まほう使いの家事手伝い

トド

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第一章 『私のまほう使い』

㉑ 『意地悪なアゼル』

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「アミィ。それじゃあ、君はポールを助けたいっていうのかい?」
 これまでのことを全部話した後、アゼルの問いかけに、私は「もちろん」と答えた。

「ポールだって、あのセリーナっていう人にだまされていただけだもん! それに、こうして私は無事なんだから、もういいじゃあない!」
 アゼルを明らかにこわがっているポールを守るように、私は二人の間に立って、意見を言う。

「……駄目だめだよ、それじゃあ」
「どうして? 訳がわからない!」
 私はむきになってアゼルに文句を言う。

 それは、もちろんポールを助けたいから。ただ、それだけじゃあなくて、アゼルがいつまで経っても、私の知っているアゼルにもどってくれないのが腹立たしいんだ!
 いつものアゼルなら、私の言うことをもっと聞いてくれるはずなのに。

「たしかに、ポールにさらわれて一番つらい思いをしたのは君なのかもしれない。でも、それだけじゃあない。かれは君の友達であるリリーナをこわがらせたし、学校の先生達にも暴力をるったと聞いている。
 それならば、その罪を清算しないといけないはずだ。それを勝手に君が許す権利はないよ」
 アゼルは相変わらず冷たい声で言う。

「なによ! アゼルの分からず屋!」
 私はそんな文句を言ったが、そこで、最悪のタイミングで、私のお腹が、ぐぅぅっと鳴り出してしまう。

「…………」
 アゼルは無表情のつもりだろうけれど、絶対に今、小さく笑った! なによ! これまでずっと何も食べていないんだから仕方がないじゃあないの!

「ここでキャンプをしよう。夕食も作るから、少し待っていて」
「そんなの、村に帰ってからでもいいでしょう?」
「……いいのかい? お腹が空いたまま、この暗い森の中を、君たち二人だけで帰れるの? 仮に帰ることができたとしても、そのころには真夜中を過ぎているはずだよ」
 アゼルの言葉の意味が、私には分からなかった。

「えっ? 他の人みたいに、私達も魔法まほうで村まで送ってくれるんじゃあないの?」
「そんなことを、君達のためにしてあげるつもりはないよ」
「なんで? 他の人達は良くて、私達は駄目だめなの? あのセリーナと領主様にだって魔法まほうを使って家まで送ってあげたのに、どうしてよ!」
 私の質問に、アゼルは何も答えてくれない。

「なによ、アゼルの意地悪!」
 私はあまりにも腹が立って、アゼルに文句を言ってしまう。

 本当はちがうのに。
 ポールが死んでしまいそうなところを助けてくれたことや、ミリアさん達も助けてくれたこと。何よりも、こうして来てくれて、私はすごくうれしいのに、アゼルが普段ふだんと違う態度を取るから、素直にお礼を言えない。
 そして、そんな自分がすごくいやだ。

「……とにかく、少し待っていて。すぐに作るから」
 アゼルは見たところリュックの一つも持っていないのにそう言うと、突然とつぜんアゼルの手に取っ手の付いたなべが現れた。
 いや、それだけじゃあない。お肉や野菜なんかも次々と現れる。そして、それが魔法まほうによるものだと私が理解するころには、アゼルは沢山たくさんの食材を用意していた。

「アゼル。料理なら私が作るわよ」
 このアゼルとのギクシャクした感じがいやで、私はそう言った。
 みんなで私が作った料理を食べれば、きっと仲直りもできるんじゃあないかと思ったから。

「……どうやって? ここには燃料のたきぎもなにもないよ。包丁だって無い」
「だったら、それだって魔法まほうで……」
「それはできないし、ボクはしたくないよ」
 アゼルはそんな意地悪を言う。

「……どうして。どうしてそんな意地悪なことばかり言うのよ! アゼルのバカ!」
 私はなみだを目にめながら文句を言う。
 
 アゼルがこんな意地悪だと思わなかった! 見損なった!
 なんで、どうして! もう少し私に優しくしてくれてもいいじゃあない……。

 結局、アゼルは私を無視して料理を始めた。
 腹が立って、アゼルの方を見ないつもりだったけれど、包丁もないのにどうやって料理を作るのか気になってしまった。

「なっ、何よ、それ……」
 私はアゼルの調理方法を見て、おどろく。

 アゼルはなべを手に取ると、魔法まほうで水を作り出したみたいで、あっという間に中を水で満たす。そして、丸い火のカタマリを作り出すとそこの上になべを置く。
 台もないのになべは空中で固定されて動かない。

 さらにアゼルは風の魔法を使っているのか、野菜とお肉が勝手に一口大に切れてなべの中にそれが勝手に入っていくんだ。

「後は、味付けをして、食材に火が通るのを待てば出来上がりだよ」
 アゼルはそう言って、もう調理は終わったとばかりに地面に腰掛こしかける。

 そして、あっという間に具沢山ぐだくさんのスープが出来上がった。
 私とポールは、これもまたアゼルが魔法まほうで取り出した器にそれを取り分けてもらい、口に運ぶ。

 食べてみると割と美味しかった。でも、こんな方法で作るのは料理とは呼べない気がする。

「その、料理を作ってくれてありがとう。その、結構美味しいよ。でも、なんだかこんな料理の仕方はずるいと言うか……」
 私は思ったことを素直にアゼルに伝える。

 きっとまたアゼルは冷たい反応を返してくると思ったんだけれど、何故か微笑ほほえんでくれた。そして、

「ああ。ボクもそう思うよ」
 と言ってくれたのだった。
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