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58. レイモンの懇願
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……ん? ちょっと待って。城へ送った?
オリヴィエが目を覚ましたら、そこは魔王城って事よね?
いつか侍女頭に紹介したいとは思ったけれど。ごめん……ジゼル、後は頼んだわ。オリヴィエへの説明よろしくね――と心の中で謝っておく。
「それで、あれはどうする?」
魔王は顎で偽ヒナタを指す。
「取りあえず、今のうちに詳しく話を聞きたいです。彼は、聖女の力が必要だと言っていましたから。何かありそうです。それと、私が魔王を復活させたとも……」
それは事実だけど、悪女と言われるのは納得できない。悪役令嬢にならないように、必死で努力してきたのだから。
「そうだな。ビーチェに……勝手に触れるとどうなるかも教えておこう」
あ……それは別に大丈夫です。
なんだか噛み合っていないが、早く下ろしてほしいので反論は我慢する。
「それより! 偽ヒナタに魔王だと知られない方がいいかと」
偽ヒナタに聞こえないよう、小声で訴える。
「ならば、カルロスと呼べば良い」と、また顔を近づけてくる。
……うっ!
偽ヒナタのイケメン顔は大丈夫だったのに、やはり魔王のカルロスだとドキドキしまう。
お願いだから、鼓動よ早く静まって!
「て……手紙の差出人は、バスチアンです。仲間がやってくる可能性があるので、さっさと白状させましょう」
魔王が言うには、レンと違ってブレスレットの魔道具に盗聴機能は付いていないらしい。
一応、口裏を合わせてほしいと頼むと、カルロスはうなずき静かに下り立つ。
「ここは一体どこなんだ……?」と呟きながら、探るように辺りを見回していた偽ヒナタ。
それからこちらを見上げ、凄むようにカルロスを睨んだ。
「お前は、誰だっ! 魔術師……まさか魔族か!?」
人間の姿のカルロスを魔族と疑いはしても、さすがに魔王だとは思っていないらしい。
「ここは、カルロスが作った空間です。外からは干渉できません。ねえ、偽物のヒナタ様。貴方こそ誰かしら?」
「…………」
私の問いには答えず、偽ヒナタはジリジリと後退る。
「ビーチェに勝手に触れた……その手から処分しよう」
カルロスは綺麗で長い指先を偽ヒナタに向けた。
レンの腕が無い状態と同じように、指を一本ずつ消し、恐怖を与えていく。
「――ひっ!?」
自分の手を見た偽ヒナタは、サァーッと血の気が引き真っ青になっていく。
「痛みは無いから大丈夫だ。そのまま、安心して全て消えてしまえば良い」
演技とは思えないほどに、口角だけ上げたカルロスの表情は鋭く冷たい。見てるこっちまでゾクリとする。
「ま、待ってくれ! 僕はまだ死ねないっ。聖女に、妹を治してもらわなきゃなんだっ!!」
パニック寸前になった偽ヒナタは、必死で訴える。
「……妹?」
「そうだっ。宮廷魔術師団の偉い人が、聖女の力なら妹の病を治せると言ったんだ! だから――」
嘘を言っているとは思えない。カルロスも一瞬だけ瞳を赤くし、その言葉が嘘ではないと頷く。
「医者や治癒師では治せないの?」
「……匙を投げられた」
苦々しく言った偽ヒナタ。彼はレイモンだと名乗った。
話を聞けば、年の離れた妹が難病で、高額な治療費が嵩み家は没落。それでも両親は治療費の工面に奔走し、遠い親戚に頼みに行く途中で事故にあい……亡くなってしまったそうだ。
事故で両親を――……
日向としての記憶が甦った。胸がギュッと締め付けられる。
立て続いた不幸に、レイモンは残された妹のため、詐欺紛いなことに手を染め治療費を稼いでいた。
そんな時、魔術師団の人間から声をかけられたそうだ。他人に成り済ます詐欺師としての能力を買われて。
「今……妹は、環境の整った施設に入れてもらっている」
うーん、レイモンの妹は人質か……。
「それで、どうして勇者の妹のフリをしなければならないの?」
「勇者は妹探しで、魔王討伐を蔑ろにしているって……アリス様が」
蔑ろって!
そもそも討伐の指示なんて、国側はまだ出していないじゃない。
「無事に魔王討伐が済めば……アリス様が、聖女の力で妹を治してくれる約束なんだっ」
レイモンは肩を震わせて俯いた。
「勇者の……レンの妹も、両親を事故で亡くしているのよ」
つい、言ってしまった。
「――そんなの! 勇者の気持ちも分かるが、そっちは一刻を争わないだろ?」
「そうね。でも、討伐で失敗すれば勇者自身が死ぬ可能性はあるわ」
だからこそだ。魔王や魔族のみんな、義兄を……バスチアンの企みから守りたい。
ガバッと顔を上げたレイモンの表情に、戸惑いが滲む。
けれど、これ以上は言うつもりはないし、レイモンを責めるつもりもない。誰だって、譲れない大切なものはあるのだから。
「それで、アリスは本当に難病なんて治せるの?」
カルロスに向き直り、訊いてみた。
「ちょっとした怪我くらいは治せるだろう。病となると、状態によるな。難しいものなら力不足だ。少し楽になる程度だな」
「どういう事だ!!?」
魔王は、最初からアリスは聖女ではないと言っていた。
「アリスは、光属性の癒しの力はあっても……それほど強い力ではないということよ。貴方は騙されている。そもそも簡単に出来ることなら、なぜ討伐後なのかしら?」
「討伐には魔力が必要だから、その前に大切な魔力は使えないって……」
動揺するレイモン。矛盾を感じていても、藁をも掴みたい思いだったのだろう。
「じゃあ、どうすれば……」と、レイモンはペタンと床に蹲み込む。
「もう一つ訊きたいのだけど。どうして私を捕まえようと?」
「あんたが、魔王を復活させたんだろ? バスチアン様とアリス様が言っていた。だから、人質にすれば討伐が容易になるって」
「そのために、オリヴィエに毒を?」
どんな理由があっても、許せない。
「勇者に惚れて、こっちに味方をしてくれさえすれば良かったのに」
なにそれ。惚れないわよ、義理とはいえ兄妹なんだから……ま、知らないだろうけど。
ああ、だからレイモンは私を口説こうとしたのね。寝返りさえすれば、誰に惚れてもいいってことか。
はぁぁぁ……と、大きなため息が漏れてしまう。
隣で冷気が巻き起こっているが、項垂れたレイモンは気づかない。
「消すか」ボソっと言ったカルロスを、慌てて止める。
この件は、そんな単純な話ではない。魔術師バスチアンは、もっと別の何かをしようとしている気がする。
――ん?
そういえば、さっきカルロスはオリヴィエを簡単に解毒した。
「ねえ、カルロスならその病を治せる?」
「治すとは違うな。だが、其奴の妹の病の元凶なら消せる」
カルロスは、魔眼でレイモンの妹を見たのだ。
しかも、その原因が解っている。
「ほ、本当かっ!? 頼む、何でもする! 妹を助けてくれ!」
平伏すように懇願するレイモンを、カルロスは無表情で眺めていた。
そして、私を見つめニッコリと笑顔を浮かべると、レイモンに触られた場所――私の顎を同じようクイッと摘んだ。
「……ビーチェは、私に何を褒美にくれるのだ?」
「ふぇ!?」
カルロスに甘く耳元で囁かれ、ボッと一気に顔が熱くなる。
「……これじゃあ、落ちないわけだ」
レイモンはボソッと小さく呟いた。
オリヴィエが目を覚ましたら、そこは魔王城って事よね?
いつか侍女頭に紹介したいとは思ったけれど。ごめん……ジゼル、後は頼んだわ。オリヴィエへの説明よろしくね――と心の中で謝っておく。
「それで、あれはどうする?」
魔王は顎で偽ヒナタを指す。
「取りあえず、今のうちに詳しく話を聞きたいです。彼は、聖女の力が必要だと言っていましたから。何かありそうです。それと、私が魔王を復活させたとも……」
それは事実だけど、悪女と言われるのは納得できない。悪役令嬢にならないように、必死で努力してきたのだから。
「そうだな。ビーチェに……勝手に触れるとどうなるかも教えておこう」
あ……それは別に大丈夫です。
なんだか噛み合っていないが、早く下ろしてほしいので反論は我慢する。
「それより! 偽ヒナタに魔王だと知られない方がいいかと」
偽ヒナタに聞こえないよう、小声で訴える。
「ならば、カルロスと呼べば良い」と、また顔を近づけてくる。
……うっ!
偽ヒナタのイケメン顔は大丈夫だったのに、やはり魔王のカルロスだとドキドキしまう。
お願いだから、鼓動よ早く静まって!
「て……手紙の差出人は、バスチアンです。仲間がやってくる可能性があるので、さっさと白状させましょう」
魔王が言うには、レンと違ってブレスレットの魔道具に盗聴機能は付いていないらしい。
一応、口裏を合わせてほしいと頼むと、カルロスはうなずき静かに下り立つ。
「ここは一体どこなんだ……?」と呟きながら、探るように辺りを見回していた偽ヒナタ。
それからこちらを見上げ、凄むようにカルロスを睨んだ。
「お前は、誰だっ! 魔術師……まさか魔族か!?」
人間の姿のカルロスを魔族と疑いはしても、さすがに魔王だとは思っていないらしい。
「ここは、カルロスが作った空間です。外からは干渉できません。ねえ、偽物のヒナタ様。貴方こそ誰かしら?」
「…………」
私の問いには答えず、偽ヒナタはジリジリと後退る。
「ビーチェに勝手に触れた……その手から処分しよう」
カルロスは綺麗で長い指先を偽ヒナタに向けた。
レンの腕が無い状態と同じように、指を一本ずつ消し、恐怖を与えていく。
「――ひっ!?」
自分の手を見た偽ヒナタは、サァーッと血の気が引き真っ青になっていく。
「痛みは無いから大丈夫だ。そのまま、安心して全て消えてしまえば良い」
演技とは思えないほどに、口角だけ上げたカルロスの表情は鋭く冷たい。見てるこっちまでゾクリとする。
「ま、待ってくれ! 僕はまだ死ねないっ。聖女に、妹を治してもらわなきゃなんだっ!!」
パニック寸前になった偽ヒナタは、必死で訴える。
「……妹?」
「そうだっ。宮廷魔術師団の偉い人が、聖女の力なら妹の病を治せると言ったんだ! だから――」
嘘を言っているとは思えない。カルロスも一瞬だけ瞳を赤くし、その言葉が嘘ではないと頷く。
「医者や治癒師では治せないの?」
「……匙を投げられた」
苦々しく言った偽ヒナタ。彼はレイモンだと名乗った。
話を聞けば、年の離れた妹が難病で、高額な治療費が嵩み家は没落。それでも両親は治療費の工面に奔走し、遠い親戚に頼みに行く途中で事故にあい……亡くなってしまったそうだ。
事故で両親を――……
日向としての記憶が甦った。胸がギュッと締め付けられる。
立て続いた不幸に、レイモンは残された妹のため、詐欺紛いなことに手を染め治療費を稼いでいた。
そんな時、魔術師団の人間から声をかけられたそうだ。他人に成り済ます詐欺師としての能力を買われて。
「今……妹は、環境の整った施設に入れてもらっている」
うーん、レイモンの妹は人質か……。
「それで、どうして勇者の妹のフリをしなければならないの?」
「勇者は妹探しで、魔王討伐を蔑ろにしているって……アリス様が」
蔑ろって!
そもそも討伐の指示なんて、国側はまだ出していないじゃない。
「無事に魔王討伐が済めば……アリス様が、聖女の力で妹を治してくれる約束なんだっ」
レイモンは肩を震わせて俯いた。
「勇者の……レンの妹も、両親を事故で亡くしているのよ」
つい、言ってしまった。
「――そんなの! 勇者の気持ちも分かるが、そっちは一刻を争わないだろ?」
「そうね。でも、討伐で失敗すれば勇者自身が死ぬ可能性はあるわ」
だからこそだ。魔王や魔族のみんな、義兄を……バスチアンの企みから守りたい。
ガバッと顔を上げたレイモンの表情に、戸惑いが滲む。
けれど、これ以上は言うつもりはないし、レイモンを責めるつもりもない。誰だって、譲れない大切なものはあるのだから。
「それで、アリスは本当に難病なんて治せるの?」
カルロスに向き直り、訊いてみた。
「ちょっとした怪我くらいは治せるだろう。病となると、状態によるな。難しいものなら力不足だ。少し楽になる程度だな」
「どういう事だ!!?」
魔王は、最初からアリスは聖女ではないと言っていた。
「アリスは、光属性の癒しの力はあっても……それほど強い力ではないということよ。貴方は騙されている。そもそも簡単に出来ることなら、なぜ討伐後なのかしら?」
「討伐には魔力が必要だから、その前に大切な魔力は使えないって……」
動揺するレイモン。矛盾を感じていても、藁をも掴みたい思いだったのだろう。
「じゃあ、どうすれば……」と、レイモンはペタンと床に蹲み込む。
「もう一つ訊きたいのだけど。どうして私を捕まえようと?」
「あんたが、魔王を復活させたんだろ? バスチアン様とアリス様が言っていた。だから、人質にすれば討伐が容易になるって」
「そのために、オリヴィエに毒を?」
どんな理由があっても、許せない。
「勇者に惚れて、こっちに味方をしてくれさえすれば良かったのに」
なにそれ。惚れないわよ、義理とはいえ兄妹なんだから……ま、知らないだろうけど。
ああ、だからレイモンは私を口説こうとしたのね。寝返りさえすれば、誰に惚れてもいいってことか。
はぁぁぁ……と、大きなため息が漏れてしまう。
隣で冷気が巻き起こっているが、項垂れたレイモンは気づかない。
「消すか」ボソっと言ったカルロスを、慌てて止める。
この件は、そんな単純な話ではない。魔術師バスチアンは、もっと別の何かをしようとしている気がする。
――ん?
そういえば、さっきカルロスはオリヴィエを簡単に解毒した。
「ねえ、カルロスならその病を治せる?」
「治すとは違うな。だが、其奴の妹の病の元凶なら消せる」
カルロスは、魔眼でレイモンの妹を見たのだ。
しかも、その原因が解っている。
「ほ、本当かっ!? 頼む、何でもする! 妹を助けてくれ!」
平伏すように懇願するレイモンを、カルロスは無表情で眺めていた。
そして、私を見つめニッコリと笑顔を浮かべると、レイモンに触られた場所――私の顎を同じようクイッと摘んだ。
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