2 / 35
第一章
1
しおりを挟む
1
これは去年、二年生の春の話だ。
「よ。」
自分の席に座ってぼーっとしていた俺にそう言って声をかけてきたのは、幼稚園くらいから付き合いが続いてる幼馴染の中川泰幸《なかがわやすゆき》。
通称ヤス。
性格は顔に出るくらいのめんどくさがり屋。
友達が俺以外いないから、俺が居ない休み時間は大体一人で寝てる。
本人いわく、群れるのは面倒だからだそうだ。
髪は茶髪で、身長は大体俺と同じくらい。
基本しっかりしてていつも世話になってる。
「って!」
そのままぼーっとしていると唐突に頭を殴られた。
「何すんだよ。」
「お前がこの世の終わりみてぇな顔をして俺の挨拶を無視するからだよ。」
恨めしく睨み付けると、呆れ顔でそう返された。
「え、俺そんな顔してた?」
「してた。
お前は本当に分かりやすいからな。」
正直、言われても全く実感が無かった。
自分の中では別に落ち込んでるつもりなんて無かったし、ただなんとなくぼーっとしてただけだったのだが。
「あだっ!」
そう思っていたらまた殴られた。
「いい加減返ってこい。」
「幼馴染を二度もぶつかね…。」
「同じ事を二度も言わせんなよ。」
「いや、別に何も無いって…。」
「もし本当に何も無いんならお前は酷い奴だな。
何もないのにぼーっとして幼馴染を無視するのかよ。」
「うっ…別に無視してなんか。」
「いいから話せよ。
俺の目はごまかせねぇぞ。
何年お前と幼馴染やってると思ってんだよ。」
「ヤスー!」
抱きつく俺を鬱陶しそうに殴りながら引き離すヤス。
「で?何があったんだよ。」
「一週間前にさ、彼女と喧嘩したんだ。」
「なるほど。
言われてみればここのところ苛立ってたしな。
その彼女とも会ってなかったみてぇだし、そんなこったろうとは思った。」
「なんだ、分かってたのか…。」
「逆に分からねぇと思ってたのかよ…?」
「うっ…。」
「で?どうしてそうなったんだ?」
「屋上に呼び出されてさ。
ウチら付き合うとるんよね?って聞かれたから…そんなの当たり前だろって返したんだよ。
で、そしたらもう別れようって言われてさ。
ウチの事はもうほっといてって。
俺、ついそれでカッとなって…。
勝手にしろ、せいせいするって言っちゃって。」
「それはお前が悪い。」
ヤス、真顔で即答。
「は…はっきり言うかね!
ちょっとは優しくしろ!馬鹿!鬼!」
「話を聞いてやってるだけ優しいと思え。」
「うっ、まぁ確かに…。」
「それにそんな奴だと分かってて幼馴染やってると思ってたんだが?」
「分かってるよ!
でもこう言う時ぐらいよー…。」
「で、それからどうなったんだよ?
その様子じゃ何もしてねぇんだろうが。」
「うっ…。」
「図星じゃねぇか…。」
呆れ顔でため息を吐かれる。
「だって一年も付き合ってたんだぜ!?
喧嘩して、そんなあっさり終わる訳なくね!?
だから寂しくなってその内謝りに来るだろうなぁって、思ってたら。」
「…思ってたら?」
「一週間が経ってたって言う。」
そう言うとヤスはそれをさも最初から分かってたかのようにまたさっきよりも深いため息を吐いた。
「…その間お前から会いに行ったりとかは?」
「いや、なんて言うかさ…。
二年になってクラスも違うし…?
頻繁に顔を合わせる事も無くなったし?
喧嘩した後だから気まずくて行き辛いと言いますか…。」
「あほか、今すぐ行け。
そんで謝ってこい。」
「…え?いやいやいやいや!
そんな別に大それた事じゃないだろ、あんな喧嘩なんて!」
「そんなの分かんねぇだろ。
お前がそう思ってても相手にとっては違うかもしれねぇだろうが。」
「うっ……。
いや…そりゃあるかもしれないけどさ。
でも今まで一度も喧嘩なんてした事なかったんだぜ…?
あれぐらいなら別に…。」
「別に…?」
「……………大丈夫かなー…。」
聞き返されて不安になる。
「ほら見ろ。」
「いや、でも…。」
「言い訳ばっかしてねぇで、いい加減認めろ。
お前はまだ現実を見れてねぇし、見ようともしてない。
言い訳して、それで良い理由を探してるだけだ。」
「うっ…。」
「さっさと行け。
自分の目でちゃんと今の状況を見てこい。」
「わ…分かったよ。」
と、返事をして教室を出て来たものの。
「何て言えば良いんだよ…。」
ぼやきながら彼女の居る三組の教室を廊下側のドアガラスから覗く。
友達と楽しそうに談笑する人、沢辺美波《さわべみなみ》は現在喧嘩中の俺の彼女である。
首ぐらいまでのショートカットに茶髪。
方言混じりの特徴的な喋り方。
身長は俺の肩くらいか。
基本明るくて穏やか。
新しいクラスにももう馴染めているようで、一年の時には関わってなかった友達の姿も何人か見受けられた。
こうして見る限りでは、ついこないだまでの彼女と大差ないようにも見えるが…。
恐る恐る、ドアを開ける。
その時にドアの方を向いた彼女と自然に目が合うが、その目はすぐに反らされてしまう。
え、無視された…?
「沢辺、どうかしたー?」
「あ、ごめん。
ウチ、ちょっとお手洗いに行ってくる。」
さっきまで話していたクラスメート達が心配そうに声をかけると、足早にその場を抜けていった。
その後、俺が居る側と逆側のドアから廊下に出た彼女は、追いかける隙も与えないほど全力疾走で廊下の角の方に走り去って行ってしまった。
「あ、あれー…?」
「あれー、じゃねぇよ…。」
声に振り向くと背後にヤスが居た。
呆れ顔でため息を吐かれる。
「無視…されたよな。」
「だな。」
ついこないだまで親しくしていた相手に無視されて、思いの外強いショックを受けている自分がいる事にまず驚く。
これまでの人生で、そりゃ親しい相手と喧嘩する事ぐらい無かった訳じゃない。
でもあんな風に明確に無視された事はなかった。
「だよな…。
親しい人に無視されんのってこんなに辛いのか…。」
「今頃気付いたのかよ。」
「ごめんなさい、さっきは本当にごめんなさい。」。
「あほか、必死に頭を下げる相手が違うだろうが。」
「ごめん…。
ってか俺もしかして本当にまずい事しちゃった…?」
そしてそのショックで、段々自分のした事の重大さに実感が沸き始める。
「それも今頃気付いたのかよ。」
「だよなー…。」
確かに俺は、今この状況を軽く見ていた。
実際、ただの喧嘩だしどうせその内仲直り出来るだろうぐらいに思ってた。
「ちょっとは自分が置かれている現状が分かったか?」
「とても…。」
「どうしたいか決まったか?」
分かったからこそ、どうすべきかを思い付くのはすぐだった
「仲直り…したいです…。」
「ならまた行けよ。」
「いや、でもそれは…。」
それが分かったからこそ余計に気まずい。
もう一度行って何を言えば良いのかも分からない。
そんな風に迷っていると、ヤスに蹴り飛ばされた。
「って!」
恨めしさを顔に出して睨むと、そのまま何も言わず、廊下の角の方に目線だけを向けてくる。
「分かったよ…。」
仕方なくその角を曲がると、その影に美波が隠れていた。
俺の姿を見るなり、早速冷ややかな視線を向けてくる。
「何で来たん。」
それは質問ではない。
正確に言うと吐き捨てたと言う表現の方が正しいような言い方だ。
そしてそれがすぐに確信出来るほど、表情には隠しきれない不快感が全面に出ていた。
歓迎されてないのは歴然だろう。
「何でって、その…。」
そのあからさまな態度に怯み、思わず言葉に詰まる。
そのまま頭が真っ白になる。
「せいせいするって言うとった癖に。」
そんな俺の反応になどお構いなしで、美波は淡々と言葉を続けていく。
「いや、それは…。」
それになんとか言い返そうと言葉を探すも、何も浮かんではこない。
「もうえぇよ…。
別れたんじゃし。」
そんな俺を見て、ため息を吐きながらそう言ってくる。
「いや、だからごめんって、謝りたくて…。」
ここでようやく当初の目的を思い出した。
そうだ、仲直りしに来たんじゃないか。
だから謝ろうと思ったんだった。
「謝ってなんなん?」
でもそうしようと思っていた所で返ってきた返事は俺にとっては予想外の物だった。
「謝って、その…。」
「謝って友達に戻りたいん?
それとも、ヨリを戻してまた付き合いたいん?」
実際謝れば済む問題だと思っていたのだ。
だから当然、そう質問されてどう返すかなんて考えてなかった。
「ただ、気まずくなりたくないだけなんじゃったら心配いらんじゃん。
今はクラスも違うんじゃし。」
「そう…だけど。」
「”あなた”はさ、別にウチじゃなくてもえぇんじゃろ?
好きにすればえぇじゃん。
もうほっといてよ。」
「っ!」
驚いた。
ついこないだまで、俺の事を名前で呼んでいたのに、今美波は俺の事を”あなた”と他人行儀な呼び方で呼んだのだ。
それは言ってしまえばたったそれだけの変化だ。
でもそんな呼び方も、喧嘩するまで見た事のなかった表情も。
目の前に居る彼女は確かに少し前まで付き合ってた人と同一人物の筈なのに、今は全くの別人のように思えた。
呆気にとられていると、それだけ言って立ち去ろうとする美波。
「…そっ、そんな事!」
それを見て、何とか引き留めようと声を絞り出すと、彼女は一応足を止めてくれる。
でも俺はその先の言葉を最後まで言えなかった。
言おうとして気付いたのだ。
自分はそんな事ないとはっきり言えるのか。
美波の事、そんなに好きだったのか?
こんな事になったのに?
大事に出来ずに傷付けたのに?
そもそも、好きってなんなんだろう?
それさえも分からなくなり、言葉は続かなかった。
「さようなら!」
そんな俺を見てか見ずか。
吐き捨てるようにそれだけ言うと、美波はトイレの方に走り去ってしまった。
追い掛けてその近くを通ると、押し殺した小さな泣き声が聞こえてきて胸が傷む。
俺、何してんだろう 。
これは去年、二年生の春の話だ。
「よ。」
自分の席に座ってぼーっとしていた俺にそう言って声をかけてきたのは、幼稚園くらいから付き合いが続いてる幼馴染の中川泰幸《なかがわやすゆき》。
通称ヤス。
性格は顔に出るくらいのめんどくさがり屋。
友達が俺以外いないから、俺が居ない休み時間は大体一人で寝てる。
本人いわく、群れるのは面倒だからだそうだ。
髪は茶髪で、身長は大体俺と同じくらい。
基本しっかりしてていつも世話になってる。
「って!」
そのままぼーっとしていると唐突に頭を殴られた。
「何すんだよ。」
「お前がこの世の終わりみてぇな顔をして俺の挨拶を無視するからだよ。」
恨めしく睨み付けると、呆れ顔でそう返された。
「え、俺そんな顔してた?」
「してた。
お前は本当に分かりやすいからな。」
正直、言われても全く実感が無かった。
自分の中では別に落ち込んでるつもりなんて無かったし、ただなんとなくぼーっとしてただけだったのだが。
「あだっ!」
そう思っていたらまた殴られた。
「いい加減返ってこい。」
「幼馴染を二度もぶつかね…。」
「同じ事を二度も言わせんなよ。」
「いや、別に何も無いって…。」
「もし本当に何も無いんならお前は酷い奴だな。
何もないのにぼーっとして幼馴染を無視するのかよ。」
「うっ…別に無視してなんか。」
「いいから話せよ。
俺の目はごまかせねぇぞ。
何年お前と幼馴染やってると思ってんだよ。」
「ヤスー!」
抱きつく俺を鬱陶しそうに殴りながら引き離すヤス。
「で?何があったんだよ。」
「一週間前にさ、彼女と喧嘩したんだ。」
「なるほど。
言われてみればここのところ苛立ってたしな。
その彼女とも会ってなかったみてぇだし、そんなこったろうとは思った。」
「なんだ、分かってたのか…。」
「逆に分からねぇと思ってたのかよ…?」
「うっ…。」
「で?どうしてそうなったんだ?」
「屋上に呼び出されてさ。
ウチら付き合うとるんよね?って聞かれたから…そんなの当たり前だろって返したんだよ。
で、そしたらもう別れようって言われてさ。
ウチの事はもうほっといてって。
俺、ついそれでカッとなって…。
勝手にしろ、せいせいするって言っちゃって。」
「それはお前が悪い。」
ヤス、真顔で即答。
「は…はっきり言うかね!
