、最低だ! 最低だなキミは!!!!」

 さすが<天才剛毛ロリ童女>、腋毛は流石にコア過ぎるとも思ったが、まあ、無いよりはある方がお得だろう。
 よほど身の危険と羞恥心を抱いたのか、体をなめまわすように見る俺の目線から何とか外れようと後ずさり、敵に囲まれてるというのに蹲るリリィ。

「あーあ! 大天才ってのは何処にいるんだー!? 居るんだったら連れてきてくれよー、有能で知性あふれる、その大天才ってやつをよおおお!! もしかして背が小さすぎて見えねーのかもなあ!!!!」
「……だろ…」

 あ?

「良いだろう!! キミのその頭の悪い挑発に乗ってあげようじゃないか! この大天才、リリ・リマキナ、バカにされておめおめと引き下がる程、腑抜けでも役立たずでもないってところを、…本当の力を見せてあげようじゃないか!」

 どうやらこの極限状態での挑発が効いたのか、もう開き直ったのか、両手を大きく上げながらリリィはそんなことを大声で宣言し始めた。

 瞬間。
 地面に転がっている岩や小石が、かろうじて生えている雑草が…木材が、鉄が、指輪が、震える。脈動し揺れ動いている、景色がずれる…いや違う、意識が普段は感じないあらゆる自然的な物体の波動を、――魔力を敏感に感じる。どこかで、どこかで感じたことがある…あれだ、巨大戦艦の魔導砲、あれよりも凄まじく大きな<術式反応!>
 俺の中の魔力が全身に駆け巡っている、分かる、毛細血管一本一本にまで意識が通り、敏感に感じるられる、体からゾクゾクとした、そわそわとした、走り出したくなるような抑えられない居心地の悪さを察知してしまう、今だったら目をつぶっていても風の揺らぎを正確に感じられるだろう。周りに居たオークたちも、違和感に気が付き騒ぎ出し、中にはこの感覚に腰が抜け、尻もちをつくものまで現れ始める。
 そして、全ての魔力が同じ方向を向いているのを理解する。魔力たちが向かう先、強大な術式反応を魅せる大天才、今なら分かる、いや感じる、コイツの言っていた意味が…その特異性が。

 ――≪サイコロジック≫


「いくよ」
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