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真央の初めて

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「何もなくて悪いな」

そう言って真央を家家の中へと招き入れ、ソファに落ち着いたところで漸く安堵の息を吐く。

(断られなくてよかった!!)

軽く見えるように誘ったが、内心真央の反応が怖かった。




2日前、電話すると決意してからかけるまでに一時間。
電話を実際にかけて真央の声を聴けた俺はそれだけでとても幸せだった。

しかし真央は、会話が続けられないことに気まずさを感じていたらしい。
俺としてはそんなこと気にしていなかったのに。
電話は早々に切られた。
まあ、その後もLINEでは会話を続けたが。

俺は真央がLINEだと会話をできるのに、何故電話だとできなかったのかが分からない。

だからまた実際に会った時、どんな反応が返されるのだろうと不安だった。
現実としてはとても和やかに始まったから、よかった。



俺は、家へと誘ったら真央がどんな反応をするのか全く予想ができない。
急すぎて俊介に嫌われるのではないか、怪しまれるのではないか、ととても不安だった。

しかし真央は、さらに俺の予想を超えた反応を見せ、最後。

「じゃあ初めて同士?」

だ。

(かっわ!!超かわいい!!)

言い方がとても卑猥に聞こえた。
それに加え少し赤く染まる頬。
さらには上目遣い。

これに煩悩が起こらない男なんていないだろう。

俺の頬まで少し赤くなった気がする。



家には昼飯にできるような物は一つもないため、ハンバーガーを買って食べていくことにした。

「オレ好きでよく来るんだよね」
「へぇ、好きなのか」
「うん、好き」

(好き)

この言葉だけを言うのはずるくないだろうか。
俺のことを言っているのだと思いたくなる。

「特にダブルチーズ」
「俺はてりやきをよく食べるな」

真央はダブルチーズバーガーとポテト、白ブドウジュースをたのんでだ。
俺はテリヤキ三個、ポテト、コーラを。

「三個も入るの?」
「余裕。意外か?」
「全然。めっちゃ納得の量だけど、オレは入らないから一応の……確認?」
「なんではてなマークなんだよ。真央は炭酸じゃないのな」
「炭酸好きだけど、オレお腹弱いんだよね。コップ一杯ならともかくこの量ならお腹痛くなってトイレに籠る」

腹をさすりながら眉を下げて話す真央がとても可愛い。

周りの雑音が、真央と話していると全く気にならなかった。




二人で一緒に昼飯を食べた後そのまま一緒に俺の家で過ごすなんて、幸せすぎる。

「映画見るならハンバーガー、テイクアウトにしとけばよかったな」
「はっ!たしかに」

くっそうと悪態を吐きながら俺に頭を預けてくる真央。

(今めっちゃ幸せ!)


しかも真央のさっきの言葉は俺の胸に刺さった。

「沢山遊ぼう。寂しいだなんて絶対思わせないから!めっちゃくちゃ楽しくさせてあげる!」

俺のようなガラの悪い不良に、こんなに純粋な言葉をくれるヤツが他にいるだろうか。

例えいたとして、真央と同じ言葉を俺に囁いたとて胸にはかすりもしないだろう。
不良だということに怯えながらも俺を助けてくれた真央が言うことだからこそ、信じられるのだ。

「毎日?」
「毎日!」

俺はにやりと笑う。

「それは頼もしいな」

言質は取った。


真央、毎日俺の側にいて。
それだけで俺は、とても幸せに、楽しく過ごせるのだから。




真央がホラーを見るといいだすから、ホラーが得意なのかと思ったのに、得意どころか苦手なのだとすぐに分かった。

少しホラーが入るだけで肩をびくつかせ、無意識に俺のズボンや手をぎゅうぎゅうと握るのだ。
そんな行動で小動物が思い浮かぶ。
ずっと愛でていられる。

また、真央は本格的な場面になると目を瞑るのに、結局音声で気になるのかそっと目を開ける。
そしてやっぱり怖くて目を閉じる。
そんな無限ループに陥っている姿が、とても阿呆で愛おしい。


結局映画は一本見た。

「面白かった?」
「映画より真央のリアクションの方が面白かった」

真央はそれはなんか違うだろうと首を傾げる。
そんな真央を見て俺は誤魔化すように告げる。

「苦手なら言ってくれればよかったのに」

バツが悪そうに、でも堂々と。

「でも楽しませるって宣言しちゃったから」

(なぁ真央、お前どれだけ俺を惚れさせたら気が済むんだよ。もう離してやれねえ)

真央がいるのなら、この殺風景な部屋で、なにもしないでいても絶対に楽しい。

そんなことを言ったって困らせるだけだと分かっているなら言わないが。


映画一本見る間、何も飲んでいなかったから喉が渇いた。

水を取りに行こうとソファを立ち、歩いて行くと、真央が雛鳥のように俺の後をついてきた。

「どうした?」
「んー?なんとなく」

理由は特にないらしい。


そんなもんかと納得して無駄に大きい冷蔵庫を開く。

「………………俊介。コンビニ行こう。そんでオレんち行こう」
「おお?」
「なんで水とお酒しか入ってないの。固形物はどうしたの!?」
「んなの入れたことねーな」
「おかしは!?おかしも全くキッチンにないけど!?」
「ストックなんてしねーよ」

健全な高校生、いや人間としてこれはないとぶつぶつ言われる。

そんなことを言われても、食に興味なんてないのだ。
買う気にもならない。



そして真央に押し切られる形で今、コンビニでお菓子とジュースを選んでいる。

「オレ的には、こっちの方がパリッとしてて好き。あ、梅味も美味しいよ」

あまり喋ることが得意ではないのに一生懸命話してくれる。

「んじゃ、梅にする」
「うん!」

一瞬だが嬉しそうににやけた表情に不意打ちをつかれる。

(可愛い)

俺も少し笑顔になってしまい、コンビニ内の不良どもがさらに騒がしくなってとても鬱陶しい。
というか騒ぐな。
真央がチラチラと不良どもの方を気にしている。

(チッ!)

舌打ちなんてしたら真央を怖がらせてしまうかもしれないと思い、心の中に留めるが、内心奴らに喝を入れたくて仕方ない。


ジュースもそれぞれ選んでからレジへと向かう。

その途中で不良どもの横を通ることになり、奴らは勢いよく腰を折る。
そんなに必死に頭下げるくらいならオレらの道に突っ立つなと言いたい。
しかし真央との時間が少しでも消えてしまうのだと思うと不愉快で、視線で脅すだけにする。



グレーの外壁の一軒家を眺め、本当に真央の家は俺んちからとても近いのだと知る。
真央も近くだと言っていたが、本当に徒歩五分くらいの距離だ。
さらに、バイクだったら瞬殺だ。

これからは頻繁にお互いの家を行き来できるかもしれないと思ったら想像が膨らむ。


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