彼は、英雄とは呼ばれずに

トド

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予告編

予告編④ 『夏のとある日』①

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 夏の日差しを避けるように日陰に居たジェノは、見るとはなしにナイムの街の大通りの方を眺めていた。

 あれは、異国の衣装だろうか? あの馬車は、何を積んできたのだろうか?

 多くの人々が行き交うその通りを見ているだけで、様々な情報がもたらされる。

 普段から無表情なことが多いので誤解されやすいが、ジェノはこういった待ち時間は嫌いではない。むしろ、何も考えずに、様々な光景をただ眺めているのが好きなのだ。
 
「早いものだな」
 もう、この街に来て三年の月日が流れたのかと、ジェノは思う。
 ただ、年齢も十八になり、大人の仲間入りとなったのだが、まるで実感がわかない。

 あの十五歳の時の自分よりは、進歩しているのだろうかと不安になる。
 それくらい、ジェノは自らの進歩を感じることが出来ないでいた。

「ジェノさん、お待たせしました」
「いや。ほとんど待っていない」
 ジェノは端的にメルエーナに応え、彼女と一緒に歩きだす。

 メルエーナは白い半袖のシャツに灰色のスカートというシンプルな服装だった。それが、彼女の素朴な雰囲気に合っていていいと思う。

 だが、自分の感想などどうでもいいだろう。だから別段、口に出すべきことではない。

 ジェノはそう思い、メルエーナに何も言わなかった。

「ジェノさん。お店に行く前に、海の方に行ってみませんか?」
 メルエーナからの突然の提案に、しかし、ジェノは「分かった」と頷く。

 今日は、メルエーナに頼まれ、彼女の水着を買いに行く予定なのだが、寄り道をするくらいの時間の余裕はある。
 それに、いくらなんでも、目的の店にいきなり行ってものを買ってお終いという買い物が面白くないことくらいはジェノにも分かる。

(まぁ、俺に頼むよりも、女友達に頼んで水着は選んだほうがいいと思うのだがな)
 そんな気持ちを飲み込み、ジェノはメルエーナの歩幅に合わせてゆっくりと海の方に向かう。

「ああっ、潮風が心地良いですね」
「そうだな。今日は少し涼しくて助かる」
 メルエーナに話を合わせると、彼女は何が楽しいのか、ニッコリと嬉しそうに微笑む。それを見ているのは、悪くない。
 悲しむ顔を見るより、笑顔を見るほうがずっといいとジェノも思う。

「おっ! ジェノさん!」
「何、ジェノさんがいるのか?」
 前から男たちの声が聞こえたかと思うと、人相のあまり良くない二十代半ばの男二人と、三十代前半の男一人が、ジェノのもとに駆け寄ってきて、「お久しぶりです、ジェノさん」と声を揃えて頭を下げる。

「ああ……」
 ジェノは嘆息混じりに応える。

「あっ、すみません。デートの最中に野暮なことを」
「ああ、そりゃあ本当に申し訳ねえ。ただ、俺達もすっかりデリアムさんのところで性根を入れ替えて働いている所をお見せしたかったんで」
「本当に、ジェノさんには感謝しています」
 三人の男達は、年下のジェノにペコペコ頭を下げて、また海岸の船着き場の近くに戻っていった。
 おそらく今は、休憩時間なのだろうとジェノは察する。

「すまない。いきなりのことで驚いただろう?」
 ジェノは申し訳無さそうに、あっけにとられているメルエーナに声をかける。

「はっ、はい。随分と年上のお友達がいらっしゃるんですね」
 メルエーナは苦笑交じりに言う。

「正直、俺も困っているんだ。俺のようなガキに、あんな喋り方をしなくていいと何度も言っているんだが……」
「何だか、随分とジェノさんに謙っていましたよね、皆さん」
 メルエーナはそう言いながら、申し訳無さそうな表情をする。

 言葉を聞くまでもなく分かる。
 今の男達とジェノの関係を知りたがっているのだ。

「歩きながら説明してもいいか?」
「はい。お願いします」
 メルエーナはまた嬉しそうに微笑む。
 本当に、何がそんなに嬉しいのだろうかとジェノは不思議に思うが、決してその事が不快ではなかった。

 ジェノは簡単にあの三人の男達との出会いについて話す。

「あいつらは、俺がこの街にやってきた時に俺を迎えに来てくれていたバルネアさんにちょっかいを出そうとしていた連中だ」
「えっ? バルネアさんに? ……あっ、ちょっとまってください。もしかして、ジェノさんがバルネアさんを助けるために痛い思いをさせた男の人達というのが、あの人達なんですか?」
 おそらくバルネアさんに聞いたのだろう。メルエーナもその時の話を少しは知っているようだ。

「ああ。そして、性懲りもなく、その事を根に持って、俺に復讐をしようとしていたんだ」
「……ええと、どういうことですか?」
 メルエーナは困ったような顔をする。それが、面白くて、ジェノは口の端をわずかに上げる。

「いや、なんとも馬鹿らしい話なんだが……」
 ジェノはそう前置きをして、話をすることにする。

 それは、ジェノがこの街で、まだ右も左も分からない時期の話。
 まだ幼さが残る頃の、そしてやさぐれていた時期の話だった。
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