120 / 249
第四章 あの日憧れたあの人のように
⑬ 『プレゼント』
しおりを挟む
ジェノが家に戻ったのは、いつもよりも二時間は早かった。
まだまだ空は明るい。でも、なんだかとても疲れてしまったのだ。
「明日には、マリアの機嫌が直っていればいいけれど……」
ジェノはそんな事を願いながら、家に入ろうとしたのだが、そこで背中から声がかかった。
「ジェノ。お帰りなさい。マリアちゃんとは、ちゃんと仲直りできたの?」
声をかけて来たのは、庭へ向かう道に立っていたリニアだった。
「それが、あれからすぐに、マリアは怒って家に帰ってしまって……」
訳を説明すると、リニアは「ああっ、マリアちゃんが可哀想」と言い、ジト目でジェノを見てくる。
「ううっ。でも、先生。僕は何も悪いことは……」
「し・た・の・よ。しかも、マリアちゃんだけでなく、私にもね」
「えっ?」
ジェノは驚きの声を上げる。
マリアが怒った理由だけでもわからないのに、自分はいつの間に、先生にまで失礼なことをしてしまったのだろうか。
しかし、いくら考えても何をしたのか分からない。
「という訳で、先生は怒っています。だから、これから君にお説教をするので、庭まで来るように」
「……分かりました」
ジェノは言われるがままに、リニアの後を付いて庭に行く。
庭の中央付近まで行くと、リニアはくるりと振り返ってこちらを見た。
ただその顔は、怒っているというよりは、拗ねているように思える。
「さて、ジェノ。先生がどうして怒っているのかを考えてみなさい」
「……はい」
ジェノは素直に、リニアが怒っている理由を考える。
最初に、マリアのことで先生も怒っているのではと考えたが、それだと、悪いことをしたのはマリア一人になる。先生に悪いことをしたことにはならない。
それなら、先生は何に怒っているのだろう?
先生と公園で話しをしたのは短い時間だ。それならば、マリアと一緒にいた時の会話の何かが、先生を怒らせたのだろう。
「あっ……」
ジェノは少し考えて、一つの結論に至った。
「あの時、マリアは先生のことを、『良くない先生』と言った。でも、それは僕が……」
リニア先生が強くはないのではないかと、自分は心のなかで疑っていた。だから、マリアにその事をつい話してしまったのだ。
「うん。そこに自分で気がついたのは偉いわ」
リニアはそう言って鷹揚に頷く。
「ジェノ。君はマリアちゃんに、私の剣術の指導のことで不満を話したでしょう? だから、マリアちゃんは私に、『この先生は良くない先生』だって言ってきた。違うかしら?」
「はい。そのとおりです……。ごめんなさい」
ジェノは素直に謝罪して頭を下げる。
「あーあ。こう見えても、先生は君をしっかり強くしてあげようと思って色々と考えているのよ。それなのに、君は信じてくれていない。先生、傷ついちゃったなぁ」
リニアはどこかわざとらしい口調で言い、ぷいっと横を向いてしまう。
「その、ごめんなさい、先生。僕、先生が本当に強いのか心配になってしまって……」
ジェノはもう一度心から謝罪するが、リニアはこちらを向いてくれない。
どうしたらいいのだろうと、ジェノが困っていると、リニアは横を向いたまま、「本当に反省している?」と尋ねてきた。
「はい。反省しています」
ジェノはしゅんとして応える。
「もう、先生を疑ったりしない?」
「はい。疑いません」
「地味で苦しい稽古でも、頑張って続ける?」
「はい。頑張ります!」
ジェノはもともと、毎日の練習を止めたいと思ったことはない。
ただ、不安だっただけなのだ。本当にこの先生に剣術を教わっていれば強くなれるのかどうかが。
「うん。分かったわ。それなら許してあげる」
リニアはジェノに満面の笑顔を向けてくれた。
その事にジェノが「よかった」と安堵の息をつくと、リニアはクスッと笑う。
「よし、素直に自分の間違いを認められるいい子には、また先生の凄いところを少しだけ見せてあげよう!」
