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プレリュード
⑧ 『私のご主人様と私の先生②』
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マリアとセレクトが来てから、このルーシャンの街は急速に変わっていった。
もっとも、無学なメイに理解できたのは、朝昼晩の炊き出しを連日行ってくれたことと、病に苦しむ人間を、メイの母を含めた多くの人々を、お医者様に診てもらえるように手配してくれたことだけ。
けれど、それで十分だった。
メイ達親子はお腹いっぱい食べられるようになり、母も薬を分け与えられた。
それだけで、メイはこの身を差し出しても足りないほどの恩義を、マリアとセレクトに感じていた。
特に、あの日出会った縁で、セレクトは頻繁にメイの家を訪ねてくれて、母にこっそり癒やしの魔法を掛けてくれた。そのおかげで、一時は死の危険まで予感させるほど体調が悪かった母が、すっかり元気になり、仕事を再開できるようになったのだ。
「メイ。マリア様とセレクト様がして下さったことを、このご恩を、決して忘れてはいけないわよ」
母は何度も口癖のようにメイにそう言い、毎晩、二人が暮らすお屋敷に向かって礼をすることが日課になった。
けれど、ただ忘れないことと礼をするだけでは、メイの気持ちは満たされなかった。
だからこそ、メイは母の病が完治すると直ぐに、セレクトに何度も頭を下げて、マリアのお屋敷で働かせてほしいと懇願した。
どんなことでもするから、恩を返させてほしいと懸命に頼み込んだ。
そして、その結果、メイは侍女見習いとして、お屋敷で住み込みで雇って貰えることとなった。
それから、なんとか恩を返そうと懸命に頑張って、メイは仕事を覚えた。
けれど、仕事を始めてからも、マリアもセレクトも優しくて、メイの恩義は増えていく一方。
メイが読み書きと計算ができないことを知ったマリアは、礼儀作法の一環として、セレクトからそれらを学ぶようにと言ってくれ、時間があるときは自ら勉強を教えてくれた。
そして、ある程度の教養が身につくと、自分の専属の侍女の一人に取り立ててくれたのだ。
メイは心から感謝をしたが、マリアは恩に着せることなく微笑み、
「貴女が誰よりも頑張っているからよ。それに、ある程度年の近い侍女が居てくれたほうが、私も楽だからっていうのもあるけどね」
そう言って頭を撫でてくれた。
それからメイは、主人であるマリアが望む侍女になろうと決意し、一層努力を重ね、またプライベートの時間では気が休まるように、ある程度の砕けた話し方もするように努めた。
もちろん、他の侍女仲間から嫉妬される部分もあったが、皆、最後にはメイの頑張りを認めてくれた。
そして、長く付き合っていくうちに、マリアという女性のこともよく分かってきた。
容姿端麗、頭脳明晰、それに優しくて、街の人々からは深窓の令嬢だの女神様だのと言われているマリアも、根は普通の女の子なのだ。
もちろん、公務に手は抜かないが、少女趣味で甘いものと紅茶に目がなく、疲れているときは仕事を休みたいと不平を口にする。
もっとも、それを知ったからと言ってメイの忠誠心はいささかも揺るがない。
むしろ、素晴らしくも人間味のあるこの素敵なご主人様をますます尊敬、敬愛するようになった。
メイにとってマリアは、誰よりも素晴らしいご主人様であり、命の恩人であり、姉であり、友人でもあるのだ。
随分と複雑な関係かもしれないが、メイは恐れ多いとは思いながらも、この立場に要られることをこの上ない僥倖と思い、神に感謝をしている。
そして、そんなマリアと同等かそれ以上に、メイが心を奪われて居る存在が、セレクトである。
あの地獄のような日々に、一番最初に救いの手を差し伸べてくれた人。
膨大な知識を持ったマリアの家庭教師であり相談役でもある人物で、その上、魔法使いで元貴族なのだ。
ここまで聞くと完璧な人物に思えるが、実は結構抜けているところもある。
大事な時に寝坊することもあるし、魔法の研究とやらに明け暮れてご飯を食べ忘れることもしょっちゅうだ。
その上、空腹のあまり深夜にこっそり厨房に忍び込んで、侍女長達に不審者と勘違いされて、袋叩きにあったという悲惨なエピソードなども多い人なのだ。
当初、メイにとってセレクトは、物語に出てくる白馬の王子様のような人物だった。だがそれが、どこか抜けているけれど、とても優しい先生に変わり、そして、自分を甘えさせてくれるけれど、自分がついていないと少し心配な人に変わっていった。
そして、その過程で、メイは自分がセレクトに恋をしていることを自覚していった。
それ以来、メイは事あるごとにセレクトにアピールをしていく。
料理にとくに力を入れるようになったのも、これが理由である。けれど、セレクトは自分を子供扱いするばかりで、一向に自分の思いに気づいてくれない。
メイは同じ年頃の女の子と比較すれば、抜きん出て可愛いわけではなく、背も小さいし、出てほしい部分もあまり……というか、出ていない。
しかし、彼女はもう完全にセレクトに惚れきっていたので、いろいろな本を読んだり、耳年増な同僚の侍女や先輩侍女たちから話を聞き、あの手この手を駆使し、セレクトとの関係を深めようとしている。
特に、先輩侍女に貰った、『奥手な彼氏をその気にさせる方法と実践時の注意』という本はメイの聖典であり、この知識をフルに利用して、着々と外堀を埋めている最中だ。
だから、メイは思っていた。この幸せな時間がいつまでも続けばいいと。
けれど、その終わりは、もう間近に迫っていた……。
もっとも、無学なメイに理解できたのは、朝昼晩の炊き出しを連日行ってくれたことと、病に苦しむ人間を、メイの母を含めた多くの人々を、お医者様に診てもらえるように手配してくれたことだけ。
けれど、それで十分だった。
メイ達親子はお腹いっぱい食べられるようになり、母も薬を分け与えられた。
それだけで、メイはこの身を差し出しても足りないほどの恩義を、マリアとセレクトに感じていた。
特に、あの日出会った縁で、セレクトは頻繁にメイの家を訪ねてくれて、母にこっそり癒やしの魔法を掛けてくれた。そのおかげで、一時は死の危険まで予感させるほど体調が悪かった母が、すっかり元気になり、仕事を再開できるようになったのだ。
「メイ。マリア様とセレクト様がして下さったことを、このご恩を、決して忘れてはいけないわよ」
母は何度も口癖のようにメイにそう言い、毎晩、二人が暮らすお屋敷に向かって礼をすることが日課になった。
けれど、ただ忘れないことと礼をするだけでは、メイの気持ちは満たされなかった。
だからこそ、メイは母の病が完治すると直ぐに、セレクトに何度も頭を下げて、マリアのお屋敷で働かせてほしいと懇願した。
どんなことでもするから、恩を返させてほしいと懸命に頼み込んだ。
そして、その結果、メイは侍女見習いとして、お屋敷で住み込みで雇って貰えることとなった。
それから、なんとか恩を返そうと懸命に頑張って、メイは仕事を覚えた。
けれど、仕事を始めてからも、マリアもセレクトも優しくて、メイの恩義は増えていく一方。
メイが読み書きと計算ができないことを知ったマリアは、礼儀作法の一環として、セレクトからそれらを学ぶようにと言ってくれ、時間があるときは自ら勉強を教えてくれた。
そして、ある程度の教養が身につくと、自分の専属の侍女の一人に取り立ててくれたのだ。
メイは心から感謝をしたが、マリアは恩に着せることなく微笑み、
「貴女が誰よりも頑張っているからよ。それに、ある程度年の近い侍女が居てくれたほうが、私も楽だからっていうのもあるけどね」
そう言って頭を撫でてくれた。
それからメイは、主人であるマリアが望む侍女になろうと決意し、一層努力を重ね、またプライベートの時間では気が休まるように、ある程度の砕けた話し方もするように努めた。
もちろん、他の侍女仲間から嫉妬される部分もあったが、皆、最後にはメイの頑張りを認めてくれた。
そして、長く付き合っていくうちに、マリアという女性のこともよく分かってきた。
容姿端麗、頭脳明晰、それに優しくて、街の人々からは深窓の令嬢だの女神様だのと言われているマリアも、根は普通の女の子なのだ。
もちろん、公務に手は抜かないが、少女趣味で甘いものと紅茶に目がなく、疲れているときは仕事を休みたいと不平を口にする。
もっとも、それを知ったからと言ってメイの忠誠心はいささかも揺るがない。
むしろ、素晴らしくも人間味のあるこの素敵なご主人様をますます尊敬、敬愛するようになった。
メイにとってマリアは、誰よりも素晴らしいご主人様であり、命の恩人であり、姉であり、友人でもあるのだ。
随分と複雑な関係かもしれないが、メイは恐れ多いとは思いながらも、この立場に要られることをこの上ない僥倖と思い、神に感謝をしている。
そして、そんなマリアと同等かそれ以上に、メイが心を奪われて居る存在が、セレクトである。
あの地獄のような日々に、一番最初に救いの手を差し伸べてくれた人。
膨大な知識を持ったマリアの家庭教師であり相談役でもある人物で、その上、魔法使いで元貴族なのだ。
ここまで聞くと完璧な人物に思えるが、実は結構抜けているところもある。
大事な時に寝坊することもあるし、魔法の研究とやらに明け暮れてご飯を食べ忘れることもしょっちゅうだ。
その上、空腹のあまり深夜にこっそり厨房に忍び込んで、侍女長達に不審者と勘違いされて、袋叩きにあったという悲惨なエピソードなども多い人なのだ。
当初、メイにとってセレクトは、物語に出てくる白馬の王子様のような人物だった。だがそれが、どこか抜けているけれど、とても優しい先生に変わり、そして、自分を甘えさせてくれるけれど、自分がついていないと少し心配な人に変わっていった。
そして、その過程で、メイは自分がセレクトに恋をしていることを自覚していった。
それ以来、メイは事あるごとにセレクトにアピールをしていく。
料理にとくに力を入れるようになったのも、これが理由である。けれど、セレクトは自分を子供扱いするばかりで、一向に自分の思いに気づいてくれない。
メイは同じ年頃の女の子と比較すれば、抜きん出て可愛いわけではなく、背も小さいし、出てほしい部分もあまり……というか、出ていない。
しかし、彼女はもう完全にセレクトに惚れきっていたので、いろいろな本を読んだり、耳年増な同僚の侍女や先輩侍女たちから話を聞き、あの手この手を駆使し、セレクトとの関係を深めようとしている。
特に、先輩侍女に貰った、『奥手な彼氏をその気にさせる方法と実践時の注意』という本はメイの聖典であり、この知識をフルに利用して、着々と外堀を埋めている最中だ。
だから、メイは思っていた。この幸せな時間がいつまでも続けばいいと。
けれど、その終わりは、もう間近に迫っていた……。
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