220 / 249
第五章 邂逅は、波乱とともに
㊲ 『宝石』
しおりを挟む
それは、奇跡の光景としか言えないものだった。
湖がまばゆく輝いたが、その明かりは目をくらませたのは一瞬だった。
すぐに鏡面のような湖の水面には明るくも優しい、可視できる程の光に包まれたのだ。
周りが明るくなったおかげで、かなり遠くにだが人影が、レイルンの姿らしきものが見える。
メルエーナはその光景に目を奪われた。
湖から光り輝く煌めきが、数え切れないほどの光の粒が湧き上がっていく様が、あまりにも幻想的だったから。
レイルンは両手を広げている。そして、湖の明かりが彼に向かって収束しているようだ。
そして、レイルンの前で光の粒は重なっていき、少しずつだがそれが合わさっていく。
「……あっ、うっ……」
不意に、メルエーナの体から力が抜け始める。
「メルエーナ!」
危うく頭から転倒しそうになったが、ジェノが既のところで抱き支えてくれたので、事なきを得ることが出来た。
「すっ、すみません、ジェノさん……」
メルエーナは赤面しながら謝った。
男性の、ましてや好意を抱いている人の逞しい腕と胸板に優しく挟まれるのは、メルエーナには刺激が強かったのだ。
「謝るな……」
ジェノは短くそう言ったが、何故か彼は口惜しそうにしているように見えた。
(ごめんね、お姉さん。もう少しだから……)
メルエーナの頭に、レイルンの声が聞こえた。
だから、メルエーナもそれに応え、
(大丈夫。私は大丈夫だから、頑張って、レイルン君!)
そうレイルンを応援する。
「何だ、これはいったい何なんだ?!」
「見ろ! 湖の水面に、なにか小さいものが浮かんでいるぞ!」
「もしかして、あれは……」
不意に、第三者達の声がメルエーナの耳に入ってきた。
夜に突然このような光があふれているのだ。
それに村人たちが気づかないはずはない。そして、自分たちがいるこの場所が村から最も湖に近い箇所だ。そこに人々が様子を見に来るのは当然のことだった。
(ありがとう、お姉さん。妖精界から手伝いが来てくれた。だから、もうお姉さんから力を貰わなくても大丈夫みたい)
レイルンはそうメルエーナに言葉を伝えてきた。
「手伝い? えっ、あっ……」
メルエーナの体から力が抜けていく感覚がなくなるのと同時に、彼女とジェノの前に、輪郭こそ輝く緑色だが、ガラスのように透明な肢体の小さな少女が何体も周りを舞っていた。
「これも、レイルンと同じ妖精なのか……」
あのジェノさえも呆然としている。
しかし、それも無理の無いことだろう。
湖の鏡面から、小さいけれど美しい姿の妖精たちが何体も現れてくるのだから。
「ありがとう、優しい人間さん。私達の王子様のお願いを叶えてくれて」
「ありがとう、皆さん。私達の住処を、あなた達との友好の証を守り続けてくれて」
妖精たちは感謝の言葉を述べながら、光り輝く体で湖の周りを舞う。
湖の光だけでなく、色とりどりの妖精たちが舞うその様は、絵にも描けないほどの美しくも幻想的な姿だった。
「王子様? レイルン君が?」
メルエーナは思いもしなかった事態に驚く。
「ええ、そう。レイルンは、私達の王子様!」
「いたずら好きで、すぐに妖精の世界を飛び出してしまう困った子」
「でも、『あの鏡』を使いたいからと、王様の与えた試練を突破した!」
「それもみんな、大好きな女の子をお嫁さんにするため」
「でもお嫁さんは妖精じゃあなくて、人間の女の子」
「だから石が必要なの。星の輝を纏ったあの石が!」
妖精たちは口々に歌うような様子でメルエーナ達に教えてくれる。
「さぁ、みんな、僕に力を貸して! 石を作るんだ! レミィのために、二つと無い綺麗な石を!」
その言葉に、好き勝手に飛び回っていた妖精たちは、彼のもとに集まり、皆で両方の手のひらをレイルンの胸の前に集まった光の集合体に向かって何かを唱え始める。
あまりの光景に、続々と集まってきた村人たちも呆気にとられて何も言葉を口にできない。
それは、メルエーナとジェノも同じだ。
レイルンの胸の前に浮かんでいた光が、固形化して綺麗な形に整えられていく。
そして、それがダイヤモンドカットと呼ばれる形になると、レイルンはこちらに向かってゆっくり飛んできた。
いや、正確にはメルエーナの方に向かったのではない。
彼はメルエーナにニッコリと微笑んでくれたけれど、彼女の横を通り過ぎて行ってしまったのだから。
レイルンは、村人たちを飛び越えて、一人の女性の前までやってきた。
そして、宙に浮かんだまま、その女性と自分の顔の高さを合わせると、静かに胸の前の優しくも温かな光を宿す石を、この世に二つと無い宝石を彼女の前に差し出した。
「……レミィ。遅くなってしまったけれど、これが君との約束の石だよ。あの時、君が願った宝石を持ってきたんだ」
レイルンはポロポロと涙をこぼしながらも微笑む。
「……レイルン……。レイルン……」
レミィは宝石を前に、両手で顔を抑えながら涙を流し続ける。
そして、その光景を目にしているメルエーナも、二人につられて涙が流れるのを止めることが出来なかった。
湖がまばゆく輝いたが、その明かりは目をくらませたのは一瞬だった。
すぐに鏡面のような湖の水面には明るくも優しい、可視できる程の光に包まれたのだ。
周りが明るくなったおかげで、かなり遠くにだが人影が、レイルンの姿らしきものが見える。
メルエーナはその光景に目を奪われた。
湖から光り輝く煌めきが、数え切れないほどの光の粒が湧き上がっていく様が、あまりにも幻想的だったから。
レイルンは両手を広げている。そして、湖の明かりが彼に向かって収束しているようだ。
そして、レイルンの前で光の粒は重なっていき、少しずつだがそれが合わさっていく。
「……あっ、うっ……」
不意に、メルエーナの体から力が抜け始める。
「メルエーナ!」
危うく頭から転倒しそうになったが、ジェノが既のところで抱き支えてくれたので、事なきを得ることが出来た。
「すっ、すみません、ジェノさん……」
メルエーナは赤面しながら謝った。
男性の、ましてや好意を抱いている人の逞しい腕と胸板に優しく挟まれるのは、メルエーナには刺激が強かったのだ。
「謝るな……」
ジェノは短くそう言ったが、何故か彼は口惜しそうにしているように見えた。
(ごめんね、お姉さん。もう少しだから……)
メルエーナの頭に、レイルンの声が聞こえた。
だから、メルエーナもそれに応え、
(大丈夫。私は大丈夫だから、頑張って、レイルン君!)
