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ゆっくりかさねていく
男がやんわり女の手を腕からはずした。
女が男に何かをいうと男があわてた様子をみせる。
「あれ? あの女性さっきワイアットと話してたよね?」
カレンがカフェの外を見ているのに気付いたマチルダが疑問を口にする。
「あの丸眼鏡の男性って――」
「タイラーよ」
ワイアットが女性をかばうようにタイラーとの間に体をすべりこませたあと三人がカフェへ移動する。
「あの三人どういう関係なの?」
「私が知るわけないでしょう」
三人はカレン達がすわっている場所からはなれた奥まった席に腰をおちつけた。
「こういう場合、知らないふりして挨拶せずにいくか、ちゃんと挨拶していくかで悩むよね」
三人のことは気になるが、下手に近付かない方がよいだろうと挨拶をせずカフェをでた。
マチルダとわかれ商会にむかう。
「ああ、やらなきゃいけないことが……」
山積みの仕事のことを考えながらも、カフェにいる三人のことが気になる。
しかしあの感じからすると良い話ではなさそうだ。
カレンは空をみあげ太陽のまぶしさに目をほそめた。
カレンはワイアットの実家の靴工房にいた。
カレンの足のサイズをはかっているワイアットのつむじを見ながらカレンは懐かしさをおぼえた。
ワイアットと恋人だった時に「カレンの靴をつくらせてほしい」と足をはかられたことがある。
久しぶりにきた靴工房は以前とあまり変わっていない。
「なんかこうしてると昔みたいだね」
足をはかりおえたワイアットと目が合うと、ワイアットがかすかに笑みをうかべた。
「靴をつくるのを了承してくれてありがとう。職人として腕があがったし、カレンに満足してもらえるようがんばるよ」
ワイアットから靴をつくらせてほしいといわれた時はおどろいたが、はいている靴がくたびれてきているのでお願いすることにした。
カレンとワイアットの関係は、気まずい間柄から普通に話しをする友達にまで改善された。
結婚がどうのとワイアットが暴走したのはあの時だけで、あれからは近所で顔をあわせる知り合いの距離をたもち、そして一緒に息抜きでカフェ・ジェスへいく友達になった。
カフェ・ジェスといえばワイアットとタイラー、見知らぬ女性の三人がいるところを見たのは二か月前で、あの時タイラーはあいまいな関係であったあの女性ともめていたらしい。
あの女性が靴工房の顧客だったことから、ワイアットは取り乱している顧客を一人にしてはまずいと付きそったようだった。
このことをカレンはワイアットやタイラーから聞いたのではなく、あの時カレンと一緒に三人の姿をみたマチルダからきいた。
「どうしても気になって」
マチルダはさりげなくワイアットの周辺から情報収集をしはじめ、タイラーとあの女性のことをつきとめたようだ。
マチルダの顔の広さとマチルダ情報網おそろしすぎだ。
あの三人の状況をしったカレンはタイラーのことを勘違いしなかった自分をほめた。
結婚詐欺男のおかげで勘違いを回避できたので、結婚詐欺男のことを男運が悪いと思うのではなく、最悪なことにならなかった自分の運の良さをよろこぶことにした。
「これ、あの時につくったカレンの靴。カレンの足のサイズが変わってるから、もうはいてもらえないけど。
まだ未熟だったから雑で粗ばかり目立つけど、一人で完成させたのがうれしくて王都へも持っていった。これを見て修行をもっとがんばろうと気持ちを新たにしてた」
普段履きのシンプルな靴が目の前におかれた。
まさかワイアットが別れたあとにカレンの靴を作り上げていたとは思わなかった。
「そういえばどうしてまた私の靴をつくりたいっていったの?」
カレンに靴を売る営業活動かと思っていたが、そうではない気がした。
「もし―― 可能性があれば。つまり――」
ワイアットが下をむいたかと思うといきおいよく顔をあげた。
「カレンのことが好きだからカレンの靴をつくりたかった」
そのようにいうと顔をそらし道具をしまいはじめた。
仕事が終わってから工房によったので、すでにワイアットの父や職人達はいない。
二人きりで工房にいると、ワイアットが与えられた仕事をおえられず居残り作業しているのを側で待っていた昔のことを思い出す。
「でもワイアットには付き合ってる人がいるんじゃないの? 収穫祭で腕をくんで女性と仲よさそうに歩いてるのみたよ」
ワイアットが顔をしかめ何をいわれたのか分からないといった表情をしたあと、
