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身代わりーダイヤモンドのように
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本物にはかなわない。
初めから分かっていたこと。
身代わりは身代わりでしかないと。
シャンデリアがきらびやかな光をはなつなか、着飾った人達が踊り、談笑し、おいしいものに舌鼓をうち夜会を楽しんでいる。
ミッシェルは踊り疲れた体を休めるため、人気のすくない場所でたたずんでいた。
恋人のライアンは飲み物をもとめミッシェルのそばからはなれている。
ライアンと初めて一緒に参加した夜会。ライアンの瞳のいろの琥珀のイヤリングが贈られミッシェルの耳をかざっていた。
ライアンにエスコートされ、一緒におどり夜会を楽しんでいたが、楽しい時間は終わりをむかえたようだ。
ライアンが彼の想い人であるブレンダとはなしをしている。
社交の笑みではなく、本物の笑顔をブレンダにむけていた。
ミッシェルはこれまで胸の中におしこんできた感情がこぼれ出ないよう必死でおさえる。
夜会で醜態をみせるわけにはいかない。
いくら心が張り裂けそうなほど苦しくても、泣きたくても、笑顔以外はこの場に必要ない。
ミッシェルは扇で口元をかくし、気持ちを落ち着けるおまじないをつぶやく。
「花のように。鳥のように。ダイヤモンドのように」
行儀作法をおしえてくれた教師が、社交の場で笑顔をたもつためにさずけてくれたおまじないだ。
花のような笑顔をみせ、鳥のように自由に場の流れにのり、何を聞いても何を見てもダイヤモンドのように傷つかない。
ミッシェルはブレンダに視線をむける。
自分とは違う輝くような黄金の髪。しかしそれをのぞけばブレンダとミッシェルはよく似ていた。
似ているから身代わりにされた。分かっている。
ブレンダと私が似ているのなら、似ている私でよいではないの。私のことを好きになればよいのに。私を本物にしてくれればよいのに。
ミッシェルが髪の色を変えれば、ライアンはミッシェルのことを身代わりではなく、本物と思ってくれるだろうか。
ミッシェルは自分をわらう。
身代わりは身代わりでしかない。本物にはなれない。
どれほど願ってもそれは変わらない。
身代わりなど惨めなことをするなと何度も自分を叱った。
私のことを見ない、私を好きにならない嘘つきなど必要ない。
しかし何度自分のしていることが惨めなことだと自分を叱っても、ライアンのことをあきらめられなかった。
ライアンが好き。彼の側にいたい。その気持ちがいつも上回った。
身代わりでよいからライアンと一緒にいたい。
身代わりは本物になれないことに目をつぶりつづけた。
ミッシェルは学園でライアンと同じクラスになり話をするようになった。はじめは共通の友人の話でうちとけた。
席が隣になったことから話す機会がふえ、たわいないことで笑い合うのが楽しく、笑うと目が三日月のようになるライアンを好ましく思うようになった。
友人をまじえライアンと課題を一緒にこなしたり、昼食を一緒にたべるようになるなかで、ライアンに付き合おうといわれた。
ミッシェルは嬉しかった。ライアンも自分に好意を持ってくれていたと。
一緒に登下校し、放課後に図書館で勉強したりと一緒にすごす時間がふえる。そして手をつないでと、これまでとは違う距離でいられることが嬉しかった。
しかしライアンとは週末を一緒にすごすことはできなかった。ライアンは週末は必ず乗馬クラブで乗馬の練習をしていた。
「私も乗馬ならってみようかなあ」
ミッシェルのその言葉にライアンは
「ミッシェルは運動神経が悪いから馬に落とされ、けられるだけだ。怪我をするだけだからやめておいた方がよいよ」
笑ってそのようにいうだけだった。
真剣に乗馬にとりくんでいるライアンと週末遊びにでかけられないのは残念だが、同じ乗馬クラブでミッシェルが乗馬を習えば、ライアンが練習をしているところをみられる。すこしでも一緒にいられる。
そのように思ったがライアンはそのようなことを望んでいなかった。ミッシェルは寂しかった。
それでもミッシェルはライアンが馬に乗っている姿をみてみたいと思い、こっそり乗馬クラブに入会しようと決心した。
クラブの施設を職員がミッシェルに案内している時に、ミッシェルはライアンの姿をみつけた。
ライアンに見つかってはいけないと背をむけようとしたときに、ライアンに近づいてきた女の子をみておどろいた。
その女の子はミッシェルに似ていた。顔だけでなく背格好も似ていた。
その女の子とミッシェルの違いは髪の色で、彼女の髪は美しい黄金色だった。
ミッシェルは人からまっすぐで、きれいだとほめられる自分の薄茶色の髪が好きだった。しかしその少女の輝くばかりの黄金色の髪とくらべるとみすぼらしく思えた。
ミッシェルはその女の子をみて、これまでかすかに感じていた違和感の正体に思いあたった。
ミッシェルは、ライアンがミッシェルではない、ほかの誰かの好みをミッシェルの好みと勘違いしていると思ったことが数度あった。
ミッシェルの好きな色は青だが、なぜかライアンは緑だと勘違いしていた。好きな花、好きな飲み物。
ライアンがいっていたものを好きだったのは、あの女の子ではないだろうか。
ミッシェルはライアンに見つからないようにするため、職員にこれ以上の案内は大丈夫だとことわりクラブを出ることにした。
「ブレンダ!」
ミッシェルのそばをかけていった少女が、ライアンの隣にいる女の子へ手をふりながらむかっているのが目にはいった。
そしてその少女の連れらしい男の子達から
「ライアン、まだブレンダのことあきらめてないのか。ブレンダは婚約したっていうのに」という声がきこえた。
「そんなに簡単にあきらめられるわけないだろう。好きな子が婚約したからって、次の瞬間に、じゃあ他の女の子好きになろうなんてことにはならないよ」
ミッシェルは乗馬クラブからの帰り道、馬車の中で泣いた。
ライアンはミッシェルのことを好きだから付き合おうといったのではなく、ミッシェルがブレンダに似ていたから付き合うことにしたのだ。
本物を手に入れられないから、似ているミッシェルを身代わりにしたのだ。
ライアンに好かれていると浮かれていた自分が哀れだった。
昨日、家まで送ってくれたライアンがミッシェルの頬に初めて口づけてくれた。
ミッシェルは嬉しくて何度もその時のことを思い出しては、ライアンのことを考えていた。
とっさのことでミッシェルはライアンに同じように口づけることができなかったので、今度会った時は自分からライアンの頬に口づけようと思っていた。
自分のことを好きだから口づけてくれたと思っていたが、ブレンダに口づけたい気持ちをミッシェルにぶつけただけだったのだ。
ライアンはブレンダに口づけることが出来ない。だからミッシェルに口づけた。
ブレンダに好きだといえない。だからミッシェルに好きだという。
ブレンダと手をつなげない。だからミッシェルと手をつなぐのだ。
ミッシェルが乗馬をはじめることをライアンが反対したのは、乗馬クラブにはブレンダがいる。
ブレンダという本物がいるのだ。まがいもののミッシェルなど必要ない。
ミッシェルは一晩中泣きつづけ決心した。
ブレンダの代わりでよい。ライアンが自分の隣にいてくれるなら、自分はブレンダの代わりでよいと。
ミッシェルはこれまでと同じようにライアンと過ごした。
ライアンは一緒にいる時にミッシェルに口づけることがふえた。抱きしめられるようになった。そのたびにミッシェルは涙がにじみそうになるのに耐えた。
ライアンがそのように口づけたいのは、抱きしめたいのはブレンダで、あなたはただの身代わりだという声がする。
それでもミッシェルは笑顔をくずさなかった。身代わりであろうとライアンが自分に優しくしてくれる。ブレンダに向けることができない好きという気持ちをミッシェルに向けてくれる。
いつかブレンダに対する気持ちを、ミッシェルへの気持ちへと置き換えてくれるかもしれない。ミッシェルが身代わりではなく本物になれるかもしれない。
ミッシェルは自分でも馬鹿なことをしているのは分かっていたが、ライアンがブレンダではなくミッシェルのことを好きだと思う日がくる可能性をすてることができなかった。
ライアンとミッシェルは、学園内で恋人として二人でいることが普通に思われるようになっていった。
