商工会の経営指導員

志水

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過去の記憶——父と母が遺したもの

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当時の桜川市。



 父・三浦孝一は、街角の雑貨店を切り盛りしていた。



 誠実で、人一倍真面目で、不器用だけど、正義感の塊のような男だった。



ある日、商工会から呼び出され、父は震える手で会議室に入った。





 その日から、店の様子は変わっていった。



「補助金を取るには、この業者から仕入れろ」

 「この新プランに乗れば、将来性はある」



——その「新プラン」の仕掛け人が、当時の経営支援課長だった滝本伸一。

実は、滝本と裏で繋がっていた仕入れ業者に誘導し、リベートを受け取っていたのだ。



 父の仕入れ先は全て変えられ、経営は急速に悪化していった。

売上は激減し、補助金は出るどころか審査で落とされた。



「……もう、どうしていいか、分からないんだよ。」



三浦がまだ小学4年生だった冬の夜。



 父は、カウンターにうずくまり、声を殺して泣いていた。





そして——



「父さん、どこに行くの?」

「誠司、すまない……」





それが、最後の会話だった。







数日後、父が見つかったのは、河川敷だった。





警察の話では、自殺と断定されたが——





父の店舗は、その後競売にかけられて、村上という男に所有権が移された。











母は、父の死後、スーパーで働きながら女手一つで三浦を育てた。



長時間勤務、掛け持ち、



朝早くから働きに出て、夜遅くに帰る。



疲れ果てた顔のまま、三浦のために食事を作り、洗濯をし、眠る間もなく働き続けた。









「……母さん、大丈夫?」



「平気よ。」







そう言いながら、母の手はいつも冷たかった。







「誠司、ご飯できたよ。」







「母さん、見てよ!テストでまた100点とれたんだ!先生も褒めてくれた!

俺勉強して、将来お金持ちになって、母さんを楽にしてあげるからね!」



「それで、経済と経営の勉強をして、父さんみたいな人が報われる社会を作りたいんだ。」







「ありがとう、誠司」



疲れ切った顔で、カレーをよそいながら、母は微笑んだ。





父が他界し、母と2人の生活。たまに母の仕事が休みになり

一緒に食べるご飯の時間がとても幸せだった。









だが、運命は、そんな些細な幸せすらも三浦に許してはくれなかった。









職場で倒れ、運ばれた病院で告げられたのは「過労による多臓器不全」。

病室のベッドで、酸素マスクをつけながら、母は弱く微笑んだ。





「誠司……ごめんね……」



「いやだ、、母さん、いやだよ、、ひとりにしないでよ!」







「ごめんね、、あなたは……強く、生きなさい……。」









母の最期の言葉も、父と同じだった。







「何で、何で、父さんも母さんも、謝るんだよ、なんで、、。」













三浦は、その日からひとりになった。









「誠司、お前は、強く生きなさい……。」



その言葉は、今もなお、胸の奥に突き刺さっていた。
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