上 下
22 / 33

第二十二話

しおりを挟む
「真奈美どうした?」

「え!」

 学校の帰り、綾人が不安そうな顔で私を見ている。そんな彼に向かってなんでもないと言った。

 でもなんでもないことはない。

 昼休みに柏木さんに言われたことが五、六時間目が終わった今でも頭の中を支配している。

 私は綾人への恋をかなり拗らせていることには自覚がある。好きだと気づいてからはや六年が経とうとしている。

 幼馴染じゃなくて、ただのクラスメイトだったら今頃は付き合えていたのかもしれない。幼馴染という立ち位置に安心して、自分の気持ちを保留することをしなかったかもしれない。

 そっと綾人の横顔を見る。綾人は前を見て私の横を歩いているが、違和感があるという顔をしている。時々首を傾げる仕草もしている。

 いつもは仲良くしてくれている綾人だけど、私のことはどう思っているのだろう。

 何回も聞こうとして、それでも聞けていない質問を綾人の目を見ながら、誰にも聞こえないようにいつものように心の中で聞いてみる。

 特別な存在、そう言ってくれたらどれだけ嬉しいか。でも他の答えも私は想像出来る。家族のような、兄弟のような、そんな答えすら返ってきそうで怖い。

 だから、

「もう少し、もう少しだけ、この距離感でいさせて」

 声にならない声で呟く。自分の気持ちにいつか決着をつけないといけない。

 もしかしたら柏木さんはそこら辺をわかった上で提案してきたのかもしれない。

 まだ青く、暗闇に染まらない空を眺めながら体育祭の日、綾人を体育倉庫に連れて行くことを私は密かに心に決めた。

 その日以降、この関係が壊れるかもしれないと分かっていても。


しおりを挟む

処理中です...