ミッシェルは孤独だった。
周りからミッシェルとライアンが仲のよい恋人同士と思われれば思われるほど、「ただの身代わりのくせに」と心の中でささやく声が大きくなっていった。
ミッシェルは誰にもライアンとブレンダのことを話さなかった。親友のハンナにもいわなかった。
自分が身代わりだということをハンナに話すことによって、それを事実にしたくなかった。
ライアンがミッシェルを身代わりにしていることを本当は認めたくなかった。
ライアンは自分のことを、ミッシェルという女の子のことを好きになったと思いたかった。
もしハンナに自分がブレンダの身代わりだといってしまえば、ライアンが自分のことをミッシェルとして好きだという可能性がまったくないことを認めたことになってしまう。
出来ない。
ライアンが好きだ。
砂つぶよりも小さな可能性であろうと、ライアンが自分のことを好きだと信じていたい。
どれほど「身代わり」という声がきこえても、ミッシェルはライアンのとなりで笑顔をつくり、ライアンとの時間を楽しんだ。
ミッシェルがライアンを好きな気持ちは本物だ。
ライアンの気持ちがどうであろうと、「私」がライアンを好きなのだ。その想いさえあれば大丈夫だ。その想いさえあれば、この関係はつづいていく。
そのように信じこもうとした。しかしもうこれ以上は無理なようだ。もう自分をだますことはできない。
夜会でブレンダと一緒にいるライアンの笑顔が、ミッシェルは身代わりでしかないことをつきつける。
ミッシェルはライアンから贈られたイヤリングをはずした。ライアンの瞳の色である琥珀を身につけてよいのは自分ではない。
身代わりは身代わりでしかない。本物にはなれない。
ミッシェルは「花のように。鳥のように。ダイヤモンドのように」おまじないをもう一度つぶやいたあと、扇をしずかにたたんだ。
ミッシェルは自分の気持ちに区切りをつけるため、ライアンとブレンダの姿を目に焼き付ける。もう二度と身代わりでよいと思わないように。
「本物にはかなわない」
ミッシェルは顔をあげ背筋をのばし、淑女の笑みをうかべしっかり前をみつめて夜会をあとにした。
初めから分かっていたこと。
身代わりは身代わりでしかないと。
シャンデリアがきらびやかな光をはなつなか、着飾った人達が踊り、談笑し、おいしいものに舌鼓をうち夜会を楽しんでいる。
ミッシェルは踊り疲れた体を休めるため、人気のすくない場所でたたずんでいた。
恋人のライアンは飲み物をもとめミッシェルのそばからはなれている。
ライアンと初めて一緒に参加した夜会。ライアンの瞳のいろの琥珀のイヤリングが贈られミッシェルの耳をかざっていた。
ライアンにエスコートされ、一緒におどり夜会を楽しんでいたが、楽しい時間は終わりをむかえたようだ。
ライアンが彼の想い人であるブレンダとはなしをしている。
社交の笑みではなく、本物の笑顔をブレンダにむけていた。
ミッシェルはこれまで胸の中におしこんできた感情がこぼれ出ないよう必死でおさえる。
夜会で醜態をみせるわけにはいかない。
いくら心が張り裂けそうなほど苦しくても、泣きたくても、笑顔以外はこの場に必要ない。
ミッシェルは扇で口元をかくし、気持ちを落ち着けるおまじないをつぶやく。
「花のように。鳥のように。ダイヤモンドのように」
行儀作法をおしえてくれた教師が、社交の場で笑顔をたもつためにさずけてくれたおまじないだ。
花のような笑顔をみせ、鳥のように自由に場の流れにのり、何を聞いても何を見てもダイヤモンドのように傷つかない。
ミッシェルはブレンダに視線をむける。
自分とは違う輝くような黄金の髪。しかしそれをのぞけばブレンダとミッシェルはよく似ていた。
似ているから身代わりにされた。分かっている。
ブレンダと私が似ているのなら、似ている私でよいではないの。私のことを好きになればよいのに。私を本物にしてくれればよいのに。
ミッシェルが髪の色を変えれば、ライアンはミッシェルのことを身代わりではなく、本物と思ってくれるだろうか。
ミッシェルは自分をわらう。
身代わりは身代わりでしかない。本物にはなれない。
どれほど願ってもそれは変わらない。
身代わりなど惨めなことをするなと何度も自分を叱った。
私のことを見ない、私を好きにならない嘘つきなど必要ない。
しかし何度自分のしていることが惨めなことだと自分を叱っても、ライアンのことをあきらめられなかった。
ライアンが好き。彼の側にいたい。その気持ちがいつも上回った。
身代わりでよいからライアンと一緒にいたい。
身代わりは本物になれないことに目をつぶりつづけた。
ミッシェルは学園でライアンと同じクラスになり話をするようになった。はじめは共通の友人の話でうちとけた。
席が隣になったことから話す機会がふえ、たわいないことで笑い合うのが楽しく、笑うと目が三日月のようになるライアンを好ましく思うようになった。
友人をまじえライアンと課題を一緒にこなしたり、昼食を一緒にたべるようになるなかで、ライアンに付き合おうといわれた。
ミッシェルは嬉しかった。ライアンも自分に好意を持ってくれていたと。
一緒に登下校し、放課後に図書館で勉強したりと一緒にすごす時間がふえる。そして手をつないでと、これまでとは違う距離でいられることが嬉しかった。
しかしライアンとは週末を一緒にすごすことはできなかった。ライアンは週末は必ず乗馬クラブで乗馬の練習をしていた。
「私も乗馬ならってみようかなあ」
ミッシェルのその言葉にライアンは
「ミッシェルは運動神経が悪いから馬に落とされ、けられるだけだ。怪我をするだけだからやめておいた方がよいよ」
笑ってそのようにいうだけだった。
真剣に乗馬にとりくんでいるライアンと週末遊びにでかけられないのは残念だが、同じ乗馬クラブでミッシェルが乗馬を習えば、ライアンが練習をしているところをみられる。すこしでも一緒にいられる。
そのように思ったがライアンはそのようなことを望んでいなかった。ミッシェルは寂しかった。
それでもミッシェルはライアンが馬に乗っている姿をみてみたいと思い、こっそり乗馬クラブに入会しようと決心した。
クラブの施設を職員がミッシェルに案内している時に、ミッシェルはライアンの姿をみつけた。
ライアンに見つかってはいけないと背をむけようとしたときに、ライアンに近づいてきた女の子をみておどろいた。
その女の子はミッシェルに似ていた。顔だけでなく背格好も似ていた。
その女の子とミッシェルの違いは髪の色で、彼女の髪は美しい黄金色だった。
ミッシェルは人からまっすぐで、きれいだとほめられる自分の薄茶色の髪が好きだった。しかしその少女の輝くばかりの黄金色の髪とくらべるとみすぼらしく思えた。
ミッシェルはその女の子をみて、これまでかすかに感じていた違和感の正体に思いあたった。
ミッシェルは、ライアンがミッシェルではない、ほかの誰かの好みをミッシェルの好みと勘違いしていると思ったことが数度あった。
ミッシェルの好きな色は青だが、なぜかライアンは緑だと勘違いしていた。好きな花、好きな飲み物。
ライアンがいっていたものを好きだったのは、あの女の子ではないだろうか。
ミッシェルはライアンに見つからないようにするため、職員にこれ以上の案内は大丈夫だとことわりクラブを出ることにした。
「ブレンダ!」
ミッシェルのそばをかけていった少女が、ライアンの隣にいる女の子へ手をふりながらむかっているのが目にはいった。
そしてその少女の連れらしい男の子達から
「ライアン、まだブレンダのことあきらめてないのか。ブレンダは婚約したっていうのに」という声がきこえた。
「そんなに簡単にあきらめられるわけないだろう。好きな子が婚約したからって、次の瞬間に、じゃあ他の女の子好きになろうなんてことにはならないよ」
ミッシェルは乗馬クラブからの帰り道、馬車の中で泣いた。
ライアンはミッシェルのことを好きだから付き合おうといったのではなく、ミッシェルがブレンダに似ていたから付き合うことにしたのだ。
本物を手に入れられないから、似ているミッシェルを身代わりにしたのだ。
ライアンに好かれていると浮かれていた自分が哀れだった。
昨日、家まで送ってくれたライアンがミッシェルの頬に初めて口づけてくれた。
ミッシェルは嬉しくて何度もその時のことを思い出しては、ライアンのことを考えていた。
とっさのことでミッシェルはライアンに同じように口づけることができなかったので、今度会った時は自分からライアンの頬に口づけようと思っていた。
自分のことを好きだから口づけてくれたと思っていたが、ブレンダに口づけたい気持ちをミッシェルにぶつけただけだったのだ。
ライアンはブレンダに口づけることが出来ない。だからミッシェルに口づけた。
ブレンダに好きだといえない。だからミッシェルに好きだという。
ブレンダと手をつなげない。だからミッシェルと手をつなぐのだ。
ミッシェルが乗馬をはじめることをライアンが反対したのは、乗馬クラブにはブレンダがいる。
ブレンダという本物がいるのだ。まがいもののミッシェルなど必要ない。
ミッシェルは一晩中泣きつづけ決心した。
ブレンダの代わりでよい。ライアンが自分の隣にいてくれるなら、自分はブレンダの代わりでよいと。
ミッシェルはこれまでと同じようにライアンと過ごした。
ライアンは一緒にいる時にミッシェルに口づけることがふえた。抱きしめられるようになった。そのたびにミッシェルは涙がにじみそうになるのに耐えた。
ライアンがそのように口づけたいのは、抱きしめたいのはブレンダで、あなたはただの身代わりだという声がする。
それでもミッシェルは笑顔をくずさなかった。身代わりであろうとライアンが自分に優しくしてくれる。ブレンダに向けることができない好きという気持ちをミッシェルに向けてくれる。
いつかブレンダに対する気持ちを、ミッシェルへの気持ちへと置き換えてくれるかもしれない。ミッシェルが身代わりではなく本物になれるかもしれない。
ミッシェルは自分でも馬鹿なことをしているのは分かっていたが、ライアンがブレンダではなくミッシェルのことを好きだと思う日がくる可能性をすてることができなかった。
ライアンとミッシェルは、学園内で恋人として二人でいることが普通に思われるようになっていった。
ミッシェルは孤独だった。
周りからミッシェルとライアンが仲のよい恋人同士と思われれば思われるほど、「ただの身代わりのくせに」と心の中でささやく声が大きくなっていった。
ミッシェルは誰にもライアンとブレンダのことを話さなかった。親友のハンナにもいわなかった。
自分が身代わりだということをハンナに話すことによって、それを事実にしたくなかった。
ライアンがミッシェルを身代わりにしていることを本当は認めたくなかった。
ライアンは自分のことを、ミッシェルという女の子のことを好きになったと思いたかった。
もしハンナに自分がブレンダの身代わりだといってしまえば、ライアンが自分のことをミッシェルとして好きだという可能性がまったくないことを認めたことになってしまう。
出来ない。
ライアンが好きだ。
砂つぶよりも小さな可能性であろうと、ライアンが自分のことを好きだと信じていたい。
どれほど「身代わり」という声がきこえても、ミッシェルはライアンのとなりで笑顔をつくり、ライアンとの時間を楽しんだ。
ミッシェルがライアンを好きな気持ちは本物だ。
ライアンの気持ちがどうであろうと、「私」がライアンを好きなのだ。その想いさえあれば大丈夫だ。その想いさえあれば、この関係はつづいていく。
そのように信じこもうとした。しかしもうこれ以上は無理なようだ。もう自分をだますことはできない。
夜会でブレンダと一緒にいるライアンの笑顔が、ミッシェルは身代わりでしかないことをつきつける。
ミッシェルはライアンから贈られたイヤリングをはずした。ライアンの瞳の色である琥珀を身につけてよいのは自分ではない。
身代わりは身代わりでしかない。本物にはなれない。
ミッシェルは「花のように。鳥のように。ダイヤモンドのように」おまじないをもう一度つぶやいたあと、扇をしずかにたたんだ。
ミッシェルは自分の気持ちに区切りをつけるため、ライアンとブレンダの姿を目に焼き付ける。もう二度と身代わりでよいと思わないように。
「本物にはかなわない」
ミッシェルは顔をあげ背筋をのばし、淑女の笑みをうかべしっかり前をみつめて夜会をあとにした。
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