もし織田信長が超平和主義者で戦国を生きたら~誉れ? そんなのは犬に食わしたぞ~

秋刀魚妹子

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第4 話 当然の勝利と褒美

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 「さて、揃った様だな。 これより、我が家臣達と信長が率いる百姓達とで模擬戦を行う! 使うは木製の武器のみ、相手を殺傷する事は禁ずる! どのような戦い方でも構わん、両者尋常に勝負せい!」

 主君、織田信秀の号令により先に動いたのは柴田勝家である。

 「若様! 先程のお言葉、武士として聞き逃がす事出来ませぬ。 お相手は私一人で充分! 全員で掛かって参れ!」

 勝家は木刀を構え、百姓達と対峙した。

 周囲は、他の家臣達や足軽達が見物に押し寄せ、信長の奇行を見てやろうと囲んでいた。

 「よし! 源じい、訓練通りだ。 さっさとやってしまえ」

 「へ、へぇ! 本当に……よろしいのですか? 若様」

 源じい率いる百姓達は老人ばかりだが、長槍と短槍を模した木槍を軽々と持っている。

 「構わん。 やってしまえ」

 「ふははは! 若様、年寄を虐めるのは感心しませんな~。 平手殿が苦労なさる筈だ。 ふははは!」

 勝家の言葉に、周囲を囲う者達も笑う。

 「ほんじゃ、まぁ……やるべか」

 「「「「おうっ!」」」」

 源じい達は一斉に長槍を高く構え、そのまま木刀を構えて余裕の笑みを浮かべる勝家に振り下ろした。

 勝家の頭上に5本の長槍が迫る。

 「はっ! 何かと思えば、ただの長い棒切を振り下ろすだけですと? 馬鹿にしおって! こんなもの! は?」

 自身の力を過信した勝家は、木刀で受け止めようと試みたが振り下ろした長槍にそのまま打ち付けられた。

 「ぬぅぉぉぉっ?! がはっ!?」

 そして、体勢を崩した隙に残りの5人が短槍で勝家の全身を突いた。

 「其処まで!! 勝家……お主の負けだ」

 信秀の号令が入り、百姓達は信長の前へと戻り整列した。

 「なっ?! な!? お館様、お待ちを! 先程のは何かの間違いで……」

 「勝家……先程の槍が木製であった事に感謝せよ。 これが戦場であれば、お主は滅多刺しにされ事切れておる」

 勝家は信秀に食って掛かかったが、歯牙にもかけられなかった。

 そして、顔を真っ赤にしたまま地べたに座り込む。

 「柴田殿。 拙者にお任せを! あのような長い得物、距離を詰めれば此方のものです」

 今度は佐久間信盛が信長達の前へと進み出る。

 「信盛殿、我等も共に行くべきかと存じますが?」

 「いやいや、秀貞殿と勝介殿はゆるりと見物されよ。 直ぐに拙者が終わらせるゆえに」

 信盛は自信満々に木刀を構え、不敵に笑った。

 そして、どうなるか既に予想がついている信秀は額を抑えているのであった。

 「ふふふ、若様。 その得物、二度は喰らいませぬぞ!」

 源じい達が、長槍を振り下ろす前に走って間合いを詰めた信盛は勝利を確信していたが信長は苦笑いであった。

 そして、短槍を持った5人に全身を突かれ、吹き飛んだ所に長槍が振り下ろされた事で信盛の意識は遠い彼方へと消え去った。

 「やれやれ……俺の考えが間違ってたな。 武士は百姓以下かもしれんな」

 信長の軽口に、連れて来られた源じい達は冷や汗をかいていた。

 ◆◇◆

 「それまで!! はぁ……散々な結果となったな。 秀貞、お主はどう見た」

 全戦全敗となった信秀は笑いながら筆頭家老の林秀貞に問うた。

 「ふふ……殿。 平手殿の目に狂いはございませんでした。 若様こそ、次期当主に相応しき御方でしょうぞ。 正直に申しまして、あの長槍なる物が揃った相手と戦えと言われましたらお断り致します」

 「ふはははは! そうであるか! 勝家、信盛、勝介! お主等、どうであった?」

 「……確かに、鍛えられた百姓は侮れませぬ。 この勝家、目から鱗でございました」

 「あの長槍を模した木槍、拙者も持たせていただきましたが……あのように軽々と持てませぬ。 精進が足りませなんだ」

 「勝家殿と、信盛殿のおっしゃるとおりでござる。 我等は、たかが百姓と今まで侮っておりました。 百姓の老人達ですらあの筋肉、我等武士も見習えばこの尾張は更に強化されるでしょう」

 「うむ! 他の者達も見ていたな? くははは! 信長よ、お前の勝ちよ! 望み通り、お前の住む村に城壁を築く事を許可しよう。 もし、他の村も同じように戦える者達ばかりになるのなら喜んで財をなげうち守ろうぞ」

 父信秀の言葉を聞き、信長は満面の笑みで答えた。

 「はっ! ありがとう存じます父上! ですが、一応言っておきます。 家督は継ぎませぬ! ぜひ、弟の信成にお願い致します! では、これにて!」

 「わ、若様~! 待ってくれだべ~!」

 信長は言いたい事を告げた後、そそくさと逃げる様に村へと帰って行った。 その後ろを長槍を軽々と運ぶ源じい達が追いかける。

 「やれやれ……全くあやつめ。 ふふ、だが儂は諦めんからの」

 武士の誉れを打ち砕かれ、項垂れる勝家達を見ながら織田信秀は不敵に笑った。
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