そうレイルンを応援する。
「何だ、これはいったい何なんだ?!」
「見ろ! 湖の水面に、なにか小さいものが浮かんでいるぞ!」
「もしかして、あれは……」
不意に、第三者達の声がメルエーナの耳に入ってきた。
夜に突然このような光があふれているのだ。
それに村人たちが気づかないはずはない。そして、自分たちがいるこの場所が村から最も湖に近い箇所だ。そこに人々が様子を見に来るのは当然のことだった。
(ありがとう、お姉さん。妖精界から手伝いが来てくれた。だから、もうお姉さんから力を貰わなくても大丈夫みたい)
レイルンはそうメルエーナに言葉を伝えてきた。
「手伝い? えっ、あっ……」
メルエーナの体から力が抜けていく感覚がなくなるのと同時に、彼女とジェノの前に、輪郭こそ輝く緑色だが、ガラスのように透明な肢体の小さな少女が何体も周りを舞っていた。
「これも、レイルンと同じ妖精なのか……」
あのジェノさえも呆然としている。
しかし、それも無理の無いことだろう。
湖の鏡面から、小さいけれど美しい姿の妖精たちが何体も現れてくるのだから。
「ありがとう、優しい人間さん。私達の王子様のお願いを叶えてくれて」
「ありがとう、皆さん。私達の住処を、あなた達との友好の証を守り続けてくれて」
妖精たちは感謝の言葉を述べながら、光り輝く体で湖の周りを舞う。
湖の光だけでなく、色とりどりの妖精たちが舞うその様は、絵にも描けないほどの美しくも幻想的な姿だった。
「王子様? レイルン君が?」
メルエーナは思いもしなかった事態に驚く。
「ええ、そう。レイルンは、私達の王子様!」
「いたずら好きで、すぐに妖精の世界を飛び出してしまう困った子」
「でも、『あの鏡』を使いたいからと、王様の与えた試練を突破した!」
「それもみんな、大好きな女の子をお嫁さんにするため」
「でもお嫁さんは妖精じゃあなくて、人間の女の子」
「だから石が必要なの。星の輝を纏ったあの石が!」
妖精たちは口々に歌うような様子でメルエーナ達に教えてくれる。
「さぁ、みんな、僕に力を貸して! 石を作るんだ! レミィのために、二つと無い綺麗な石を!」
その言葉に、好き勝手に飛び回っていた妖精たちは、彼のもとに集まり、皆で両方の手のひらをレイルンの胸の前に集まった光の集合体に向かって何かを唱え始める。
あまりの光景に、続々と集まってきた村人たちも呆気にとられて何も言葉を口にできない。
それは、メルエーナとジェノも同じだ。
レイルンの胸の前に浮かんでいた光が、固形化して綺麗な形に整えられていく。
そして、それがダイヤモンドカットと呼ばれる形になると、レイルンはこちらに向かってゆっくり飛んできた。
いや、正確にはメルエーナの方に向かったのではない。
彼はメルエーナにニッコリと微笑んでくれたけれど、彼女の横を通り過ぎて行ってしまったのだから。
レイルンは、村人たちを飛び越えて、一人の女性の前までやってきた。
そして、宙に浮かんだまま、その女性と自分の顔の高さを合わせると、静かに胸の前の優しくも温かな光を宿す石を、この世に二つと無い宝石を彼女の前に差し出した。
「……レミィ。遅くなってしまったけれど、これが君との約束の石だよ。あの時、君が願った宝石を持ってきたんだ」
レイルンはポロポロと涙をこぼしながらも微笑む。
「……レイルン……。レイルン……」
レミィは宝石を前に、両手で顔を抑えながら涙を流し続ける。
そして、その光景を目にしているメルエーナも、二人につられて涙が流れるのを止めることが出来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。
リョウ
ファンタジー
何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる