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番外編 ロラン視点 回想〜魔王との出会い〜
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――狼獣人の里に、人間によって火が放たれた。
俺たちを殲滅するつもりなのだ。
懸命に住民を守り戦った。あと少しのところで、俺の目に飛び込んできた、うずくまる二人の姿。大切な愛しき仲間に、矢の雨が降る。
ワーウルフの長で、最も強い肉体を持つ俺のとる行動はひとつ――。
地を蹴ると同時に、肉体を強化し最大限まで変化させた。
背中に大量の矢を受けたとしても、その程度では問題ないはずだった。そう、普通の矢なら。
盾となった自分の足元で起こっている惨状を見下ろし、どうにか肩で息をする。
膝をつきグッタリとしている、親友で戦友でもあるラウル。ラウルの養女になった人間のサシャが寄り添い、必死で応急処置をしていた。
真っ青な顔と、ラウルから漂う毒の匂い。ラウルが先に受けていた矢にも、毒が仕込まれていたのだ。
魔獣用の槍のような矢に、ご丁寧に毒まで塗っていたとはな……。
今はまだ、二人には俺の状態を知られる訳にはいかない。歯を食いしばり、腹から声を出す。
「サシャ! こっちは任せてラウルを急いでオババのところまで連れて行け! あの花の毒だと伝えろっ」
「は、はいっ!」
サシャは自分の倍もあるラウルを担ぎ、走り出した。
ああ見えて、サシャは俺とラウルが鍛えたのだから、休まず走り続けられるだろう。無事に薬師であるオババのところへ辿り着けば、きっと解毒は間に合う。
だが、俺はさすがに無理そうだ。
熱をもっていた背中は痺れ、吐き気と目眩に襲われた。膝は震えだし、自分の重さに耐えられそうにない。
出来ることなら、サシャとラウルがちゃんと幸せになるのを見届けたかった。
まあ。サシャが隣に居れば、凝り固まった人間への偏見も少しは良くなるだろう。
俺が死ねば、次はラウルが長にならなければならない。長は、皆を守る最善を選ぶことが必要だからな。
ここまでか――……。
視界が真っ暗になると、俺の体は前のめりにゆっくり傾く。
――ん?
地面への衝撃は来なかった。それどころか、ふわりとした浮遊感。俺は宙に浮いていた。
何が起きているのか、理解が出来ない。
さっきまでの、毒の痺れも全身の痛みも消えている。
「……さて。お前は、これからどうしたい?」
唐突にかけられた言葉。
慌てて声の方を向くと、そこには見たこともない男の姿があった。
漆黒の髪に、紫の瞳の中心を赤く光らせた男は、宙に浮いたまま長い足を組んでいる。
そして、感情の無い表情で問いかけていた。
――この男は、人間ではない。
俺の野生の勘は、圧倒的に格上の相手だと理解する。逆らえば、一瞬で消されるだろう。
「……まだ、生きていたい」
無理な願いだと分かっていたが、それが本心だった。
ボロボロになった村をちゃんと復活させたい。俺を信じてついてきてくれた仲間を、もっともっと守りたい。
「私と来るなら、願いは叶えてやろう」
パチリと指を鳴らした男は、俺に景色を見せた。
何もない空間の足下に、突然現れた自分の里。まるで、上から見下ろしているみたいだ。
「……っ! なんてことだ!」
人間の残党が仲間を呼び、森のあちこちに更に火を放っていた。
今の状況では、皆が逃げるのは不可能。確実に被害は大きくなる。
「俺だけ助かっても意味はないっ!」
身動きさえ取れない自分の無力さに、思わず怒鳴ってしまった。
「ならば、全員で来ればよい」
だからどうしたと言わんばかりの男は、アッサリと言った。
もう一度、パチリと音がすれば、炎も残党の姿も森から消えていた。
生まれて初めて、本当の強者を知った日。
それが、俺と魔王様の出会いだったーー。
◇◇◇
「……さま。……ロラン様っ!」
聞き慣れた声で呼ばれ、朦朧としていた頭がハッキリとしていく。
眩しさで顔を顰めつつ、目を開いた。
真上には、パタパタと風を送りながら、心配そうに覗きこむ愛しい顔があった。
「……ジゼル、か?」
「はい、そうですよ。ご気分はいかがですか?」
凛とした声の中に安堵の色。ホッとしたジゼルは、笑みを浮かべた。
「ああ……問題ない。何だか、懐かしい夢をみた」
「そうでしたか。私が、無理に薬湯をすすめてしまったので……。申し訳ありませんでした」
謝るジゼル。
ジゼルの言葉が頭の中で繰り返される。
薬、湯……? そうだ、湯当たりだ!
ようやく状況を飲み込めた。
キーランと傷を癒す薬湯に浸かっていて……俺はのぼせてしまったのだ。
嫌な予感がして視線を落とせば、全裸で腰に一枚のタオルが乗っているだけの状態。クールダウンしたはずの頭は、湯気が出そうなほど沸騰していく。
慌てて飛び起きる。
「すっ……すまんっ!」
それだけジゼルに伝えて、その場から走って逃げた。
もちろんタオルを落とさないよう、しっかり当てたままの状態で。
「ご心配には及びませんよ! 私、最強の侍女ですから」
遠くから、大きな声で呼びかけてくるジゼルに、返す言葉もなかった。
俺たちを殲滅するつもりなのだ。
懸命に住民を守り戦った。あと少しのところで、俺の目に飛び込んできた、うずくまる二人の姿。大切な愛しき仲間に、矢の雨が降る。
ワーウルフの長で、最も強い肉体を持つ俺のとる行動はひとつ――。
地を蹴ると同時に、肉体を強化し最大限まで変化させた。
背中に大量の矢を受けたとしても、その程度では問題ないはずだった。そう、普通の矢なら。
盾となった自分の足元で起こっている惨状を見下ろし、どうにか肩で息をする。
膝をつきグッタリとしている、親友で戦友でもあるラウル。ラウルの養女になった人間のサシャが寄り添い、必死で応急処置をしていた。
真っ青な顔と、ラウルから漂う毒の匂い。ラウルが先に受けていた矢にも、毒が仕込まれていたのだ。
魔獣用の槍のような矢に、ご丁寧に毒まで塗っていたとはな……。
今はまだ、二人には俺の状態を知られる訳にはいかない。歯を食いしばり、腹から声を出す。
「サシャ! こっちは任せてラウルを急いでオババのところまで連れて行け! あの花の毒だと伝えろっ」
「は、はいっ!」
サシャは自分の倍もあるラウルを担ぎ、走り出した。
ああ見えて、サシャは俺とラウルが鍛えたのだから、休まず走り続けられるだろう。無事に薬師であるオババのところへ辿り着けば、きっと解毒は間に合う。
だが、俺はさすがに無理そうだ。
熱をもっていた背中は痺れ、吐き気と目眩に襲われた。膝は震えだし、自分の重さに耐えられそうにない。
出来ることなら、サシャとラウルがちゃんと幸せになるのを見届けたかった。
まあ。サシャが隣に居れば、凝り固まった人間への偏見も少しは良くなるだろう。
俺が死ねば、次はラウルが長にならなければならない。長は、皆を守る最善を選ぶことが必要だからな。
ここまでか――……。
視界が真っ暗になると、俺の体は前のめりにゆっくり傾く。
――ん?
地面への衝撃は来なかった。それどころか、ふわりとした浮遊感。俺は宙に浮いていた。
何が起きているのか、理解が出来ない。
さっきまでの、毒の痺れも全身の痛みも消えている。
「……さて。お前は、これからどうしたい?」
唐突にかけられた言葉。
慌てて声の方を向くと、そこには見たこともない男の姿があった。
漆黒の髪に、紫の瞳の中心を赤く光らせた男は、宙に浮いたまま長い足を組んでいる。
そして、感情の無い表情で問いかけていた。
――この男は、人間ではない。
俺の野生の勘は、圧倒的に格上の相手だと理解する。逆らえば、一瞬で消されるだろう。
「……まだ、生きていたい」
無理な願いだと分かっていたが、それが本心だった。
ボロボロになった村をちゃんと復活させたい。俺を信じてついてきてくれた仲間を、もっともっと守りたい。
「私と来るなら、願いは叶えてやろう」
パチリと指を鳴らした男は、俺に景色を見せた。
何もない空間の足下に、突然現れた自分の里。まるで、上から見下ろしているみたいだ。
「……っ! なんてことだ!」
人間の残党が仲間を呼び、森のあちこちに更に火を放っていた。
今の状況では、皆が逃げるのは不可能。確実に被害は大きくなる。
「俺だけ助かっても意味はないっ!」
身動きさえ取れない自分の無力さに、思わず怒鳴ってしまった。
「ならば、全員で来ればよい」
だからどうしたと言わんばかりの男は、アッサリと言った。
もう一度、パチリと音がすれば、炎も残党の姿も森から消えていた。
生まれて初めて、本当の強者を知った日。
それが、俺と魔王様の出会いだったーー。
◇◇◇
「……さま。……ロラン様っ!」
聞き慣れた声で呼ばれ、朦朧としていた頭がハッキリとしていく。
眩しさで顔を顰めつつ、目を開いた。
真上には、パタパタと風を送りながら、心配そうに覗きこむ愛しい顔があった。
「……ジゼル、か?」
「はい、そうですよ。ご気分はいかがですか?」
凛とした声の中に安堵の色。ホッとしたジゼルは、笑みを浮かべた。
「ああ……問題ない。何だか、懐かしい夢をみた」
「そうでしたか。私が、無理に薬湯をすすめてしまったので……。申し訳ありませんでした」
謝るジゼル。
ジゼルの言葉が頭の中で繰り返される。
薬、湯……? そうだ、湯当たりだ!
ようやく状況を飲み込めた。
キーランと傷を癒す薬湯に浸かっていて……俺はのぼせてしまったのだ。
嫌な予感がして視線を落とせば、全裸で腰に一枚のタオルが乗っているだけの状態。クールダウンしたはずの頭は、湯気が出そうなほど沸騰していく。
慌てて飛び起きる。
「すっ……すまんっ!」
それだけジゼルに伝えて、その場から走って逃げた。
もちろんタオルを落とさないよう、しっかり当てたままの状態で。
「ご心配には及びませんよ! 私、最強の侍女ですから」
遠くから、大きな声で呼びかけてくるジゼルに、返す言葉もなかった。
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