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94. 独白
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寮を出て、どのくらいの距離を飛んだのだろうか?
この世界を上から眺める景色は、また格別だった。
日向として過ごした世界とは全く違う。夜まで煌々と輝く灯りはないが、自然豊かで特徴的な街並みは美しい。月明かりに照らされて、おとぎの国に迷いこんだみたいだ。
「ビーチェ、人間界では話せそうもない」
スピードを緩め空中で止まったカルロスは、夜空を見上げると小さくため息を吐いた。
天界からの監視が強まっているのだろうか?
繋いでいない方の手で、カルロスは私の頬を撫でた。月光を背にしていたせいか、表情はよく見えないが……少し緊張しているのか飄々とした感じはなく、どことなくぎこちない。
「二人きりで話せる場所なら、どこでも構いませんよ」
どうせなら、誰にも干渉されたくない。なぜカルロスが、魔王城や異空間を選ばなかったのか、理由はわからないが。
「うむ」とカルロスの呟きが聞こえると、次の瞬間には場所は魔界になっていた。
ただ……城の中ではなく、やはり外。
「ここって、魔王像の……上?」
「そうだ。眺めが良いだろう?」
「……ええ、まあ」
カルロス(像だけど)の頭を踏んでいるみたいな状態だが。当の本人が良いのだから、私が何か言うこともない。
お互い次の言葉を探していると……ワンピースのスカートがなびいた。魔界でも風は吹くらしい。
「人間界と似ていますよね」
「そうだ。そのように創ったからな」
ん?
「カルロスが創ったのですか?」
「ああ。この世界は、私の生命で保たれている」
魔王が復活して、魔石となった魔族の核が肉体を取り戻した時のことを思い出した。
「……もし、カルロスに何かあったら?」
「私も魔界も、消滅するだけだ。まあ、その前に魔王を継ぐ者が現れたら別だがな。残念ながら、私には後継者はいない」
いとも簡単にそう答えた。
バスチアンなどが魔王になるなんて、論外のレベルの話だったのだ。
「ついでに言ってしまえば、魔界が消滅すれば人間界も消滅する。この世界は、人間界と魔界が表裏一体なのだ。地の無い世界に生は宿らない」
この世界は地球のように丸くないのかもしれない。
表に人間界があり、その裏に魔界が存在しているのだとカルロスは言った。
「どちらかが消えれば、道連れってことですか?」
「そうなるな」
もはやカルロスの存在意義は、神の領域に近いのではないだろうか?
「じゃあ、天界は?」
「……何も。人間界が消滅すれば魂を回収し、新たな世界を創るだけだ」
「え、魔界は?」
「さてな。創造主が必要と考えれば、また新たな魔王が生まれるだろう」
ズシリッと胸に、鉛のような物が落ちた気がした。
まるで、魔王の命が……ゲームのリセットボタンであるかの様な話に、憤りを覚える。だからと言って、この気持ちをどう表現したらいいのか分からない。
言葉の詰まった私を、カルロスは目を細めて切なげに見た。
――そこから先は、カルロスの独白が始まった。
カルロスが物心がついた時には、もう……魔王という存在だったそうだ。
世界を消滅させず、魔王を終えるには後継者ができればいい。膨大な魔王の力にも耐えられる器がある者に、自身の力を全て注げば、魔王としての生から解放されるのだと。
つまり、カルロスは後継者という名の生贄だった。
完全に覚醒するまでは、前魔王の創り上げたものを引き継ぎ、魔界を統べてきた。信頼も裏切りも入り混じり、他者とは違う永遠ともいえる生命の時間は、どれ程の孤独だったのか想像もできない。
時には全てを終わらせたくなり、臣下に唆されて自害する為の魔剣も作ったそうだ。だが、魔王の力は巨大すぎて、意味をなさない代物だったのだと。
結局、それは臣下に処分させたそうだ。
――それがあの魔剣で、臣下がバスチアンだったのだろう。
そして、ちょうどその頃……。
カルロスは、私の魂を持つ先祖を見かけたそうだ。詳しくは言わなかったが、私が生まれ変わるたび、ずっと見守っていたらしい。
その中で、カルロスが身分を偽り接触したのが『ビーチェ』で、魔王城でたまたま育てられる事になったのが『姫』だった。
私が異世界で転生し、日向になる前が『姫』だったのだ。
『姫』の死因となったのは、双子の姉と魔剣の存在。
せめて、魔王や魔族三人が『姫』のすぐ近くにいれば防げただろうが。狡猾な姉の罠で、一時的に引き離されてしまった。裏でバスチアンが糸を引いていたのだろう。
光の魔力を全て奪われ、魔剣の負の力で『姫』の魂は消滅の危機に陥ってしまったのだ。
魔王の魔力でかろうじて命を繋いだが、神の加護持ちの『姫』には相反する力。どうにも出来なかったそうだ。
――魂が消滅したら、もう二度と生まれ変われない。
そこで、カルロスとノアは一か八かの賭けに出た。この世界の加護なら、異世界に転生すれば無効化されるのではないかと。その魂に魔王の力の一部を込めて、膨大な魔力を使い異世界に送ったのだ。
賭けは成功し、私は他の世界である地球に転生した。
そして、そこからは日向とベアトリーチェである私の知っている話だった。
唯一、知らなかったのは……。
カルロスは魔王の力を使い過ぎた自分のせいで、魔界と人間界を消滅させないよう、自らを封じ異空間に篭ったのだ。魔族の民は魔王と共にあることを望み、一緒に篭ることを選んだのだと――少しでも早く、魔王の魔力が回復するよう願いつつ。
カルロスは細い望みの糸を離さず、私の目覚めを信じ、ノアとロランとキーランに後を託して眠りについた。
「だから、そなたが帰ってきて……どれほど嬉しかったことか」
私の目からは、ポロポロと涙が止まらなかった。
カルロスの綺麗な顔が……涙で歪んでしまってよく見えない。そんな私の涙をカルロスは、優しく拭ってくれる。
「……ビーチェ。いや、今はベアトリーチェだったな。どんな姿であっても……私には、お前だけなのだ」
ビーチェでも、日向でも、ベアトリーチェでも……カルロスは私を愛してくれている。それが嘘偽りのない事実なのだ。
カルロスに引き寄せられる前に、私は自分からその胸に飛び込んでいた。
この世界を上から眺める景色は、また格別だった。
日向として過ごした世界とは全く違う。夜まで煌々と輝く灯りはないが、自然豊かで特徴的な街並みは美しい。月明かりに照らされて、おとぎの国に迷いこんだみたいだ。
「ビーチェ、人間界では話せそうもない」
スピードを緩め空中で止まったカルロスは、夜空を見上げると小さくため息を吐いた。
天界からの監視が強まっているのだろうか?
繋いでいない方の手で、カルロスは私の頬を撫でた。月光を背にしていたせいか、表情はよく見えないが……少し緊張しているのか飄々とした感じはなく、どことなくぎこちない。
「二人きりで話せる場所なら、どこでも構いませんよ」
どうせなら、誰にも干渉されたくない。なぜカルロスが、魔王城や異空間を選ばなかったのか、理由はわからないが。
「うむ」とカルロスの呟きが聞こえると、次の瞬間には場所は魔界になっていた。
ただ……城の中ではなく、やはり外。
「ここって、魔王像の……上?」
「そうだ。眺めが良いだろう?」
「……ええ、まあ」
カルロス(像だけど)の頭を踏んでいるみたいな状態だが。当の本人が良いのだから、私が何か言うこともない。
お互い次の言葉を探していると……ワンピースのスカートがなびいた。魔界でも風は吹くらしい。
「人間界と似ていますよね」
「そうだ。そのように創ったからな」
ん?
「カルロスが創ったのですか?」
「ああ。この世界は、私の生命で保たれている」
魔王が復活して、魔石となった魔族の核が肉体を取り戻した時のことを思い出した。
「……もし、カルロスに何かあったら?」
「私も魔界も、消滅するだけだ。まあ、その前に魔王を継ぐ者が現れたら別だがな。残念ながら、私には後継者はいない」
いとも簡単にそう答えた。
バスチアンなどが魔王になるなんて、論外のレベルの話だったのだ。
「ついでに言ってしまえば、魔界が消滅すれば人間界も消滅する。この世界は、人間界と魔界が表裏一体なのだ。地の無い世界に生は宿らない」
この世界は地球のように丸くないのかもしれない。
表に人間界があり、その裏に魔界が存在しているのだとカルロスは言った。
「どちらかが消えれば、道連れってことですか?」
「そうなるな」
もはやカルロスの存在意義は、神の領域に近いのではないだろうか?
「じゃあ、天界は?」
「……何も。人間界が消滅すれば魂を回収し、新たな世界を創るだけだ」
「え、魔界は?」
「さてな。創造主が必要と考えれば、また新たな魔王が生まれるだろう」
ズシリッと胸に、鉛のような物が落ちた気がした。
まるで、魔王の命が……ゲームのリセットボタンであるかの様な話に、憤りを覚える。だからと言って、この気持ちをどう表現したらいいのか分からない。
言葉の詰まった私を、カルロスは目を細めて切なげに見た。
――そこから先は、カルロスの独白が始まった。
カルロスが物心がついた時には、もう……魔王という存在だったそうだ。
世界を消滅させず、魔王を終えるには後継者ができればいい。膨大な魔王の力にも耐えられる器がある者に、自身の力を全て注げば、魔王としての生から解放されるのだと。
つまり、カルロスは後継者という名の生贄だった。
完全に覚醒するまでは、前魔王の創り上げたものを引き継ぎ、魔界を統べてきた。信頼も裏切りも入り混じり、他者とは違う永遠ともいえる生命の時間は、どれ程の孤独だったのか想像もできない。
時には全てを終わらせたくなり、臣下に唆されて自害する為の魔剣も作ったそうだ。だが、魔王の力は巨大すぎて、意味をなさない代物だったのだと。
結局、それは臣下に処分させたそうだ。
――それがあの魔剣で、臣下がバスチアンだったのだろう。
そして、ちょうどその頃……。
カルロスは、私の魂を持つ先祖を見かけたそうだ。詳しくは言わなかったが、私が生まれ変わるたび、ずっと見守っていたらしい。
その中で、カルロスが身分を偽り接触したのが『ビーチェ』で、魔王城でたまたま育てられる事になったのが『姫』だった。
私が異世界で転生し、日向になる前が『姫』だったのだ。
『姫』の死因となったのは、双子の姉と魔剣の存在。
せめて、魔王や魔族三人が『姫』のすぐ近くにいれば防げただろうが。狡猾な姉の罠で、一時的に引き離されてしまった。裏でバスチアンが糸を引いていたのだろう。
光の魔力を全て奪われ、魔剣の負の力で『姫』の魂は消滅の危機に陥ってしまったのだ。
魔王の魔力でかろうじて命を繋いだが、神の加護持ちの『姫』には相反する力。どうにも出来なかったそうだ。
――魂が消滅したら、もう二度と生まれ変われない。
そこで、カルロスとノアは一か八かの賭けに出た。この世界の加護なら、異世界に転生すれば無効化されるのではないかと。その魂に魔王の力の一部を込めて、膨大な魔力を使い異世界に送ったのだ。
賭けは成功し、私は他の世界である地球に転生した。
そして、そこからは日向とベアトリーチェである私の知っている話だった。
唯一、知らなかったのは……。
カルロスは魔王の力を使い過ぎた自分のせいで、魔界と人間界を消滅させないよう、自らを封じ異空間に篭ったのだ。魔族の民は魔王と共にあることを望み、一緒に篭ることを選んだのだと――少しでも早く、魔王の魔力が回復するよう願いつつ。
カルロスは細い望みの糸を離さず、私の目覚めを信じ、ノアとロランとキーランに後を託して眠りについた。
「だから、そなたが帰ってきて……どれほど嬉しかったことか」
私の目からは、ポロポロと涙が止まらなかった。
カルロスの綺麗な顔が……涙で歪んでしまってよく見えない。そんな私の涙をカルロスは、優しく拭ってくれる。
「……ビーチェ。いや、今はベアトリーチェだったな。どんな姿であっても……私には、お前だけなのだ」
ビーチェでも、日向でも、ベアトリーチェでも……カルロスは私を愛してくれている。それが嘘偽りのない事実なのだ。
カルロスに引き寄せられる前に、私は自分からその胸に飛び込んでいた。
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