夏と竜

sweet☆肉便器

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54 ツーリング5

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 僕とアオちゃんはお兄さんのバイク、パルサー200rsに相乗りさせてもらって道の駅を出発した。

 お兄さんは友だちと待ち合わせの為にこの道の駅にいたんだけど、件の友だちさんがお兄さんのキレキレアゲホイの現場を助けもせずニヤニヤと笑いながら撮影していたのを目にして友だちの縁を斬ったから問題は無いらしい。

 「は? ツレ? そんなモン始めっから居ねぇよ。考えたら今日は最初っからナツとアオちゃんがここに来るかもって予感がして待ってたのかも知れねぇ。
 おう、そうだ、そうに違いない。ホレ、ナツ、アオちゃんもさっさと後ろに乗れ」

 自分の記憶を改竄してまで僕たちに付き合ってくれるお兄さんはいいひとだ。

 そしてイベントが終わって周囲の観光客の視線が薄らいでから友だちヅラでアオちゃんを紹介してとお兄さんに話し掛けてきた元ツーリング仲間氏はきっとデスバット星系から来た悪の戦闘員その1に違いあるまい。

 悪の戦闘員に掛ける情けを持たない僕たちはさっさとその場を退散した。









 暗黒微笑デーモニック将軍アハルテケ吹田改め吹田さんは道の駅からすこしばかり走った場所にあるコンビニの駐車場で見つかった。
 サイドカーのボンネットに寄りかかってホットコーヒーをすするダンディな紳士姿を目にして、さっきまで道の駅でハッチャケてた悪乗り中年だと誰が気付くだろう。

 僕らのバイクに目を向けて元悪の幹部氏は爽やかな笑顔で手をあげた。

 「やぁ、お疲れ様、まさかただの休憩目的で寄った道の駅でこんな大騒ぎになるだなんて思いも寄らなかったけど、なんとか事を穏便に済ませられてホッとしたよ。
 そちらのヤンキー君も大活躍だったね、お礼を言わせてくれ。アオちゃんの為に恥を掻くことも恐れず衆人の注目を集めようとするだなんてなかなか出来る事じゃないよ。本当にありがとう」

 「あ、いや、ナツとアオちゃんはダチだから… 別にそんな…」

 さっきまで「こんなヒドイ目に合ったのもあのおっさんのせいだ、絶対あのウマ面おっさんに文句言ってやる!」って息巻いていたんだけど、吹田さんに先にお礼を告げられたお兄さんはしどろもどろになって返事を返していた。

 「お礼といってはささやか過ぎるがそこのコンビニでアイスを買っておいたんだ、道の駅では食べ損ねたからみんなで食べよう。それから改めてキャンプ場へ出発だ」

 「キュ~ッ♪」

 吹田さんが僕たちの為に買っておいてくれたんだろうアイスの入ったビニール袋を掲げるとアオちゃんは「アイスだー」って飛び上がってよろこんだ。
 お兄さんも恐縮そうに頭をさげる。
 僕もアイスは嬉しかったけど、それ前にひとつどうしてもやらなきゃいけないことがあった。

 「アオちゃん」

 「キュ?」

 アイスに向かって駆け出そうとしたアオちゃんを押し留めて僕は「な~に?」って振り返ったアオちゃんの頭にグッと握り混んだ#拳_こぶし_#を振り降ろした。

 「ギャウッ!?」

 僕の拳骨を脳天に食らってアオちゃんは痛いってよりも驚いたって表情で僕を見上げる。

 僕は頭を押さえてポカンとしているアオちゃんの前に屈み込んでその真ん円く見開かれた青い瞳をじっと見つめる。

 「アオちゃん、どうしてあんな場所で魔法なんて使ったのっ? 君は面白半分だったんだろうけど魔法のミサイルはとっても危険な魔法なんだっ! 空で爆発したからよかったけど、もし周りのひとたちに当たりでもしたら大ケガをさせていたかも知れないんだよ!?」

 「ピィィ、ピー、ピー、ピーッ」

 アオちゃんの泣き声がコンビニの駐車場いったいにこだまする。
 それを聞き付けたひとたちが「なんだ?」って顔をしてこちらを見てアオちゃんの姿に驚いているけれど、今の僕にはそんな些細な問題にかまってなどいられない。

 今はとにかくアオちゃんに自分が仕出かした騒動がどれだけ危険なものだったかを知らしめて反省させないといけないんだ。

 「アオちゃんっ! ちゃんと聴いてっ!」

 吹田さんとお兄さんの後ろへと回り込んで僕から距離をとろうとするアオちゃんの身体を強引に抱え込んで僕はアオちゃんをじっと見る。

 「ピィッ、ピィィィッ」

 けれどアオちゃんは僕の腕の中から逃げ出そうと矢鱈滅多に腕や脚をバタバタさせて暴れる。

 痛ッ、アオちゃんのそう鋭くもないツメだけど、それが頬に当たって傷をつける。尻尾がバンバンと何度も剥き出しの脛を叩く。
 痛いけどアオちゃんを放り出しはしない。
 だって僕はアオちゃんのおとうさんでおかあさんなんだから。
 アオちゃんが悪いことを、危険なことをしたのならば叱らなきゃいけないんだから。

 「アオちゃん、君はドラゴンなんだ、きっと大きくなったら今よりもずっとずっと強くなるんだ。けど、その大きな力をさっきみたいに面白半分に使い続けたらみんなが傷付いてしまうんだ」

 「キュゥゥ~、ピィィィッ!」

 「いや、いやぁぁっ」って駄々をこねたアオちゃんが僕の肩口におもいっきり噛み付く。

 「ッ!」

 小さいけど鋭い牙が僕の肩の皮膚なんか簡単に貫いて痛みを伝える。

 「お、おいっ!」

 「ナツ君ッ!」

 お兄さんと吹田さんが慌てて僕のからアオちゃんを引き離そうと駆け寄ってくるけど、僕はふたりを視線で押さえそっとアオちゃんの背中を撫でた。

 アオちゃんも僕に噛み付いてはっと自分の過ちに気付いたのか慌てて肩から口を離した。

 じわっと肩から生暖かい液体が流れる感触が伝わる。

 僕はそれを気にせずそっとアオちゃんの背中を撫で続ける。 
 アオちゃんが事ある毎におねだりするなでなでだ。これをするとアオちゃんは本当に気持ち良さそうに目を細める。

 けど、今のアオちゃんはそんなリラックスした感じではなく、ひどく怯えた表情でキョトキョトと自分の着けた傷と僕の顔を交互に視線を走らせた。

 僕はなるたけ痛みを表に出さないよう何でもないって顔でアオちゃんのおどおどとした顔を真正面から見据える。

 「君は強いドラゴンなんだよ、強いモノってのは自分よりも弱いモノにやさしくしなくちゃダメなんだ。強いモノがその大きな力を思うがままに奮ったりなんかしたら弱い僕らは近寄れなくなっちゃう。じいちゃんもばあちゃんもゆまは姉ちゃんもエミおばさんもシャノンも吹田さん達だってアオちゃんから放れていっちゃうんだ。
 僕はね、アオちゃんに誰よりもやさしいドラゴンになってもらいたいんだ」

 「キュー、キュー、キュゥゥ」

 アオちゃんが「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」って何度も謝りながら僕の肩の傷口を舐め滲み出てくる血を拭おうとしている。
 傷口は思ったよりも深いらしくってちっとも流れる血が止まらない。
 おかげでアオちゃんの口の周りは真っ赤になってしまった。

 「ナツ君、御苦労様、アオちゃんも充分に反省したようだ。君は早く治療を」

 「うん、吹田さん、お願いします」

 僕にしがみついていたアオちゃんの身体が吹田さんに抱えあげられ、ホッとしたのか僕もガクンとアスファルトに座り込みそうになったのを後ろからお兄さんが支えてくれた。

 僕から引き離されたアオちゃんが悲しそうに「ピー、ピー」って泣いているけど、後は吹田さんがアオちゃんに言い聞かせてくれるだろう。
 吹田さんは僕なんかよりもずっと大人だからきっとアオちゃんにちゃんとしたアドバイスを与えてくれるはずだ。

 「近くに診療所がある。そこまでナツを運ぶからおっさんのサイドカーに乗っけてってくれ」

 「ああ、了解した。場所が判らないからキミのバイクで先導してくれ」

 そんなお兄さんとを聞きながら僕は意識を失った。

 

 

 
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