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68. 疲れました
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そぉ~っと、部屋の扉を開ける。
もう、すっかり真夜中になっていた。どうせなら、眠っていてくれたらと淡い期待をしたのだが……。
「姉上っ!!」
「お嬢様っ!」
残念ながらすぐに気づかれてしまった。
「二人とも……まだ起きていたのね」
オリヴィエが無事で、元気そうな姿を見られてとても嬉しい。ええ、本当に嬉しいのよ。
だけど!
バスチアンからの手紙を受け取り、オリヴィエが誘拐されたと知った晩から、まるで何日も経ったかのような濃すぎる一日を過ごした。
正直に言ってしまうと、疲れも眠気もピークに来ている。
よくよく考えてみれば、魔王の異空間にいたカウントされない時間だって過ごしているのだ。
一日って何時間だっけ……そんな疑問が脳裏に浮かぶ。
けれど、ずっと私の心配をしてくれてた二人に、疲れ切った顔は見せたくない。
「当たり前です! 僕のせいで姉上が捕まったと知って……ただ待つことしか出来ない、自分の不甲斐なさが悔しくて! ……本当に、無事で良かったです」
「オリヴィエのせいではないわ。私が自らバスチアンの所へ行ったのだから」
「そうは言っても、僕が捕まりさえしなければ……」
ギュッと握られた手に、オリヴィエの強い気持ちが伝わってくる。
ジゼルはどこまでオリヴィエに話したのかしら?
レイモンやあの魔王城での出来事は、まだジゼルに伝えていない。
それに、肝心なこの城についても……。
戻る前に、ノアと説明する内容を大まかには決めてあるが、どう話し出せばよいかと考えてしまう。
「ジゼルから、僕を助け出してくれた所までは聞きました。その後いったい何があったのか、ちゃんと教えてください」
オリヴィエから話してほしいと促される。
そして、今回のバスチアンの一件。
エルネストが、国王陛下に報告する内容と誤差が生じないよう、同じ内容を説明した。
「ただ、これから話すことは――誰にも言わないと約束してほしいの」
そう前置きすると、「誓って誰にも話しません」とオリヴィエは了承した。
私とキーランは、剣術大会の事故原因を、カルロスと一緒に保健委員としてこっそり調べていたことにした。
もちろん保健委員にそんな仕事などあるわけないが、私の性格をオリヴィエは知っているので、そこは突っ込まない。
その時に、たまたまバスチアンの企みに気がつき、ノア達と手を組んで隠れて勇者一行の手助けをした――という設定だ。
ノア曰く、オリヴィエの記憶は、魔族のみんなが学園に居た時の状態に戻してあると。
「それにしても、姉上は水臭いです」と、オリヴィエは少し拗ねたように言う。
「カルロス先生が姉上の恩人だったなんて。しかも、姉上が心配で学園の保健医になってまで見守っていたとは……。僕はお二人を応援します! やはり、姉上は政略結婚よりも、ご自分が懸想されている方と一緒になるべきですから」
はい? ……オリヴィエは、いま何と?
誰が誰を恋い慕っているって?
ガバッとジゼルを見ると、ニコニコしている。
ハクハクと言葉に詰まると、オリヴィエの話はダンスパーティーの日に遡っていく。
いつの間にか、私は領地付近で賊に襲われた事になっていた。
そういえば以前、ノアとの会話の中で賊に襲われた前提で話をしていたことがあったような……無かったような。
ジゼルは、ノアと事前打ち合わせでもしていたのか?
いや。そんな時間は無かったはず。だとしたら、ジゼルはノアからそれを前もって知らされていたに違いない。魔族のみんなは人間に成り済ますにあたって、人物像やその背景まで細かく決めているのだろうから。
オリヴィエの口から語られる、私の知らない話はまだ続く――。
危なかった私達を、たまたま居合わせたカルロスが、賊から助けてくれた……らしい。一緒に馬車に乗っていたロランとキーランも、その時からカルロスと親しくなっていたのだと。
そして、それはカルロス側の事情から、固く口止めされたことになっていた。
他国で魔王復活の噂を聞きつけ、この国の様子をお忍びで探りに来ていた時に出くわしてしまったからだと。
他国から、お忍び……だんだんと嫌な予感がしてくる。
「カルロス先生が、他国のやんごとなき家柄のお方であると……この城や、転移魔法を使える者を従えているのを見れば分かります。そして、学園に入るツテまでお持ちなら」
どこぞの王家の血筋――そう思うわよね。
魔王とは思うまい。
オリヴィエの話は、試練を乗り越え一緒になろうとする恋人達を、応援するかのような流れになっている。
「ちょ、ちょっと、オリヴィエ」と、言いかけると部屋がノックされた。
「オリヴィエ、遅くなってすまん。転移の準備が出来たそうだから、寮へ戻ろう」
久しぶりの学生服に身を包んだロランが、オリヴィエを迎えにやって来た。魔王とキーランがいれば転移陣なんて必要ないが、そこは敢えての人間らしさの演出だろう。
「ロラン、ありがとう。姉上、僕は明日の授業と父上への報告がありますから先に帰ります。姉上は、お疲れでしょうからご無理せず。学園には、体調が悪く明日は休むと連絡いれておきます」
「え……。あ、そうなの、助かるわ」
オリヴィエはジゼルに見送られ、ロランと二人で帰って行った。
内心では、私から話すことが少なくてホッとしている。
どうにも、嘘をつくのは苦手だ。特に信頼する相手に真っ直ぐに見られると、ついつい本当のことを言いたくなってしまう。
相手が敵なら、どうにでも演じ切ってみせるのだが。
……オリヴィエから、お父様への報告。あっ!
勇者一行が戻るまで、まだ数日はかかるだろう。
明日になったら、先に偽ヒナタのレイモンにも会いに行って話を合わせておかないとだ。
バスチアンの部屋の壁を破壊して、転移して来てしまったのだから。心配もしているだろう。
そんな事を考えているうちに、睡魔に襲われた。
もう、瞼が重くて開けていられない。
ソファーの肘掛けにもたれかかって目を閉じる。ほんの少しだけ、休むつもりだった。
微かな意識の中で、誰かが部屋へ入ってくる気配を感じたが、もう起き上がることは出来なかった。
たぶん、ジゼルだろう。
手慣れた動作で私を抱きかかえ、ベッドに寝かせてくれた。
優しい手で、そっと髪を撫でられると、そのまま深い眠りに落ちていく。
それは、とても懐かしい――安心感に包まれているみたいだった。
もう、すっかり真夜中になっていた。どうせなら、眠っていてくれたらと淡い期待をしたのだが……。
「姉上っ!!」
「お嬢様っ!」
残念ながらすぐに気づかれてしまった。
「二人とも……まだ起きていたのね」
オリヴィエが無事で、元気そうな姿を見られてとても嬉しい。ええ、本当に嬉しいのよ。
だけど!
バスチアンからの手紙を受け取り、オリヴィエが誘拐されたと知った晩から、まるで何日も経ったかのような濃すぎる一日を過ごした。
正直に言ってしまうと、疲れも眠気もピークに来ている。
よくよく考えてみれば、魔王の異空間にいたカウントされない時間だって過ごしているのだ。
一日って何時間だっけ……そんな疑問が脳裏に浮かぶ。
けれど、ずっと私の心配をしてくれてた二人に、疲れ切った顔は見せたくない。
「当たり前です! 僕のせいで姉上が捕まったと知って……ただ待つことしか出来ない、自分の不甲斐なさが悔しくて! ……本当に、無事で良かったです」
「オリヴィエのせいではないわ。私が自らバスチアンの所へ行ったのだから」
「そうは言っても、僕が捕まりさえしなければ……」
ギュッと握られた手に、オリヴィエの強い気持ちが伝わってくる。
ジゼルはどこまでオリヴィエに話したのかしら?
レイモンやあの魔王城での出来事は、まだジゼルに伝えていない。
それに、肝心なこの城についても……。
戻る前に、ノアと説明する内容を大まかには決めてあるが、どう話し出せばよいかと考えてしまう。
「ジゼルから、僕を助け出してくれた所までは聞きました。その後いったい何があったのか、ちゃんと教えてください」
オリヴィエから話してほしいと促される。
そして、今回のバスチアンの一件。
エルネストが、国王陛下に報告する内容と誤差が生じないよう、同じ内容を説明した。
「ただ、これから話すことは――誰にも言わないと約束してほしいの」
そう前置きすると、「誓って誰にも話しません」とオリヴィエは了承した。
私とキーランは、剣術大会の事故原因を、カルロスと一緒に保健委員としてこっそり調べていたことにした。
もちろん保健委員にそんな仕事などあるわけないが、私の性格をオリヴィエは知っているので、そこは突っ込まない。
その時に、たまたまバスチアンの企みに気がつき、ノア達と手を組んで隠れて勇者一行の手助けをした――という設定だ。
ノア曰く、オリヴィエの記憶は、魔族のみんなが学園に居た時の状態に戻してあると。
「それにしても、姉上は水臭いです」と、オリヴィエは少し拗ねたように言う。
「カルロス先生が姉上の恩人だったなんて。しかも、姉上が心配で学園の保健医になってまで見守っていたとは……。僕はお二人を応援します! やはり、姉上は政略結婚よりも、ご自分が懸想されている方と一緒になるべきですから」
はい? ……オリヴィエは、いま何と?
誰が誰を恋い慕っているって?
ガバッとジゼルを見ると、ニコニコしている。
ハクハクと言葉に詰まると、オリヴィエの話はダンスパーティーの日に遡っていく。
いつの間にか、私は領地付近で賊に襲われた事になっていた。
そういえば以前、ノアとの会話の中で賊に襲われた前提で話をしていたことがあったような……無かったような。
ジゼルは、ノアと事前打ち合わせでもしていたのか?
いや。そんな時間は無かったはず。だとしたら、ジゼルはノアからそれを前もって知らされていたに違いない。魔族のみんなは人間に成り済ますにあたって、人物像やその背景まで細かく決めているのだろうから。
オリヴィエの口から語られる、私の知らない話はまだ続く――。
危なかった私達を、たまたま居合わせたカルロスが、賊から助けてくれた……らしい。一緒に馬車に乗っていたロランとキーランも、その時からカルロスと親しくなっていたのだと。
そして、それはカルロス側の事情から、固く口止めされたことになっていた。
他国で魔王復活の噂を聞きつけ、この国の様子をお忍びで探りに来ていた時に出くわしてしまったからだと。
他国から、お忍び……だんだんと嫌な予感がしてくる。
「カルロス先生が、他国のやんごとなき家柄のお方であると……この城や、転移魔法を使える者を従えているのを見れば分かります。そして、学園に入るツテまでお持ちなら」
どこぞの王家の血筋――そう思うわよね。
魔王とは思うまい。
オリヴィエの話は、試練を乗り越え一緒になろうとする恋人達を、応援するかのような流れになっている。
「ちょ、ちょっと、オリヴィエ」と、言いかけると部屋がノックされた。
「オリヴィエ、遅くなってすまん。転移の準備が出来たそうだから、寮へ戻ろう」
久しぶりの学生服に身を包んだロランが、オリヴィエを迎えにやって来た。魔王とキーランがいれば転移陣なんて必要ないが、そこは敢えての人間らしさの演出だろう。
「ロラン、ありがとう。姉上、僕は明日の授業と父上への報告がありますから先に帰ります。姉上は、お疲れでしょうからご無理せず。学園には、体調が悪く明日は休むと連絡いれておきます」
「え……。あ、そうなの、助かるわ」
オリヴィエはジゼルに見送られ、ロランと二人で帰って行った。
内心では、私から話すことが少なくてホッとしている。
どうにも、嘘をつくのは苦手だ。特に信頼する相手に真っ直ぐに見られると、ついつい本当のことを言いたくなってしまう。
相手が敵なら、どうにでも演じ切ってみせるのだが。
……オリヴィエから、お父様への報告。あっ!
勇者一行が戻るまで、まだ数日はかかるだろう。
明日になったら、先に偽ヒナタのレイモンにも会いに行って話を合わせておかないとだ。
バスチアンの部屋の壁を破壊して、転移して来てしまったのだから。心配もしているだろう。
そんな事を考えているうちに、睡魔に襲われた。
もう、瞼が重くて開けていられない。
ソファーの肘掛けにもたれかかって目を閉じる。ほんの少しだけ、休むつもりだった。
微かな意識の中で、誰かが部屋へ入ってくる気配を感じたが、もう起き上がることは出来なかった。
たぶん、ジゼルだろう。
手慣れた動作で私を抱きかかえ、ベッドに寝かせてくれた。
優しい手で、そっと髪を撫でられると、そのまま深い眠りに落ちていく。
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