15 / 17
15. 帰還
しおりを挟む
「本当に帰って来たんだな。……それにしても、あっちーな」
しみじみと言った昴に、俺も「そうだな」と返す。
「大神官様の言っていた通り、やっぱりあの日からだいぶ経っているのね」
帰還した場所は召喚時と同じ歩道橋の上だったが、春からすっかり季節は変わって、夏が始まっているのを肌で感じる。鮮やかな夕日が見える時間だが、冬服のままの俺たちには暑くてかなわない。
「とりあえず、何かあったらすぐに連絡取り合いましょう!」
お互いスマホに電源が入ることを確認し、連絡先を交換しておいた。
日付を見れば、八月だ。前回は、魔王のおかげで召喚された日に帰還出来たが、今回はそうではない。だから、俺たちが居なくなってから、どんな事態になっているかなんて想像もつかなかった。
三人それぞれが、不安な面持ちで帰路についた。
◇◇◇
家の前に着くと、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
窓からは明かりがもれていた。平日だが、義父さんはもう家に居るみたいだ。
恐る恐る、インターホンを鳴らす。鍵は持っていたが、開けて入るのには躊躇いがあった。
「はい」と返事のあと、カメラに俺が映ったのか「……蓮っ!」という声が聞こえた。ガチャガチャと鍵が開けられ、勢いよく玄関の扉が開く。
「……義父さん、心配かけてごめん」
開口一番に謝った。
「お帰り。大変だったな」
「え?」
正直、誘拐や家出だと思われていたら、どんな顔をして会うのが正解かわからなかった。
けれど、義父さんは相変わらず痩せてはいたが、悲壮感はなく、まるで俺が帰ってくるのが分かっていたみたいだ。ちょっとした旅行に行っていたみたいに。
「とにかく中へ入ろう。腹は空いてないか?」
「うん、少しだけ」
「夕飯作るから、先に着替えるといい。それじゃ、暑いだろ?」
「暑いね。今はすっかり夏だね」
「ああ。お前たちが姿を消してから三ヶ月経った。まあ、話はあとだ」
拍子抜けをしつつ「うん」と返事をすると、自分の部屋に行く。
召喚された日から何も変わってなかったが――きちんと掃除がされていて、綺麗な状態だった。
簡単に着替えてリビングへ行くと、夕食が並べられていく。
「簡単な作り置きばかりで悪いが」
「和食……久しぶりだから嬉しいよ」
「それなら良かった」
「あのさ、何があったのか聞かないの?」
「もちろん聞きたいよ。異世界ではどんな冒険をしてきたんだ?」
ん……? 聞き間違いだろうか。
「今、異世界って言った?」
「言ったよ。父さんも、初めは信じられなかったけれどね。蓮は山中古書店を覚えているかい?」
「うん。孫が確か、日向と同級生だったよね?」
「そう、その彼が色々と動いてくれたんだよ」
話が全く見えず、俺は首を傾げた。
義父さんは、俺たちが居なくなった日からの出来事を、順を追って話してくれた。
日向の同級生だった山中君は、俺たちが召喚陣に呑まれた時に、なんとあの歩道橋にいたらしい。
彼が高校から始めた、最近話題のSNS。通知が来るとすぐに、写真か動画をアップしないといけないやつだ。
歩道橋を上ったと同時に来た通知で、彼はすぐにカメラを起動させた。正にその時、俺たちの足元には召喚陣が現れていて――思わず、動画でその様子を撮影したそうだ。
つまり。
俺たちが召喚陣に呑まれて消えるまでが、山中君のスマホにはハッキリと残されていたのだ。
目の前で起こった信じ難い出来事に、彼は動画をアップせずに、自宅で何度も見返した。
そして、同じ高校に通う彼は、俺たち三人が同時に学校を休んでいたことを知り、義父さんに会いに来たのだと。
「最初は何の冗談かと思ったが、真剣な彼の表情と見せられた動画で、全てが事実だと理解したんだ。彼は、渋崎君と星野さんの親御さんにも会いに行き、皆で集まって話をしたんだよ」
「じゃあ、二人の家も」
「ああ。帰りを信じて待つことに決めたんだ。それから、山中君にあの光っていた物が何か教えてもらった。召喚陣というのだろう? 彼は古本屋の孫なだけあって、様々な本を参考にと持って来てくれたよ」
「……そうだったんだ」
「先生には申し訳なかったが、蓮がまたしばらく休むことも了承してもらったんだ」
同じクラスで、いっぺんに三人も不登校になったなんて、先生の胃が心配になる。それでも警察沙汰にされなかったことは、ありがたかった。
「それと、蓮には謝らないといけなくて……」
「義父さんが、俺に?」
「ああ。いつ帰ってきてもいいように、部屋を掃除していたんだが……蓮のノートを落として、中を読んでしまったんだ」
「えっと、ノートって俺の日記だよね?」
「許可もなく、すまない……」
許可も何も、俺が消えてしまったのだから、手がかりにと読むのは当然かもしれない。
異世界から帰ってきてから書き始めた日記には、向こうで過ごしたことを忘れないように、色々な出来事や思いも書いていた。
「もしかして……日向のことも?」
義父さんは瞳を潤ませうなずいた。
「蓮は会ったんだな、日向に」
「うん。元気で幸せそうに暮らしているよ。今はベアトリーチェ嬢だけどね。近々、結婚もするみたいだよ」
「結婚っ!? そ、そうか……まあ、日向が選んだ相手なら間違いないだろう。あの子はしっかりしているからな」
複雑な表情だけど、嬉しそうだ。
いつか、義父さんに日向のことを話したいと思っていた。まさか、こんな形で伝えるとは予想外だけど。
「あのさ、義父さん。今回、俺たちが召喚された世界は、日向の居る世界とは別の所だったんだ。そこで、何があったのか、聞いてくれる?」
「もちろんだ」
「結果的には、また日向に会えたんだけどね──」
俺は、今回の異世界で起こったことや、出会った人々のことを夜通し義父さんに話した。
離れていた日々を埋めるように。
しみじみと言った昴に、俺も「そうだな」と返す。
「大神官様の言っていた通り、やっぱりあの日からだいぶ経っているのね」
帰還した場所は召喚時と同じ歩道橋の上だったが、春からすっかり季節は変わって、夏が始まっているのを肌で感じる。鮮やかな夕日が見える時間だが、冬服のままの俺たちには暑くてかなわない。
「とりあえず、何かあったらすぐに連絡取り合いましょう!」
お互いスマホに電源が入ることを確認し、連絡先を交換しておいた。
日付を見れば、八月だ。前回は、魔王のおかげで召喚された日に帰還出来たが、今回はそうではない。だから、俺たちが居なくなってから、どんな事態になっているかなんて想像もつかなかった。
三人それぞれが、不安な面持ちで帰路についた。
◇◇◇
家の前に着くと、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
窓からは明かりがもれていた。平日だが、義父さんはもう家に居るみたいだ。
恐る恐る、インターホンを鳴らす。鍵は持っていたが、開けて入るのには躊躇いがあった。
「はい」と返事のあと、カメラに俺が映ったのか「……蓮っ!」という声が聞こえた。ガチャガチャと鍵が開けられ、勢いよく玄関の扉が開く。
「……義父さん、心配かけてごめん」
開口一番に謝った。
「お帰り。大変だったな」
「え?」
正直、誘拐や家出だと思われていたら、どんな顔をして会うのが正解かわからなかった。
けれど、義父さんは相変わらず痩せてはいたが、悲壮感はなく、まるで俺が帰ってくるのが分かっていたみたいだ。ちょっとした旅行に行っていたみたいに。
「とにかく中へ入ろう。腹は空いてないか?」
「うん、少しだけ」
「夕飯作るから、先に着替えるといい。それじゃ、暑いだろ?」
「暑いね。今はすっかり夏だね」
「ああ。お前たちが姿を消してから三ヶ月経った。まあ、話はあとだ」
拍子抜けをしつつ「うん」と返事をすると、自分の部屋に行く。
召喚された日から何も変わってなかったが――きちんと掃除がされていて、綺麗な状態だった。
簡単に着替えてリビングへ行くと、夕食が並べられていく。
「簡単な作り置きばかりで悪いが」
「和食……久しぶりだから嬉しいよ」
「それなら良かった」
「あのさ、何があったのか聞かないの?」
「もちろん聞きたいよ。異世界ではどんな冒険をしてきたんだ?」
ん……? 聞き間違いだろうか。
「今、異世界って言った?」
「言ったよ。父さんも、初めは信じられなかったけれどね。蓮は山中古書店を覚えているかい?」
「うん。孫が確か、日向と同級生だったよね?」
「そう、その彼が色々と動いてくれたんだよ」
話が全く見えず、俺は首を傾げた。
義父さんは、俺たちが居なくなった日からの出来事を、順を追って話してくれた。
日向の同級生だった山中君は、俺たちが召喚陣に呑まれた時に、なんとあの歩道橋にいたらしい。
彼が高校から始めた、最近話題のSNS。通知が来るとすぐに、写真か動画をアップしないといけないやつだ。
歩道橋を上ったと同時に来た通知で、彼はすぐにカメラを起動させた。正にその時、俺たちの足元には召喚陣が現れていて――思わず、動画でその様子を撮影したそうだ。
つまり。
俺たちが召喚陣に呑まれて消えるまでが、山中君のスマホにはハッキリと残されていたのだ。
目の前で起こった信じ難い出来事に、彼は動画をアップせずに、自宅で何度も見返した。
そして、同じ高校に通う彼は、俺たち三人が同時に学校を休んでいたことを知り、義父さんに会いに来たのだと。
「最初は何の冗談かと思ったが、真剣な彼の表情と見せられた動画で、全てが事実だと理解したんだ。彼は、渋崎君と星野さんの親御さんにも会いに行き、皆で集まって話をしたんだよ」
「じゃあ、二人の家も」
「ああ。帰りを信じて待つことに決めたんだ。それから、山中君にあの光っていた物が何か教えてもらった。召喚陣というのだろう? 彼は古本屋の孫なだけあって、様々な本を参考にと持って来てくれたよ」
「……そうだったんだ」
「先生には申し訳なかったが、蓮がまたしばらく休むことも了承してもらったんだ」
同じクラスで、いっぺんに三人も不登校になったなんて、先生の胃が心配になる。それでも警察沙汰にされなかったことは、ありがたかった。
「それと、蓮には謝らないといけなくて……」
「義父さんが、俺に?」
「ああ。いつ帰ってきてもいいように、部屋を掃除していたんだが……蓮のノートを落として、中を読んでしまったんだ」
「えっと、ノートって俺の日記だよね?」
「許可もなく、すまない……」
許可も何も、俺が消えてしまったのだから、手がかりにと読むのは当然かもしれない。
異世界から帰ってきてから書き始めた日記には、向こうで過ごしたことを忘れないように、色々な出来事や思いも書いていた。
「もしかして……日向のことも?」
義父さんは瞳を潤ませうなずいた。
「蓮は会ったんだな、日向に」
「うん。元気で幸せそうに暮らしているよ。今はベアトリーチェ嬢だけどね。近々、結婚もするみたいだよ」
「結婚っ!? そ、そうか……まあ、日向が選んだ相手なら間違いないだろう。あの子はしっかりしているからな」
複雑な表情だけど、嬉しそうだ。
いつか、義父さんに日向のことを話したいと思っていた。まさか、こんな形で伝えるとは予想外だけど。
「あのさ、義父さん。今回、俺たちが召喚された世界は、日向の居る世界とは別の所だったんだ。そこで、何があったのか、聞いてくれる?」
「もちろんだ」
「結果的には、また日向に会えたんだけどね──」
俺は、今回の異世界で起こったことや、出会った人々のことを夜通し義父さんに話した。
離れていた日々を埋めるように。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】ただの狼です?神の使いです??
野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい?
司祭×白狼(人間の姿になります)
神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。
全15話+おまけ+番外編
!地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください!
番外編更新中です。土日に更新します。
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。
春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。
チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。
……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ?
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――?
見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。
同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨
【完結】偏屈司書は黒犬将軍の溺愛を受ける
アザトースト
BL
ブランは自他ともに認める偏屈である。
他人にとっての自分とは無関心と嫌悪の狭間に位置していることを良く良く知っていたし、こんな自分に恋人なんて出来るわけがないと思っていた。そもそも作りたくもない。
司書として本に溺れるような日々を送る中、ブランに転機が訪れる。
幼馴染のオニキスがとある契約を持ちかけてきたのだ。
ブランとオニキス、それぞれの利害が一致した契約関係。
二人の関係はどのように変化するのか。
短編です。すぐに終わる予定です。
毎日投稿します。
♡や感想、大変励みになりますので宜しければ片手間に♡押してって下さい!
炎の精霊王の愛に満ちて
陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。
悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。
ミヤは答えた。「俺を、愛して」
小説家になろうにも掲載中です。
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
【8+2話完結】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜
キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。
そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。
近づきたいのに近づけない。
すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。
秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。
プロローグ+全8話+エピローグ
俺の居場所を探して
夜野
BL
小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。
そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。
そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、
このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。
シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。
遅筆なので不定期に投稿します。
初投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる