もし織田信長が超平和主義者で戦国を生きたら~誉れ? そんなのは犬に食わしたぞ~

秋刀魚妹子

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第5話 母と弟来訪

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 先の模擬戦より1年、約束通り大工を掻き集め村を囲む城壁の建築がようやく進んでいた。

 何故着工に1年も時を要したかと云うと、200人の農民が住む農村であったが信長の行った模擬戦の功績が多くの農民達を奮い立たせ、今や人口が400人近くに増えたせいである。

 その為、農村の規模を増やし既に町を越える大きさの農村へと変わった。

 「皆の者、おはよう! 今日も大変だが、よろしく頼む!」

 「若様! お任せくだせい!」 「へへぇ! にしても、儂等大工の仕事を手伝うなんて……本当に若様は普通の御方ではねぇな」

 「おいおい、人聞きの悪い事を申すな。 それ、少しでも早く村を囲もうぞー!」

 そして、信長はあろう事か大工達に混じり職人仕事を手伝っていた。

 「若様~! 若様~!」

 石を運んでいると、農村の村長である源じいが慌ててやって来る。 年を感じさせない強靭な肉体は幾ら走っても疲れないのか、息切れすらしていなかった。

 「源じい、どうした? まだ長槍の訓練をしている最中だろ? まさか、敵襲か!?」

 源じいの様子に信長はただ事では無いと身構えたが、どうやら敵襲では無い様子であった。

 「ち、違うんですよ若様! 先触れが来まして……直に、若様の御母上様と弟様が参られるそうですじゃー!」

 「はぁ!? 母上と信行のぶゆきが来るのか?! こうしてはおれん、すまん! また手伝いに来るからな!」

 信長は血相を変えて、自宅の屋敷へと急ぎ戻った。

 ◆◇◆

 数刻後。

 「おっとっと……うむ、美味い」

 信長は屋敷で1人、台所に立っていた。

 「兄上ー? 居ますかー? 信行ですー!」

 すると、外から弟の声が聞こえ直ぐに信長は向かった。

 「信行ー! 久し振りだなー!」

 信長は玄関で待っていた、弟の信行を見つけるや否や抱きしめた。

 「兄上こそ、お久しぶりです! いたた、ふふ……兄上、痛いですよ」

 「すまんすまん! おぉ、立派になったなぁ。 兄は嬉しいぞ~!」

 この戦国の世にて、此処まで弟を可愛がる嫡男は世界広しといえど信長だけだろう。

 戦国の習わしでは、嫡男が死ねば弟が跡目を継げると兄弟での殺し合い等当たり前なのだから。

 信長は久し振りに会えた弟を、心の底から溺愛していた。

 それこそ、父信秀に城も跡目も全部弟の信行にやってくれと家臣達の目の前で言い放つ程である。

 「これこれ、三郎。 お前と違って勘十郎は身体が強う無いのよ? 溺愛するあまり、弟の骨を折っては大変よ。 ふふふ」

 三郎と勘十郎は信長と信行の通称であり、母は好んでその名で呼んでいた。

 そして、数人の護衛を連れてやって来たのは信長と信行の実母であるその人、土田御前つちだごぜんだ。

 「これは母上! お久しゅうございますな! お元気そうで何よりですよ」

 「ふふ、本当にね。 でも、三郎のおかげで那古野城に勘十郎と2人でのんびり暮らせてるのよ。 だから、病に掛かる事もなく元気なんだから」

 着物を着たまま腕を振る母を信長は嬉しそうに笑って見ていた。

 「そうだ! 2人共、腹は空いてないか? 飯を作ってあるから、一緒に食おう!」

 信長は2人を屋敷へと招き、普段は食べない昼食の準備を始めた。

 「え!? 兄上、まさかこの屋敷には1人で……?」

 「おうよ! 全部1人で出来ないと嫌な質でな。 料理、洗濯、掃除、全部俺がやっておるのよ! 凄いだろ? ははははは!」

 まだ齢14とは思えない信長の貫禄に、土田御前は笑う。

 「ふふふ、勘十郎……兄を真似ようとしてはいけませぬよ?」

 「む……何故ですか母上」

 少し頬を膨らませた信行を、土田御前はきっぱりと言葉で切り捨てる。

 「まだ1人で寝れぬお前には無理であろう? ふふふ」

 「は、母上! それは……言わぬ約束では」

 顔を赤くし俯く信行の頭を信長がわしゃわしゃと撫で回す。

 「信行、お前はまだ齢11だ。 安心しろ、お前はこの兄を超える器の武士になる! 絶対にな。 ほれ、食おう食おう」

 信行は、大好きな兄に撫でられ褒められ嬉しそうに笑った。

 「兄上……精進しますから、見ていて下さい! 頂きます! あっちぃ!」

 「ふはははは! 俺特性の味噌汁だ。 ゆっくり食えばいい」

 この戦国の時代に、自ら料理を作り毒見もせずに食べる息子の姿を土田御前は愛おしそうに見つめる。

 そして、護衛の者達が毒見に動こうとするのを制止し信長の出した料理を美味しそうに食べた。

 こんな血生臭い時代に、こんなに母と弟を愛し民を愛する息子が毒など入れる筈が無いと確信して。

 「あら……凄く美味しい」

 母に初めての手料理振る舞えた信長は満足そうには笑うのであった。
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