転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

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79. 釈然としません

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 ――義兄と話した翌日。

 学園でどんな顔をして会えばいいか、正直まだ迷っている。

 周りには、決して知られてはいけない真実。お互い腹を割り、全てをさらけ出したのだ。たぶん、もうわだかまりはない……と思う。
 かといって急に仲良くするのも変だし、義妹としては、あまりよそよそしくするのも気が引ける。

 中身が日向だと完全にバレたからって……ぶっちゃけ過ぎたわ。
 だからね。
 寝て起きて思い返したら、何となく気恥ずかしいのよぉぉぉ。

「お嬢様は、お嬢様ですから」

 クスッと笑ったジゼルの顔が、鏡に映り込む。
 どうやら私は、髪を結ってもらいながら百面相をしていたようだ。

「そうよね。いつも通りが一番よね」
「はい。レン様もきっと……同じお気持ちでいらっしゃいますよ。さあ、完成でございます。お嬢様、いってらっしゃいませ」

 サイドに結い上がった可愛らしい花に、髪飾りを挿したジゼルは、優しく背中を押してくれた。

 
 そして、学園に着いてみれば、今までと変わらないレンの姿があった。魔族のみんなも変わらない。
 相も変わらずカルロスは不意打ちし、保健室から始まる平穏な(?)日常に戻った。

 そんな気がしていたのに――。



 ◇◇◇



 ……おかしいわっ。

 ここは、私の癒しの場所だったはずなのに!

「ベアトリーチェ様、ケリーはなんて可愛らしいのでしょう!」

 アリスは、とろけそうな笑顔でケリーを眺めていた。尻尾が動くたび、目が追っている。

 たまたま園庭を通りかかったアリスに、ケリーと遊んでいたのを見つかってしまったのだ。

 ただ単に、タイミングが悪かったとしか言いようがない。
 なんでもアリスは、一人でダンスの復習をしようと、目立たない場所を探していたそうだ。ダンスを美しく踊れるようにならなければ、エルネストに恥をかかせてしまからと。

 実は猫好きだったアリスに、ケリーを触らせてほしいと懇願された。ケリー自身が嫌がらなければ、私が断る理由はない。
 それからというもの、私が教室で見当たらないと、アリスはこの場所へやって来るようになった。

 そんなわけで、今日もまた……最近設置されたばかりのベンチに、二人と一匹で座っている。

 小さいが私好みの真っ白で綺麗なベンチは、まるで誰にも見つかってほしくないかのように、こっそりと置かれていた。今まで座る時は、芝にハンカチを敷いていたので、とても重宝しているが。
 
 まあ、誰が設置したのかは想像がつく。ノアが上手いことを言って、カルロスが……ってところだろう。

 しかも、ベンチになのに座面が柔らかいだなんて。何らかの魔法が付与されていそうだ。何にせよ、座り心地は良いし、ケリーは気持ち良さそうに寝ているのだから遠慮なく使わせてもらっていた。

 私とアリスの間に挟まれるように、ベンチの上でケリーは丸くなっている。目を閉じているケリーをそっと撫でると、気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らす。

「アリス様、エルネスト殿下とレン様がお探しではないですか?」

 オブラートに包みつつ、席を立つよう促してみた。

「お二人とも、今日はお忙しそうなんです。……お邪魔だったでしょうか?」

 心配そうに私を見てくるアリス。

「……そんな事ありませんわ」

 ニコッと微笑めば、アリスはポッと頬を染める。

 う、うーん。これでいいのだろうか? 

 違う意味で誤解されそうだけど。
『いいんじゃない』と言うように、ケリーが片目を開けて「ニャア~」と鳴いた。
 まあ、アリスも頑張っているのだ。時には、癒しも必要だろう。
 あの令息達の事件は、当然ながら誰にも知られることなく解決した。彼らに便乗して、噂を広げていた者も静かになったようだ。

 隠れみのを失ったのだから、そうなるわよね。
 そもそも、面と向かって文句を言える者であれば、とっくにアリスと対立しているだろう。本物の悪役令嬢としてね。

 私が炙り出したところで、また次が出てくるわ。

 世の中の大半は、自身が矢面に立たないで済む時だけ、強気に動いてくる。噂や陰口、小さな嫌がらせ、塵も積もればそれは大きな凶器となってしまうのに。
 そして、そんな事をしてくるのは――全てとは言わないが、普段は当たり障りのない人や、いい人の皮を被っている人間に多い。

 これからアリスは、そんな表裏のある貴族達を相手にしていかなければならないのだ。
 だからこそ、アリスは第二王子の婚約者として学んでいる。知識や教養、そして処世術も。君主国であるなら、地位のある者が民を守る為に必要なこと。

 うん。私に出来ることは、手を出し過ぎずに見守ることよね。

「ところで、宮廷の方のお勉強は進んでいますか?」
「はい。難しいことも沢山ありますが、専属の先生が優しく丁寧に教えてくださいます。それに、侍女のマルグリートさんも良くしてくれて」

 アリスは嬉しそうに微笑んだ。

「アリス様。侍女には必要ないですよ」 
「はい……周りからもそう言われました。ですが、侍女とはいえ、彼女はダンテス伯爵家のご令嬢ですから。私はまだ男爵家の者ですし……」 

 アリスは伏し目がちにそう言った。

「そういう問題ではなくてですね」

 ――ん?
 どこかで聞き覚えのある家名が出たような?

「あの……もう一度、侍女の名前を教えていただけます?」
「あ、はい。マルグリート・ダンテスさんです」

 思い出した。

 ダンテス伯爵は……偽ヒナタの後見人だった人物だ。伯爵自身はご高齢であったが、伯爵の娘達はまだ若いと聞いた。
 そうだ。
 だからこそ身寄りのない勇者の妹を心配し、後見人を買って出たのだ。バスチアンとの関係も疑ったが、ただの慈善家と結論付けられた。

 その娘の一人が、アリスの侍女に――ただの偶然かしら?
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