転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

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86-①. 急ぐ理由

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「こちらの魔道具は、私が預かります」

 ノアは、その本が魔道具としてどういう仕組みになっているか、キーランと分析すると言った。
 
「さて、時間がないので続けます。レンが元の世界に戻る為の準備が整いました」
「……え?」
「国王陛下の許可を得て、場所や必要な陣も用意してあります。バスチアンの核から全て割り出せましたので……ただ、あちらの世界にあるこの魔道具が発する微々たる魔力が消えるまで、残り僅かな時間だそうです」

 ちらりと視線をやったノアに、カルロスがうなずいた。
 説明を受け、ノアがたびたび時間がないと言っていた理由がようやく分かった。

 転生した私と違い、義兄はいつか元の世界へ戻れるだろうとは、頭では理解していたけれど……。正直、こんなに早いとは思いもしなかった。

「もし、それを逃したら?」
「元の世界へ戻れたとして……。場所や時代、誤差がどのくらい出るのかは、計りかねます」
「それなら急がないと……今を逃してはいけないわね」

 やっと兄妹として話せるようになり、少し寂しくもあるが、そんな事を言っている場合ではない。つらい現実が待っているとしても、義兄は帰ると言ったのだから。
 


 ◇◇◇



 それからは、本当に早かった。水が流れるかの如く、時間が過ぎて行く――。

 聞くところによると、ノアは学園から姿を消していた間、恐ろしい程の仕事量を猛スピードでこなし、帰還の準備を整えていたそうだ。勇者召喚を執り行った儀式の再現する為に、場所や術式の解析はもとより、術者の確保まで。

 レンの帰還の許可については、バスチアンを倒し国を守った功績をたたえる褒賞として、国王陛下にエルネストが願い出たらしい。

 国王としては、これから先――本当に魔王復活があるのなら、バスチアンの企みを阻止した勇者レンには、国へ残ってほしかったそうだが。魔王復活の兆しがないことや、宰相のお父様とエルネストの説得により、国王はしぶしぶ受け入れたのだとか。

 アリスが力を失った今、勇者を手放したくないと思うのは当たり前かもしれない。
 まあ、いざとなったら、カルロスが国王を操ってしまえば済むだろう。だが、そこまでの必要は無かったと、ノアは不敵な笑みを浮かべた。

 操るわけでもなく、毎度お父様を手玉……上手く味方にできるノアの能力は、不思議としか言いようがない。
 魔王城ではノアはエルネストを通じ、魔族との不可侵条約を結ぶ提案をしていたくらいだ。
 憑依されたアリスに邪魔されてしまったが、結果的にはバスチアンのせいで魔王復活の話自体が無くなった。
 ノアなら、どんな状況下においても臨機応変に対応するのだろう。

 本当に味方で良かったわ、うん。

 ちなみに一番の問題は、陣を起動させる魔術師の確保だったそうだ。
 上位魔族だったバスチアンを凌ぐ魔術師なんて、国内にそうそう居るわけがない。居たらとっくに、最高位の宮廷魔術師として登録されているだろうから。

 結局のところは、カルロスがやるのだけれど……。
 普通の魔族や、ましてや人間になど出来る芸当ではないのだから当然そうなる。

 で、まさかの――。

 以前オリヴィエに伝えられた、カルロスの他国王族お忍び説がここで出てきた。楽しそうだから……ってだけの理由のあれだ。それを上手く利用したらしい。
 実際に、カルロスが支配する国家を作っても良かったらしいが、魔族を人間界に住まわすわけにはいかない。そこはやはり、越えてはいけないルールあるのだ。

 だから、作り話を現実とする為に、カルロスは海を越えた遠く離れた北の方角に、なんと島を作ってしまった。
 とても閉鎖的な島で、他国との行き来は殆どない神秘的な島国――そんな具合にね。

 その遥か遠い島国の最大の強みは、純度の高い魔石が大量に発掘される地だとした。
 もちろん設定だけど魔石はある。魔素が充満している魔界には、鉱物の魔石ゴロゴロあるからそれを利用するらしい。
 もしも、良い魔石が輸入できるようになれば、この国としては万々歳。最高の取引先となるだろう。

 念のため、利益に目のくらんだ人間が勝手にやって来ないよう、極寒すぎて近づくことさえ難しい場所を選んだそうだが……。公には、結界で外からは入れないようにしてあり、地図上でしか見つけられない国としたそうだ。

 実際は無人島だが、紙の上だけに存在する架空の王国が出来上がった。
 
 そんな、魔力に溢れた土地の王太子がカルロス。友好関係を結ぶかどうかを見極める為に、お忍びでこの国にやって来たとした。
 王太子カルロスは、相当な魔力の持ち主で魔術師としての資格もある。保健医になったのは、医学の心得もあり王立学園を中から見るためだったと。
 
 ……う、うーん。なんなの、その完璧王子は。まるで、そっちの方が小説みたいじゃない。

 あれ?

 オリヴィエは、何か違うことを言っていたような気がするが思い出せない。まぁ、いいわ。私が絡んでいないのならね。
 
 兎にも角にも、好奇心旺盛な他国の王太子が今回の件を聞きつけ、魔法陣を起動させる魔術師をやりたいと申し出て来たのだ。
 
 ――今回は、そんなシナリオだった。

 そりゃ、国王陛下も断れないわね。



 ◇◇◇



 ついに――。
 勇者レンが帰る日がやって来た。


 完全に修復された魔塔の最上階。床には複雑な魔法陣が描かれていた。
 バスチアンの魔道具の数々はきれいさっぱり撤去され、ただの広い部屋という感じだ。まだ、この部屋を使う者はいないらしい。
 
 だから、この場にやって来たのは見知った人ばかり。宰相のお父様、王族代表としてエルネスト、魔術師役のカルロス、レン自身が選んだ友人としてノア、ロラン、キーラン、そして私だけだった。

 いよいよだわ……。

「皆さん。今日は僕のために、ありがとうございます」
 
 この世界にやって来た日に着ていたらしい、懐かしい洋服に身を包んだ義兄は、深々と頭を下げた。
 
 
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