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69. 戻った日常
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スッキリとした目覚めだった。
「んーっ!」と、伸びをしてから起き上がる。
オリヴィエが待っていた部屋のソファで寝落ちした気がしたが……。
昨夜の記憶は曖昧だけど、しっかりいつもの部屋のベッドで休んでいた。寝間着にもちゃんと着替えているし、ジゼルが誰かに頼んで運んでもらったのだろう。
さて、今は何時かしら?
魔王城では、窓の外を見たところで時間はさっぱりわからない。
「おはようございます。ベアトリーチェお嬢様」
ジゼルがタイミングよくやって来た。
時間を尋ねると、普段の起床時間だった。習慣とは恐ろしい。
「ねえ、オリヴィエは窓の外は見なかったの?」
窓の外を見ていたら、違和感を覚えたはずだ。
身支度を整えてもらいながら、昨日の様子を聞いてみる。
「そうですね……ご覧になられてはいないかと。オリヴィエ様のお部屋には、窓がございませんでしたし、お目覚めも遅かったのです。状況の把握と、お嬢様のご心配でそれどころでは」
しかも、侍女頭が湯浴みやら食事やらで、オリヴィエを手厚くもてなしてくれたそうだ。気づけば夜になっていた……か。流石ね、侍女頭。
「ちなみに、私をベッドまで運んでくれたのは……」
「もちろん! カルロス様です」
もちろんって。ジゼル、何を当たり前な事を……的な視線を送らないでほしい。カルロスは魔王であって、恋人でもなければ従者でもないのだ。
「き、着替えは……」
「そちらは私がさせていただきましたので、ご安心ください」
「そ、そうよね」
ホッと胸を撫で下ろす。
「ところで、昨日のオリヴィエへの話って」
なんだか、変な流れになっていたような気がする。
「魔王様から言われておりました通り、お伝えしました」
「え? ノアじゃなくて?」
「私達をこちらに転移された後、暫くしてからこちらにいらっしゃいました。オリヴィエ様が目覚められたら、そう伝えるようにと」
カルロスは教会から去った後、わざわざ伝えにやって来たらしい。勇者達を放置したままで一体何を……意図がよく解らない。
「……その方が、楽しそうだ。とも、仰っていました」
「へ?」
「お考えになったのはノア様でしょうが」
ジゼルは苦笑した。
ノアの眉間に深い皺が寄った顔が思い浮かぶ。
保健医になってみたり、今度は人間界の王族。魔王の仕事が大変過ぎて、他に楽しみを求めているのだろうか?
「お嬢様、お着替えは制服ですか?」
「ええ、そうよ。休むのは止めたわ。偽ヒナタと安全に接触するなら、学園が最適でしょう」
あのレイモンのことだから、上手く立ち回っている気はするが。妹の件もあるから、大きな動きは出来ないはず。きっと、私の行方を探しているだろう。
「それで、みんなは?」
「ロラン様はあのまま寮へ。キーラン様はお戻りにならず、ノア様とカルロス様は早朝よりお出掛けになりました」
たぶん……。
バスチアンの残した、魔界や魔族に関わる痕跡を消しに行ったのだろう。魔族って、眠らなくても大丈夫なものなのか? 私には耐えられそうにないわ。
「では、私達も行きましょう」
制服に身を包み、学園寮へと転移した。
◇◇◇
熟睡できたせいか、朝の爽やか空気と水音がとても心地よく感じる。そんな中……。
「ベアトリーチェ様ぁ~!」
門を抜け噴水の手前まで来ると、手を振り嬉しそうに駆け寄る女生徒が。
淑女らしからぬ元気さは、ブレていない。
「ヒナタ様、ごきげんよう」
挨拶を交わすと、心底安堵した表情を垣間見せるが、すぐに偽ヒナタモードに戻る。
「私、お兄様が留学してしまって寂しくて。ベアトリーチェ様、放課後よかったらお話を……」
「姉上、ヒナタ嬢、おはようございます」
レイモンが上手く時間を作ろうとしたところで、オリヴィエがやって来た。
オリヴィエは、チロリと私を軽くにらむ。可愛い弟の目は「また無理して!」と言っている。
はは、ごめんね。
オリヴィエは視線を偽ヒナタに移すと、公爵令息らしく品良く微笑む。
あの時、オリヴィエは偽ヒナタを追って教会に行った。けれど、誘拐に偽ヒナタが関与しているかは決めかねているといった雰囲気だ。バスチアンと関係がなければ、友人レンの妹なのだから。無下にはできない。
レイモンには、バスチアンの件が全て片付き、妹が戻るまでは暫くこのまま偽ヒナタとして動いてもらう。
私を攫った魔術師……バスチアンの手下は、魔族ではなかったがこのまま放置する気はない。
その為にも、レイモンは必要だ。
ただ、男と知ってしまったからには、このまま女生徒でいいのかと、私の心情としては複雑極まりない。
早急に手を打たなければよね。
「私も、ヒナタ様とお話ししたいわ。放課後、お茶でもいかがかしら?」
「ぜひ! 嬉しいですっ」と、偽ヒナタが私の手を握ろうとした瞬間、ふわりと足が掬われた。
あ……これ。またか!
そう思った時には、ボスっと誰かの腕の中。白衣姿のカルロスの顔が真上にあった。
「やはりベアトリーチェさんは、まだ体調が良くないようですね」
しれっと言ったカルロス。
そのまま私を抱き上げ、保健室へ向かおうとするが――。立ち止まり、くるりと偽ヒナタの方を振り向く。
「ああ、ヒナタさん。寂しいのなら、少しカウンセリングしましょう。放課後、保健室に来るといいですよ」
「は……はいっ、必ず伺います」
有無を言わせないカルロスの笑み。偽ヒナタのレイモンは、私の手を握ろうとした手を慌てて引っ込め、苦笑いをした。
「カルロス先生、姉をよろしくお願いいたします!」
反対にオリヴィエは、キラキラした瞳で私達を見ている。
いや、だから違うのよ。
困った私を無視したカルロスは、「任せておきなさい」とにこやかに言った。
また、楽しい学園生活が始まりそうだわ……たぶん。
「んーっ!」と、伸びをしてから起き上がる。
オリヴィエが待っていた部屋のソファで寝落ちした気がしたが……。
昨夜の記憶は曖昧だけど、しっかりいつもの部屋のベッドで休んでいた。寝間着にもちゃんと着替えているし、ジゼルが誰かに頼んで運んでもらったのだろう。
さて、今は何時かしら?
魔王城では、窓の外を見たところで時間はさっぱりわからない。
「おはようございます。ベアトリーチェお嬢様」
ジゼルがタイミングよくやって来た。
時間を尋ねると、普段の起床時間だった。習慣とは恐ろしい。
「ねえ、オリヴィエは窓の外は見なかったの?」
窓の外を見ていたら、違和感を覚えたはずだ。
身支度を整えてもらいながら、昨日の様子を聞いてみる。
「そうですね……ご覧になられてはいないかと。オリヴィエ様のお部屋には、窓がございませんでしたし、お目覚めも遅かったのです。状況の把握と、お嬢様のご心配でそれどころでは」
しかも、侍女頭が湯浴みやら食事やらで、オリヴィエを手厚くもてなしてくれたそうだ。気づけば夜になっていた……か。流石ね、侍女頭。
「ちなみに、私をベッドまで運んでくれたのは……」
「もちろん! カルロス様です」
もちろんって。ジゼル、何を当たり前な事を……的な視線を送らないでほしい。カルロスは魔王であって、恋人でもなければ従者でもないのだ。
「き、着替えは……」
「そちらは私がさせていただきましたので、ご安心ください」
「そ、そうよね」
ホッと胸を撫で下ろす。
「ところで、昨日のオリヴィエへの話って」
なんだか、変な流れになっていたような気がする。
「魔王様から言われておりました通り、お伝えしました」
「え? ノアじゃなくて?」
「私達をこちらに転移された後、暫くしてからこちらにいらっしゃいました。オリヴィエ様が目覚められたら、そう伝えるようにと」
カルロスは教会から去った後、わざわざ伝えにやって来たらしい。勇者達を放置したままで一体何を……意図がよく解らない。
「……その方が、楽しそうだ。とも、仰っていました」
「へ?」
「お考えになったのはノア様でしょうが」
ジゼルは苦笑した。
ノアの眉間に深い皺が寄った顔が思い浮かぶ。
保健医になってみたり、今度は人間界の王族。魔王の仕事が大変過ぎて、他に楽しみを求めているのだろうか?
「お嬢様、お着替えは制服ですか?」
「ええ、そうよ。休むのは止めたわ。偽ヒナタと安全に接触するなら、学園が最適でしょう」
あのレイモンのことだから、上手く立ち回っている気はするが。妹の件もあるから、大きな動きは出来ないはず。きっと、私の行方を探しているだろう。
「それで、みんなは?」
「ロラン様はあのまま寮へ。キーラン様はお戻りにならず、ノア様とカルロス様は早朝よりお出掛けになりました」
たぶん……。
バスチアンの残した、魔界や魔族に関わる痕跡を消しに行ったのだろう。魔族って、眠らなくても大丈夫なものなのか? 私には耐えられそうにないわ。
「では、私達も行きましょう」
制服に身を包み、学園寮へと転移した。
◇◇◇
熟睡できたせいか、朝の爽やか空気と水音がとても心地よく感じる。そんな中……。
「ベアトリーチェ様ぁ~!」
門を抜け噴水の手前まで来ると、手を振り嬉しそうに駆け寄る女生徒が。
淑女らしからぬ元気さは、ブレていない。
「ヒナタ様、ごきげんよう」
挨拶を交わすと、心底安堵した表情を垣間見せるが、すぐに偽ヒナタモードに戻る。
「私、お兄様が留学してしまって寂しくて。ベアトリーチェ様、放課後よかったらお話を……」
「姉上、ヒナタ嬢、おはようございます」
レイモンが上手く時間を作ろうとしたところで、オリヴィエがやって来た。
オリヴィエは、チロリと私を軽くにらむ。可愛い弟の目は「また無理して!」と言っている。
はは、ごめんね。
オリヴィエは視線を偽ヒナタに移すと、公爵令息らしく品良く微笑む。
あの時、オリヴィエは偽ヒナタを追って教会に行った。けれど、誘拐に偽ヒナタが関与しているかは決めかねているといった雰囲気だ。バスチアンと関係がなければ、友人レンの妹なのだから。無下にはできない。
レイモンには、バスチアンの件が全て片付き、妹が戻るまでは暫くこのまま偽ヒナタとして動いてもらう。
私を攫った魔術師……バスチアンの手下は、魔族ではなかったがこのまま放置する気はない。
その為にも、レイモンは必要だ。
ただ、男と知ってしまったからには、このまま女生徒でいいのかと、私の心情としては複雑極まりない。
早急に手を打たなければよね。
「私も、ヒナタ様とお話ししたいわ。放課後、お茶でもいかがかしら?」
「ぜひ! 嬉しいですっ」と、偽ヒナタが私の手を握ろうとした瞬間、ふわりと足が掬われた。
あ……これ。またか!
そう思った時には、ボスっと誰かの腕の中。白衣姿のカルロスの顔が真上にあった。
「やはりベアトリーチェさんは、まだ体調が良くないようですね」
しれっと言ったカルロス。
そのまま私を抱き上げ、保健室へ向かおうとするが――。立ち止まり、くるりと偽ヒナタの方を振り向く。
「ああ、ヒナタさん。寂しいのなら、少しカウンセリングしましょう。放課後、保健室に来るといいですよ」
「は……はいっ、必ず伺います」
有無を言わせないカルロスの笑み。偽ヒナタのレイモンは、私の手を握ろうとした手を慌てて引っ込め、苦笑いをした。
「カルロス先生、姉をよろしくお願いいたします!」
反対にオリヴィエは、キラキラした瞳で私達を見ている。
いや、だから違うのよ。
困った私を無視したカルロスは、「任せておきなさい」とにこやかに言った。
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