「……今度は、どんな料理なんですか?」
ジェノがそう言うと、リニアは意味ありげに含み笑いをする。
そして、リニアはジェノに少し待っているように言うと、庭の端に設置されている物置に向かって行き、布に包まれた少し長い物を持ってきた。
「はい。一ヶ月早いけれど、頑張った生徒への先生からのプレゼントよ」
リニアは笑顔で言い、ジェノにそれを手渡した。
「先生。これは?」
「布を外してみて」
「はい」
ジェノは促されるままに、布を外す。そして、それが何なのかが分かると、ジェノの目はキラキラと輝いた。
それは、木剣だった。けれど、以前にジェノが振っていたボロボロの木剣ではない。真新しい木剣だった。
「せっ、先生! これって、僕が貰っても……」
「もちろん。その剣は君のものよ。しかも、先生が愛情を込めて作った特別性なんだから」
リニアは得意げに胸を張る。
「あっ、ありがとうございます。すごく嬉しいです」
ジェノは涙が出てきそうになるのを堪えて、笑顔でお礼を言う。
その反応に、リニアも嬉しそうに微笑んで、
「よぉーし。それじゃあ、約束どおり先生のすごいところを見せてあげよう。もうその布はいらないでしょうから、先生に貸して頂戴」
ジェノの手から不要になった白い布を受け取り、それを何故か顔に巻きつけて目隠しをする。
「先生?」
ジェノはリニアが何をしようとしているのか分からない。
「さて、ジェノ。せっかく新しい剣が手に入ったんだから、思いっきり振ってみたいでしょう?」
「えっ、あっ、はい……」
「うんうん。それなら、嫌って言うほど振らせてあげるわ」
リニアはニンマリと口の端を上げる。
「今から私に向かってその剣で攻撃してきて。もちろん、剣だけでなく手足を使おうと、その辺の石を使ってもいいから、私に剣を当ててみなさい」
「そんな、危ないですよ!」
「こらこら。先生の心配をするなんて十年早いぞぉ。大丈夫よ。絶対に君の剣が当たることはないから」
リニアはそう言うと、「それじゃあ、始め!」と言って、いつもの修行をするときのように開始の合図をする。
ジェノは不安な気持ちを持ちながらも、木剣を握った。
そして、もしも当たっても痛くないようにと、弱めに木剣を横薙ぎに振ってリニアの左手の甲を狙う。
だが、あと少しで当たるというところで、リニアは左手を僅かに後方に動かし、その一撃を躱す。
「あらあら、随分と遅い攻撃ね。もしかして久しぶりに剣を持ったから、もう腕が疲れてしまったのかしら?」
リニアは目隠しをしているにも関わらず、まるでジェノの一撃が見えているかのように言う。
「せっかく明日からは剣を使った修行も始めようと思っていたのに。これじゃあやっぱりあと一ヶ月間は、今までどおりの修行にした方がいいかしらね」
リニアのその一言に、ジェノは焦る。
ようやく木剣を持てるようになったのだ。それは困る。
「ほらっ、ジェノ。遠慮せずにどんどん打ち込んできなさい。私の心配なんてしなくていいから」
「はい!」
ジェノは木剣をしっかりと握り、リニアに向けて勢いよく上から下にそれを振り下ろす。だが、やはり後少しというところで綺麗に躱されてしまう。
「ほらほら、一回一回剣を振るたびに固まっては駄目よ。上から下に振ったのなら、次は下から上に振るなりして、連続で斬りかかって来なさい」
「はい、先生!」
そう返事をするジェノの声は明るかった。
それは、ようやくリニアが、自分の先生がすごい人だと理解できたから。
いくら子供の攻撃とはいっても、普通の人が目隠しをした状態でそれを避け続けるなんてできるわけがない。それくらいはジェノにも分かる。
ジェノは連続でブンブンと木剣を振り回して攻撃する。
けれど、リニアはそれを全てギリギリのところで全て躱してしまう。
まるで当たる気がしない。
それは悔しいこと。でも今はそれ以上に嬉しい気持ちが強い。
ジェノはリニアの横や背中に回って攻撃をしてみたが、やはり攻撃はすべて空を斬るばかりだ。
それから体力が尽きるまでジェノは攻撃を続けたが、結局彼の攻撃は全てカスリもしなかった。
「はぁ、はぁ。凄い、凄いよ、先生!」
「ふっふっふっ。先生の凄さが分かったかしら?」
リニアはそう言うと、静かに目隠しを取る。
「でもね、ジェノ。先生の凄さはそれだけではないのよ」
「えっ?」
「もう、やっぱり気がついてないのね。ジェノ、君が以前に剣を振っていた時の事を思い出してみなさい」
「はい……」
ジェノは二ヶ月ほど前の、自分の姿を懸命に思い出す。
「あっ!」
以前の自分は、木剣を一振りするたびに体制が崩れて連続で剣を振ることが出来なかったはずだ。それなのに、今は連続で剣を……。
「よしよし。気がついたようね。以前の君は剣を一回振るたびにバランスを崩していた。その原因の一つは、君が使っていた剣の長さが、まるで君の体に合っていなかったことなの。
でも、今、君が使っているその剣は君の体にピッタリと合っている。だから、バランスが崩れないの」
その説明に、ジェノは歓喜で体を震わせる。
「そして、もう一つは、君の足腰と握力が弱かったことよ。でも、この二ヶ月間の修業でしっかりそれがついてきたから、剣をしっかり握れるし、体勢が崩れにくくなっている訳なのだよ」
リニアは得意げに言う。
「せっ、先生。僕は同じ体勢で立っているだけだったのに、握力もついているんですか?」
「ええ、そうよ。必ず私は手を前に出させていたでしょう? そして、掌を少しだけ広げさせていた。実はあれにも意味があって、握力が自然と鍛えられるのよ」
リニアの説明をそこまで聞き、ジェノは「ごめんなさい、先生!」と頭を下げた。
「先生はしっかり僕を強くしてくれていたのに、僕はまるでその事に気づいていませんでした。本当に、ごめんなさい」
ジェノは心から自分の不敬を詫びる。
「もう。そんなに謝らなくてもいいわよ。君は不安に思いながらも、私の言うとおりの修行を頑張った。しかも、自主的に練習もしていた。その結果がこの成長なの。
でも、まだまだ修行はこれからよ。そして、ますます修行は難しくて大変なものになっていくわ。
これからもきちんと先生の言うことを聞いて、頑張れるかしら?」
リニアに笑顔で問われ、ジェノは「はい。頑張ります!」と元気に答えるのだった。
まだまだ空は明るい。でも、なんだかとても疲れてしまったのだ。
「明日には、マリアの機嫌が直っていればいいけれど……」
ジェノはそんな事を願いながら、家に入ろうとしたのだが、そこで背中から声がかかった。
「ジェノ。お帰りなさい。マリアちゃんとは、ちゃんと仲直りできたの?」
声をかけて来たのは、庭へ向かう道に立っていたリニアだった。
「それが、あれからすぐに、マリアは怒って家に帰ってしまって……」
訳を説明すると、リニアは「ああっ、マリアちゃんが可哀想」と言い、ジト目でジェノを見てくる。
「ううっ。でも、先生。僕は何も悪いことは……」
「し・た・の・よ。しかも、マリアちゃんだけでなく、私にもね」
「えっ?」
ジェノは驚きの声を上げる。
マリアが怒った理由だけでもわからないのに、自分はいつの間に、先生にまで失礼なことをしてしまったのだろうか。
しかし、いくら考えても何をしたのか分からない。
「という訳で、先生は怒っています。だから、これから君にお説教をするので、庭まで来るように」
「……分かりました」
ジェノは言われるがままに、リニアの後を付いて庭に行く。
庭の中央付近まで行くと、リニアはくるりと振り返ってこちらを見た。
ただその顔は、怒っているというよりは、拗ねているように思える。
「さて、ジェノ。先生がどうして怒っているのかを考えてみなさい」
「……はい」
ジェノは素直に、リニアが怒っている理由を考える。
最初に、マリアのことで先生も怒っているのではと考えたが、それだと、悪いことをしたのはマリア一人になる。先生に悪いことをしたことにはならない。
それなら、先生は何に怒っているのだろう?
