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夏祭り
第三十一話
しおりを挟む「はい、遥華」
私が座るとすぐに楓は自分の膝に置いていたたこ焼きを私に渡してきた。それを首を傾げながら受け取る。たこ焼きはまだ暖かく湯気が少し見える。
それを眺めていると横からあー、という声が聞こえた。私はたこ焼きから目を離し声のした方を見た。
両手を私の横に置き、小さな口を全力で開けて待っている楓の顔があった。
「楓?」
私が不思議そうに見ると楓はあっちを見てと言わんばかりに顎でいずみたちの方を指す。
私からは二人が楓で隠れているので状態を前に少し倒し見る。
「美優、はい」
「あーん」
二人は側から見たら恋人同士のようにしか見えない食べ方をしていた。いずみが先に食べて、そのあと美夢に冷ましてから口に入れてあげている。
この状況は二人が仲の良い証拠だろう。
視線を戻し楓を見ると横に置いていた手の甲に楓が手を重ねる。
「勝者の命令」
横で食べている二人に聞こえないような声で楓は言った。
「はぁ、はいはい」
私はため息をわざとらしく吐きながら承諾した。
たこ焼きを隅の方から一つ選び爪楊枝に指す。それを取ると口元に運んで息を吹きかける。熱いままあげてからかってやろうかと一瞬だけ思ったけど、別にしなくてもいいことなのですぐに頭から消えた。
四、五回息を吹きかけると湯気がほとんど見えなくなった。左手にあるたこ焼きが落ちないように右手のひらを添えたいのだけど、今は楓の左手が重なっている。
私と同じぐらいの大きさですべすべしている細い手。楓と手を握ったのは夏前に行ったマックの時以来だろうか。いろんなことがありすぎてよく覚えていない。
楓の顔に近づけるとあーんと言いながら口を開く。その中にゆっくりとたこ焼きを入れた。
「あつ!はふはふ」
中はまだ熱かったようで楓は口の中のたこ焼きを冷まそうと口で息を吸っている。
楓に告白されてもう一ヶ月が過ぎようとしている。今思えば、私は楓にすごく曖昧な答え方をしたように思えて来る。
私の知らない楓を知りたい
そう言った次の日から楓について知らなかったことが色々とわかってきた。と言うのも楓が今まで見せてこなかった顔を私に見せるようになったから。
自分の欲望に素直で、少しわがままで強引。照れた顔は可愛く、とろけた顔はとてもエッチだった。他にもいろんな顔が楓にはあるだろう。私には引き出せないかもしれない顔が。
「遥華?」
楓の声で我に返った。顔の前には小首を傾げて上目遣いの楓の顔があった。
「ううん、なんでもない」
誤魔化すように微笑を見せるとふーんと声を漏らした。
「みんな急いで」
先頭にいるいずみが後ろにいる私たちを焦らせる。いや今は焦るべきなのだから仕方ない。たこ焼きなどでお腹を満たし、屋台をぐるぐると回っていると時刻は九時前になっていた。
この祭りのラストを飾る花火。毎年二万発は打ち上げているこの花火もいつかは見れなくなるかもしれない。
最近夏祭りの資金が足りず、夏の醍醐味である花火大会が中止、廃止するところが多くなっていると今朝のニュースで知った。
だから今年は花火がよく見えるところに行こうと三人で決めて来た。二人も来年は受験生で帰ってこれないし、私も近いからと言ってくるとは限らない。
「待って~」
後ろでくたくたになっている美夢が声をあげる。私たちが向かっているのはデパートの屋上。店に入ったのはいいのだけどエレベーターが混んでいたのでやもなく階段を使って上がることになった。屋上は地上四階。靴の楓といずみはスタスタと上がって行くが、私と美夢はサンダル。しかもヒール型。走るのにはむいていない。
「頑張れ~」
上からは楓の声も聞こえる。
やっとの思いで屋上に着いたのは花火開始の一分前だった。
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