90 / 115
86-①. 急ぐ理由
しおりを挟む
「こちらの魔道具は、私が預かります」
ノアは、その本が魔道具としてどういう仕組みになっているか、キーランと分析すると言った。
「さて、時間がないので続けます。レンが元の世界に戻る為の準備が整いました」
「……え?」
「国王陛下の許可を得て、場所や必要な陣も用意してあります。バスチアンの核から全て割り出せましたので……ただ、あちらの世界にあるこの魔道具が発する微々たる魔力が消えるまで、残り僅かな時間だそうです」
ちらりと視線をやったノアに、カルロスがうなずいた。
説明を受け、ノアがたびたび時間がないと言っていた理由がようやく分かった。
転生した私と違い、義兄はいつか元の世界へ戻れるだろうとは、頭では理解していたけれど……。正直、こんなに早いとは思いもしなかった。
「もし、それを逃したら?」
「元の世界へ戻れたとして……。場所や時代、誤差がどのくらい出るのかは、計りかねます」
「それなら急がないと……今を逃してはいけないわね」
やっと兄妹として話せるようになり、少し寂しくもあるが、そんな事を言っている場合ではない。つらい現実が待っているとしても、義兄は帰ると言ったのだから。
◇◇◇
それからは、本当に早かった。水が流れるかの如く、時間が過ぎて行く――。
聞くところによると、ノアは学園から姿を消していた間、恐ろしい程の仕事量を猛スピードでこなし、帰還の準備を整えていたそうだ。勇者召喚を執り行った儀式の再現する為に、場所や術式の解析はもとより、術者の確保まで。
レンの帰還の許可については、バスチアンを倒し国を守った功績をたたえる褒賞として、国王陛下にエルネストが願い出たらしい。
国王としては、これから先――本当に魔王復活があるのなら、バスチアンの企みを阻止した勇者レンには、国へ残ってほしかったそうだが。魔王復活の兆しがないことや、宰相のお父様とエルネストの説得により、国王はしぶしぶ受け入れたのだとか。
アリスが力を失った今、勇者を手放したくないと思うのは当たり前かもしれない。
まあ、いざとなったら、カルロスが国王を操ってしまえば済むだろう。だが、そこまでの必要は無かったと、ノアは不敵な笑みを浮かべた。
操るわけでもなく、毎度お父様を手玉……上手く味方にできるノアの能力は、不思議としか言いようがない。
魔王城ではノアはエルネストを通じ、魔族との不可侵条約を結ぶ提案をしていたくらいだ。
憑依されたアリスに邪魔されてしまったが、結果的にはバスチアンのせいで魔王復活の話自体が無くなった。
ノアなら、どんな状況下においても臨機応変に対応するのだろう。
本当に味方で良かったわ、うん。
ちなみに一番の問題は、陣を起動させる魔術師の確保だったそうだ。
上位魔族だったバスチアンを凌ぐ魔術師なんて、国内にそうそう居るわけがない。居たらとっくに、最高位の宮廷魔術師として登録されているだろうから。
結局のところは、カルロスがやるのだけれど……。
普通の魔族や、ましてや人間になど出来る芸当ではないのだから当然そうなる。
で、まさかの――。
以前オリヴィエに伝えられた、カルロスの他国王族お忍び説がここで出てきた。楽しそうだから……ってだけの理由のあれだ。それを上手く利用したらしい。
実際に、カルロスが支配する国家を作っても良かったらしいが、魔族を人間界に住まわすわけにはいかない。そこはやはり、越えてはいけないルールあるのだ。
だから、作り話を現実とする為に、カルロスは海を越えた遠く離れた北の方角に、なんと島を作ってしまった。
とても閉鎖的な島で、他国との行き来は殆どない神秘的な島国――そんな具合にね。
その遥か遠い島国の最大の強みは、純度の高い魔石が大量に発掘される地だとした。
もちろん設定だけど魔石はある。魔素が充満している魔界には、鉱物の魔石ゴロゴロあるからそれを利用するらしい。
もしも、良い魔石が輸入できるようになれば、この国としては万々歳。最高の取引先となるだろう。
念のため、利益に目のくらんだ人間が勝手にやって来ないよう、極寒すぎて近づくことさえ難しい場所を選んだそうだが……。公には、結界で外からは入れないようにしてあり、地図上でしか見つけられない国としたそうだ。
実際は無人島だが、紙の上だけに存在する架空の王国が出来上がった。
そんな、魔力に溢れた土地の王太子がカルロス。友好関係を結ぶかどうかを見極める為に、お忍びでこの国にやって来たとした。
王太子カルロスは、相当な魔力の持ち主で魔術師としての資格もある。保健医になったのは、医学の心得もあり王立学園を中から見るためだったと。
……う、うーん。なんなの、その完璧王子は。まるで、そっちの方が小説みたいじゃない。
あれ?
オリヴィエは、何か違うことを言っていたような気がするが思い出せない。まぁ、いいわ。私が絡んでいないのならね。
兎にも角にも、好奇心旺盛な他国の王太子が今回の件を聞きつけ、魔法陣を起動させる魔術師をやりたいと申し出て来たのだ。
――今回は、そんなシナリオだった。
そりゃ、国王陛下も断れないわね。
◇◇◇
ついに――。
勇者レンが帰る日がやって来た。
完全に修復された魔塔の最上階。床には複雑な魔法陣が描かれていた。
バスチアンの魔道具の数々はきれいさっぱり撤去され、ただの広い部屋という感じだ。まだ、この部屋を使う者はいないらしい。
だから、この場にやって来たのは見知った人ばかり。宰相のお父様、王族代表としてエルネスト、魔術師役のカルロス、レン自身が選んだ友人としてノア、ロラン、キーラン、そして私だけだった。
いよいよだわ……。
「皆さん。今日は僕のために、ありがとうございます」
この世界にやって来た日に着ていたらしい、懐かしい洋服に身を包んだ義兄は、深々と頭を下げた。
ノアは、その本が魔道具としてどういう仕組みになっているか、キーランと分析すると言った。
「さて、時間がないので続けます。レンが元の世界に戻る為の準備が整いました」
「……え?」
「国王陛下の許可を得て、場所や必要な陣も用意してあります。バスチアンの核から全て割り出せましたので……ただ、あちらの世界にあるこの魔道具が発する微々たる魔力が消えるまで、残り僅かな時間だそうです」
ちらりと視線をやったノアに、カルロスがうなずいた。
説明を受け、ノアがたびたび時間がないと言っていた理由がようやく分かった。
転生した私と違い、義兄はいつか元の世界へ戻れるだろうとは、頭では理解していたけれど……。正直、こんなに早いとは思いもしなかった。
「もし、それを逃したら?」
「元の世界へ戻れたとして……。場所や時代、誤差がどのくらい出るのかは、計りかねます」
「それなら急がないと……今を逃してはいけないわね」
やっと兄妹として話せるようになり、少し寂しくもあるが、そんな事を言っている場合ではない。つらい現実が待っているとしても、義兄は帰ると言ったのだから。
◇◇◇
それからは、本当に早かった。水が流れるかの如く、時間が過ぎて行く――。
聞くところによると、ノアは学園から姿を消していた間、恐ろしい程の仕事量を猛スピードでこなし、帰還の準備を整えていたそうだ。勇者召喚を執り行った儀式の再現する為に、場所や術式の解析はもとより、術者の確保まで。
レンの帰還の許可については、バスチアンを倒し国を守った功績をたたえる褒賞として、国王陛下にエルネストが願い出たらしい。
国王としては、これから先――本当に魔王復活があるのなら、バスチアンの企みを阻止した勇者レンには、国へ残ってほしかったそうだが。魔王復活の兆しがないことや、宰相のお父様とエルネストの説得により、国王はしぶしぶ受け入れたのだとか。
アリスが力を失った今、勇者を手放したくないと思うのは当たり前かもしれない。
まあ、いざとなったら、カルロスが国王を操ってしまえば済むだろう。だが、そこまでの必要は無かったと、ノアは不敵な笑みを浮かべた。
操るわけでもなく、毎度お父様を手玉……上手く味方にできるノアの能力は、不思議としか言いようがない。
魔王城ではノアはエルネストを通じ、魔族との不可侵条約を結ぶ提案をしていたくらいだ。
憑依されたアリスに邪魔されてしまったが、結果的にはバスチアンのせいで魔王復活の話自体が無くなった。
ノアなら、どんな状況下においても臨機応変に対応するのだろう。
本当に味方で良かったわ、うん。
ちなみに一番の問題は、陣を起動させる魔術師の確保だったそうだ。
上位魔族だったバスチアンを凌ぐ魔術師なんて、国内にそうそう居るわけがない。居たらとっくに、最高位の宮廷魔術師として登録されているだろうから。
結局のところは、カルロスがやるのだけれど……。
普通の魔族や、ましてや人間になど出来る芸当ではないのだから当然そうなる。
で、まさかの――。
以前オリヴィエに伝えられた、カルロスの他国王族お忍び説がここで出てきた。楽しそうだから……ってだけの理由のあれだ。それを上手く利用したらしい。
実際に、カルロスが支配する国家を作っても良かったらしいが、魔族を人間界に住まわすわけにはいかない。そこはやはり、越えてはいけないルールあるのだ。
だから、作り話を現実とする為に、カルロスは海を越えた遠く離れた北の方角に、なんと島を作ってしまった。
とても閉鎖的な島で、他国との行き来は殆どない神秘的な島国――そんな具合にね。
その遥か遠い島国の最大の強みは、純度の高い魔石が大量に発掘される地だとした。
もちろん設定だけど魔石はある。魔素が充満している魔界には、鉱物の魔石ゴロゴロあるからそれを利用するらしい。
もしも、良い魔石が輸入できるようになれば、この国としては万々歳。最高の取引先となるだろう。
念のため、利益に目のくらんだ人間が勝手にやって来ないよう、極寒すぎて近づくことさえ難しい場所を選んだそうだが……。公には、結界で外からは入れないようにしてあり、地図上でしか見つけられない国としたそうだ。
実際は無人島だが、紙の上だけに存在する架空の王国が出来上がった。
そんな、魔力に溢れた土地の王太子がカルロス。友好関係を結ぶかどうかを見極める為に、お忍びでこの国にやって来たとした。
王太子カルロスは、相当な魔力の持ち主で魔術師としての資格もある。保健医になったのは、医学の心得もあり王立学園を中から見るためだったと。
……う、うーん。なんなの、その完璧王子は。まるで、そっちの方が小説みたいじゃない。
あれ?
オリヴィエは、何か違うことを言っていたような気がするが思い出せない。まぁ、いいわ。私が絡んでいないのならね。
兎にも角にも、好奇心旺盛な他国の王太子が今回の件を聞きつけ、魔法陣を起動させる魔術師をやりたいと申し出て来たのだ。
――今回は、そんなシナリオだった。
そりゃ、国王陛下も断れないわね。
◇◇◇
ついに――。
勇者レンが帰る日がやって来た。
完全に修復された魔塔の最上階。床には複雑な魔法陣が描かれていた。
バスチアンの魔道具の数々はきれいさっぱり撤去され、ただの広い部屋という感じだ。まだ、この部屋を使う者はいないらしい。
だから、この場にやって来たのは見知った人ばかり。宰相のお父様、王族代表としてエルネスト、魔術師役のカルロス、レン自身が選んだ友人としてノア、ロラン、キーラン、そして私だけだった。
いよいよだわ……。
「皆さん。今日は僕のために、ありがとうございます」
この世界にやって来た日に着ていたらしい、懐かしい洋服に身を包んだ義兄は、深々と頭を下げた。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される
鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」
王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。
すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。
頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。
「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」
冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。
公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。
だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
百門一新
恋愛
大妖怪の妖狐「オウカ姫」と、人間の伯爵のもとに生まれた一人娘「リリア」。頭には狐耳、ふわふわと宙を飛ぶ。性格は少々やんちゃで、まだまだ成長期の仔狐なのでくしゃみで放電するのもしばしば。そんな中、王子とのお見合い話が…嫌々ながらの初対面で、喧嘩勃発!? ゆくゆく婚約破棄で、最悪な相性なのに婚約することに。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
※ベリーズカフェに修正版を掲載、2021/8/31こちらの文章も修正版へと修正しました!
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―
冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。
のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。
けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。
※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。
前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!
鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……!
前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。
正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。
そして、気づけば違う世界に転生!
けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ!
私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……?
前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー!
※第15回恋愛大賞にエントリーしてます!
開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです!
よろしくお願いします!!
悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!
ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる