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ときには、心躍る昼食を
② 『庶民的な熱々の料理』
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米が舞う。
大きな鍋を繰り返し振るい、米が鍋を焦がさんばかりの炎に瞬間的に炙られる。
「そして、お米がパラパラになったら……」
バルネアはお玉を使って鍋の中身を皿に移すと、初めて作ったとは思えない炒飯を完成させた。
「ジェノさん……。バルネアさんは、この料理を初めて作るんですよね?」
「ああ。そのはずだ」
メルエーナとジェノは、素直に驚きと賞賛の眼差しをバルネアに向ける。
「さぁ、味見をしてみて」
しかしバルネアは、いつもののほほんとした笑顔で、出来上がった料理を小皿に取り分けて、メルエーナ達の前に差し出す。
メルエーナとジェノは、言われるがまま、箸で料理を口に運ぶ。
熱々の米は卵でコーティングされ、細かく切られた豚バラ肉から溢れ出た肉汁と香味野菜の少し焦げた香り、そして香辛料がガッツリと効いているが後味は軽い。さらに、油を大量に使ったはずなのに、油っぽさをまるで感じない。
「どうかしら? 何かおかしな所はない?」
バルネアに尋ねられても、この炒飯という料理を初めて食べたメルエーナには、「美味しいです」と答えることしか出来ない。
バルネアにこの料理を教えたジェノも、ゆっくりと噛みしめるように味わい、「正直、俺の記憶の中にあるどの炒飯よりも美味しいです」としか答えられないようだった。
「良かったわ。二人にお墨付きをもらえて」
バルネアは嬉しそうに微笑むと、自分も炒飯を一口口に運ぶ。
「うん。やっぱりこの料理は、男の人には特に人気が出そうな料理ね。ガッツリ食べたいときにはたまらない料理だと思うわ」
バルネアはそう言うと、しかし顎に手をやり何かを考え込む。
「何か、問題でも?」
ジェノが尋ねると、バルネアは「ううっ、ジェノちゃん、怒らないでね」と不安げな表情をする。
「怒るわけがありませんよ。今回の特別なお客様にお出しするには、この料理では問題があるというだけですよね?」
ジェノがそう言うと、バルネアは「そうなのよ。ごめんなさい」と言って、何度も彼に謝る。
とてもその姿は、この国でも指折りの料理人とは思えないとメルエーナは思う。
「すごく美味しいし、きっと一口食べたら皿が空になるまで食べ尽くしたくなる素晴らしい料理だと思うわ。でも、後を引く味過ぎて、量が少ないと物足りないし、量が多いと、この一皿だけで満足してしまうと思うの。
もちろん、お店で普通に出す場合ならそれでもいいのだけれど、今回のお客様には、いろいろな料理をお出ししたいから、少しアレンジ出来ないかと思ってね」
「アレンジですか?」
初めて作った料理にもう何かをしようとしているバルネアに、メルエーナ達は驚き、
「あっ、思いついたわ!」
そして瞬く間にそう言い放つバルネアに、二人は苦笑するしかなかった。
今月末に、特別なお客様を店にお迎えしたいとバルネアが言い出したのは、昨日のことだった。
そして、そのためにメルエーナ達に、今まで食べたことのある庶民的な熱々の料理を教えて欲しいと頼んで来たのだ。
もちろん、協力するのは嬉しくこそあれ断る理由はないのだが、バルネアのような一流の料理人に、自分が食べてきた料理を紹介するまでも無いのではと危惧してしまう。
「餃子はこのまま採用ね。茹でるのも美味しいけれど、おかずとしての満足感は焼いた方が良さそう。あっ、でも、思い切って揚げてみるのも面白いかも」
バルネアは嬉しそうに微笑む。あれこれ考えるのが楽しくて仕方がないといった感じだ。
「スープはメルちゃんの家のを使わせて貰ってもいいかしら?」
「えっ、ええ。ですが、あれは本当にシンプルな……」
「いいの、いいの。そういったしみじみと美味しい料理を食べたいらしいから。それに、私もあのスープが大好きなのよ」
バルネアがいうスープとは、鶏肉を叩いて作った団子と春雨を入れてスパイスで味を整えただけのシンプルな料理だ。
ただ、幼い頃、メルエーナが体調を崩しそうになると、母が作ってくれた思い出の料理でもある。
「働き盛りの男の人とはいっても、疲労で胃腸が弱っているかも知れないから、まずはそれを整えて食欲を湧かせる料理も必要ね。
ああっ、困ったわ。食べてもらいたい料理が多すぎて、メニュー作りが大変だわ」
言葉とは裏腹に、バルネアは本当に嬉しそうだ。よほどその特別なお客様に自分の料理を食べさせたいのだろう。
「ですが、本当に、バルネアさん一人で大丈夫なのですか?」
ジェノが心配しているのは、その特別なお客様が来店されるときには、バルネアが一人で接客もすると言っていることだ。
「ええ、大丈夫よ。少しシャイなお客様で、以前うちの店に来たときと同じ雰囲気で食べたいとのご要望だから。ジェノちゃん達を追い出す形になって、ごめんなさいね」
バルネアはまた申し訳無さそうに謝る。
「いえ。お客様のご要望が第一ですから」
「ジェノさんの言うとおりです。私達に、気兼ねはしないで下さい」
めったに貸し切りにしないバルネアが、午後からとは言え、店を貸切状態にすることを了承したのだ。本当に特別なお客様なのだろう。
「ありがとう、ジェノちゃん、メルちゃん。そして、当日は、二人で楽しんできてね」
「あっ、その、はい……」
ジェノは小さく頷いただけだったが、メルエーナは少し頬を紅潮させて応える。
バルネアが心遣いをしてくれて、その日の午後からは、ジェノと二人で有名店でディナーを楽しんでくる事になっていた。
メルエーナとしては、デートのつもりで密かに気合を入れているのだ。
「さて、それじゃあデザートも考えないとね。ジェノちゃん、メルちゃん。また知恵を貸してね」
バルネアのその頼みに、ジェノはまた頷き、メルエーナはにっこり微笑み、「もちろんです」と応えるのだった。
大きな鍋を繰り返し振るい、米が鍋を焦がさんばかりの炎に瞬間的に炙られる。
「そして、お米がパラパラになったら……」
バルネアはお玉を使って鍋の中身を皿に移すと、初めて作ったとは思えない炒飯を完成させた。
「ジェノさん……。バルネアさんは、この料理を初めて作るんですよね?」
「ああ。そのはずだ」
メルエーナとジェノは、素直に驚きと賞賛の眼差しをバルネアに向ける。
「さぁ、味見をしてみて」
しかしバルネアは、いつもののほほんとした笑顔で、出来上がった料理を小皿に取り分けて、メルエーナ達の前に差し出す。
メルエーナとジェノは、言われるがまま、箸で料理を口に運ぶ。
熱々の米は卵でコーティングされ、細かく切られた豚バラ肉から溢れ出た肉汁と香味野菜の少し焦げた香り、そして香辛料がガッツリと効いているが後味は軽い。さらに、油を大量に使ったはずなのに、油っぽさをまるで感じない。
「どうかしら? 何かおかしな所はない?」
バルネアに尋ねられても、この炒飯という料理を初めて食べたメルエーナには、「美味しいです」と答えることしか出来ない。
バルネアにこの料理を教えたジェノも、ゆっくりと噛みしめるように味わい、「正直、俺の記憶の中にあるどの炒飯よりも美味しいです」としか答えられないようだった。
「良かったわ。二人にお墨付きをもらえて」
バルネアは嬉しそうに微笑むと、自分も炒飯を一口口に運ぶ。
「うん。やっぱりこの料理は、男の人には特に人気が出そうな料理ね。ガッツリ食べたいときにはたまらない料理だと思うわ」
バルネアはそう言うと、しかし顎に手をやり何かを考え込む。
「何か、問題でも?」
ジェノが尋ねると、バルネアは「ううっ、ジェノちゃん、怒らないでね」と不安げな表情をする。
「怒るわけがありませんよ。今回の特別なお客様にお出しするには、この料理では問題があるというだけですよね?」
ジェノがそう言うと、バルネアは「そうなのよ。ごめんなさい」と言って、何度も彼に謝る。
とてもその姿は、この国でも指折りの料理人とは思えないとメルエーナは思う。
「すごく美味しいし、きっと一口食べたら皿が空になるまで食べ尽くしたくなる素晴らしい料理だと思うわ。でも、後を引く味過ぎて、量が少ないと物足りないし、量が多いと、この一皿だけで満足してしまうと思うの。
もちろん、お店で普通に出す場合ならそれでもいいのだけれど、今回のお客様には、いろいろな料理をお出ししたいから、少しアレンジ出来ないかと思ってね」
「アレンジですか?」
初めて作った料理にもう何かをしようとしているバルネアに、メルエーナ達は驚き、
「あっ、思いついたわ!」
そして瞬く間にそう言い放つバルネアに、二人は苦笑するしかなかった。
今月末に、特別なお客様を店にお迎えしたいとバルネアが言い出したのは、昨日のことだった。
そして、そのためにメルエーナ達に、今まで食べたことのある庶民的な熱々の料理を教えて欲しいと頼んで来たのだ。
もちろん、協力するのは嬉しくこそあれ断る理由はないのだが、バルネアのような一流の料理人に、自分が食べてきた料理を紹介するまでも無いのではと危惧してしまう。
「餃子はこのまま採用ね。茹でるのも美味しいけれど、おかずとしての満足感は焼いた方が良さそう。あっ、でも、思い切って揚げてみるのも面白いかも」
バルネアは嬉しそうに微笑む。あれこれ考えるのが楽しくて仕方がないといった感じだ。
「スープはメルちゃんの家のを使わせて貰ってもいいかしら?」
「えっ、ええ。ですが、あれは本当にシンプルな……」
「いいの、いいの。そういったしみじみと美味しい料理を食べたいらしいから。それに、私もあのスープが大好きなのよ」
バルネアがいうスープとは、鶏肉を叩いて作った団子と春雨を入れてスパイスで味を整えただけのシンプルな料理だ。
ただ、幼い頃、メルエーナが体調を崩しそうになると、母が作ってくれた思い出の料理でもある。
「働き盛りの男の人とはいっても、疲労で胃腸が弱っているかも知れないから、まずはそれを整えて食欲を湧かせる料理も必要ね。
ああっ、困ったわ。食べてもらいたい料理が多すぎて、メニュー作りが大変だわ」
言葉とは裏腹に、バルネアは本当に嬉しそうだ。よほどその特別なお客様に自分の料理を食べさせたいのだろう。
「ですが、本当に、バルネアさん一人で大丈夫なのですか?」
ジェノが心配しているのは、その特別なお客様が来店されるときには、バルネアが一人で接客もすると言っていることだ。
「ええ、大丈夫よ。少しシャイなお客様で、以前うちの店に来たときと同じ雰囲気で食べたいとのご要望だから。ジェノちゃん達を追い出す形になって、ごめんなさいね」
バルネアはまた申し訳無さそうに謝る。
「いえ。お客様のご要望が第一ですから」
「ジェノさんの言うとおりです。私達に、気兼ねはしないで下さい」
めったに貸し切りにしないバルネアが、午後からとは言え、店を貸切状態にすることを了承したのだ。本当に特別なお客様なのだろう。
「ありがとう、ジェノちゃん、メルちゃん。そして、当日は、二人で楽しんできてね」
「あっ、その、はい……」
ジェノは小さく頷いただけだったが、メルエーナは少し頬を紅潮させて応える。
バルネアが心遣いをしてくれて、その日の午後からは、ジェノと二人で有名店でディナーを楽しんでくる事になっていた。
メルエーナとしては、デートのつもりで密かに気合を入れているのだ。
「さて、それじゃあデザートも考えないとね。ジェノちゃん、メルちゃん。また知恵を貸してね」
バルネアのその頼みに、ジェノはまた頷き、メルエーナはにっこり微笑み、「もちろんです」と応えるのだった。
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