私の好きとあなたの好きが重なる時

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ちょろくて上等

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 カレンは母に頼まれた買い物をするため商会のドアをあけ外に出ると、日の光のまぶしさにめまいがした。

「ずっと室内にこもってたから」

 ここ二週間の不健康な生活を反省する。

 税申告の準備で忙しいため室内にこもりっきりで、母に外の空気を吸うようにと追いだされた。

 天候のせいで三か月ほど郵便事情が混乱しており、送ったはずの手紙が戻ってきたり、必要な書類が届かなかったりと通常作業もとどこおり、準備が思うように進まなかった。

 買い物をしていると幼馴染みのマチルダにあい、強制的にカフェ・ジェスにつれていかれた。

「ちょっと、その血色の悪さどうしたの?」

 カレンが仕事がたてこみ働きすぎなことを説明すると、カレンの好きなミートパイをおごると注文してくれた。

「そういえばルーシーがワイアットにひどいこといわれたって怒ってたけど」

 それはそうだろうとカレンは顔をしかめた。

 ルーシーが余計なことをいったのはたしかだがワイアットの言葉はきつすぎた。

 でもワイアットがカレンの気持ちを考えてくれたのはうれしかった。

「ルーシーって時々とんでもないことをいうから、ワイアットの反応が仕方ないところはあるんだよね」

 マチルダがじっとカレンを見つめた。

「どうしたの、急に私のこと見つめちゃって」

「カレンって嫌なことがあってもさらりと受け流すよね。婚約解消のことなんて人に知られたくないじゃない。私ならルーシーに腹を立ててしばらく口きかないかなあ。

 ルーシーっていたずら好きじゃない? ぜったいカレンとワイアットの関係で遊ぼうとしてた」

 カレンはあの日のルーシーの言動が、カレンがいったことを誤解したのではなくわざとだったのかと、自分の察しの悪さにがっくりする。

「そうだよね。ルーシーってそういうところあるよね。

 ルーシーの家って家族同士でいたずらをしかけあって、私からしたらドン引きないたずらしたりするし。

 ルーシーはいつも笑顔だし、裏で何かを画策しているようにみえないけど、いろいろやってくれるよね」

 マチルダが笑う。

「まあ、今回のは笑えないやつだから、ワイアットにがつんといわれてよかったよ。

 ちょっと思ったんだけど…… カレンにワイアットのことで聞きたいことがあるんだよね」

 マチルダが話しを止めたままなので、どうしたのかとマチルダを見ると聞くのをためらっているようだった。

「――どうしてカレンはワイアットのことを許せるの? あれだけ傷つけられたのに。私なら絶対許さない。

 でもカレンはあっさり許しちゃった。傷つけた人を許すってむずかしいよね?」

 カレンはすこし考えたあと答えた。

「大きな理由は面倒を少なくしたいからかなあ。

 うちって姉のことで面倒なことがいろいろあったじゃない? だから面倒なことをふやしたくないって気持ちが強いんだよね。

 ワイアットとは仕事場が近くて偶然会うことあるから、気まずくないようにしたかった」

 マチルダがうなっている。納得していないようだ。

「でもそれでいいの? 悔しくないの? いわれたのは私じゃないけど、あんなこというなんて許せないって腹が立つ。お馬鹿なガキが仲間に格好つけようとしたと言い訳されても納得いかない」

 カレンはマチルダから目をはずした。

「ワイアットは姉ではなく私のことを好きになってくれた。それが本当にうれしかった。

 ずっとあきらめてた。私のことを好きになる人はいないって。私が好きになった男の子は姉のことが好きという状態が普通だったから。

 だからワイアットが本当に私のことを好きだったなら、そのことをそのまま受けいれたい。自分のことを好きになってくれた人がいたという事実を大切にしたい。

 だから過去のことはそれでいいじゃないって感じかな」

 マチルダの同情した顔がちょっとつらい。

「カレンって強いよね。お姉さんと比べられつづけたのにグレずに育って」

 マチルダの言い方がおばさんのようだ。

「姉があれだけ並外れてきれいだと比べること自体おこがましいって感じ? それに美人がちやほやされなかったら、それはそれでおかしいでしょう。

 比べられて劣ってる扱いは気分悪いけど、私って容姿をふくめてすべて平凡じゃない。ただ平凡なだけで別に劣ってるわけじゃないからそれでいいかと思ってる。

 それに姉のおかげで、好きな人に好きになってもらえないのを姉のせいにできてたから楽だったんだよね」

 マチルダがよく分からないといいたげな表情だ。

「姉が結婚してから、人から好かれないこととか、結婚相手を見つけられないことを姉のせいにできなくなちゃった。

 それまではどうせ美しい姉の方が好きでしょうって言い訳できた。でも姉のことを知らない人とか、噂しかきいたことない人からもこれまでと変わらない反応をされる。

 もしかして私って性格悪いのとか、見目は普通だと思ってたけど本当はものすごく残念なのとか、いろいろ考えなくちゃいけなくなって大変よ」

 カレンがふざけたようにいうと、マチルダが「ここは男運が悪い、呪われてるということにしておいたら?」といって笑った。

「そういえば収穫祭であった丸眼鏡の人とはどうなってるの?」

 マチルダはどうあってもカレンがタイラーと何かあることにしたいらしい。

「べつに何もないから。取引先の人との関係は気をつけないとまずいでしょう?」

「たしかに関係が上手くいけば問題ないけど、そうでないと周りを巻き込むもんね。

 夫の職場で取引先じゃないんだけど、同僚同士が婚約して破談の危機らしくて、もし破談になったらどちらかが辞めて仕事に影響がでそうだってひやひやしてるって」

 そのように言いながら窓の外をみたマチルダが、

「あれワイアットよね? 女の人と親しそうに話してる」というのでカレンも外をみると、たしかにワイアットが若い女性と話していた。

「話してる女性、どこかで見たことあるんだけど誰だろう? カレン、知ってる?」

 マチルダに聞かれたので女性をみたがおぼえがない。

「ワイアットってやっぱり好みなんだよね。好みの顔で誠実にあやまられたらすぐに許そうってなるよ」

「……ちょろい。それはちょろすぎよ、カレン! あんたがそんなにちょろいとは知らなかった」

「ちょろくたっていいじゃない。ちょろいは人生を生きやすくする!」

 カレンが言い切るとマチルダがお腹をかかえて笑った。

 笑われてばつが悪くなり視線を窓の外にもどすと、ワイアットと話していた女性が、いつの間にかあらわれていたタイラーの腕に手をそえ親しげにしていた。
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