先生と公園で話しをしたのは短い時間だ。それならば、マリアと一緒にいた時の会話の何かが、先生を怒らせたのだろう。
「あっ……」
ジェノは少し考えて、一つの結論に至った。
「あの時、マリアは先生のことを、『良くない先生』と言った。でも、それは僕が……」
リニア先生が強くはないのではないかと、自分は心のなかで疑っていた。だから、マリアにその事をつい話してしまったのだ。
「うん。そこに自分で気がついたのは偉いわ」
リニアはそう言って鷹揚に頷く。
「ジェノ。君はマリアちゃんに、私の剣術の指導のことで不満を話したでしょう? だから、マリアちゃんは私に、『この先生は良くない先生』だって言ってきた。違うかしら?」
「はい。そのとおりです……。ごめんなさい」
ジェノは素直に謝罪して頭を下げる。
「あーあ。こう見えても、先生は君をしっかり強くしてあげようと思って色々と考えているのよ。それなのに、君は信じてくれていない。先生、傷ついちゃったなぁ」
リニアはどこかわざとらしい口調で言い、ぷいっと横を向いてしまう。
「その、ごめんなさい、先生。僕、先生が本当に強いのか心配になってしまって……」
ジェノはもう一度心から謝罪するが、リニアはこちらを向いてくれない。
どうしたらいいのだろうと、ジェノが困っていると、リニアは横を向いたまま、「本当に反省している?」と尋ねてきた。
「はい。反省しています」
ジェノはしゅんとして応える。
「もう、先生を疑ったりしない?」
「はい。疑いません」
「地味で苦しい稽古でも、頑張って続ける?」
「はい。頑張ります!」
ジェノはもともと、毎日の練習を止めたいと思ったことはない。
ただ、不安だっただけなのだ。本当にこの先生に剣術を教わっていれば強くなれるのかどうかが。
「うん。分かったわ。それなら許してあげる」
リニアはジェノに満面の笑顔を向けてくれた。
その事にジェノが「よかった」と安堵の息をつくと、リニアはクスッと笑う。
「よし、素直に自分の間違いを認められるいい子には、また先生の凄いところを少しだけ見せてあげよう!」
「……今度は、どんな料理なんですか?」
ジェノがそう言うと、リニアは意味ありげに含み笑いをする。
そして、リニアはジェノに少し待っているように言うと、庭の端に設置されている物置に向かって行き、布に包まれた少し長い物を持ってきた。
「はい。一ヶ月早いけれど、頑張った生徒への先生からのプレゼントよ」
リニアは笑顔で言い、ジェノにそれを手渡した。
「先生。これは?」
「布を外してみて」
「はい」
ジェノは促されるままに、布を外す。そして、それが何なのかが分かると、ジェノの目はキラキラと輝いた。
それは、木剣だった。けれど、以前にジェノが振っていたボロボロの木剣ではない。真新しい木剣だった。
「せっ、先生! これって、僕が貰っても……」
「もちろん。その剣は君のものよ。しかも、先生が愛情を込めて作った特別性なんだから」
リニアは得意げに胸を張る。
「あっ、ありがとうございます。すごく嬉しいです」
ジェノは涙が出てきそうになるのを堪えて、笑顔でお礼を言う。
その反応に、リニアも嬉しそうに微笑んで、
「よぉーし。それじゃあ、約束どおり先生のすごいところを見せてあげよう。もうその布はいらないでしょうから、先生に貸して頂戴」
ジェノの手から不要になった白い布を受け取り、それを何故か顔に巻きつけて目隠しをする。
「先生?」
ジェノはリニアが何をしようとしているのか分からない。
「さて、ジェノ。せっかく新しい剣が手に入ったんだから、思いっきり振ってみたいでしょう?」
「えっ、あっ、はい……」
「うんうん。それなら、嫌って言うほど振らせてあげるわ」
リニアはニンマリと口の端を上げる。
「今から私に向かってその剣で攻撃してきて。もちろん、剣だけでなく手足を使おうと、その辺の石を使ってもいいから、私に剣を当ててみなさい」
「そんな、危ないですよ!」
「こらこら。先生の心配をするなんて十年早いぞぉ。大丈夫よ。絶対に君の剣が当たることはないから」
リニアはそう言うと、「それじゃあ、始め!」と言って、いつもの修行をするときのように開始の合図をする。
ジェノは不安な気持ちを持ちながらも、木剣を握った。
そして、もしも当たっても痛くないようにと、弱めに木剣を横薙ぎに振ってリニアの左手の甲を狙う。
