57 / 249
第三章 誰がために、彼女は微笑んで
④ 『恨むべきものは』
しおりを挟む
今後の話し合いが終わった後、馬車でこの街のカーフィア神殿に戻ってきたサクリは、先程まで一緒だったロウリアという名前の神官に案内され、お客様用の寝室に案内された。
かなり上等な部屋だ。それに、体が思うように動かない自分のためにと、二十代半ばくらいの若い神官の女性を一人付けてくれた。
地方の神殿の神官見習いの一人でしかないサクリには、破格の高待遇と言ってよいだろう。
もっとも、それは、サクリが健常者であればの話だが。
「治療室を貸して頂けるとまでは思っていなかったですけれど……」
サクリはベッドに横になり、心のなかでそう愚痴を口にする。
この朽ちていくだけの体を少しでも長く持たせるためには、数時間おきの癒やしの魔法が必要だ。だが、自分の世話をするというこの神官の女性が、魔法をまったく使えないのは明らかだった。彼女からは魔法の力の片鱗を感じなかった。
それに、サクリをベッドの上に横たわせると、布団をかけて彼女は部屋を出ていってしまったのだ。
「……私が地方とは言え、神殿長の娘だから、最低限の体裁を取っているだけ……」
あのおせっかいな自警団の男性に連れられて、この神殿にやって来たばかりの自分に向けられた視線を、サクリは覚えている。
見苦しい者を、直視したくない者を見る目。
あれこそが、このような心無い上辺だけの気遣いをする、あのロウリアと言う名前の神官の気持ちなのだろう。
重病の自分が死んでも、自分たちは取るべき処置をしっかりとしていたと言い訳ができるようにしているだけだ。
「……このままなら、私は早くに死ねるのかな?」
今の自分には何も残っていない。
大切な友達を失った自分には、何も残されていないのだ。
それならば、このまま楽になりたい。
そう思ってしまう。
「……でも、何もかもを放り投げて死んでしまっては駄目。命の限り生きようとしない者を、カーフィア様は楽園に導いては下さらないから……」
大切な友人を目の前で失ったあの時、サクリは彼女達と運命を共にしたいと思った。
だが、そんな彼女が考えを変え、生きようとしたのは、ただただ、天国での再会を願ったからだった。
「私を守って、カルラもレーリアも勇敢に戦った。だからカーフィア様は絶対に、二人を天国に導いて下さったはず。だから、私も天国に行けるように頑張らないと……」
もうサクリには、この世に望むことはない。
ただ、死後に大切な友人に再会することだけを願い、それだけを希望に生き続ける。
「カーフィア様。貴女様をお恨みしたことを、なにとぞお許しください。私は、貴女様の教えを最後まで守り、生きることに努めます。この苦しみにも耐えます。ですから、どうか私が死んだら、あの二人のもとに導いて下さい……」
そう、カーフィア様をお恨みするなど、失礼この上ない話だ。
自分がこんなに不幸なのは、カーフィア様のせいではない。
だって、カーフィア様は私にあの二人との再会する方法を教えてくださっているのだから。
……では、私は誰を恨めばいいのだろう?
十五歳の若さで不治の病に侵された。
そしてずっと、苦しんで、苦しんで……。
最後の思い出にと、自分の命よりも大切に思っていた親友二人と旅をしていただけなのに、そんなささやかな願いさえ奪われたこの身の不幸は、一体誰のせいだというのだろう。
「……ああっ、そうなのですね……」
子供でも知っていることだ。
この世界は、もともと不完全な世界なのだ。だから、こんなにも悲しみに溢れている。
だから、自分はこんなにも不幸なのだ。
ささやかな望みさえ奪われるのだ。
「この世界が悪いのですね。私から奪うばかりのこの世界が……。それならば、こんな世界なんて、なくなってしまえばいいのに……」
そんな事を願いながらも、サクリは微笑む。
ようやく、見つけることが出来たから。
自分が唯一、恨んでもいい存在を。
かなり上等な部屋だ。それに、体が思うように動かない自分のためにと、二十代半ばくらいの若い神官の女性を一人付けてくれた。
地方の神殿の神官見習いの一人でしかないサクリには、破格の高待遇と言ってよいだろう。
もっとも、それは、サクリが健常者であればの話だが。
「治療室を貸して頂けるとまでは思っていなかったですけれど……」
サクリはベッドに横になり、心のなかでそう愚痴を口にする。
この朽ちていくだけの体を少しでも長く持たせるためには、数時間おきの癒やしの魔法が必要だ。だが、自分の世話をするというこの神官の女性が、魔法をまったく使えないのは明らかだった。彼女からは魔法の力の片鱗を感じなかった。
それに、サクリをベッドの上に横たわせると、布団をかけて彼女は部屋を出ていってしまったのだ。
「……私が地方とは言え、神殿長の娘だから、最低限の体裁を取っているだけ……」
あのおせっかいな自警団の男性に連れられて、この神殿にやって来たばかりの自分に向けられた視線を、サクリは覚えている。
見苦しい者を、直視したくない者を見る目。
あれこそが、このような心無い上辺だけの気遣いをする、あのロウリアと言う名前の神官の気持ちなのだろう。
重病の自分が死んでも、自分たちは取るべき処置をしっかりとしていたと言い訳ができるようにしているだけだ。
「……このままなら、私は早くに死ねるのかな?」
今の自分には何も残っていない。
大切な友達を失った自分には、何も残されていないのだ。
それならば、このまま楽になりたい。
そう思ってしまう。
「……でも、何もかもを放り投げて死んでしまっては駄目。命の限り生きようとしない者を、カーフィア様は楽園に導いては下さらないから……」
大切な友人を目の前で失ったあの時、サクリは彼女達と運命を共にしたいと思った。
だが、そんな彼女が考えを変え、生きようとしたのは、ただただ、天国での再会を願ったからだった。
「私を守って、カルラもレーリアも勇敢に戦った。だからカーフィア様は絶対に、二人を天国に導いて下さったはず。だから、私も天国に行けるように頑張らないと……」
もうサクリには、この世に望むことはない。
ただ、死後に大切な友人に再会することだけを願い、それだけを希望に生き続ける。
「カーフィア様。貴女様をお恨みしたことを、なにとぞお許しください。私は、貴女様の教えを最後まで守り、生きることに努めます。この苦しみにも耐えます。ですから、どうか私が死んだら、あの二人のもとに導いて下さい……」
そう、カーフィア様をお恨みするなど、失礼この上ない話だ。
自分がこんなに不幸なのは、カーフィア様のせいではない。
だって、カーフィア様は私にあの二人との再会する方法を教えてくださっているのだから。
……では、私は誰を恨めばいいのだろう?
十五歳の若さで不治の病に侵された。
そしてずっと、苦しんで、苦しんで……。
最後の思い出にと、自分の命よりも大切に思っていた親友二人と旅をしていただけなのに、そんなささやかな願いさえ奪われたこの身の不幸は、一体誰のせいだというのだろう。
「……ああっ、そうなのですね……」
子供でも知っていることだ。
この世界は、もともと不完全な世界なのだ。だから、こんなにも悲しみに溢れている。
だから、自分はこんなにも不幸なのだ。
ささやかな望みさえ奪われるのだ。
「この世界が悪いのですね。私から奪うばかりのこの世界が……。それならば、こんな世界なんて、なくなってしまえばいいのに……」
そんな事を願いながらも、サクリは微笑む。
ようやく、見つけることが出来たから。
自分が唯一、恨んでもいい存在を。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。
リョウ
ファンタジー
何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる