Irregular ~存在を許されざるもの~

トド

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第十五章 春が来たりて

第十五章ー②

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 雪解けが始まった。
 ということは、もうすぐこの街を出てシノの捜索に出かけるということだ。

 現状を考えると、自分達の戦力は明らかに以前とは比べ物にならないほどに大きくなっていると言える。
 だが、こちらは<王>であるユウヤを加えても五人しか戦力がいない。

 客観的に考えて、潜在型が多く、かなり珍しく汎用性が高いスキルもある。ゆえに、それぞれの単騎の潜在能力も他の能力者と見劣りしているとは思えない。
 だが、飽くまでも潜在能力だ。現有戦力ではない。

 ユウヤも三ヶ月前とは別人のように能力を仕えるようになっているが、いかんせん実戦経験がないのがネックだ。

 そして、心根の優しすぎる彼が、敵とはいえ人間を殺せるのか?
 それを仕方のないことだと割り切ることができるだろうか?

 悩みは尽きない。

「レミアさん。よければ少し休憩にしませんか?」
 今後の事を考えて、居間のテーブルで作戦を練っていたレミアに、ティーカップとティーポットをトレーで手に持っている、リナが声をかけて来る。

「ああ、もう三時になろうとしているのだな」
「はい。もうすぐユウヤさん達も家に戻ってくるはずですし、ティータイムにしましょう。お茶請けのお菓子も作りましたので」
 根を詰めていたレミアは、リナの満面の笑顔に、頬を緩める。

 リナが笑顔で紅茶を淹れてくれたので、レミアはそれをありがたく頂くことにし、リナ特性の焼き菓子も味あわせてもらう。
 昼食が終わってから、ずっと頭を使い続けて、脳が糖分を欲していたのだろう。レミアはいつも以上に、甘い焼き菓子が美味しく思えた。

「そうだ、リナ。一つ訊いておきたいことが有るのだが、いいかな?」
「はい。なんですか?」
 自分の分の紅茶を淹れ終えたリナが笑顔で応じてくれたので、レミアは質問を口にする。

「リナ。君の攻撃魔法というものは、ファリアのそれと比較すると、どの程度のものなのだろうか?」
「えっ、私の攻撃魔法ですか? ええと、そうですね、ファリアさんと比較すると……。きっと、十分の一にも満たないと思います」
「それほどまでの差があるのか? 君の魔法は素晴らしいと、よくファリアが褒めているが……」
 レミアの言葉に、リナは申し訳無さそうに首を横に振る。

「それは、私の得意な癒やしの魔法などに限定するのであればの話です。もともと攻撃魔法が苦手なので、<僧侶>としての力が加わっても、<女王>の力に目覚めていなかった頃のファリアさんにも敵わないです」
 リナは申し訳無さそうな表情で言うが、レミアは「そんな顔はしないで欲しい」と、彼女に笑顔を向ける。

「君は十分すぎるほどの戦力だ。魔法というものが使える<僧侶>は何人もいるだろうが、君には他の者よりも圧倒的なアドバンテージがある。
 魔法にはどのような種類があるのかという知識があり、自分の力がどの程度のもので、どの分野ならばそれを最大限に発揮できるかを知っている。これは、何物にも代えがたい利点だ」
 レミアの言葉に嘘はない。彼女は心からリナが味方で良かったと思っている。

「……その、ファリアさんが暴走する可能性を、また考えているのですか?」
 リナが遠慮がちに尋ねてくるのを聞き、レミアは「それもそうだが、もっと最悪の事態を考えているよ」と答え、紅茶で喉を潤す。

 リナが真剣な目でこちらを見つめてくるので、レミアは静かに口を開く。

「私はね、シノの捜索の途中で、誰が死んでしまう可能性が高いのかを考えているんだよ。そして、戦力を失った場合に、どのような行動を取るべきか、作戦を練っている」
 レミアはそう言って嘆息する。