だが、あと少しで当たるというところで、リニアは左手を僅かに後方に動かし、その一撃を躱す。
「あらあら、随分と遅い攻撃ね。もしかして久しぶりに剣を持ったから、もう腕が疲れてしまったのかしら?」
リニアは目隠しをしているにも関わらず、まるでジェノの一撃が見えているかのように言う。
「せっかく明日からは剣を使った修行も始めようと思っていたのに。これじゃあやっぱりあと一ヶ月間は、今までどおりの修行にした方がいいかしらね」
リニアのその一言に、ジェノは焦る。
ようやく木剣を持てるようになったのだ。それは困る。
「ほらっ、ジェノ。遠慮せずにどんどん打ち込んできなさい。私の心配なんてしなくていいから」
「はい!」
ジェノは木剣をしっかりと握り、リニアに向けて勢いよく上から下にそれを振り下ろす。だが、やはり後少しというところで綺麗に躱されてしまう。
「ほらほら、一回一回剣を振るたびに固まっては駄目よ。上から下に振ったのなら、次は下から上に振るなりして、連続で斬りかかって来なさい」
「はい、先生!」
そう返事をするジェノの声は明るかった。
それは、ようやくリニアが、自分の先生がすごい人だと理解できたから。
いくら子供の攻撃とはいっても、普通の人が目隠しをした状態でそれを避け続けるなんてできるわけがない。それくらいはジェノにも分かる。
ジェノは連続でブンブンと木剣を振り回して攻撃する。
けれど、リニアはそれを全てギリギリのところで全て躱してしまう。
まるで当たる気がしない。
それは悔しいこと。でも今はそれ以上に嬉しい気持ちが強い。
ジェノはリニアの横や背中に回って攻撃をしてみたが、やはり攻撃はすべて空を斬るばかりだ。
それから体力が尽きるまでジェノは攻撃を続けたが、結局彼の攻撃は全てカスリもしなかった。
「はぁ、はぁ。凄い、凄いよ、先生!」
「ふっふっふっ。先生の凄さが分かったかしら?」
リニアはそう言うと、静かに目隠しを取る。
「でもね、ジェノ。先生の凄さはそれだけではないのよ」
「えっ?」
「もう、やっぱり気がついてないのね。ジェノ、君が以前に剣を振っていた時の事を思い出してみなさい」
「はい……」
ジェノは二ヶ月ほど前の、自分の姿を懸命に思い出す。
「あっ!」
以前の自分は、木剣を一振りするたびに体制が崩れて連続で剣を振ることが出来なかったはずだ。それなのに、今は連続で剣を……。
「よしよし。気がついたようね。以前の君は剣を一回振るたびにバランスを崩していた。その原因の一つは、君が使っていた剣の長さが、まるで君の体に合っていなかったことなの。
でも、今、君が使っているその剣は君の体にピッタリと合っている。だから、バランスが崩れないの」
その説明に、ジェノは歓喜で体を震わせる。
「そして、もう一つは、君の足腰と握力が弱かったことよ。でも、この二ヶ月間の修業でしっかりそれがついてきたから、剣をしっかり握れるし、体勢が崩れにくくなっている訳なのだよ」
リニアは得意げに言う。
「せっ、先生。僕は同じ体勢で立っているだけだったのに、握力もついているんですか?」
「ええ、そうよ。必ず私は手を前に出させていたでしょう? そして、掌を少しだけ広げさせていた。実はあれにも意味があって、握力が自然と鍛えられるのよ」
リニアの説明をそこまで聞き、ジェノは「ごめんなさい、先生!」と頭を下げた。
「先生はしっかり僕を強くしてくれていたのに、僕はまるでその事に気づいていませんでした。本当に、ごめんなさい」
ジェノは心から自分の不敬を詫びる。
「もう。そんなに謝らなくてもいいわよ。君は不安に思いながらも、私の言うとおりの修行を頑張った。しかも、自主的に練習もしていた。その結果がこの成長なの。
でも、まだまだ修行はこれからよ。そして、ますます修行は難しくて大変なものになっていくわ。
これからもきちんと先生の言うことを聞いて、頑張れるかしら?」
リニアに笑顔で問われ、ジェノは「はい。頑張ります!」と元気に答えるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。
リョウ
ファンタジー
何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる