Irregular ~存在を許されざるもの~

トド

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第三章 裏切り

第三章ー⑤

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 ウトウトと眠りに就こうとしていたユウヤは、突然襲ってきた寝苦しさに目を覚ました。

 だが、覚醒しても状況は何も変わらない。

 体が火照ってたまらない。息苦しい……。

「……なんだ、これは……」

 窓から月明かりが入ってきているのが幸いだった。
 ユウヤは懸命に体を起こすと、枕元においてあった眼鏡を掛け、手近の小さな燭台にマッチで火を灯す。

「……喉が、胸が熱い……。水が飲みたい……」

 懸命に体に力を込めて立ち上がり、燭台の明かりをランプに移して手に持つ。

 多少おぼつかないがなんとか歩けそうなことを確認し、ユウヤは部屋を後にする。

 部屋を出て、目的の場所まで歩く。普段なら一分もかからない距離にもかかわらず、今はその距離が果てしなく遠い。

「……風邪にでも罹ったのか……。いや、とにかく今は、水が、水がほしい……」

 熱のせいなのか思考がまとまらない。

 ユウヤは息を乱しながら懸命に一歩一歩足を進めていく。

 あと数歩で水の入った瓶に手が届くところまで足を進めたところで、しかしユウヤは足を止めた。

 それは、玄関の扉が閉まる音が耳に入ったためだった。

 ランプの明かりも見える。誰かが家の中に入ってきたようだ。

「……えっ? ユウヤ様?」
 向こうもこちらに気づいたらしい。

 だが、聞こえてきた誰何の声に、ユウヤは部屋に入ってきたのがファリアだと分かって、安堵する。

 彼女が近づいてきたので、明かり窓から入る月明かりと二つのランプの灯火に彼女は照らされる。

「…………」
 ユウヤは体の火照りも胸の苦しさも忘れ、その姿に目を奪われた。

 どんな素晴らしい絵画も色褪せる、美しさがそこにあった。

 若々しさと幼さを併せ持つ美貌は、人ならざる女神だと言われても信じざるを得ない。

 長い金色の髪は、二つのランプと月明かりを受けて神秘的な輝きを放っている。整った顔立ち、輝かんばかりの薄茶色の瞳、そしてわずかに濡れたような淡い朱色の唇が可憐だ。

「……あっ、ああっ……」
 ユウヤはフラフラとファリアに近づいていく。

「……ユウヤ様、どうなさったのですか?」
 ファリアも心配そうにこちらに向かって歩いてくる。美しい、この世のものとも思えないほど美しい少女が。

 しかし、ユウヤには、彼女がまるで別のもののように思えた。

 砂漠で水を失った旅人が、長い乾きの末に見つけた瑞々しい果実のように見えたのだ。

 美しさに感銘を受けるよりも、もっと本能的に直接訴えかけてくる感情に、ユウヤは心を支配されていた。

 身にまとう清楚な白いローブは無垢なる清らかさを醸し出しながらも、胸部の大きな膨らみを覆うそれは、この上なく扇情的だ。
 それが駆け寄ってきたことで僅かに上下に揺れる。早くそれを食してくれと言わんばかりに。

 熱い、熱い、熱い。喉が渇く、身体が今にも爆発してしまいそうなほどに熱を帯びている。
 この熱を、この乾きを潤したい。目の前の果実を口にしたい。

 酷く暴力的な衝動が湧き起こってくる。そして、それは僅かに残っていたユウヤの理性を奪っていく。

 適当に床にランプを置くと、ユウヤはそのまま目的のものに近づいていく。

「……ユウヤ様、もしやお体が優れないのではないですか? 少し待ってください。今、私のちか……」

 ユウヤに倣い、床にランプを置くためにかがみ込んだファリアの頭と身体を掴むと、ユウヤは強引にそれを立ち上がらせて、彼女の唇に自分のそれを押し当てた。
 そして、貪るように強引にファリアの唇をこじ開けようと舌を入れていく。

 いままでこんな行為をしたことはないにもかかわらず、その行動は迅速で正確なものだった。

 甘い香りがする。そして、唇に伝わる心地のいい弾力と舌に触れる果汁はこの上なく甘露だった。
 僅かに果実が自分から離れようとしたので、ユウヤはそれを強引に力で押さえつけて、甘い果汁を味わい続ける。

 身体が潤されていく。失っていた水分が体を駆け巡っているのが分かる。だが、熱い。熱い。熱い。足りない。まだ、まだ、もっと、もっと、もっと。

 ……どれだけの時間、ユウヤは自分がその行為をしていたのか分からない。

 やがて喉の渇きが落ち着くと、ユウヤは果実から口を離した。

 そして両の手に込めていた力を緩めると、今までユウヤが抱きしめていたそれが床に崩れ落ちる。

 そして、その音でユウヤはようやく正気を取り戻した。

「……あっ、ああっ……」

「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
 床に崩れ落ちた息も絶え絶えのファリアの姿に、ユウヤは己が何をしていたのかを理解した。

「……ごっ、ごめん。僕は、僕は、なんてことを……」
 ユウヤを満たしていた高揚感と充足感が吹き飛び、全身の血の気が引いていく。だが、今重要なのは、倒れてしまったファリアのことだと思い直し、彼女に駆け寄る。

「……ユウ…ヤ……様……」
 ファリアは呆然としていたが、ユウヤの名前を呼んだ。

 すると、彼女は突然上半身を起こし、屈み込むユウヤに向かって手を伸ばす。

 叩かれるとユウヤは思った。
 当然だ。いきなり唇を奪って舌まで入れたのだ。怒るのも当たり前だと。
 だが、痛みは来ない。

 その代りに、両頬に温かなぬくもりが伝わり、甘い香りと心地良い弾力を唇に感じた。
 ファリアはユウヤの両頬を抑えてその唇を重ねたのだ。

「んっ、あっ、はむ……」
 ファリアはそれまでユウヤがしていた行為のお返しとばかりに、唇を啄み、ユウヤの口腔内に舌を入れてくる。

 ――離さなくては。

 そう心の何処かで思ったが、それ以上に甘い香りと心地いい悦楽に思考が麻痺して、ユウヤもファリアと同じように舌を彼女の口内に伸ばして、彼女の舌と絡ませ合う。

 お互いの舌を愛撫し合いながら、体液を交換し合う。その行為にユウヤとファリアは溺れ続けた。

 だが、不意にファリアがゆっくりと惜しむようにしながらも、口を離す。

 つぅーと液体が彼女の舌とユウヤの舌との間に糸を引く。そしてその卑猥な液体が、下にいるファリアの胸元に滴り落ちる。
 それはこの上なく背徳感に溢れた扇情的な光景だった。

「……ファ…リア……」
 ユウヤの身体は再び原因不明の熱に侵されていた。いや、それだけではない。興奮と劣情が身体に更なる熱を帯びさせているのだ。

 しかし、それはファリアも同様のようだった。
 ランプと月明かりしかなくても、彼女が顔を真っ赤にしているのが分かる。
 自分と同じくらい欲情していることが、聞こえてくる荒い呼吸と肌を伝わる熱で感じ取れる。

 その事を理解すると、ユウヤの男性としての部分が痛いぐらいに主張してくる。この目の前の女をその想いのまま蹂躙したいと、そそり勃っている。

「……ユウヤ様……」

 ファリアは両目を潤ませながらユウヤの名を呼ぶと、そのままユウヤに抱きついて、胸元に顔を押し当てる。そして、
「……抱いて……ください……」
 か細い声でその言葉を口にした。

 ファリアが落ちてしまわないように、ユウヤは彼女を抱きしめ返して、頷こうとした。

 ……だが、そこでユウヤの脳裏に一人の女の姿がよぎった。

 自分が誰よりも愛しいと思っている女性の、シノの姿が。

「……くっ……」
 全てを、僅かに残った理性を総動員して、ユウヤはファリアごと自分たちの体を起こして立ち上がると、彼女の身体を静かに遠ざけた。

「ごっ、ごめん、ファリア。僕は……。こんな事をしておいて、君のことを汚してしまって……。でも、だめなんだ……。君みたいな娘が、僕な…んか……」

 ユウヤの言葉は最後まで続かない。

 それは、ファリアがおもむろに純白のローブを脱ぎ始めたためだった。

 彼女は静かにローブを脱いでいく。
 興奮と羞恥で赤みを帯びているが、シミひとつない白く美しい肌に目が奪われる。

 そして純白の下着に覆われた、大きな乳房が現れると、ユウヤの視線はそれに釘付けになってしまう。
 美しいラインだった。大きいがけっして体のバランスを損なわない魅力的な乳房のそれは、美麗でありながら情欲を誘う蠱惑的な形だった。

 下着が邪魔だと、その下の乳房を見たいと思ってしまったユウヤの心を読んでか、ファリアはそれも脱いでいく。

 羞恥心からか、ファリアは僅かに胸を隠そうとしたが、恥ずかしそうに俯きながらも、その手を開き、ユウヤに差し出すように乳房を顕にした。

 白く形の良い大きな乳房。その先端の乳首と乳輪は淡い桃色で、白い肌にいっそう映える。こんなに美しい乳房が存在するのか、と思えるほどファリアのそれは美しかった。

 触りたい。揉みしだきたい。口に含んでしまいたい。

 美しいと感嘆するのと同時に卑猥な欲望が湧き上がってくるのを止められない。
 ユウヤは再び喉がカラカラになるのを感じていた。

「……いかがでしょうか……。……私の…身体は、ユウヤ様に……気に入っていただけますか?」
 声を震わせながら、ファリアは尋ねてくる。

 呆然として乳房に見惚れていたユウヤは、間の抜けたように口の端から涎を垂らしていた自分に気づき、慌ててそれを手で拭き取ると、ファリアに背中を向けた。

 これ以上、この美しすぎる女体を見ていたら、自分を抑えられなくなることは明らかだった。

 だが、見たい。触りたい。思うがままにあの体を自分のものにしたい。そんな欲望が爆発しそうになる。

「……ファリア……。だめだ。君はまだ子供なんだ。僕みたいな男が、君の未来を奪っていいはずが……」

 適当な言い訳を口にして、なんとかファリアを宥めようとするユウヤだったが、静かに近づいてきたファリアに背中から抱きしめられた。

 着物越しとはいえ、大きな質量の柔らかく温かな二つの肉の感触が背中に伝わり、彼女の体から発する甘い香りが、服を着ていた時以上にユウヤの鼻孔をくすぐる。

 そして、ファリアはユウヤの耳元で囁いた。

「……ユウヤ様から見れば、私は子供かもしれません……。ですが、私は『雌』です……。そして、ユウヤ様は『雄』です……」

 雌と雄。生物学上での差異を表す単純な言葉。だが、今はこの上なく淫らな響きだった。

 そして、ユウヤの最後の理性は砕け散った。
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