エイジヒル妖精譚 〜幽街画廊の由々しき平穏〜

犬すぱいらる

文字の大きさ
17 / 33
消し屋のダル

ラストタイム

しおりを挟む
「えっ!
 フルエスペースをツリーの中に移転させる計画があるの?」

「うん、サナちゃんが言ってた。」

「てか、なんで僕らに頼むんだよ。」

「エイさんが、フルエちゃんと同郷でマブダチだから頼み安いんだろ。
 ちなみに、フルエスペースのゴーストツリー移転と石焼きめだかの営業再開でミッションコンプリートだよ。」

「石焼きめだか関係ないし。」

「大人気のフルエスペースに嫉妬してんだろ。」

「つまらない奴だな。
 大体あの店コンセプトがデタラメなんだよ。 ごはんと味噌汁つけて醤油かけたり、店主が作務衣着てたり和食のイメージで何だろうけど、店は巨石をくり抜いただけで、テーブルも椅子も石ときた。 
 まるで石器時代だ。
 日本をまるで分かってない。」

「いや、僕は石の妖精だからあそこ落ち着くんだよ。」

「で、報酬とかあるの?」

「無いだろ多分? 僕としては幽街画廊の改装とかお願いしたいんだけどね。」

「まぁ営業続けさせてくれるだけでも御の字だろ。」

「僕がどれだけ組合に貢献したかだ!」

「組合ってよりサナちゃんのお願いなんだろ?」

「だよね。」

「フルエが帰ってくるまで待つか。」

「だよね。」


 エイジヒルは、キセルに桃のキューブを詰めこんで口に咥えた。

「帰ってくるもんかね?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あんたらまだ起きてたの?」

 22時を少し過ぎている。

 フルエは、何事もなかった様な顔で帰って来た。その後にはダルも居る。

「フルエ、ゴーストツリーに移転しろよ。」 

「しないよ。」

「何で?」

「興味無いし、今の場所気に入ってるしね。」

「……諦めろ…エイジヒル。」

「あっ!」

「エイさん今!」

 エイジヒルとヒューは、お互いの顔を見合わせて驚いた。

「あぁ、名前呼ばれたこと?
 この人まだまだ成長するわよ。」

 フルエは、得意気に言い切った。
 何があったかは知らないが、ダルは手懐けられたのだろう。

「……出る。」

「ダル! どこ行くんだ。」

「…エイジヒル……暇なら来い。」

「行くー!」

 エイジヒルは、慌てて壁に掛けたあったインバネスコートを羽織った。
 前々から消し屋の仕事には興味があったのだが、ダルにお願いしても同行させて貰えたためしは無い。
 ダルの方から誘うのはもちろん初めてである。
 こんなチャンスは二度と来まい。
 それに、サナサナの件もあるのだ。

「………フルエ…0時以降に飲め…」

  ダルは、栓のしてある小さな箱をフルエに投げた。

 フルエは、片手で受け取りその箱を開ける。

「…外気に晒すと効果が弱まる。……まだ
開けないでくれないか。」

「消す相手に注文する普通?」

「……私は、確実主義だからね。」

「わかった、いってらっしゃい。」

「何か仲良くなってない君ら?」

 エイジヒルは、この数時間の間にダルとフルエに何があったのか知りたかった。
 ダルとは、出会って80年ほど経つが名前を呼ばれたのは今が初めてであった。

「エイくん。 友の友といえば、我が友も同然って言葉もあるでしょ。」

「無いよ。」

「……クライアントを待たせてある。」

 エイジヒルは、ハンチング帽を被ると小走りでダルの側へ駆け寄った。

「何処まで行くんだ?」

「……石焼きめだかだ。」

「や、やっぱりフルエを消すのってあいつなんだな。」

 ダルは、答えずに幽街画廊を出た。
 フルエの顔をチラッと見た後、エイジヒルもダルの後を追った。



「ダルさんってホント抜けてるよね。」

 フルエは、ダルとエイジヒルを見送った後に呆れる様に呟いた。

「そうかな?」

「消そうとしてる相手にバレるとか大概でしょう?
 クライアントだって教えくれたし、それにこの箱。」

 フルエは、ダルに渡された箱を見つめる。

「どうせ、私を消す薬が入ってるんだろうけど、今までの消し屋なら私に気付かれずに飲まされてきた。
 どの妖精ひとが消し屋だったかもわからないし、普通ソレがプロでしょ?」

 ヒューは、少し考えた。

「ダルさんは、フルエちゃんを気にかけてたんじゃないかな?
 繁華街で孤立していくフルエちゃんを気の毒に思ったんだよ。」

「それで、わざわざ私の前に現れたって言うの?」

「君の本心を知りたかったんだろ?」

「知ってどうするの?
 結果は変わらないし、これからも繰り返すよ。
 いつか、歌の魔女みたいにさ、ひとりぼっちの世界に堕ちてしまうのかな?」

「大丈夫だよ。僕や、エイさん、それにダルさんだっているからさ。」

「けど、やっぱり辛いよ。」

「そうだ、箱開けてみなよ。」

「まだ開けるなって言ってたじゃん。」

「いいから開けてみなよ。」

 仕方なしにフルエは、小箱を開けて中の瓶を取り出した。

「めだか店主用・・・・ってまったく、抜けてるよね。」

「あくまでも道化を演じるみたいね。
 フルエちゃん最後に言ってやりたいことあるんじゃないの?」

「でも来るなって。」

「君にどう言ったか知らないけど、僕には、タイムリミットは0時って聞こえたけどね。」

「そうはならないでしょ。」

「今日は、いろいろとぶちまけれたんじゃないかな?
 これは仕上げだよ。」

「・・・・」

「ダルさん優しいだろ?」

「あのさ、あの妖精ひとが道化を演じるならさ、私はそれに気付かない道化をえんじる。

 優しいでしょ・・・私。」

「そだね。」

「じゃあ行ってくる。
 間抜けな消し屋さんに忘れ物を届けて来るよ。」

「いってらっしゃい。」

 バレーボール程の大きさで、大きい目が一つしか無いヒューだが、フルエには、笑顔で見送ってくれてる様に見えた。

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...