「死んでしまう可能性……」
 リナが青い顔をするのが分かったが、レミアは構わず話を続ける。

「私が思うに、命を落とす可能性が一番高いのはコリィだ。彼女は<騎士>だから、当然情報収集などの役目をしてもらう事が多くなるだろう。
 私の能力でその可能性は下げるつもりだが、単騎で行動して貰うことになる彼女には、どうしても事故の可能性がある」
「……」
 リナはティーカップをテーブルに置き、レミアに話を続けるように目で訴えてくるので、話を続けることにする。

「だがね。戦力的に考えると、コリィが死んだ場合が、一番リスクが少ないんだよ。<騎士>はいれば便利だが、私の能力でおおよその代用が効くからね」
「……そうですか……」
 リナは絞り出すように言う。

「命を落とす危険性が高い順番は、コリィ、ファリア、私、リナの順だと考えている。これは、それぞれの役目から判断している」
「私が、一番リスクが低いのですか?」
「ああ。私と君は同じ後方支援だが、私には自衛の手段があまりないからね。魔法で戦える分、君の方が死んでしまうリスクは低いはずだ。
 そして、ここからは場合の損害が大きい順番を説明させてもらうよ」
 レミアは自分の言葉にリナが「はい」と頷いたのを確認し、話を続ける。

「それでは、次に死亡してしまった場合のリスクが高い順番だ。これは、ファリア、私、リナ、コリィの順番だな」
「……」
 リナは何も言わなかったが、悲しそうな表情を浮かべる。
 その姿に胸を打たれるが、リナにはこの話を聞いて置いてもらいたい。だから、レミアは話を続ける。

「ファリアは攻防の要であるし、魔法のスペシャリスト。そして、ユウヤ殿の現在の戦闘スタイルを維持するための最重要人物だ。そして、私よりも順位が上なのも、最悪私が殺されても、ファリアの魔法があればある程度の代用が効くだろうという判断からだよ。
 私とリナは大差はない。だが、ファリアに対するストッパーという意味で、私の方を上にしているよ」
 レミアは、静かに紅茶を飲み干す。

「ここまで言えば、君なら分かるはずだ。我々の中で、命を落としやすく、その上失った場合の戦力低下が著しいのが誰なのかは」
「……はい。ファリアさんですよね」
「そのとおりだ。まだ私も実戦経験がないのではっきりと断定はできないが、少数精鋭の編成であれば、私達に勝る精力はそうはいないだろうと考えている。だが、私達の強さは、その多くをファリアに依存してしまっている。それが私には恐ろしいのだよ」
 レミアはそう言って、静かに窓の外を見る。

「リナ。この状況で、君ならばどのような戦い方が一番いいと思うだろうか? 少し考えてみてくれないか?」
「えっ? あっ、あの、その、はい……」
 リナはレミアの言葉に頷いて、懸命に考える。

 しばらくリナは妙案が浮かばないようで苦しんでいたが、やがて「あっ……」と呟き、顔を曇らせる。

「うん。私の結論も、おそらく君と同じだよ」
 リナの表情で全てを察し、レミアは力なく笑う。

「ユウヤ殿自身が先頭に、矢面に立つことだ。相手の<王>の戦力がこちら以上の場合には、ユウヤ殿が殺されてしまい、即全滅という危険性は否定できないが、少数精鋭の我々には、それが最善の手段だ」
「ですが、それは!」
「ああ。だが、この方法を取ることを君達は良しとはしないだろう。
 それに、これはユウヤ殿が躊躇なく相手を殺せる場合でなければ成り立たないからね。今のところは机上の空論に過ぎない方法なんだ」
 リナを安心させるように、レミアは彼女に微笑みかける。

「こんな方法を取らないですむ事を、切に願うよ。だが、必要になるかもしれない。この事は頭の片隅でも良いから、覚えておいてくれないか?」
「……分かりました」
 リナは、ユウヤと同様に、その性格上、戦いには向いていない。
 だが、それでも彼女はレミアの言葉に頷いてくれた。

 それは、リナが理解してくれているからだ。
 もしもレミアが死んでしまった場合、その代わりを務められそうなのは、リナしかいないということを。
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