「ああ、あれ上の姉ちゃんだ。収穫祭は姉家族と一緒にまわってたから、姉と歩いてたのみたんだよ」といった。
実家の商会が引っ越した時にワイアットの長姉はすでに結婚して家をはなれていたので会ったことがない。隣町をはさんだ反対側の町に住んでいると聞いたことがある。
ワイアットが深呼吸をしたかと思うと「カレンに謝りたい」と表情をひきしめた。
「さっき俺の気持ちを押しつけるようなこといってごめん。前に過去のことを謝まるだけのつもりが勢いで結婚とかいった時みたいに、また何も考えず感情のまま口走ってた。
成長してないよな、俺。調子にのってごめん。
カレンに許してもらえたのは奇跡だった。それに許すからもう目の前にあらわれるなといわれてもおかしくなかったのに、こうして普通に接してくれる。
あらためて許してくれて本当にありがとう。
なんか俺ってやってることがすべてちぐはぐで情けない。
もしカレンが俺のつくる靴が嫌なら、親父につくってもらうから遠慮なくいってほしい」
左手をつかんでいるワイアットの右手の指が、せわしなく左手の甲をこすっている。ワイアットがとても緊張しているのが分かった。
いまカレンが抱いているワイアットへの気持ちはとてもおだやかだ。
十六歳の時に感じていたときめきはない。
でも好ましいという気持ちと安心感があった。一度ひどく傷つけられたが、もうこの人はカレンのことを傷つけないだろうと思える。
ワイアットがカレンのためにつくった靴をみて、ワイアットがつくった靴をはいてみたいと思った。
十六歳の時にはくことができなかった、ワイアットがカレンのためにつくる靴をはいてみたい。
「ワイアット、これまでで一番出来のよい靴をつくってね」
カレンはワイアットの視線をしっかりとらえた。
「まかせろ!」ワイアットが破顔した。
その顔をみてカレンは「やっぱり好みだなあ」と心の中でつぶやいた。
マチルダの「ちょろすぎ」という声がきこえる。
でもちょろいことで男運の悪さに終止符をうてるなら悪くない。
ワイアットと好きという気持ちをゆっくり重ねあわせ、やり直しではなく新しい関係をきずいていく。
「靴ができあがるのたのしみ。つくるっていってくれてありがとう」
カレンはワイアットに笑顔をむけた。
女が男に何かをいうと男があわてた様子をみせる。
「あれ? あの女性さっきワイアットと話してたよね?」
カレンがカフェの外を見ているのに気付いたマチルダが疑問を口にする。
「あの丸眼鏡の男性って――」
「タイラーよ」
ワイアットが女性をかばうようにタイラーとの間に体をすべりこませたあと三人がカフェへ移動する。
「あの三人どういう関係なの?」
「私が知るわけないでしょう」
三人はカレン達がすわっている場所からはなれた奥まった席に腰をおちつけた。
「こういう場合、知らないふりして挨拶せずにいくか、ちゃんと挨拶していくかで悩むよね」
三人のことは気になるが、下手に近付かない方がよいだろうと挨拶をせずカフェをでた。
マチルダとわかれ商会にむかう。
「ああ、やらなきゃいけないことが……」
山積みの仕事のことを考えながらも、カフェにいる三人のことが気になる。
しかしあの感じからすると良い話ではなさそうだ。
カレンは空をみあげ太陽のまぶしさに目をほそめた。
カレンはワイアットの実家の靴工房にいた。
カレンの足のサイズをはかっているワイアットのつむじを見ながらカレンは懐かしさをおぼえた。
ワイアットと恋人だった時に「カレンの靴をつくらせてほしい」と足をはかられたことがある。
久しぶりにきた靴工房は以前とあまり変わっていない。
「なんかこうしてると昔みたいだね」
足をはかりおえたワイアットと目が合うと、ワイアットがかすかに笑みをうかべた。
「靴をつくるのを了承してくれてありがとう。職人として腕があがったし、カレンに満足してもらえるようがんばるよ」
ワイアットから靴をつくらせてほしいといわれた時はおどろいたが、はいている靴がくたびれてきているのでお願いすることにした。
カレンとワイアットの関係は、気まずい間柄から普通に話しをする友達にまで改善された。
結婚がどうのとワイアットが暴走したのはあの時だけで、あれからは近所で顔をあわせる知り合いの距離をたもち、そして一緒に息抜きでカフェ・ジェスへいく友達になった。
カフェ・ジェスといえばワイアットとタイラー、見知らぬ女性の三人がいるところを見たのは二か月前で、あの時タイラーはあいまいな関係であったあの女性ともめていたらしい。
あの女性が靴工房の顧客だったことから、ワイアットは取り乱している顧客を一人にしてはまずいと付きそったようだった。
このことをカレンはワイアットやタイラーから聞いたのではなく、あの時カレンと一緒に三人の姿をみたマチルダからきいた。
「どうしても気になって」
マチルダはさりげなくワイアットの周辺から情報収集をしはじめ、タイラーとあの女性のことをつきとめたようだ。
マチルダの顔の広さとマチルダ情報網おそろしすぎだ。
あの三人の状況をしったカレンはタイラーのことを勘違いしなかった自分をほめた。
結婚詐欺男のおかげで勘違いを回避できたので、結婚詐欺男のことを男運が悪いと思うのではなく、最悪なことにならなかった自分の運の良さをよろこぶことにした。
「これ、あの時につくったカレンの靴。カレンの足のサイズが変わってるから、もうはいてもらえないけど。
まだ未熟だったから雑で粗ばかり目立つけど、一人で完成させたのがうれしくて王都へも持っていった。これを見て修行をもっとがんばろうと気持ちを新たにしてた」
普段履きのシンプルな靴が目の前におかれた。
まさかワイアットが別れたあとにカレンの靴を作り上げていたとは思わなかった。
「そういえばどうしてまた私の靴をつくりたいっていったの?」
カレンに靴を売る営業活動かと思っていたが、そうではない気がした。
「もし―― 可能性があれば。つまり――」
ワイアットが下をむいたかと思うといきおいよく顔をあげた。
「カレンのことが好きだからカレンの靴をつくりたかった」
そのようにいうと顔をそらし道具をしまいはじめた。
仕事が終わってから工房によったので、すでにワイアットの父や職人達はいない。
二人きりで工房にいると、ワイアットが与えられた仕事をおえられず居残り作業しているのを側で待っていた昔のことを思い出す。
「でもワイアットには付き合ってる人がいるんじゃないの? 収穫祭で腕をくんで女性と仲よさそうに歩いてるのみたよ」
ワイアットが顔をしかめ何をいわれたのか分からないといった表情をしたあと、
「ああ、あれ上の姉ちゃんだ。収穫祭は姉家族と一緒にまわってたから、姉と歩いてたのみたんだよ」といった。
実家の商会が引っ越した時にワイアットの長姉はすでに結婚して家をはなれていたので会ったことがない。隣町をはさんだ反対側の町に住んでいると聞いたことがある。
ワイアットが深呼吸をしたかと思うと「カレンに謝りたい」と表情をひきしめた。
「さっき俺の気持ちを押しつけるようなこといってごめん。前に過去のことを謝まるだけのつもりが勢いで結婚とかいった時みたいに、また何も考えず感情のまま口走ってた。
成長してないよな、俺。調子にのってごめん。
カレンに許してもらえたのは奇跡だった。それに許すからもう目の前にあらわれるなといわれてもおかしくなかったのに、こうして普通に接してくれる。
あらためて許してくれて本当にありがとう。
なんか俺ってやってることがすべてちぐはぐで情けない。
もしカレンが俺のつくる靴が嫌なら、親父につくってもらうから遠慮なくいってほしい」
左手をつかんでいるワイアットの右手の指が、せわしなく左手の甲をこすっている。ワイアットがとても緊張しているのが分かった。
いまカレンが抱いているワイアットへの気持ちはとてもおだやかだ。
十六歳の時に感じていたときめきはない。
でも好ましいという気持ちと安心感があった。一度ひどく傷つけられたが、もうこの人はカレンのことを傷つけないだろうと思える。
ワイアットがカレンのためにつくった靴をみて、ワイアットがつくった靴をはいてみたいと思った。
十六歳の時にはくことができなかった、ワイアットがカレンのためにつくる靴をはいてみたい。
「ワイアット、これまでで一番出来のよい靴をつくってね」
カレンはワイアットの視線をしっかりとらえた。
「まかせろ!」ワイアットが破顔した。
その顔をみてカレンは「やっぱり好みだなあ」と心の中でつぶやいた。
マチルダの「ちょろすぎ」という声がきこえる。
でもちょろいことで男運の悪さに終止符をうてるなら悪くない。
ワイアットと好きという気持ちをゆっくり重ねあわせ、やり直しではなく新しい関係をきずいていく。
「靴ができあがるのたのしみ。つくるっていってくれてありがとう」
カレンはワイアットに笑顔をむけた。
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