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第6話 戦嫌いの信長
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久し振りに、母と弟の3人で過ごした信長は英気を養い今日も朝から城壁造りの手伝いをしていた。
「ごめん! 若様、何をしておいでか!!」
大工達に混じり、石を運んでいると信長の教育係である平手政秀が馬に乗り駆けて来た。
「おぉ、平手の爺。 おはよう」
「おはようございます……ではござらん! 殿から文が届いておったでしょう! 松平家の岡崎城を皆で攻めると、達しがあった筈ですじゃ。 何故、清洲城に来られませぬ!」
凄まじい剣幕で平手は捲し立てるが、当の信長は聞いてないふりで作業を続ける。
「なぁ、平手よ。 聞いても良いか?」
「は、はぁ……」
「何故、戦をするのだ?」
突拍子もない信長の問いに、平手は何を言ってるんだという顔で返した。
「何故、わざわざ他の土地に攻め込む。 それも、味方の兵士を死なせてまで何故他の城を奪い土地を奪うのだ」
平手は信長が冗談ではなく、本気で聞いているのだと悟る。
「……生き残る為でござる」
「そうか。 この戦国の世を生き残る為か」
「若様は、戦がお嫌いですか」
平手の言葉に信長は顔を顰める。
「当たり前だろ。 俺には理解出来ん! 何故この国は皆、直ぐに殺し合うのだ? 今の領地で、皆が自分の民草を守り畑を耕し、平和に暮らせばそれで良い筈だ」
「若様……そのお考えが、今の世では命取りとなりまする。 野心溢れる大名達はこぞって、この日の本を統一しようと企んでおりますゆえ」
「はぁ……本当に理解できぬ。 真に愚かだ。 日の本を統一したとして、本来の役目をどうやって全うするのだ」
「若様、どうか殿の言う通り戦の準備をなされませい。 この尾張は敵に囲まれておりまする。 松平を抑えるために、岡崎城を奪わねばなりませぬ」
憤る信長を宥める平手政秀は、内心で信長に大名としての素質を感じていた。 同時に、この戦国の世に似つかわしくない誰よりも優しい心を持っている事を確信し微笑んだ。
「もし、松平を抑え込めずに攻め入られれば弟君の那古野城もどうなるか分かりませぬぞ? 若様は本当にお優しい御方です。 ですが、身内を害する者には容赦しないと平手は理解しておるつもりですぞ」
「ちっ……分かった。 だが、参戦する兵の数は俺が決めるからな」
「ほっほっほ! この平手、ようやく肩の荷がおりましたぞ。 出立は1週間後となります。 以前の模擬戦以来、兵や家臣達は若様がどんな手柄を立てるかと期待しておりますぞ」
馬を走らせ、清洲城に向けて帰って行く平手の後ろ姿を信長は何とも悪い笑みで見送った。
◆◇◆
1週間後。
清洲城の前には、既に何故か泥だらけの150名に及ぶ足軽達を引き連れた信長が入城し父信秀に頭を下げていた。
「父上、お待たせしました。 嫡男、織田三郎信長罷り越しました」
「ふっ、ようやく来おったか。 全く、待ちくたびれさせおって。 よし、皆のもの戦じゃ! 岡崎城を取るぞ!」
「「「「「「おうっ!!」」」」」」
家臣達がやる気に満ち溢れる中、信長だけは退屈そうに鼻をほじっていた。
幾人かの家臣達は、信長を目の敵にしているが彼等は知らない。 織田信長の戦嫌いが筋金入りだと。
こうして、織田信秀率いる軍は松平家が治める岡崎城へと進軍を開始した。
「ごめん! 若様、何をしておいでか!!」
大工達に混じり、石を運んでいると信長の教育係である平手政秀が馬に乗り駆けて来た。
「おぉ、平手の爺。 おはよう」
「おはようございます……ではござらん! 殿から文が届いておったでしょう! 松平家の岡崎城を皆で攻めると、達しがあった筈ですじゃ。 何故、清洲城に来られませぬ!」
凄まじい剣幕で平手は捲し立てるが、当の信長は聞いてないふりで作業を続ける。
「なぁ、平手よ。 聞いても良いか?」
「は、はぁ……」
「何故、戦をするのだ?」
突拍子もない信長の問いに、平手は何を言ってるんだという顔で返した。
「何故、わざわざ他の土地に攻め込む。 それも、味方の兵士を死なせてまで何故他の城を奪い土地を奪うのだ」
平手は信長が冗談ではなく、本気で聞いているのだと悟る。
「……生き残る為でござる」
「そうか。 この戦国の世を生き残る為か」
「若様は、戦がお嫌いですか」
平手の言葉に信長は顔を顰める。
「当たり前だろ。 俺には理解出来ん! 何故この国は皆、直ぐに殺し合うのだ? 今の領地で、皆が自分の民草を守り畑を耕し、平和に暮らせばそれで良い筈だ」
「若様……そのお考えが、今の世では命取りとなりまする。 野心溢れる大名達はこぞって、この日の本を統一しようと企んでおりますゆえ」
「はぁ……本当に理解できぬ。 真に愚かだ。 日の本を統一したとして、本来の役目をどうやって全うするのだ」
「若様、どうか殿の言う通り戦の準備をなされませい。 この尾張は敵に囲まれておりまする。 松平を抑えるために、岡崎城を奪わねばなりませぬ」
憤る信長を宥める平手政秀は、内心で信長に大名としての素質を感じていた。 同時に、この戦国の世に似つかわしくない誰よりも優しい心を持っている事を確信し微笑んだ。
「もし、松平を抑え込めずに攻め入られれば弟君の那古野城もどうなるか分かりませぬぞ? 若様は本当にお優しい御方です。 ですが、身内を害する者には容赦しないと平手は理解しておるつもりですぞ」
「ちっ……分かった。 だが、参戦する兵の数は俺が決めるからな」
「ほっほっほ! この平手、ようやく肩の荷がおりましたぞ。 出立は1週間後となります。 以前の模擬戦以来、兵や家臣達は若様がどんな手柄を立てるかと期待しておりますぞ」
馬を走らせ、清洲城に向けて帰って行く平手の後ろ姿を信長は何とも悪い笑みで見送った。
◆◇◆
1週間後。
清洲城の前には、既に何故か泥だらけの150名に及ぶ足軽達を引き連れた信長が入城し父信秀に頭を下げていた。
「父上、お待たせしました。 嫡男、織田三郎信長罷り越しました」
「ふっ、ようやく来おったか。 全く、待ちくたびれさせおって。 よし、皆のもの戦じゃ! 岡崎城を取るぞ!」
「「「「「「おうっ!!」」」」」」
家臣達がやる気に満ち溢れる中、信長だけは退屈そうに鼻をほじっていた。
幾人かの家臣達は、信長を目の敵にしているが彼等は知らない。 織田信長の戦嫌いが筋金入りだと。
こうして、織田信秀率いる軍は松平家が治める岡崎城へと進軍を開始した。
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