ちょっとは優しくしろ!馬鹿!鬼!」
「話を聞いてやってるだけ優しいと思え。」
「うっ、まぁ確かに…。」
「それにそんな奴だと分かってて幼馴染やってると思ってたんだが?」
「分かってるよ!
でもこう言う時ぐらいよー…。」
「で、それからどうなったんだよ?
その様子じゃ何もしてねぇんだろうが。」
「うっ…。」
「図星じゃねぇか…。」
呆れ顔でため息を吐かれる。
「だって一年も付き合ってたんだぜ!?
喧嘩して、そんなあっさり終わる訳なくね!?
だから寂しくなってその内謝りに来るだろうなぁって、思ってたら。」
「…思ってたら?」
「一週間が経ってたって言う。」
そう言うとヤスはそれをさも最初から分かってたかのようにまたさっきよりも深いため息を吐いた。
「…その間お前から会いに行ったりとかは?」
「いや、なんて言うかさ…。
二年になってクラスも違うし…?
頻繁に顔を合わせる事も無くなったし?
喧嘩した後だから気まずくて行き辛いと言いますか…。」
「あほか、今すぐ行け。
そんで謝ってこい。」
「…え?いやいやいやいや!
そんな別に大それた事じゃないだろ、あんな喧嘩なんて!」
「そんなの分かんねぇだろ。
お前がそう思ってても相手にとっては違うかもしれねぇだろうが。」
「うっ……。
いや…そりゃあるかもしれないけどさ。
でも今まで一度も喧嘩なんてした事なかったんだぜ…?
あれぐらいなら別に…。」
「別に…?」
「……………大丈夫かなー…。」
聞き返されて不安になる。
「ほら見ろ。」
「いや、でも…。」
「言い訳ばっかしてねぇで、いい加減認めろ。
お前はまだ現実を見れてねぇし、見ようともしてない。
言い訳して、それで良い理由を探してるだけだ。」
「うっ…。」
「さっさと行け。
自分の目でちゃんと今の状況を見てこい。」
「わ…分かったよ。」
と、返事をして教室を出て来たものの。
「何て言えば良いんだよ…。」
ぼやきながら彼女の居る三組の教室を廊下側のドアガラスから覗く。
友達と楽しそうに談笑する人、沢辺美波《さわべみなみ》は現在喧嘩中の俺の彼女である。
首ぐらいまでのショートカットに茶髪。
方言混じりの特徴的な喋り方。
身長は俺の肩くらいか。
基本明るくて穏やか。
新しいクラスにももう馴染めているようで、一年の時には関わってなかった友達の姿も何人か見受けられた。
こうして見る限りでは、ついこないだまでの彼女と大差ないようにも見えるが…。
恐る恐る、ドアを開ける。
その時にドアの方を向いた彼女と自然に目が合うが、その目はすぐに反らされてしまう。
え、無視された…?
「沢辺、どうかしたー?」
「あ、ごめん。
ウチ、ちょっとお手洗いに行ってくる。」
さっきまで話していたクラスメート達が心配そうに声をかけると、足早にその場を抜けていった。
その後、俺が居る側と逆側のドアから廊下に出た彼女は、追いかける隙も与えないほど全力疾走で廊下の角の方に走り去って行ってしまった。
「あ、あれー…?」
「あれー、じゃねぇよ…。」
声に振り向くと背後にヤスが居た。
呆れ顔でため息を吐かれる。
「無視…されたよな。」
「だな。」
ついこないだまで親しくしていた相手に無視されて、思いの外強いショックを受けている自分がいる事にまず驚く。
これまでの人生で、そりゃ親しい相手と喧嘩する事ぐらい無かった訳じゃない。
でもあんな風に明確に無視された事はなかった。
「だよな…。
親しい人に無視されんのってこんなに辛いのか…。」
「今頃気付いたのかよ。」
「ごめんなさい、さっきは本当にごめんなさい。」。
「あほか、必死に頭を下げる相手が違うだろうが。」
「ごめん…。
ってか俺もしかして本当にまずい事しちゃった…?」
そしてそのショックで、段々自分のした事の重大さに実感が沸き始める。
「それも今頃気付いたのかよ。」
「だよなー…。」
確かに俺は、今この状況を軽く見ていた。
実際、ただの喧嘩だしどうせその内仲直り出来るだろうぐらいに思ってた。
「ちょっとは自分が置かれている現状が分かったか?」
「とても…。」
「どうしたいか決まったか?」
分かったからこそ、どうすべきかを思い付くのはすぐだった
「仲直り…したいです…。」
「ならまた行けよ。」
「いや、でもそれは…。」
それが分かったからこそ余計に気まずい。
もう一度行って何を言えば良いのかも分からない。
そんな風に迷っていると、ヤスに蹴り飛ばされた。
「って!」
恨めしさを顔に出して睨むと、そのまま何も言わず、廊下の角の方に目線だけを向けてくる。
「分かったよ…。」
仕方なくその角を曲がると、その影に美波が隠れていた。
俺の姿を見るなり、早速冷ややかな視線を向けてくる。
「何で来たん。」
それは質問ではない。
正確に言うと吐き捨てたと言う表現の方が正しいような言い方だ。
そしてそれがすぐに確信出来るほど、表情には隠しきれない不快感が全面に出ていた。
歓迎されてないのは歴然だろう。
「何でって、その…。」
そのあからさまな態度に怯み、思わず言葉に詰まる。
そのまま頭が真っ白になる。
「せいせいするって言うとった癖に。」
そんな俺の反応になどお構いなしで、美波は淡々と言葉を続けていく。
「いや、それは…。」
それになんとか言い返そうと言葉を探すも、何も浮かんではこない。
「もうえぇよ…。
別れたんじゃし。」
そんな俺を見て、ため息を吐きながらそう言ってくる。
「いや、だからごめんって、謝りたくて…。」
ここでようやく当初の目的を思い出した。
そうだ、仲直りしに来たんじゃないか。
だから謝ろうと思ったんだった。
「謝ってなんなん?」
でもそうしようと思っていた所で返ってきた返事は俺にとっては予想外の物だった。
「謝って、その…。」
「謝って友達に戻りたいん?
それとも、ヨリを戻してまた付き合いたいん?」
実際謝れば済む問題だと思っていたのだ。
だから当然、そう質問されてどう返すかなんて考えてなかった。
「ただ、気まずくなりたくないだけなんじゃったら心配いらんじゃん。
今はクラスも違うんじゃし。」
「そう…だけど。」
「”あなた”はさ、別にウチじゃなくてもえぇんじゃろ?
好きにすればえぇじゃん。
もうほっといてよ。」
「っ!」
驚いた。
ついこないだまで、俺の事を名前で呼んでいたのに、今美波は俺の事を”あなた”と他人行儀な呼び方で呼んだのだ。
それは言ってしまえばたったそれだけの変化だ。
でもそんな呼び方も、喧嘩するまで見た事のなかった表情も。
目の前に居る彼女は確かに少し前まで付き合ってた人と同一人物の筈なのに、今は全くの別人のように思えた。
呆気にとられていると、それだけ言って立ち去ろうとする美波。
「…そっ、そんな事!」
それを見て、何とか引き留めようと声を絞り出すと、彼女は一応足を止めてくれる。
でも俺はその先の言葉を最後まで言えなかった。
言おうとして気付いたのだ。
自分はそんな事ないとはっきり言えるのか。
美波の事、そんなに好きだったのか?
こんな事になったのに?
大事に出来ずに傷付けたのに?
そもそも、好きってなんなんだろう?
それさえも分からなくなり、言葉は続かなかった。
「さようなら!」
そんな俺を見てか見ずか。
吐き捨てるようにそれだけ言うと、美波はトイレの方に走り去ってしまった。
追い掛けてその近くを通ると、押し殺した小さな泣き声が聞こえてきて胸が傷む。
俺、何してんだろう 。
10
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる