転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり

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86-②. 蓮視点 選択

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 日向と話した後、ノアに呼び出され帰還について聞かされた。

「レンは、元の世界に戻ることを望むと?」

 ノアからの確認に「はい」と返事した。

「日向とも約束したんだ。俺には向こうの世界で、やる事があるから」
 
 正直、はじめは戻れなくてもいいって思っていた。日向だけ見つけられたらそれでいいって。
 こっちの世界では、勇者として丁重に扱われ、住み心地も悪くない。友人だってできた。

 だけど、それは……。日向を理由に、辛い現実から逃げているだけだと、頭の隅で俺は分かっていたんだ。
 そう、ずっと気づかない振りをしていた。

 そんな中、ベアトリーチェ嬢が日向だと知った。
 偽りではなく、俺は心の底から嬉しかったんだ。日向は過去を乗り越え、こっちの世界で精一杯生きている。だったら、俺は俺のすべき事を探さないといけない。

「わかりました。では、そのように早急に準備を進めます」
 
 俺の決心が揺らがないと確信したノアは、艶やかな銀髪を揺らし、颯爽と部屋から出ていった。


 
 ◇◇◇



 それから暫くの間――。

 もうすぐ会えなくなる、友人との時間を大切に過ごした。帰ったら、絶対にやることもなくなるだろう剣の稽古。ロランとオリヴィエに付き合ってもらって、思う存分にやった。
 
 少し様子のおかしかった日向……いいや、ベアトリーチェ嬢とも話が出来た。
 あんな風に不安そうな顔を見たら、ちょっと心配ではあるが。頼りになる仲間も居るし、俺の勘は大丈夫だと言っている。



 ――そして、帰還の準備が整ったと連絡が来た。

 相変わらず、魔王が俺を城に呼ぶ時は唐突だ。
 こっちの準備なんてお構いなしで、気づけば移動させられている。ちなみに今日の転移先は、魔王の執務室らしい。
 目の前にはテーブルを挟んでノアが座り、魔王は少し離れた執務机の向こうから、ジッとこちらを見ている。

 なんか……居心地悪いな。

 魔王に直接、ベアトリーチェ嬢が悩んでいたことを問い質してしまいたい気分だが。二人の問題に、俺が口を出すべきじゃない。……わかっているさ。

「さて、準備は整いました。そして、レンには選択肢があります」と、ノアが話し出した。

「選択肢?」

 帰還するかしないかは、もう伝えてある。ノアの言いたいことが分からない。
 首を傾げると、ノアはテーブルに本を置いた。それには見覚えがあった。

「これって、確か……日向の本じゃ?」
「そうです。但し、これは此方の世界にあったもので、レンがあちらで手にしていた物ではありません」
「……はぁ、そうなんですか?」
「今回の帰還に、これは必要ないので使いません」

 だったら、一体なんなんだ?

「向こうの世界に、これと同じ物が存在していれば――。その時間内に限り、魔王の力でこちらと繋げる事が可能だとわかりました。あくまで、レンが召喚させられた瞬間が軸となるので、それよりも先の世界には帰還することは出来ませんが」
「あの……さっぱり分からないんだけど?」
「では、要点だけを言いましょう。つまり、レンが召喚させられた時間よりも前であれば、戻ることは可能だということです」
 
 まさか!!

「時間を遡れるって事か……もしかして、日向が死ぬ前にも?」
「そうです」
「日向を助けることが……」
「出来ます」
「それって」

 ――過去を変えるって事だ。

 ゴクリと喉が鳴った。
 あの日の卒業式の前に戻れるなら、母さんを止められる。日向も助けられるし、いい事ばかりじゃないだろうか。

 ん? いや……ちょっと待て。

「もし、日向が転生しなければ……こっちの、今のベアトリーチェ嬢はどうなるんです?」
「何も変わらない」

 口を開いたのは、魔王だった。
 そして、ノアもうなずいた。

「過去を変えれば、新しい未来の世界が出来ます。けれど、元の世界はそのまま続いていくのです。あった世界が、消えるわけではありません。一つの世界が枝分かれするのです」
「じゃ……、日向が死んだ世界は?」
「そのまま存在します。今ならば……レンは、自分の生きたい未来を選ぶことが出来る。そういう話なのですよ」

 もしかして、パラレルワールド……。

 物語とかで読んだくらいで、原理なんて全く分からない。アニメだってそれ系は沢山あったけど、曖昧だった。
 ただ、今この二人が言っているのは、辛かった現実を逃れて元の世界で新しい未来を選べるのだと――そう、俺だけが。

 それじゃあ、意味がないんだっ!!
 
 魔王とノアを見据えて、ゆっくり息を吸う。
 
「僕の答えは、一択です。あの日、召喚された瞬間に戻ることを望みます」
「本当にいいのですか? 妹を助けられるのですよ?」
「日向は……きっと、もう大丈夫です。これから先、本当に頑張って助けなきゃいけない人は、別にいるんです」

 義父さん、母さん……そして、弱かった自分自身。

「流石、勇者ですね」

 ノアの口から出た言葉は、決して嫌味ではなかった。
 初めて向けられた、優しい眼差しに目頭が熱くなる。それを気取られないように、グッと口元に力を入れた。

「魔王、日向を……妹をよろしくお願いします!」
「うむ」

 頷く魔王の短い返事。
 だけどその顔は、日向を――『大切に守る。任せておけ』と言っている気がした。
 
 ほら、日向。大丈夫……お前ら絶対両思いだぞ。なんたって、二人はパートナーなんだからな。



 ◇◇◇

 

 ――帰還の日。

 見送りしてもらう人は、前もって決めてある。
 アリス嬢には悪いけど、選ばなかった。嫌いとか、そういうことじゃない。彼女は彼女なりにケジメをつけたんだ。
 俺を召喚した時と同じ場所に、今の彼女を立たせたくなかった。中途半端に、もう過去と関わらせたくない。挨拶は学園でしたから充分だ。

 クローゼットの中から、トレーナーとズボンを取り出す。ピシっとした学園の制服と違い、ヨレヨレで何だか情けないが。

 ダボっと着ていたはずの服は、袖を通すとかなりキツくなっていた。筋肉がしっかりついた体は、この世界で頑張った証のようで嬉しかった。

 さあて! 帰るかっ。

 勢いよく寮の扉を開け、一歩踏み出した。

 
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