Lily connect

加藤 忍

文字の大きさ
20 / 32
夏休み 楓が家に

第二十話

しおりを挟む
 結果、私は負けた。意気込んで挑んだ二回戦、最初は順調だった。私の言葉に恥ずかしいのか、頬を赤らめながらもう一回と言っていた楓。でも回数を重ねると楓は笑顔で返してくる。

 もう一回と言うよりも愛してるを連呼する方が精神的にきてしまった私は降参した。

「私の勝ち!」

 両手を高々と上げて喜ぶ楓。まるでおもちゃを買ってもらった時の子供のような笑顔を見せる。

「よかったね」

 私も親のような口調でそう言いながらテーブルに置かれたお菓子に手を伸ばした。チョコクッキーとバタークッキー、私はどちらかと言うとバターなのでチョコクッキーが減るのは楓が食べた時だけだろう。

「どうしようかな・・・」

「何が?」

 急にぼやいたので尋ねる。楓は手を組みながらう~んと唸りをあげる。

「あれもしたいけど、こっちも捨てがたい・・・」

 骨董売り場で悩む中年男性のようなことを言いながら首を左右にカク、カクと動かす。

 私には楓が何に悩んでいるのか検討がつかない。そもそも楓とは一心同体なわけではないので当たり前なのだ。

 それがわかった日には私は占い師か超能力者を名乗ろう。

 どうでもいいことを考えながらクッキーを口に運ぶ。コリコリと噛むたびに聞こえる音が私の耳に届く。口の中にはバターの風味が一瞬で広がる。

 明日クッキー作ろっかな、なんてまだまだ高いところにある太陽を見ながら考えた。

「よし」

 楓が決意したのはそれから数分後だった。

「遥華、私にキスして」

「うん・・・んん!?」

 答えておいて後から気づいた。楓が今私にキスと所望したということに。私は驚きのあまり目を丸くしながら楓を見ているだろう。

 キ、キス!?えーとあれだよね、口と口を重ねるやつ。ドラマとかでよく男女がしているあれだよね!?

 私はパニックになり、額から変な汗が出てきていることに気づかなかった。

「キスってあのキス?」

 わかっていながら、それでも確認をした。聞き間違えではないか、そう思いたかったから。

「ほかに何があるの?魚の方のキス?それともお菓子のメルティーキッス?」

「そうだよね・・・うん」

「遥華には否定権は無いよ、これは命令だから」

「わ、わかった」

 いつかはこうなると思ってはいた。一様付き合っているのだし、キスのひとつやふたつ、いや考えるのはやめよう。今にも頭がパンクしそうだから。

 私は膝で立って楓に歩み寄る。楓は何も手を出さないと訴えるかのように、そっと手を後ろに回して目だけを閉じた。

 綺麗な顔立ち、少し大きな目、小さい鼻に潤っていて柔らかそうな口。サラサラでテカリのある髪。いつも見ているはずの楓の顔がいつもと違うように見える。

 心臓に手を当てなくてもわかるぐらい大きな音を立てながら動いているのがわかる。耳にはその音しか聞こえてこない。このような状況を緊迫状態っていうんだろうか。

 私は徐々に顔を近づける。カップルはみんなこんな凄いことを平気でしているんだ関心してしまう。ま、状況は違うと思うけど。

 もし楓から不意にされたら、さぞ楽だっただろう。一瞬の出来事だったってそう思えるから。

 でも自分からするのはすごく勇気がいる。私は楓の肩に手を置いて、そのまま止まっている。後一歩が踏み出せないでいる。

 楓の口を見ていると吸い込まれそうになるけれども、途中でその感覚が薄れる。

「楓ごめ、ん!」

 諦めようとしたとき、不意に楓の手が私を抱き寄せ、そのままキスをした。楓の柔らかい唇が私の口に別の暖かさを与えてくる。自分のとは違うマシマロのような弾力。

 私はそっと目を閉じた。自分の意思なのかすら分からず。ただただ、今もこの感触に、楓の口の柔らかさに浸っていた。


 少し息苦しくなって、私は楓の口から口を外した。今まで息をしていなかったようで、荒い息遣いになっている。それは楓も同様だった。

 さっきまでとは違い、耳まで赤くした楓はいつもの楓とはやはり違った。

「もう一回」

 甘ったるい声でそう言って再び口を重ねてくる楓。私は抵抗することなくそれを受け入れた。嫌な気にはならなかった。ましてや、私の中で何かが満たされるような感覚が私を包んでいく。

 キスってこんなに甘いんだ。

 これが私のファーストキスの感想だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

処理中です...