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消し屋のダル
石焼きめだか
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ゴーストツリーの街の繁華街最端にある大きな石をくり抜いただけの作りの店があり、入り口の上には大きく「石焼きめだか」と達筆で書かれ木の看板が掲げてある。
店は、300年続く老舗でゴーストツリーの街では、最初に天然の養殖メダカを扱った店でもある。
長らくは、ゴーストツリーの外の店で、唯一内部の店に対抗できる店として知られていた。
メニューはシンプルに、焼きめだかと味噌汁、ごはんがセットになった石焼きめだか定食と清酒のみで週に4日12時から21時まで営業していたが、ここ数週間ずっと店を閉めている。
木の組合の調べによると石焼きめだかの店主は、フルエスペースに完全敗北したと思い込みプライドと気力を失ったと見解している。
木の組合からすれば、一時的なブームかもしれないフルエスペースよりも、伝統と実績のある石焼きめだかの方が大事であった。
そこで考えたのが、フルエスペースをゴーストツリー内部に移転してもらう案だ。
一見、フルエスペースがリードしたかの様にもとれるが、古い組合員を中心に、「石焼きめだか」こそが、ゴーストツリー外部の食堂のフラッグシップ店と考えている者が、多いのだ。
しかしこれは、フルエスペースにとっても決して悪くない案である。
ゴーストツリー内に店を構えるのは、店の格式を上げると共に、いわゆる富を築く事が出来るのだ。
限りの無い人生を旅に肥す大半の妖精には分からないだろうが、ゴーストツリーの街で商売をする様な妖精は、代わり映えの無い日常の中、自前の幸福感だけで捻出出来る妖石だけでは、生活するには心許無い。
それでも旅に出ない理由は、性格的な事情がある。
旅により幸福感を得ることが出来ない体質なのである。
それなら、この地を基盤に物を売り他者の妖石を得て生活する方が性に合う。
そして得られるなら大量の妖石を得たいと考えるのは妖精のさがである。
フルエ自身が、その様に考えているかは分からないが、それを交渉するのがサナサナの役目である。
「珍しいな、サナちゃんが僕たちを頼るとかさ。」
「はい、先輩を頼りに参りました。」
「とは言え、僕は石ころだし、フルエちゃんのことなら同郷のエイさんの方が適任だぜ。」
「ところでエイさんは?」
「居ないよ。」
「そうですか。
それでは、宜しくお願いします。」
「それにしても、サナちゃんが真面目に働いてるとか珍しいよね。
けど、まぁ昔のサナちゃんは、それプラス情熱があったよね。」
「情熱なら未だ衰えてはいませんよ。
先輩が、組合に帰って来る事。
諦めていませんですし。」
サナサナは、玄関のドアを開ける手前で立ち止まり、背を向けたままそう言うと、そのまま幽街画廊を後にした。
サナサナには悪いが、ヒューには木の組合に戻るつもりはさらさら無かった。
木の組合が嫌になった訳では無い。 只、絵と出会ってしまったのだ。
組合で功績を残す事よりも、無名の自称画家になりたかったし、何より楽しいに違いない。殆どの妖精には、理解出来ないであろう芸術を追求し続けたいという欲望とか情熱が強かった。
「ゴーストツリーなんて、地元民は行かないな~・・・
中の図書館と音楽館は品揃え最強だったか。」
ヒューは、独り言を呟きながらロビーに掛けてある自分の描いた絵を見回した。
「まだまだまだだなぁ。」
未だに、描きたい絵を描ききれていない自分の実力の足りなさがツボにハマり少し楽しくなってきた。
しばらくすると、客が来た。
「久しぶりだな1456」
ヒューの前に来た、その客は親しげに話しかけて来た。
「あぁ、いーさんかな?」
「おぅ、No.1353だ!」
1353と名乗る妖精は、ヒューの組合時代の同僚である。
当時の姿は、恰幅の良い大男であったが、今の姿は、白髪の背が高い初老の紳士と言ったところか?
「変わったな。
君、何で妖精なのに老けるの?」
「変わったとかお前には、言われたくないよ。
まんま1456になってるじゃねぇかよ。」
「僕は、絵を描くために進化したのだ。
君のは、俗に言う老化だ。」
「嫌になったんだ。」
「ほぅ?」
「昔は楽しかったよ。
お前が開発した人間の利器をお上に提出するのがさぁ。」
「今でもやってんだろ?」
「今の奴らはダメだな、お上に提出する前に俺がダメ出ししてるよ。」
「心まで老いてるじゃないか君はさ、若い子を色眼鏡で見ているだけだな。」
「俺の時代は、終わったんだよ。
同じ所に長いこといるもんじゃないんだよ。
どうしても昔と比べちまう。」
「愚痴りに来たのか?
120年ぶりの再会にさ。」
「いや、挨拶だ。
組合辞める。」
「そっか」
「驚かないんだな。」
「老けてる事には驚いたさ」
「好きなことをしていないからな。」
「これからどうする?」
「旅だ。」
「良いじゃん。」
「近いうちに、3737と3人でメシに行こうぜ。」
「その時、気が向いたらね。
ところで、君らとよく行った石焼きめだかって店、最近閉めてるらしいな。」
「何だと」
作り笑顔か本心か掴みにくかった1353の顔が一気に曇った。
「あっ、知らなかった?
さなちゃんが、言ってたよ。
観光組の間では、そこそこ問題になってるらしいけどさ。」
「利器開発組は、全く知らん。
くそっ、最後にお前らと行きたかったのによ。」
「安心しろ、さなちゃんが再開させるために動いてる。」
「あいつが?」
「うん、珍しく気合入れてた。」
「そうか、あいつも変わって無いんだな。」
「君も、さなちゃんも囚われ過ぎなんだよ。 過去にさ。」
「俺らの中心には、ずっとお前がいたんだよ。
じゃあな。また来る。」
「ああ。」
店は、300年続く老舗でゴーストツリーの街では、最初に天然の養殖メダカを扱った店でもある。
長らくは、ゴーストツリーの外の店で、唯一内部の店に対抗できる店として知られていた。
メニューはシンプルに、焼きめだかと味噌汁、ごはんがセットになった石焼きめだか定食と清酒のみで週に4日12時から21時まで営業していたが、ここ数週間ずっと店を閉めている。
木の組合の調べによると石焼きめだかの店主は、フルエスペースに完全敗北したと思い込みプライドと気力を失ったと見解している。
木の組合からすれば、一時的なブームかもしれないフルエスペースよりも、伝統と実績のある石焼きめだかの方が大事であった。
そこで考えたのが、フルエスペースをゴーストツリー内部に移転してもらう案だ。
一見、フルエスペースがリードしたかの様にもとれるが、古い組合員を中心に、「石焼きめだか」こそが、ゴーストツリー外部の食堂のフラッグシップ店と考えている者が、多いのだ。
しかしこれは、フルエスペースにとっても決して悪くない案である。
ゴーストツリー内に店を構えるのは、店の格式を上げると共に、いわゆる富を築く事が出来るのだ。
限りの無い人生を旅に肥す大半の妖精には分からないだろうが、ゴーストツリーの街で商売をする様な妖精は、代わり映えの無い日常の中、自前の幸福感だけで捻出出来る妖石だけでは、生活するには心許無い。
それでも旅に出ない理由は、性格的な事情がある。
旅により幸福感を得ることが出来ない体質なのである。
それなら、この地を基盤に物を売り他者の妖石を得て生活する方が性に合う。
そして得られるなら大量の妖石を得たいと考えるのは妖精のさがである。
フルエ自身が、その様に考えているかは分からないが、それを交渉するのがサナサナの役目である。
「珍しいな、サナちゃんが僕たちを頼るとかさ。」
「はい、先輩を頼りに参りました。」
「とは言え、僕は石ころだし、フルエちゃんのことなら同郷のエイさんの方が適任だぜ。」
「ところでエイさんは?」
「居ないよ。」
「そうですか。
それでは、宜しくお願いします。」
「それにしても、サナちゃんが真面目に働いてるとか珍しいよね。
けど、まぁ昔のサナちゃんは、それプラス情熱があったよね。」
「情熱なら未だ衰えてはいませんよ。
先輩が、組合に帰って来る事。
諦めていませんですし。」
サナサナは、玄関のドアを開ける手前で立ち止まり、背を向けたままそう言うと、そのまま幽街画廊を後にした。
サナサナには悪いが、ヒューには木の組合に戻るつもりはさらさら無かった。
木の組合が嫌になった訳では無い。 只、絵と出会ってしまったのだ。
組合で功績を残す事よりも、無名の自称画家になりたかったし、何より楽しいに違いない。殆どの妖精には、理解出来ないであろう芸術を追求し続けたいという欲望とか情熱が強かった。
「ゴーストツリーなんて、地元民は行かないな~・・・
中の図書館と音楽館は品揃え最強だったか。」
ヒューは、独り言を呟きながらロビーに掛けてある自分の描いた絵を見回した。
「まだまだまだだなぁ。」
未だに、描きたい絵を描ききれていない自分の実力の足りなさがツボにハマり少し楽しくなってきた。
しばらくすると、客が来た。
「久しぶりだな1456」
ヒューの前に来た、その客は親しげに話しかけて来た。
「あぁ、いーさんかな?」
「おぅ、No.1353だ!」
1353と名乗る妖精は、ヒューの組合時代の同僚である。
当時の姿は、恰幅の良い大男であったが、今の姿は、白髪の背が高い初老の紳士と言ったところか?
「変わったな。
君、何で妖精なのに老けるの?」
「変わったとかお前には、言われたくないよ。
まんま1456になってるじゃねぇかよ。」
「僕は、絵を描くために進化したのだ。
君のは、俗に言う老化だ。」
「嫌になったんだ。」
「ほぅ?」
「昔は楽しかったよ。
お前が開発した人間の利器をお上に提出するのがさぁ。」
「今でもやってんだろ?」
「今の奴らはダメだな、お上に提出する前に俺がダメ出ししてるよ。」
「心まで老いてるじゃないか君はさ、若い子を色眼鏡で見ているだけだな。」
「俺の時代は、終わったんだよ。
同じ所に長いこといるもんじゃないんだよ。
どうしても昔と比べちまう。」
「愚痴りに来たのか?
120年ぶりの再会にさ。」
「いや、挨拶だ。
組合辞める。」
「そっか」
「驚かないんだな。」
「老けてる事には驚いたさ」
「好きなことをしていないからな。」
「これからどうする?」
「旅だ。」
「良いじゃん。」
「近いうちに、3737と3人でメシに行こうぜ。」
「その時、気が向いたらね。
ところで、君らとよく行った石焼きめだかって店、最近閉めてるらしいな。」
「何だと」
作り笑顔か本心か掴みにくかった1353の顔が一気に曇った。
「あっ、知らなかった?
さなちゃんが、言ってたよ。
観光組の間では、そこそこ問題になってるらしいけどさ。」
「利器開発組は、全く知らん。
くそっ、最後にお前らと行きたかったのによ。」
「安心しろ、さなちゃんが再開させるために動いてる。」
「あいつが?」
「うん、珍しく気合入れてた。」
「そうか、あいつも変わって無いんだな。」
「君も、さなちゃんも囚われ過ぎなんだよ。 過去にさ。」
「俺らの中心には、ずっとお前がいたんだよ。
じゃあな。また来る。」
「ああ。」
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